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2016年06月の記事は以下のとおりです。

夜が明るすぎる

アスファルトが湿っていた。梅雨のせいだった。朝から降ったり止んだりを繰り返して、濡れる地面すら今の小雨が何度目の小休止か誰もわかっていないようだった。そんな雨で濡れた表面が信号の明かりに潤んでいた。緑色をしているのに青と呼ばれる信号が黄色く変わり、赤信号がずっと長く点灯しているので、壊れたんじゃないか、ここを通る車はどうなる、と思ううちにまた緑に変わった。車は来なかった。広い世界の小さな日本のさらに小さな街の駅前ロータリーに面した道を、通りがかる運転手などいない。
時刻は午前1時を回ったところで、闇の奥へ奥へとのびる車道を、晃牙は横断歩道の手前から見ていた。
「飲み足りねーな」
「もっとビール入れるか」
「ウソだろ、オレ腹タプタプしてんだけど」
聞き馴染んだ声が3つ、居酒屋の前にたむろするのを背中で聞いていた。この声によく似た、がなり立てるような泣き喚くようなコーラスに混じって何年経つだろう。晃牙が誘われて入ったバンドはヒットチャート常連になり、地元のライブハウスはファーストライブのフライヤーを誇らしげに飾っている。今度地元の公園で野外ライブをすることになったので、その練習帰りにこうして飲みに来ているのだ。
「ラーメン食って宅飲みしよーぜ!」
「いいねぇ」
Dr.が晃牙と肩を並べて顔を覗き込んだ。頷くと、目を細めて「晃牙もいいってよ!」太い腕を振る。眇めたつり目の、濃い紅色だけがよく似ていた。思い出さない。深い痛みが蘇り、晃牙の胸に掻きむしりたくなる違和感を残して消えていく。
思い出さない!
横断歩道を4人で渡る。思い出さない、この3人は晃牙がアイドルをしていたことを忘れている。アイドル量産工場で夢を追い続け、夢と決別した大神晃牙はここにはいない。音楽番組でかつての同期とすれ違う度に、俺達こそが音楽だという顔の仲間の隣で、晃牙だけが同輩を愛し子と呼んだ男の影を見る。歌に、振り付けの癖に、魂を焚きつけるリフの端々に。なのにここにもいない、アイドルにもならなかったのに、どこにいるんだよ朔間先輩。
思い出さない!
「30なったら無茶できねーだろなぁ」
「まだ25だろ」
「一瞬だって。成人式きのうだったろ?」
「やっべーライブ中に老衰で死ぬ!」
「死なねーって」
「肝機能くらいは壊すよな」
「飲みすぎて?」
「最高じゃん」
「そうそう、ライブやって飲んでライブやって……永久機関、なあ、晃牙」
そう笑いかけられたとき、向こうから赤い外国車がやってきた。慌てて身を乗り出した。歩道の晃牙には目もくれず、壊れた信号にも徐行せず、車は一度も止まることなく深い闇の中を奥へ奥へと進んで小さくなった。
もう届かない。

いちご限定初恋記念日

 

「じゃあ今日は初恋記念日ですね」
とテメ~は言って、ビールジョッキを逆さまに飲み干した。
居酒屋の個室にいた。プロデューサーらしいクソ疲れたみたいな顔をしていたからだった。いつもヘラヘラして仕事が恋人ですみたいな顔をしているのに今日は恋人にDVされてそれで逃げたいみたいな表情だったから、優しい俺様は撮影終わりに行きつけの居酒屋に引っ張っていった。
小さい指で枝豆を押し出しながらプロデューサーは「朔間さんに悪いです」と言う。別にアイツと飲まね~しアイツはアイツで今頃いいモン食ってるんだろう。そういうことはテメ~も承知してるからふたりとも心置きなく追加オーダーする。
「俺様も立食パーティー行きて~」
「お仕事探しておきますね」
「おう頼むぜ暇な時に、つっても向こう10年なさそうだけどよ」
「はい」
「ってそうじゃね~よさっき何つった」
「?」
ツッコミと同時に押し出した枝豆はテメ~の肩を越えて黒い壁にぶつかった。監獄バーだから黒い。「あっ、もったいない……」と間抜け面を晒すテメ~が素面で俺様が案外酔っているのはおかしかったが、まあそれはいい。
「なんで初恋記念日なんだよ」
「……?」
「俺様が、アイツにぃ、はじめて恋したってぇ……」
ジョッキを支える手首が心許ないどころかもうフラフラで、そういえば肩と背中にも力が入らないと気づいた俺様の視界がどんどんどんどん下がって耐えきれず机にぶつかる頃にようやく俺様は酔いが回りきったことを自覚した。
ヤケ酒するから、というニュアンスの「大神くん……」が上から降ってきた。上? 右かもしれない。平衡感覚も酒に飲まれた。
突っ伏すしかないので突っ伏しつづけた。
頬をべったり付けたテーブルはひんやりしていた。酔いが覚めるほどではなかったが、心が冷やされてきゅっとなった。絡み酒の次は泣き上戸かよクソが、のクソの発音が鼻に来た。
「恋ならよぉ……ずっとしてるっつ~の……ぐすっ」
「大神くん……」
「赤い月見たら先輩思い出すし、外でコウモリ飛んでても思い出すし……っなのに先輩は……せんぱいはっ、いつまでたってもおれのこと、ぐすっ、犬っころ扱いしやがって……っ」
「…………」
「おれもあんたもイイ年なのに……『かわいい晃牙、幼いおぬしの思い違いじゃよ』とかよぉ……ひぐっ……おれさまのキモチが5年も、ずっとかんちがいなワケね~だろ……っうぅう」
「わんこ……」
「ほら見ろまたわんこって………っ」
「…………」
「……わんこって……わん………………!?!?」
「その……すまんのう、晃牙?」
枝豆をぶつけた壁は右に引かれて、素面のプロデューサーの後ろに真っ赤な顔の朔間先輩がいる。

 

 

テメ~も俺様たちもめいめいの理由で酔っていたから、帰りにケーキ屋に寄った。
「いちごショートを3つばかし下され。箱は2個と1個で分けておくれ」
「記念日のケーキですね」
素面みたいどころかそのものの顔でテメ~は言った。完全に策士だった。
「ありがとう、嬢ちゃん。晃牙は……その、ごめん」
「別に怒ってね~し……」
怒ってるっつ~か、照れてるっつ~か。
ショートケーキばかり並ぶショーケースの陰で、先輩が俺様の手を握っている。

 

1

晃牙は固唾を飲んだ。朔間先輩がつまらなさそうに封筒を見た。真っ赤な顔でその封筒を差し出したのは晃牙で、封筒は黒地に銀の十字架を散りばめコウモリのシールで封をした、正真正銘のファンレターだったからだ。朔間先輩先輩の白い指先がシールの縁を剥がしていく。ゆっくりゆっくり、もったいぶるように桜色の爪がつやつやのコウモリを追い立てて、慌てたコウモリはプラスチックの羽と体を先輩の爪に覆い被せた。それどころか離さないとばかりに人差し指にしがみつくのだから、晃牙はコウモリがうらやましい。「これ」「はっ!?」「やる」晃牙が顔を跳ね上げると、朔間先輩が悪戯そうに笑って指差してきた。「え、な、」「テメ〜の目は節穴か? これだこれ」「シール、すか」「俺様の眷属だからな、丁重にもてなせよ」ん、と目の前に差し出されたコウモリを、晃牙は震える指で慎重に剥がす。緊張すんなよと言うように紅い目が笑っていたけれど、粘着面が剥がれる度に微かに揺れる指先に張り詰めないでいることなんて不可能なのだ。「取れたな。じゃ、さっさと帰れよ」「はっ、ハイ! 失礼しゃす!」晃牙が膝に額のつきそうなお辞儀をして出口に向かい、ふと振り返って朔間先輩を拝もうとしたとき、既に先輩の姿は見当たらなかった。「…………?」部室を見渡してもどこにもいない。代わりに窓が開いていて、吹き込んだ桜の花弁が落ちた先には封筒ひとつ。便箋代わりに、風に乗って差し込まれた。

 

 

今年こそ

皆で総選挙を見ていた。
総選挙、と言ってもAKBではなく夢ノ咲。要するに二番煎じだ。一応立候補制のそれに晃牙も零も名乗り出ていて、下から順に呼ばれていく。
立候補者の控え室であるところの講堂は男だらけなのに姦しく、全校生徒がぎっしり詰まって順位の当否を論じるのに忙しい。
「あ~くそ、俺様がTOP10以下とかおかしいだろ」
「そうじゃのう。わんこはもっと上かと思ったが」
「…………」
「別に嫌味ではないぞ?」
「わかってるよ」
「ククッ、わかってなさそうな顔しておる」
そんな会話をしながらうるさい講堂で中継を見ているうちに、30位近くあった発表はベスト5まで来た。5位、と呼ばれた名前は朔間零ではなかった。大好きな朔間先輩の名が出てないことにほっとする。
「わんこは」
「あ?」
「わんこは、何位だと思う?」
遠くから聞こえてくるような声に、晃牙は左隣で笑う零を見た。
「賭け事じゃ。当たったらジャーキーでも奢ろうぞ」
「もっとマシなもん奢れよ」
「その意気や良し。で、何位じゃ?」
悪戯そうな瞳で覗き込まれる。
逡巡があった。言うまでもなかった。言うまでもなく、けれど言うには強すぎる抵抗があった。意地という名の。
司会が声を張り上げる。4位、朔間零ではない。零が流し目をくれる。
「……3位。いまどき吸血鬼キャラとか流行らね~し。海賊フェスもグダグダだったしそれに――」
「3位じゃな」
『3位――朔間零!』
言い訳を打ち切るように零が断ずると同時に司会が零の名を呼んだ。大当たり、賞金のジャーキーは大神晃牙君のものです! そう煽る赤目が、呆けた晃牙を見る。
「おぉ……おめでとう」
「……めでたかね~よ、クソが」
立ち上がって壇上に向かう朔間零を背に、晃牙は荒々しく立ち上がって大股で出口に向かった。前方に座る生徒の視線は3位に向けられ、後ろの方の生徒の不躾な視線は「朔間零が1位でなかったことに怒る大神晃牙」に注がれた。実際その通りだったので、晃牙はそいつらの座席を蹴飛ばして出た。

教室に戻って鞄を引っ掴み、坂を下って駅前まで行った。商店街のスーパーでカレールウをかごに入れ、レジを通して鞄に捩じ込んだ。家に帰って玉ねぎとジャガイモとニンジンでカレーを作って、作って、鍋一杯に作ったそれをひとりでよそって食べた。辛い、のは辛口を買ってきたからで、晃牙はどうして自分がわざわざ辛口なんて買ってきたのかよくわかって辛さに涙を零した。辛かった。

 

そんな風景を、すすきのでスープカレーを食べながら思い出す。
「これ晃牙、もっとおいしそうに食べぬか」
「小さいわんちゃんには早すぎたんじゃない?」
「羽風先輩、大神は腹が痛いのかもしれない」
「それとも誰ぞ推しでもいたんじゃないかのう~?」
総選挙に、とスプーンで頭上のテレビを指した零に、薫とアドニスが見上げて「まさか」と薫が笑った。
総選挙、と言っても夢ノ咲ではなくAKB。1位の子が笑って、2位も3位も笑っている。
「晃牙くんの1位は朔間さんでしょ」
晃牙はああ、と頷いた。

ある町はずれの小事件

 

 俺様は名探偵・大神晃牙、かのシャーロック・ホームズに師事する名うての探偵だ。おっと、静かに! 捜査中にサインに応じる馬鹿は探偵じゃね~よな?しかも潜入捜査の真っ最中。そうここは大怪盗の根城、夢ノ咲のワトスンことレオンが黒々とした鼻で嗅ぎ当てたのだ。
 大手柄を鼻にかけない相棒の情熱的な視線を受け、俺様は慎重にドアを開けた。あっ! 靴が出ている、ヤツめ、俺様に探せないと踏んだな。しかも脱ぎ散らかして、アジトに着いて気が緩んだのがバレバレだぜ。ふむ、大きいのが1足、改めて見ると大怪盗にふさわしいサイズだ。横にひとまわり小さいのが1足どけてあるが、これは今はいいだろう、証拠は目の前だ……さあ来いレオン、お前のいかした武器が頼りだ。クンクン、クンクン……ほら見ろ、迷うことなく廊下を進んで左の部屋の前で立ち止まった。でかしたワトスン! またしてもお手柄だな。ヤツをつかまえたらとっておきのジャーキーで祝杯を上げよう、だが今は頭を撫でるだけで我慢してもらわなくちゃならない。あぁ、ちくしょう、なんといっても扉1枚むこうに大怪盗がいる。
 さあ、さあ! 知恵を絞れ名探偵、警察も少年探偵団も呼ばない正真正銘の2人きりだ。レオンと俺様でつかまえられるか? やれるか? やるしかない! オオカミの名に恥じぬよう大胆不敵に・探偵らしく勇猛果敢に、つまり決して逃がしはしない!
 いくぜ相棒、3つ数えて突入だ! 3! 2! 1――――


「突入じゃ!」
「うわっ!?」
 扉が開いて現れた男に、晃牙――名探偵は腰を抜かしてへたりこんだ。
「ほれ、大怪盗のお出ましじゃ、捕まえてみせんか」
 毛玉のような尻尾を振って近づくワトスンことレオンを片手で撫でながら、零がにんまり笑って頭に手を伸ばすのを、晃牙はバツの悪そうな顔で受け入れる。
「いつから聞いてたんだよ……」
「たぶん最初からじゃ。『俺様は名探偵』――これ顔を隠すでない」
「じゃああっち向けよぉ……」
 両腕からはみ出た耳が赤い。零に腕をどかされると、真っ赤な顔にほとんど涙目の晃牙が悔しまぎれに顔をしかめた。I don’t have fffffriends!
 見たばかりのドラマに触発される晃牙に、零は愛おしさがこみ上げた。優秀な相棒、つまり晃牙は零の相棒だからレオンは零の相棒でもある、その相棒にお座りをさせて、零は両手を晃牙の熱い頬に添えた。スモモのように鮮やかで柔らかい頬を、そうして、指先でゆっくり撫でる。
「大怪盗は何を盗んでいったんだ?」
「…………」
「晃牙?」
「…………大粒のルビーを、2粒…………」
「クッ」
「笑うなよう!」
「くくくっ、すまぬ、くくっ」
「ムカつく」
「ごめんって」
「声が笑ってんだよ!」
「くく…………ふふっ」
「……んだよ」
「我輩の、いや俺の心を盗んだ晃牙が、探偵なんだな」
「…………だってあいこだろ」
 名探偵の両手が零の手の甲を覆った。やさしく力を入れると熱っぽい、とろけるようなルビーの瞳が晃牙を見つめる。晃牙も蜂蜜の目で見つめ返した。
 大神晃牙は名探偵だ。助手のレオンは廊下で丸くなり、相棒のラブロマンスに文字通り目をつむっている。晃牙が探偵顔負けの行動力で大怪盗に口づけながら、持ち前の推理力でこの後の展開を推理した。大怪盗・朔間零の根城に招かれてセックス。なかなかの名推理だと思わね~か、レオンくん。

 

お気に召すまま

 こーがオレねえプリンくいたい!つくれる?ああ作れるぜとガキの小さな手を握ると、機材を構えたヤツが口元を綻ばせた。今ごろ俺様に寄せて録ってるんだろう、俺様の笑顔はバッチリ映ってスタジオの大画面で零に見られ、俺様は優しく見つめる零の横顔を真隣から見つめるのだ。悪くないと思えて足取りは軽い。
「オレいつもはひとりでいくんだよ! ちんげんさいとかかってる!」
「スゲ~じゃね~か。母さんの手伝いか?」
「おう! こーがは?」
「俺様は零の手伝いしてるな」
「すげー!」
 さすがこーがだなとか言いながらガキこと番組当選者のお子様が行きつけのスーパーに俺様を引っ張り、撮影スタッフに囲まれた俺様はお守り役として唯々諾々と商店街を練り歩く。ユニット冠番組の企画で子守をすることになった俺様はこうして6歳男児を連れている。昼過ぎの撮影なので商店街は込み合っていて、無秩序な人だかりはイエスに相対した海のようにざっと左右に分かれた。「すげー!」駄賃代わりに端末で無遠慮に撮られるが。撮られる俺様と撮るファンの図まで収録される。人気商売。
 お子様がそう言ったので今日のミッションはプリン作りになった。プリンというと思い出すのはアホの明星がガーデンテラスで作ったバケツプリン、を食べ切れないとかで衣更に応援要請されたこと。もはや事件といってもいい、バビロンの塔のように崩壊したプリンのまわりにTrickstar以下死屍累々が転がり口元を汚した零がこっそり抜け出そうとしていた。あのときもう二度とプリンなんざ食べね~と決めたはずだが5年も前の話だ。絶対許せないと思っていた吸血鬼ヤロ~の姿勢を受け入れるどころか付き合って同棲までしているのだから思えば遠くまできた。「ママはれいがすきらしいぜ! おれはこーがおしだけどな!」「ありがとよ」とにかくプリンミックスと牛乳でプリンが作れることは間違いない、テラスの隅に転がっていたのだから。
「ついたよ!」
「卵コーナー……」
 ところがお子様はプリンミックスという文明の利器を知らないらしい。
「卵入ってんのか」
「そんなこともしらねーの?」
「…………」
「ほんとうにつくれる……?」
「ちょっと待てググるからな」
 ガキらしい疑り深い視線に背を向けて端末を開く。スタジオの笑い声、特に零の忍び笑いが聞こえるようだ。【プリン レシピ】検索しようとするとカンペが入った。『クックパッドで作って』。そもそもクックパッドしかヒットしない。それかきょうの料理。
 すぐに出た。http://cookpad.com/recipe/247795。これでいくか。


 

 いった。
「おぉぉぉ……でかしたぞ晃牙……!」
 ガキのようにうるさくお子様のようにかわいいお客様こと朔間零(24)は喫茶UNDEAD出張版の臨時メニューを前に目を輝かせて端末で撮りはじめた。ただのプリンではない。アラモードのついたプリン、飾り切りしたリンゴとかバナナとかホイップクリームが載ってる。俺様もしかしなくても天才だな。
「これくらい朝飯前だぜ」
「その割には残りのプリンが見当たらんではないか? 6個つくったじゃろ?」
「うるせ~」
 笑い声(架空)。カメラその2(架空)が台所に回って崩れたプリンを接写。笑い声(架空)その2。
 あれからプリンを作り無事に収録を終えた俺様は、家の近くのスーパーで同じ材料を買って帰った。スタジオの方の収録は4日後だ。それまでなら完全なサプライズで食わせてやれる。もちろん即作ったし夜には食わせた。それが今。
「うめ~か?」
「うまいうまい、絶品じゃ」
「一口」
「ほれ」
 差し出されたスプーンからプリンとクリームを貰う。「あんまうまくね~な」天才というには技術が足りない味だ。
「世界一おいしいぞい~?」
 そうやって幸せそうに微笑む零は5年前に場違いだと言ってテラスから立ち去った吸血鬼ヤロ~とも3年前の俺様から愛を受ける資格などないと言いそうな顔の朔間先輩でもなくありのままの朔間零として4日後の収録で俺様の隣で画面を見るだろう。ありのまま、幸せを享受する朔間零が画面の向こうで奮闘する俺を笑い食ったばかりのプリンアラモードを羨ましがり隣の俺を茶化す。からすのパンやさんならぬわんこのプリンやさんじゃのう?
 きゅうけつきのアイドルやさんはわんこのプリンやさんと共同経営して全国の愛し子に愛を届ける。卵と牛乳とほろ苦いカラメルで出来た愛。たとえ何度も絶望しても人と交わる生き方ができるのだと説く優しい世界。そこに朔間零がいることを願い実際連れてきたのだと俺は自負している。だって天下のトップアイドル・大神晃牙様だからな。
「毎日でも食べたいのう~」
「お気に召すまま」
「My Darling?」
「もちろん」
 俺様もしかしなくても天才じゃないか?

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