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カテゴリー「晃零」の検索結果は以下のとおりです。

すい~とあっぷるず

 美人は三日で飽きるという。
 それはその程度の美人なのだと、晃牙は言ったことがある。
 朔間先輩は違うぜ、とも言った。酒の席での言葉だったが、向かいの羽風先輩とアドニスは、晃牙を信じて頷いた。
 今も晃牙は朔間先輩を見ていた。
 たった5分だけど、熱量は負けてなかった。

「…………」
「……あ、あの……晃牙……」
「おう」
「その……」
 年末特番のUNDEAD控室。
 ゆうに5分は見つめられた後、おそるおそるといった様子で声を掛ける。すると晃牙になんでもないように返事されたので、零はどう話したものかと躊躇ってしまった。
 零たちの出演時間帯までまだ30分ある。新進気鋭のアイドルグループなので、あとのほうの順番なのだ。メイク直しも最終確認も、出番の直前にやればよい。時間が有り余っているのだった。
 ちら、と零は晃牙を見る。そして、うっ、と照れる。まだ見られてる……。晃牙の視線から逃れるように俯いた。
 どうしたのじゃ? 退屈かえ? それとも腹痛かや? なかなか言い出せないところを見ると、おしっこかのう?
 ……そんなふうに考えていた時期も、零にはあった。だけど声を掛けても見続けるので、見続けてるのを取り繕いもしないので、もしかして晃牙は自分の仕草を自覚していないのかも、と思い至った。
 無意識のうちに、零を見る。それだけ気にされているということだろうか。普段から朔間先輩朔間先輩と慕われている身でも、……恋人として想われる身でも、なんだか恥ずかしい。だってステージの上で憧れの視線を向けられるのとは訳が違うのだ。道行く人に擦れ違いざまに二度見されるのとも違った視線なのだ。恥ずかしいのじゃ。
 でも……、と零は思う。でも、無意識にしては熱心すぎないじゃろか? 視線の熱で焦がすような、服の下まで見透かすような、すべてを暴くような目で、じ~~~~~~~~~~っと見てやしないじゃろか?
 急に着ている服が恥ずかしくなった。かっこいい衣装だ。学院時代のMV撮影で着たような、艶のあるライラックカラーのロングコートは金の刺しゅうの襟を立て、同じくらい美しい黒地のシャツを合わせている。動けばシャラシャラ音のするような華奢なブレスレットとネックレスが、零の仕草にあわせて肌の上をすべるたびに、その肌のなめらかさや美しさを際立たせた。かっこよく、美しい衣装だ。けれどシャツが総レースで透けているのは、晃牙の目には毒かもしれない。綺麗な音を感じさせるのも気になるかもしれない。中東の踊り子衣装のグラビアを見て、あ~いうの目のやり場に困るぜ、と晃牙が仕事仲間に漏らしていたのを、そのあとチラリと零の方を向いたのを、しっかり覚えていた零だった。
 もしかして、見透かされてる?
 何もかも、暴かれてる?
 晃牙に……身も心も、焦がされてる?
 そんなのとっくに焦がされておるのじゃ……、と、零は赤くなった。晃牙が好きなら取り寄せようか、踊り子衣装、と思ったくらい焦がされていた。ちっぽけな胸当てと薄布のフェイスガード。豪奢な首飾り。我輩が着けたら喜ぶじゃろうか。砂漠の熱さを逃がすあの衣装で、晃牙の視線に溶かされちゃうじゃろか。魅惑的なダンスとパフォーマンスで晃牙の目をくぎ付けにするなんて、アイドルって、踊り子に向いてるんじゃないじゃろか。そしてお互いの気持ちが昂ぶったところで我輩、盗賊さんに押し倒されちゃうのじゃ。盗賊さんは晃牙じゃよ。これも学院時代、千夜一夜な衣装でグラビア撮影したときに、晃牙がはしゃいでいたのを覚えていたのじゃ。砂漠の盗賊も男のロマンなのやもしれぬ。金銀財宝の輝く中、あるいは煌々とランプの灯りまたたくテントの中、盗賊さんの手が我輩のお腹を撫でて……胸当ての裾に辿り着く。そこにも瀟洒な飾りが施され、武骨な指先がシャラシャラの飾りをかいくぐりながら、我輩の胸の飾りをそっと摘まむのじゃな。でも我輩はその手を退かすのじゃ。そうして、顔の薄布をそっと持ち上げて、「来るがよかろ……♡」とかっこよく誘うのじゃ。だって我輩、高貴なる吸血鬼じゃもの。かわいい狼男に喰われるのなら、我輩の血肉を無駄にしないよう誓ってから……誓いの口付けを、濃厚に済ませてからなのじゃ……なんて♡
 いつの間にか吸血鬼と狼男のコスプレになったふたりの愛の営みを、零は悩ましげな溜め息をお供に妄想しだす。狼男の鋭い爪で零の柔肌はそっと嬲られる。尖りすぎててひっかくのではなんてツッコミは零には届かない。晃牙はやさしくて根が真面目だから。あの脱がしにくそうな衣装も切り裂かずに脱がしてくれるぞい。ボタンは外せないけれども。
 恋は人を盲目にする。高潔な人格者である零も、晃牙に盲目なのだった。
 クリスマスはラブラブだったらしい。
「……………」
 ふと、零は己の耳を疑った。
 何か不吉なものが聞こえた気がする。我輩と晃牙の仲を揺るがすような、不吉な音色が。零の耳に馴染み深い、それはそれは聞き覚えのある音色……晃牙。
 晃牙の溜め息。
 溜め息……。
 まさか、と思った。
 晃牙、我輩に不満があるのじゃろうか。抱えた不満を言い出せずに、言葉を探して我輩を見つめていたんじゃなかろうか。根が真面目だから。やさしいから。我輩をなるべく傷つけないように、クリスマスみたいに気持ちがすれ違わないように。
 あるいは聖夜の擦れ違いが、今も晃牙の心にしこりを残していたりして。晃牙の気持ちも考えずに突っ走ったのを、未だに許せなかったりして。
 どうしよう。急に血の気の引いた感じがする。零は冷たくなった指先で、すべすべの頬を覆ってわなないた。
 もしかして、別れの言葉を探してる? 『先輩後輩に戻ろ~ぜ』とか言われちゃう? 『先輩後輩に戻っても、仲良くしておくれ』なんて返事したら、困った顔で濁される? それとも『都合いいこと言ってんじゃね~よ! あんたやっぱり俺の心がわかんね~んだなっ!』って怒ったりする? そうじゃよな、怒って当然だと思うぞい……。我輩、吸血鬼だから、好きな子の気持ちを考えられないのじゃ。考えたつもりになって、自分の厚意を押し付けて、晃牙を困らせたのじゃ。晃牙のやさしさにつけこんだのじゃ。晃牙、大好きな晃牙に、学院の頃からずっと、嫌われるようなことしたのじゃから……。
 仲間に戻ってくれるじゃろうか? 我輩の率いるユニットにいるのも嫌になって、独立する? もう敵だから、仲間じゃないからって、軽蔑しきった顔しか見せてくれない? あ、あぁ、こんなときまで我輩じぶんのことしか考えてない、嫌われたくないとしか考えてない……。
 でも、嫌われたくない。大好きで大切な晃牙に、我輩のこと好きでいてもらいたい……。
「…………あうう」
 じわ、と目の奥が熱くなった。
 情けない声に気付いた晃牙が身を乗り出した。困惑した顔で、零の顔に手まで伸ばしてくる。
 心配かけちゃダメじゃな。そう思った零は、ぐし、と手の甲で涙を拭って、むりやり笑顔を作ってみせた。健気な表情と仕草に、晃牙が言葉を詰まらせた。
 それがまた拒絶の様子に見えたので、零は作り笑顔をふにゃりと崩す。
「ちょっとわんちゃん~相棒泣かさないでよ~!」
 俯くと、今度は薫が飛んできた。化粧中らしく、ファンデーションブラシで晃牙の鼻をくすぐる。
「へくちっ☆ くちっ☆ う゛~……わりぃ、先輩」
「あ、いや、我輩こそすまぬ……う、ううぅ」
「あぁ~泣くなよぉ~……!」
 間の悪いことに飲み物を買いに出ていたアドニスまで戻ってきた。
 3人の仲間に取り囲まれながら、零はせめてものプロ根性で涙がこぼれるのを止めた。みんな明らかにホッとして、晃牙なんてそのままぎゅっと零の頭を胸に抱いた。ファンデーションが衣装につくのもおかまいなし。その腕の強さに、あぁ、まだ嫌われていないと胸が熱く震える。
「ねぇ、なんで朔間さんのこと見つめてたの? クリスマスにさんざん見つめ合ったんじゃないの?」
 取り乱しちゃった、俺のキャラじゃないよね、とばかりに鏡台に戻った薫が、呆れた顔で晃牙に聞いた。アドニスも不思議そうに晃牙を見る。
 零もおもわず恋人を見上げて、晃牙の頬がどんどん赤く染まっていくのを目の当たりにした。
 かわいい。晃牙、林檎のほっぺじゃ。すごくかわいい。
 晃牙はもっとかわいいことを口にした。


「……………………………………………………朔間先輩、美人だな、って」


「…………」
「…………」
「…………」
「なんだよ! わり~かよ! 俺たち恋人じゃね~かよっ!?」
 アドニスは呆然と、薫は笑いをこらえながら、零に至ってはほっぺを林檎のように染めながら、吼える晃牙を眺めていた。
 朔間先輩が美人だから5分もじっと見つめていた晃牙は、ひとしきり喚くと、恋人の顔をもう一度見つめてフイと逸らす。
 やっぱり見つめる。逸らす。見つめる。
「……朔間先輩、すげ~好き」
 全部だけど、顔も。
 林檎同士、晃牙と零は甘くなるまで見つめ合うのだった。

☆に願いを、おぬしに♡を

贈り物はモミの木の傍七色のさみしさ→これ の順に続いてます~
メリ~クリスマス晃零!

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七色のさみしさ

贈り物はモミの木の傍から続くお話


 ※



 1日目、カツ丼。
 2日目、スーパーのノリ弁。3日目は友達と焼肉で、4,5日目は惣菜コーナー。
 6日目はムシャクシャしたから1人でバイキングに行ったけど、むなしいだけなので今日もノリ弁にした。
 野菜ジュースをつけた。朔間先輩を思い出した。
「うう~っ、先輩~~っ」
 晃牙は涙ぐんだ。しかしすぐに怒り顔になった。
「けど! ぜって~謝んね~からなっ! 先輩もわり~し!」
 ズゴゴゴ、とジュースのパックをへこませながら、晃牙は決意を新たにする。
 朔間先輩と喧嘩してから1週間経ったのだった。


 ――そ~だよ。先輩もわり~んだよ。
 たくあんの最後のひと切れまで飲み込むと、晃牙はそう自己弁護した。
 家庭内別居を始めて1週間になる。家庭内というかルームシェア内というか、同棲部屋内? つまりお互いの家事を放棄するようになったのだ。
 洗濯物を手洗いするのは別に良かった。寒い時期で下着くらいしか洗う物がなかった。掃除も苦じゃない。レオンの抜け毛もあるから晃牙はマメに掃除機をかける。
 でも、独りで晩ご飯を食べていると、もうすぐクリスマスなのに、とか、先輩のサンドイッチうまかったな、とか思い出すのだった。食卓が暗くなった。電球切れてんのかなと椅子にのぼると、背の高い先輩がラクラク電球交換をしていた姿が脳裏をよぎった。
 12月だ。12月で、17日だ。クリスマスまであと8日。先輩と過ごせる初めてのクリスマスを、こんな気持ちで迎えたくなかった。
「……ごちそうさまでした」
 向かいに誰もいないのに手を合わせる。
 ゴミはゴミ箱へ。冷蔵庫の横の資源ゴミ入れに弁当の容器を洗って入れようとして、晃牙は真上のカレンダーに目を止めた。晃牙と先輩の予定を一緒くたに書き入れており、お互いの家事当番の分担を決めるのに便利だった。
 今日のマスには「零 21時頃帰宅」と書いてある。
 時計を見た。20:43。


 外に出たら雪交じりの北風が晃牙を切りつけた。慌てて部屋に戻って手袋を取ってくる。2組。先輩の革手袋は晃牙のよりもひとまわり大きく、それも晃牙を変なキモチにさせる。
 自宅から駅まではそう遠くない。ほぼ一本道だから、先輩が帰りたくないとさえ思わなければ擦れ違えるだろう。
「帰りたくない……」
 きゅうと縮み上がる心臓を叱咤しながら住宅街を行く。
 しかし現実はこういうとき残酷で、雪の残る駅前には人っ子ひとりいなかった。もちろん誰とも擦れ違っていない。次の電車が来るまで15分もあるから、先輩がいないとおかしいのに。
 どこかに泊まるほど帰りたくね~のか。先輩。手袋もせずどこかに行くほど。
 晃牙は肩を落として裏手に回った。スーパーがまだやっているはずだ。明日の朝食--1人分--を買わなければと、頭の冷静な部分が脚を動かしていた。
 細い道。両脇は用水路と駐輪場で、足元で雪が汚く解けていた。しゃく、しゃく、と踏み鳴らす音が物悲しい。革靴の爪先が冷たく湿った。
 後悔が晃牙の胸を濡らしていく。先輩も悪いけど、俺もあんなに怒らなきゃよかった。先輩が帰ってこないことに比べたら、喧嘩の原因なんて取るに足らないから。そういえばなんで喧嘩したんだろう。なにが先輩も悪かったんだろう。忘れるくらいつまらないことを、俺はこだわって腹を立てて。
 そうして、先輩の背より大きなクリスマスツリーが見えた頃――
「あ……」
――ツリーに寄り添うようにして、先輩が、いた。


 雪が足の下で解けていく。
 まだちらちら降る結晶が、七色に輝くモミの木と先輩の頭に積もっていた。肩にも。先輩の大きな両手が紫色した口元に添えられて、はぁ……、と白い吐息が手の平を湿らせていた。
 いつかと同じように、かじかんだ指先がプラスチックの枝に触れ、紙のオーナメントをめくった。
 紅い目で誰かの願いを見ていた。切ない顔で、そうして、ポケットから携帯を取り出して、ためいきを吐いた。赤い頬に電飾の明かりが反射していた。
 寂しい横顔だった。

 先輩が顔を上げる。
「……晃牙」
「よう、先輩」
「……何をしにきたのじゃ」
 そう言って先輩が、俺は謝んね~ぞという顔をした。
 晃牙がおもわず噴き出すと、美しい眉がひそめられた。
 ――俺様たち、似てんだなあ。
「仲直り、しにきたんだよ」


 七色の明かりは先輩の頬から遠ざかり、晃牙の手にはぬくもりが戻った。
 手袋はしたくなかった。させたくなかった。
 2人は、雪の夜道を踏みしめて帰る。

アドレス参照

『真紅と純白、どっち……も食べたい! ローソンから上質すぎるムースたっぷりクリスマスケーキが登場』
http://news.livedoor.com/article/detail/12407006/


「わんこ! これ! 我輩の目みたいじゃな!」
「先輩よく白目剥いて寝てるからな」
「…………!」


「喧嘩ちゅうだったんだよ」
「罪悪感で真っ青になるなら言わないでよ……」

描写練習・参道

いつも拍手ぽちぽちありがとうございます……!
見ていただくからには練習の名目でプロットだけとか起承転結のハッキリしないものとか上げない方がいいなあ、上げるにしてももっと書き込んだ方がいいなあ、と気を引き締める所存です
って上げたあとで言うのですが……


文章書きに送る50枚の写真お題(http://petit.hotcom-web.com/50photo/)



 なんか古い友人が実家の手伝いを始めたとかで朔間先輩が見に行きたいと言うから(先輩はどこにでも友人がいる)、俺様は旅行最終日に名も知らぬ神社に足を延ばした。けっこうデカかった。親父が神主で跡を継ぐ?修行中らしい。寺みて~に神社も世襲制なのかな。わかんね~けど賽銭投げて、ガランガランやって、手を合わせてお守りも買った。大願成就。世界一のアイドルになるには運も味方につけなきゃいけね~。
「わんこ、あれ何じゃ?」
 朔間先輩は友人と2年ぶりに会えてご機嫌だった。妖怪〇ォッチのED曲聴いたよ、かっこよかった、あれ妖怪つながりで呼ばれたの?と聞かれて素直にそうじゃと答えていた。名残惜しげに手を振った後は鼻歌なんか歌いながら石の階段を飛び降りて、玉砂利の上を跳ね歩きながら俺様の先を行った。ときどき振り返っては「まだかえ?」と笑って小首をかしげていた。「綿飴屋さんとかリンゴ飴屋さんとか出てないんじゃのう~」「そ~いうのはお祭りだけだろ」「ふむ?」そういうものなのかや?と言いつつピョンと飛んだ。玉砂利が硬い音をたて、先輩は参道のアスファルトに着地。
 そこで、はるか前方の集団を見つけた。
「何をしておるんじゃろう? 楽しそうじゃな♪」
「あ~……」
 先輩のキラキラ輝く両目につられ、俺様は鳥居の近くのガキどもに目を向けた。
 今さっきの朔間先輩と同じく、ぴょんぴょんと飛ぶ集団。あっちはめいっぱい脚を伸ばす。楽しそうな声を上げているが、真剣勝負だ。
 ――じゃんけんぽん!
 ――ち、よ、こ、れ、い、と!
 広々とした参道に、甲高い掛け声が響く。
 ……やりて~だろうなぁ。
「おぉ……♪ ……うむ?」
 うっとりと見つめる先輩の前に拳を差し出すと、紅い目が丸くなって俺様を見た。
 溜め息を吐き、顎をしゃくる。
 ――あ~負けた~!
 ――ぐ、り、こ! 進まね~!
 ぱああ、と先輩の顔が輝く。

「じゃんけん、ぽん! ……あっ♡ 我輩の勝利じゃ♡」
「先輩パーだからパイナップルな」
「なんだか恥ずかしいのう~?」
「い~から飛べよ」
 先輩はガキみたいに頬を赤らめて飛んだ。ぱいなっぷる。
「『っ』もカウントしてい~んだぜ」
 なぜか考え込む先輩。
「う~ん、ハンデにしようかのう?」
「はあ?」
 嫌な予感がした。先輩の唇の端が吊り上がり、牙がチラリと見えている。悪巧みをするときの表情だ。
 先輩はこちらを向いて、見惚れるほどの笑顔。
「ほれ、我輩脚長いし」
「じゃんけんぽん!!!」
 先輩チョキで俺グー。
「ぐっ、り、こぉ!」
「ふふん、半分もいかぬか。まだまだ届かんようじゃな」
「~~~~!!」
 チョキ! グー! パー!
 すばやく三連戦。対して先輩はグー、チョキ、チョキと出し俺様の先をゆうゆうと飛び跳ねていった。
「道が空いておるようじゃのう~? 晃牙、ゴールは鳥居の下でいいのかや? もう少しで着いちゃいそうじゃが」
「うぐぐぐぐ……ノりすぎだろ!?」
「我輩には天が味方しておるのじゃ。ほれ、この通り♪」
 そう言って懐から取り出したのは……真新しいお守り。
「俺様も買ってんだよ! じゃんけんぽん!」
「お、我輩の勝ちじゃ」
「ぐぐ……もう!回!」
 さっきグー出したからチョキ!
 先輩が3歩進んだ。
「ぽん!」
 俺の負け(チョキ)!
「ぽん!」
 負け(チョキ)!
「……っぽん!」
 あいこ(グー)!
「っあいこで、パー!」
「チョキじゃ」
 …………。

「アンコールはいかがかのう?」
 とうとう鳥居の下に辿り着いたとき、俺様と朔間先輩の勝敗は明らかだった。
「意外と早く終わってしまったのう~? ホントにもう一戦するかえ?」
「うが~!」
 曇り空の下、表情すらわからないほど遠くの先輩の晴れ晴れとした顔が、冬の太陽めいてカラカラと輝く。
 先にグリコをやっていたガキはどこにも見当たらなかった。少しだけほっとした。それがガキどもに俺様の負け姿を見せたくなかったからだと気付いてもう一度吼える。
「クソが~! 『もう一戦』じゃね~よ! あと100戦すんだよ!」
「かまわんが……帰りの新幹線はどうする? 1戦くらいはできるじゃろうけれど……それに、我輩には天が味方しておるのじゃよ?」
「運がなんだよ! 俺様は神すらひれ伏す男! 大神晃牙様だ~!」
 全身で怒りを表した、そのとき。
「「「「おおがみこうがだ~!」」」」
 先輩が振り返ったときには遅かった。
 鳥居の先に、さっきの集団がまばゆい笑顔で仁王立ちしていた。いや、数が妙に多い。どうやら援軍もとい仲間を連れてきたらしく、総勢20人近くが俺様たちに駆け寄ってきた。なんてったって天下の大神晃牙様と朔間零様だ。そして天下のUNDEADは妖怪〇ォッチの今期ED主題歌担当。ツラが割れている。
 包囲網。
「うわ~! れいだ~! ホンモノだ~!」
「かたぐるまして~!」
「おぉ、おぉ……順番にのう?」
 活きの良いガキどもに囲まれ揉みくちゃにされながら、朔間先輩の方を向くと目が合った。肩車してやろうとしゃがんだところだった。ニヤリと、悪魔的な美貌に悪魔的な微笑が浮かぶ。
「リベンジ、残念じゃったな?」
「うが~~!!」

 ……とは叫ぶものの。
 グリコの最中に見た先輩の笑顔があまりに無邪気だったから、俺様はまあいいかと思った。
 別に勝敗は良くない。ただ、先輩が楽しんでくれたなら、俺様が惨敗するだけの価値はあったんじゃね~かなと思う。
 そう、惨敗。惨敗、惨敗、惨敗……。
 …………。 



 後日。
「……それで、俺達が呼び出されたのか」
「4人でやる必要ある~? 帰って女の子と電話したいんだけど~?」
「まあまあ……わんこの散歩に付き合っておくれ♪」
「散歩じゃね~! こちとら真剣勝負なんだよ!」
 深夜の児童公園で、俺様はUNDEAD頂上決戦・グリコ編を開いたのだった。

お題写真
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雪の夜

1年ぶりくらいにプロット無しで書き始めた
ので起承転結がない


 ※


「我輩と晃牙がバカップル? えへへ、そうかのう、そう見えるんじゃのう……♪」
 零が笑って部屋の灯りをつけると、薫はベッドに向かって上着を放り投げた。厚手のチェスターコートだ。ぱさっと着地するのと、窓の軒から雪が滑って落ちる音が重なる。
 ハイネック1枚になって、ロンドンの寒さに身を震わせる。
「ロケに来てまで見せつけられたら、嫌になるけどね」
「ううむ、すまんのう」
「暖房つけてくれたら許してあげる」
 薫が暖房のリモコンを探す間に、零は湯船にお湯を張る。浴室から顔を覗かせると、零の相棒は暖房直下で温まりながら窓の外を眺めていた。美しい街並みだ。雪が音もなく降り続いて、白い景色をさらに塗りつぶしていく。
 無言の背中に零は優しさを感じた。仕方ないなあ、と呆れ笑いを浮かべられているのだ。相棒に甘えることにする。まだ冷たい湯船の縁に腰掛け、端末を耳に当てる。
「……もしもし」
 がたん、ばたん! どたん!
 折り返しのはずが電話の向こうは妙に騒がしく、何秒間か物音という物音を立て続けてから『……もしもし』と同じ返事が耳に届いた。『もしもし、俺だけど、朔間先輩』
「息切れしておるぞい」
 う、と晃牙が詰まった。
『教室の鍵、閉めてきた。誰か来たら嫌だし』
 照れの滲む声に、零の胸が温かくなる。
「学院におるのかえ?」
『ん……練習してる。スタフェス』
「そうか。頑張っておるのう」
『先輩は?』
「まだロンドンじゃ。明日の夜にはグラスゴーにおる」
『グラスゴー……』
「知ってるかや?」
『イギリス好きなめんな』
「そうじゃのう、グラスゴーくらいはわかるのう」
 ロンドン、グラスゴー、それから晃牙の知らないいくつかの片田舎へ。
 欲しいお土産はあるかえ? レコードショップで見繕うかのう?
 足首までたまったお湯を爪先でかき混ぜながら、零は水面の波をぼうっと眺める。まだ会えない。まだ5日も。日本を発つ3日前に話したきりで、100時間も経たないうちに恋しくなっている。
 晃牙。
『会いたい』
 胸が高鳴った。
『あ、ちげ~っつか、実際に会うんじゃなくて! ホラ、日本が恋しくなってるんじゃね~かなって、なあ?』
「う、うむ、恋しいのう」
 焦る視界に熱い霧が立ちのぼりはじめた。湯煙だ。室温が上がった気がして上着を脱ぐ。
『チャイナタウンとかあるか? サトウのごはんとか送るぜ? あと梅干し』
 零が笑った拍子にお湯が壁に跳ねかかった。湯船の中の脚を蹴り上げたのだった。
「危ない」
『危ね~とこ行ってんのか!?』
「いや……すまぬ、こっちの話」
『俺様に倒される前にケガさせられんなよ』
「なんかライバルの台詞みたいじゃのう」
『ライバルだろ~が』
「おぉ、うぬぼれるのう~?」
『実力不足だろ~がライバルなんだよ! 俺様はあんたを倒すために頑張る、あんたは俺様に倒されね~よう頑張る! そ~いうの!』
「我輩もおぬしのライバル?」
『そ~だよ!』
 屈託のない声。
「けっこう距離、近いのう……」
『嫌かよ』
「ううむ、嫌なはずなかろう。もっと近くてもよいぞ」
『たとえば?』
「へっ? し、親友とか?」
『親友!?』
「嫌かや」
『いや』
「……」
『そっちのイヤじゃね~よ! 大歓迎だよ! むしろもっと近くてもいいぜ!』
「えっ……例えば?」
『例えばって……ど、どこらへんがいいよ、あんたなら』
 意識してなさそうだったり、意識してそうだったりな声音に、零は戸惑う。喜んでいいのだろうか。期待しちゃだめなのだろうか。
 我輩が望む距離? 電話の向こうから、抑え気味の息遣いが聞こえる。晃牙が零との距離を気にしている。期待している?
 我輩は……もちろん……。


「あの~、お風呂入ってもいい~?」


「…………」
「……そんな睨まないでよ。もう沸いてんじゃん」
「睨んでないもん……」
 もうもうと立ち込めた湯けむりが外へ流れるのといっしょくたに、薫は零を風呂場から追い出した。
 携帯は取り上げられ、ドアを閉めた薫が向こうで晃牙と一言二言話している。
「はい、ありがとう」
 薫が上半身だけ浴室から出した。
「なにを話しておったのじゃ」
「何って……彼氏でもないのに初日から国際電話かけてこないで、って」
「はあ!? わんこに!? そんなことを!?」
「お風呂入る時間減るじゃん、俺も朔間さんも。忙しいのに」
「彼氏じゃないって……」
「だってそうでしょ」
 呆然自失の零を放置すると、薫はさっさと風呂に入って寝る支度を整えた。
「あのねぇ、朔間さん」
 そして零をベッドの上に正座させて、『正しいお付き合い』についての説教を始める。つまり、曖昧な付き合い方をしていると次のステップに進めないこと、間違って進めてしまったとしても後々擦れ違いを生んでしまうことを噛んで含めるように言い聞かせた。
「朔間さんと晃牙くんは、まだお友達。厳密には先輩後輩だけど。で、恋人になるには、どっちかが告白しなくちゃいけない」
「はい……」
 ひゅ~、がたがた、と窓枠が揺れる。いつの間にか外は吹雪だった。凍えそうだ、零の心ごと。
「でも、たぶん朔間さんは晃牙くんに告白しない」
「はい……」
「まあそういう性格してるもんね。俺、相棒だからよくわかってる。だから告白を待ちましょう」
「…………」
「『友達以上恋人未満ではいかんのかや』という目をしているね。駄目です」
「なぜじゃ」
 薫ははあ、とため息をついた。
「零くんから線を引くと、晃牙くんは半年以内に告白するからです」
 がたん。
 窓が鳴ったきり、薫は黙り込んだ。
「…………」
 これ以上ない説得の仕方だった。
 吹雪も弱まったので、零は風呂に入る前に散歩に出た。外は誰もいなかった。美しい模様の石畳に音もなく雪が積もり、零の靴底に結晶を白くまぶしていく。
 はらりと腕に舞い降りた。仰向けた手の平にも、胸元にも、雪化粧が施された。
 こんなにどこもかしこも熱いのに、溶けないなんて不思議じゃなぁ?
 遠い日本の方角を向きながら、零は未来の恋人に語り掛けた。

 

忠犬シンドローム

また添い寝する話書いてる……
・前半のテンションのまま書けば小奇麗なラブコメとしてまとまったのにという気持ちと、後半は1年前から書きたくてタイミングをはかってた話だしという気持ち

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贈り物はモミの木の傍

(※12/11改題)
似たようなエピソード
を書いたことがありましたね


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ししゅんき

「んしょ、んしょ……むぎゅっと♪」
 むちむちの太股はスキニージーンズに押し込まれた。腰回りも丈もちょうどなのに太股だけキツい。
「太ったかのう~? 晃牙、どう?」
「わ、わかんね~よ」
 すげ~エロいのはわかるけど……。
 晃牙が顔を背けると、朔間先輩は小首を傾げてベッドに座る。
 俺様のベッドに先輩が乗ってる。尻が沈んで太股も平べったくなって、晃牙の貸した黒いジーンズをぱつんぱつんに伸ばし切る。胸いっぱいの晃牙に朔間先輩は気が付かない。英国旗柄のクッションを枕元から取り寄せて、膝の上で腕置きにしたりしてる。
「晃牙の部屋は居心地が良いのう、ずっとここにいたいのう……♪」
 太股と腕の間でたわむクッション。先輩のふかふかの太股に、ぎゅっと押し付けられてるクッション。
 俺も押し付けられたい。
「わわわワケね~だろ!」
「ひゃうっ?」
 先輩を驚かせたことに謝りながら、目は太股から離せない。
 大神晃牙は思春期だ。


 ししゅんき


 隣に座ると、朔間先輩を盗み見た。
(すげ~……むっちりしてる……)
 紙パックのトマトジュースをちゅうちゅう吸いながら、音楽番組の録画を見つめる朔間先輩……の太股。レオンが歓迎の意を涎の量で表したので、先輩のズボンはベランダに干してある。一度この部屋で剥き出しにされた太股に、晃牙は後輩特権の至近距離で見とれてしまった。
 まず肉付きが良い。腕も体もやせているのに、そこだけ狙いすましたように脂肪をつけている。アンバランスさが醜いどころか朔間先輩に人間味を持たせ、より生々しくて魅力的だ。朔間零の生命を感じる。
 やわらかそうなのもすごく良い。重力に従ったもも肉が、横でプニッとたわんでいる。スキニーはもものラインがよく出るのだ。自画自賛。テレビの演奏に興奮した先輩が、体を揺らして太股が弾んだ。その躍動感も拾うスキニー。
 晃牙は太ったコーギーのむちむち具合に感心しないが(腰のくびれた標準体型がかっこいい派)、心惹かれる人の気持ちがようやくわかった。
 言いようのない魔力に捕らわれるのだ。捕らわれた晃牙が断言する。
 触ってみたい。
「晃牙」
「ッ!?」
「トマトジュース、も1本飲ませておくれ?」

 冷蔵庫から紙パックを取って戻ると、朔間先輩は足元のカバンを漁っていた。太股はクッションをどかしてガラ空きだ。
(寝てみて~な……)
 今度は膝枕を思いついた晃牙だった。大神晃牙は思春期だ。世界一大好きな先輩の、むちむちで柔らかそうな太股。枕にするに決まっている。
 けど、カッコわり~だろ。膝枕してくれとか頼むのは、一人の男として見られたい晃牙にはハードルが高い。幻滅されたら嫌だし。ダセ~し。朔間先輩が貴重なオフに録画見るためだけに来てくれたのだ、カッコイイ俺様をアピールして惚れさせたかった。健気な努力。
 ところで朔間先輩は何をするのだろう。その、細くて綿帽子のついた棒で。
「今日はのう、わんこに耳掃除してやりたくてお邪魔したのじゃ♪」
 晃牙はトマトジュースを差し出したまま立ちすくんだ。
 耳掃除?
「カノジョかよ……」
「何か言ったかや? やはり飼い主がお手入れせんと、病気になっちゃうらしいぞい」
「そっちか……」
「おいで、晃牙♪」
 先輩がポンポンと膝を叩いた。袖口から指先だけ出して、かわいらしく手招き。
「…………」
「ふふ……耳掃除は久しぶりかえ?」
 朔間先輩が寝転がった晃牙に話しかけたが、当の晃牙には答える余裕がなかった。
(う、うおおお……!)
 太股だ。太股なのだ。押し付けられたくて触りたくて膝枕されたい朔間先輩の太股に、今、膝枕されてる。
 頭を支えるのは、意外に強いももの弾力。肉厚の太股がむっちりと筋肉を蓄え、晃牙の頭を押し返している。しかし頬の当たった感じは吸い付くようにやわらかい。低反発の枕ともお気に入りのクッションとも違う優しさで、晃牙の横顔をふかふか包み込んで離さないのだ。もちろん朔間先輩の匂いと体温つき。じんわりあたたかいのだ。いつまでも寝ていたくなる最高級枕。
 耳かきが晃牙の耳垢を甘くこそげていく。
「おっきなお耳じゃのう~? よく聞こえるじゃろ?」
「…………」
「晃牙~? 晃牙!」
「ぅわっ!?」
「痛かったら言っておくれ? かわいい晃牙に我慢なぞさせたくないゆえ」
「んだよ……痛くね~よ……」
 せっかくうとうとしていたのに。
 叩き起こされたことにぶつくさ言いつつ、晃牙がもう一度まぶたを閉じると、痛い、と思った。
 痛い?
 どこが?
 痛みの出所に視線をやった。そこは股間だった。勃起している。
「――――」
「左耳はおしまいじゃ♪ 右のお耳を見せておくれ♪」
 晃牙はとっさに体を丸めた。
 大失敗だ。先輩が覗き込んだ。
「晃牙? おなか、痛いのかえ?」
「そ、そ~だな! 冷えたかも!」
「大変じゃ! おなかをお見せ、さすってやろうぞ」
 声にならない悲鳴が上がる。
「治った! 勘違いだった! 俺様こう見えても中にヒート*ック着てんだぜ! 2枚!」
「ヒート*ックってじっとしてると冷たいんじゃろう? 我輩のブランケットを掛けておおき」
 先輩がカバンからブランケットを出そうと余所見している間に、晃牙は先輩のお腹側つまり壁側から、反対側へと体の向きを変える。しかし足の置き場がない! あやうく脚を伸ばして股間を晒け出すところでお腹に布が掛けられた。
「コウモリ柄じゃよ♪ あったかいじゃろ~♪」
 先輩の優しさがあったかい。
 晃牙はこっそり溜め息を吐いた。難所は乗り越えた。あとは萎える何かを考えながら、先輩のふかふか膝枕を堪能しよう。さっきブランケットを探していたとき、太股が動いて顔に押し付けられたのだ。むっちり・プニッの波状攻撃を遅効性で喰らっている。右耳は朔間先輩に掃除され、左耳は左頬と桃源郷。いつもロックの精神で気を張る晃牙も今だけならばと緊張を解いた。リラックスした全身で、先輩の太股枕を近くに感じる……。
 ……ところで。
 ヘソを天井に向けて寝こける犬は飼い犬だけで、野生動物はいつでも立ち上がれるよう体勢を選ぶ。自然のどこから敵がくるかわからないからだ。そう、敵はどこからでもくる。
 少し離れたところにいたレオンが、この瞬間すっくと立ち上がった。彼は飼い主の大好きな人間を涎まみれにしたのを彼なりに反省していたのだ、小屋に入ることで。しかし晃牙が警戒を解いた、解いたということはもう怒っていないということだ。ちょうど人間も晃牙の傍でにこにこしている。来たときから笑っていたが、本当にリラックスして晃牙の頭を撫でていたのだ。つまり僕は、許された。
 許されたから、遊んでほしい。
 近寄って、ブランケットを振り回したのだ。

「晃牙、おぬし……」
「…………」
 朔間先輩の視線の先に、張りつめた股間があった。
 ぱつんぱつんだ。スキニージーンズを穿いたまま勃つと窮屈で痛い。痛いくらい勃起した晃牙自身を、大好きな朔間先輩に見られている。待つのは死刑だ。元デッドマン(死刑囚)ズらしく、うなだれて先輩の二の句を待つ。
『おまえさ~、恥ずかしいと思わね~の?』
 絶望しすぎて幻聴を感じた。それでも萎えないのがすごい。
「そんなに耳掃除がよかったのかえ?」
「恥ずかし~し情けね~よ。朔間先輩ごめん……ん?」
「うん?」
「耳掃除……耳掃除?」
「うむ、耳掃除じゃ。気持ちよかったようじゃのう♪」
「…………」
 そういうことにした。
 来週もやってもらえることになった。

描写練習・桜

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「先輩! 俺、傘持ちます!」
「よろしく」
 ワンと言うように申し出た後輩に、零はためらわずに日傘を寄越した。
「物好きだな~、おまえ?」
 真っ青な空が黒く遮られる。夜闇の魔王はこうでなくちゃな。満足気に歩き始めると、横を犬がトトトトと追いかける。魔王だけど犬を散歩してる気分だ。悪くない。
「いい天気だなぁ」
「っす」
 晃牙が律儀に返事して、傘の位置を微調整した。靴の先にあたっていた日差しが影に飲まれる。気が利くヤツ。後でご褒美やらね~とな、何がいいかなぁ。考えながら見上げた空は雲ひとつない。吸血鬼殺しの春の昼下がり。
「ほんっと、憎いくらい快晴。早く日が暮れね~かなぁ」
「日ィ暮れたらギター弾いてほしいんすけど」おやつの要求かよ。
「またぁ? まっ、それくらいい~けど? おまえとやるの楽しいし。……おっ」
 中庭を見渡しながら横切る途中、珍しいものを見つけて足を止める。晃牙もつんのめりつつ『マテ』をした。
「八重桜じゃね~か。なんでこっちに生えてんだ?」
 青々と茂る木々に混じって桃色の小木が立っている。桜は校庭限定で、掃除が大変なので中庭には植えないはずだ。なんだかはみだし者という感じで、零はおもわず近づく。
「お~、綺麗だな。敬人とか好きそう……晃牙?」
 見上げる視界に日傘の黒が入らない。みぎひだりと見回して、振り向いたところに日傘を差したままの晃牙がいたので、零は手招きする。「なにしてんだ?」
「……あ、す、すんませんっ。木陰あるし、俺の出番ね~かなって」
 心底申し訳なさそうに走り寄ってくる。隣に並ぶのかと思いきや、斜め後ろで零に日傘を差し掛けた。
 なるほど飼い犬の分際。馬鹿だ。首輪の代わりに腕を引っ掛けて引き寄せると、晃牙は真っ赤な顔で抵抗する。
「ななななにすんだっ! あっ、いや、朔間先輩! なにすんすか!」
「馬鹿だな~おまえ。花見だろ? おまえと見ないと意味ね~じゃん」
「…………」
「ふふん、魔王からは逃げられない♪」
 大人しくなった。
 にっこり笑顔を与えてから、改めて桜を見上げる。憎らしいくらい綺麗な青空。それを縁取る木々の青葉。にょきりとのびた桜の枝が、桃色の塊を空に自慢するようにぶら下げている。
「自慢ねぇ……」
 何となく、本当に何となく腕の中に目をやる。晃牙があわてて桜を見上げた。高校に入って1月たらずのほっぺたが、木陰の下で桜色に染まっていた。


 それから2年。暇だったので母校を訪ねると、中庭で晃牙がギターを弾いていた。
「何をしておるのじゃ?」
「花見」
 そう答えつつ手元を見つめる横顔が赤い。晃牙の向かいに座る後輩も、桜ではなく晃牙を見ている。
 零は近くに腰を下ろして、晃牙と桜を眺め続けた。

お題写真
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