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2016年08月の記事は以下のとおりです。

ノーバレットはノーライフ

 網が焼けるか肉が先に届くか賭ける間もなく白飯が届き、相手に促されてタレで1杯目を食べることにする。
 茶碗の底が見える頃には肉が所狭しと網に並んだ。銀色に輝くトングで生肉を敷き詰めたのは朔間先輩だった。黒のポロシャツを汗で湿らせて、網から立ち昇る熱と煙にヒイヒイ言っている。
 汗ばむ喉の白さをオカズに山盛りを完食、お代わりする。入れ替わりにジョッキが2杯やってきた。ウーロン茶をなみなみと注がれている。受け取って乾杯。
「誕生日おめでとう」
「おう」
 誕生日だ。
 お祝いしようぞ、たらふくお食べ、トップアイドルの我輩の奢りじゃ遠慮するでない。そう矢継ぎ早に言われて連れてこられた。晃牙はかろうじて一言声を挟めただけだった。そうしてねっとり纏わりつく夜風の間を縫うようにふたりは焼肉屋に来て、おすすめセットの大盛りを頼んで焼きだした。
 にっこり笑って向かいの席でウーロン茶を飲む先輩の、青白い喉が晒されている。
「焼けたぞい」
 トングの先が肉を掴んで晃牙の皿に積み上げた。全部タレに漬ける。ジュワッ。5枚それぞれが油にまみれて輝いていて、タレと馴染んで食欲をそそる。
「今度はみんなで来ようぞ、晃牙」
「そうだな」
「ちょっと頼みすぎたかのう?」
「んなこたね~だろ。つかあんたも食えよ」
「おぉ、ありがとう。相変わらず優しい子じゃな」
 そのときトングにつままれ震えた肉が網を下まで油を落とし、ふたりの間が燃え盛った。
「うぐ、煙いのうっ?」
 朔間先輩は体を折って咳き込んだ。煙がもうもうと立ち込め真上の換気扇に吸い込まれていく。「先輩、わりぃ」「いや、おぬしは大丈夫か」「俺は平気だぜ」「そうか、ごほっ、けほけほっ」
 すまないと詫びた晃牙は先輩の背中をさすりに行けず、代わりに煙の向こうから先輩の汗ばむ横顔を見つめ尽くす。
「けほっ、ん、はぁ……っ、あ! 焦げておるぞ! ほれ晃牙、黒くなったのはこっちにおやり。我輩のと交換じゃ。……晃牙?」
 晃牙は頷いて手を伸ばした。胸が痛むのを隠しながら。
 ……朔間先輩は知らないだろう。軽音部の面子全員で行くはずだった焼肉に、ふたりきりがいいと言った真意を。
 朔間先輩には思いもよらないだろう。まだ生のままの牛肉に、先輩の腰のラインを重ねていることを。
 先輩の腰が血に濡れて輝いている。しかしそのなまめかしさは煙に隠れて見えにくい。しっとりした肉の曲線が大皿の上で倒れ伏しているのを、晃牙はウーロン茶の陰から盗み見た。
 

「なあ、ここ結構きてんのか?」
「うむ? そうさのう、薫くんとかと」
「そっか。そうだよな」
「おいしいじゃろ?」
「そうだな」
「本当にのう……」
 零は晃牙の目を盗んだ。
 零は晃牙の目がギラギラと獰猛なことに気づいている。獲物を狙う獰猛さで、焼肉会が終わるや否や零を襲って食べてしまうつもりであると知っている。サンチュのように波打つシーツに辿り着こうと舌舐めずりをしていると、晃牙の油で濡れた唇を見て解った。
 零は気取らずにトングを操った。肉をよそい、空いた場所に赤身をじゅっと焼き付かせる。本当に気取らせなかっただろうか? 零が肉を裏返すとき、薄いポロシャツをたくし上げた気分だったと晃牙はわかっただろうか?
 迷いは手元に出た。トングが手から離れた。追いかけた手の甲に別の手の平が重なった。晃牙の、汗ばみ冷えた掌が、零の素肌に縋り付いた。
 それだけで充分だった。


 目を合わせると黙々と肉を焼いた。赤身の残るうちから口に放り込んだ。どちらが早く食べ尽くすか、晃牙の自宅に何秒で着けるかふたりきりで争っていた。

 

独占権主張ちゅう

 8月末の夕方の雰囲気が好きだ。
 薄水色の空に溶け込むあいまいな雲。もう少しだけ昼までいたがるそれは穏やかでちょっと哀愁漂ってて、80年代ロックという感じがする。きつく吹く風は秋そのものみたいに涼しいし、なぜか10時のオヤツに出てくるパンの匂いがする。10時のオヤツのパンとは、そういうパンだ。食パンでも菓子パンでもない、大人の手のひらサイズの色白のパン。
 思い出すと食べたくなった。頼りない甘さの素朴な味だった。10時のオヤツは中学校に上がるとなくなってしまったので、かれこれ10年近く食べていない気がする。
 無意識のうちにオヤツのパンの口をした晃牙の唇に、ふかふかの何かが当たって離れる。
 ちゅっ。
「晃牙、ひま」
 ふかふかの正体は朔間先輩。
 の、唇だった。
「……っ、なんだよ、先輩」
 急に現実に引き戻されて、晃牙は慌てて格好をつけた。
「じゃから、ヒマ」
 朔間先輩は晃牙のカッコつけを見透かすように頬にキスした。ちゅっ。続けてちゅ、ちゅっと首筋にもいくつか落とし、甘いくすぐったさが肌に残る。
「これっ」
先輩が晃牙を怒ったのは仕返しに甘噛みされたからだ。しかも喉。謝る代わりに舐めると仰け反って、あ、と声帯を震わせる。捕食される間際の恍惚に似た嬌声。
興奮して喉が渇いた。座卓の上のコップを取ろうとして横取りされる。「このっ」のせられた晃牙が朔間先輩を押し倒すと、桃色の唇はつんと尖って晃牙を待った。潤んだ目で見つめられる。
「こうがぁ」
 誘ってんのか。晃牙は胸をせつなくしながら顔を近づける。
 きゅっ。
 ……きゅっ?

「おなか、鳴ったのじゃ」
 見下ろした朔間先輩は恥ずかしそうにお腹を撫で、晃牙の下からそそくさと抜け出した。晃牙が呆然とする間に台所に行って冷蔵庫の中身を物色する。
「何もないんじゃけど。……っおぉう!?」
 ふくれっ面で晃牙に抗議した朔間先輩は、抱きすくめられるとすぐに目尻を蕩けさせた。晃牙と向かい合ったまま、おずおずと背中に腕を回す。
「すまんのう、慣れないことしたようじゃ」
「パン相手じゃしまらね~な」
「ぱっ……早く言わんか!」
「いてててて」
 絞め殺すのは勘弁してくれ。言おうとして、キスで唇を塞がれた。
 甘い。おもわず緩む口元。「我輩だけでよいのじゃ」強気の舌が捩じ込まれた。

とてもおいしかった

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  • 2016/08/19 22:34
  • カテゴリー:その他

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