純情♡トキメキ公園デート
カヅキくん今日はオフかい、サッカー上手いね、理工学部は忙しいだろうけど応援してるよ、これオマケ。
「はふひはん」
お友達もと2個多く盛られた唐揚げを頬張りながら、タイガは公園の隅のベンチで呼びかける。
「んぐ、カヅキさん」
俺はカヅキさんの友達じゃねぇしカレシだし、理工学部は忙しいけどカヅキさんはそれを理由に頑張らないヤツじゃねぇ。なによりカヅキさん、カヅキさんはこれデートだと思ってますか、この草サッカー。俺たちデートしてるんですよね。
「ほふ?」
「うまいっすか」
「ん、おう!」
……とは聞けなかった。
「ここの唐揚げ、大好きなんだよなー。運動した後は特にうまくてさ」
それでダンスの練習しにきてた、と笑うカヅキの視線を追って、タイガは一面の芝生に目をやる。 大勢の子供が駆け回るその下で、生えたての芝生が陽光に照らされて輝いている。やわらかな黄緑と快晴の青は青春の色だ。始まったばかりのふたりの恋路を応援するように、きらきら煌めいて見えさえした。
新緑あざやかな6月の週末は久しぶりの全日オフだ。タイガにはエーデルローズの行事が入らず、カヅキの大学は一通りの新歓行事を終えたところ。高校の頃からカヅキが続けている実家の手伝いも、今はちょうど人手の余る時期らしい。 だからタイガは決死の覚悟でカヅキを誘い、カヅキは「どこ行くか俺に任せてくれねぇか?」と答えた。
それがこれだ。
つまり公園での草サッカーデート、ただしギャラリーと大勢の仲間つき。
もちろんタイガも男の子だからサッカーは楽しい、楽しいけれど、デートとはなんだったかと、頭を抱えずにはいられない。
とうとう休憩中にカヅキの手を引いて抜け出して、遠く離れた木陰の近くで間食を買って、今に至る。
「お茶あったっけ……っと。ん、んく」
「……っ」
カヅキの喉がお茶を飲んで上下するのを、タイガはじっと盗み見る。 プリズムスタァに大騒ぎしていた子供達(あるいは同年代達)は、カヅキ達のことなど忘れて思い思いの遊びに夢中になっているだろう。サッカー、キャッチボール、縄跳び、あるいはダンス。たまに誰かが通りかかって手を振るけれど、キャアキャアとうるさい声から木陰の下は隔離されている。パス、いけ、オッシャ、なんて掛け声が飛び込んだり、涼やかな風がタイガとカヅキの間を通り過ぎたりするくらいだ。
これはデートなのだろうか。カヅキさんは、自分と恋人同士だとわかっているのだろうか。こんなに無防備な姿で、みんなに笑いかけて。先輩後輩の距離を変えずに、近くて遠くて。
「ぷはっ!」
「あのっ」
オトコならぐだぐだ悩まずに切り込むべきだ。そう決心してカヅキに体ごと向かい合うと、無垢な笑顔と目が合う。
「う……」
「ん? も1個食うか? 育ち盛りだし」
「……あざっす」
「いっぱい食べて大きくなったら、大和の背も抜きそうだな」
デート中に他のオトコの名前を出すなんて生温いんすよ、なんて非難は心の中に留めて、カヅキの容器から唐揚げを摘まむ。大和アレクサンダーとは最悪の出会いだったけれど、カヅキの良いライバルなのだ。迂闊なことを言ってカヅキに中傷だととられるのは避けたい。
かすかな苛立ちを唐揚げに八つ当たりしたら、再出撃。
「あの」
「うん?」
「その」
不満も不安も、言葉にならない。
「おー、慌てんなよ?」
「っ、スンマセン、あのっ」
あの、と切り出したところで唐揚げのかけらが喉に詰まる。 タイガがおもわず咳き込むと、カヅキの手が慌てたように背中に伸びた。さする手つきが優しくてあたたかくて、タイガの心はどんどんはやる。
「大丈夫か?」
「ごほ、っ、く、ごほっ……けほ……」
これだって恋人の手つきじゃないのだ。好きな人の体に触れることを躊躇わない、何の気ない触れ方に、昔のタイガは何度も心を震わせた。ようやく手に入れた恋人のポジションで、あのときと同じ気持ちになっている。
――俺は恋人らしいこと、たくさんしたいのに。
――そう、たとえば俺の部屋に行くとか。
「……昼から走りっぱなしで疲れたなぁ。マックとか行くか?」
「……っ、行かねぇっす」
とっさに口を突いて出た返事に、そうか?とカヅキが小首を傾げた。
こてんと音のするような仕草に胸が高まる。 大きくてまん丸な瞳がタイガを見つめている。
間が空いた。思いがけず。マックには行かない、ならどうする、恋人同士で。 木のベンチの上で拳を握る。
漢タイガ、決めるなら今だ。ホイッスルが鳴る。
「行かない、っす。これから俺の部屋、行くんで」
しん、としたのは一瞬で、すぐに公園の喧騒が戻ってきた。木漏れ日を喜ぶように、新緑の煌めきが視界のそこかしこで踊っている。煌めきの中央にはカヅキ先輩がいる。新緑をイメージカラーにするこの人の、零れんばかりに見開かれた両目の下で、褐色の頰が色づいている。
「あ、う、」
カヅキの唇がわなないた。 タイガの頰も熱い。遠くの方から子供の掛け声が聞こえる。いけーシュートだ、走れー。プリズムショーならプリズムジャンプを決めるところだろう。応援されてるみたいだ。昔のタイガなら馴れ合うなんてと怒っただろうが、もう気にならない。
だってタイガは高校1年生、カヅキがエーデルローズ入学を決めたのと同い年だ。
「俺、貴方とふたりきりになりたいんです」 2連続。
とっさにカヅキの手を取る。意外と華奢な指先が震えている。
「たい、」
「カヅキさん」
ぎゅっと握り込んで、3連続。
いけータイガ、ジャンプだ!
「やさしく、するんで!」
※
「おかえりぃ〜……って、カヅキじゃん。どうしたの〜?」
「……ご無沙汰してます、山田さん」
茜さす玄関をくぐる来訪者に、山田とミナトは目を丸くした。華京院学園を卒業したばかりのカヅキが、在学生の不良息子を背負って帰ってきたのだ。
もちろん背負うには大きすぎて、半ば引きずるような体勢だ。カヅキはミナトの手を借りつつタイガを下ろすが、未だふらつくようだったから2人で慌てて肩を貸す。
「タイガ、どうかしたんですか? ぐったりしてる……」
「気付けなかったんですけど、熱中症っぽくて。俺、連れ回しすぎました」
カヅキが自分の迂闊さに唇を噛むのを、ミナトが気遣わしげに見やる。
世紀の大宣言の後、タイガは鼻血を出して倒れたのだ。原因は炎天下でのサッカーと、おそらく寝不足だろう。慌ててタイガを抱き上げたときに、下瞼に濃いクマが出来ているのを見つけたから。
そして、寝不足なのは、たぶん……自分とのデートを楽しみにしてくれていたからだ。
「カヅキさんも顔赤いですよ、大丈夫ですか……?」
「あ、あぁ、うん、俺は……うん」
2階に上がりタイガの自室のドアを開けると、カヅキは使われていない方のベッドに恋人を寝かせた。寝起きしている方には地域情報誌が広げてある。きっとタイガが今日のために見てくれたのだろう。
「カヅキさぁん……」
ふと、パーカーの裾が引っ張られた。振り返るとエメラルドグリーンの瞳がカヅキを呼んで揺れている。
「ごめんな、タイガ。傍にいるから」
「……生殺しっすよぉ……」
オトコがすたる……と唸るタイガの手を、カヅキは小さな両手で包んだ。それがまた生殺しになるのだと気づかないカヅキの後ろで、ミナトと山田が顔を見合わせ苦笑している。
「純情派も大変だねぇ」
「そうですねぇ……」
それがタイガの良いところなんだけど……と言いかけて、ミナトはぽんと手を打つ。
「そうだ、今夜は唐揚げ定食にしよう。それで元気出して。カヅキさんもどう?」
「いや……ちょっと」 思い出すから、と俯くカヅキのうなじがほんのり染まっている。
「……唐揚げは……もーいい……」
唐揚げも公園も懲り懲りだ。……などと言うには元気が足りない。
だから、
「…………」
「タイガ?」
せめてカヅキ先輩の手を引き寄せて、タイガはお部屋デートの代わりにするのだった。