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2016年05月の記事は以下のとおりです。

寓話

朔間零は返礼祭を終えて人間になりました。大神晃牙が朔間零の胸の杭を全部抜いたからでした。
杭が刺さっていた痕も大神晃牙が舐めて治したので、零は晃牙が大好きになりました。
けれど心は吸血鬼のままでした。零は人と鬼が結ばれてよいものかと悩みました。そこへ晃牙が顔を赤らめて来ました。
「なあ先輩、あんたには一番に報告したくて来たんだ。俺コイツと付き合うことにした。結婚も考えてる。あんたが素直になる大切さを教えてくれたから、何もかもおしまいになる前に告白できたんだ。ありがとな」
晃牙は人間の女の子とつがい、零の恋は終わりました。

吸血鬼村は地獄ですか?

コーギーの絵本があるらしいのう、としどけない寝姿で言われた。
コーギーの絵本。にんげんの、子どもが読むための絵本で、コーギーについて絵と文でかかれた本。そういうニュアンスで言われたので、晃牙はそっと息を吐いた。
「コーギー村のクリスマスのお話なんじゃと。……あぁ、これじゃ」
闇の中、立ち上げたパソコンで書籍販売のページを見せてくる。まぶしい、闇の中で見ることを想定していない画面の明かりが、棺桶の内側を照らすので、晃牙は外側で跪いて覗いた。
明るい絵柄の表紙。クリスマスツリーを囲むたくさんのコーギー。服を着たり眼鏡を掛けたりしている。一様に舌を出し、期待のこもった眼差しを向ける。
「クリスマスのプレゼントにいらんかえ?」
「持ってる」
「おお……そうか」
そうかや、吐いた息が夜闇に溶けた。
棺桶から離れて、闇の色を確認した。藍色をしていた。晃牙は棺桶模様のネクタイを締めた。零のぼんやりとした眼差しを感じた。
母親に買い与えられた、とは言わなかった。答えてしまえば、わんこのご母堂もコーギーなのかやと聞かれ、自分の母親も吸血鬼であると話し出すに違いなかった。
晃牙の想像を裏打ちするように、零は去りゆく晃牙に「おやすみ」と言った。
おやすみ、吸血鬼村にまたおいで。
吸血鬼村は地獄ですか。はい地獄です。

 

地獄であるところの吸血鬼村の話。
昔々あるところに吸血鬼がいました。吸血鬼は吸血鬼一族の長男でした。吸血鬼は絶滅しつつあったので、というのは吸血鬼狩りに狩られていたので、吸血鬼狩りに国内外を追われました。
というのは嘘で、吸血鬼一族は夜の世界に生きていました。健やかに生きていました。
ただ、夜の世界で生きるには一芸が必要だったので、才能を見出された長男だけが母親と国内外を飛び回りました。夜の世界は世界として確立されており、吸血鬼も等しく住人でした。母親も一芸で夜の有名人でした。
ところで長男はアイドル養成学校に興味を持ちました。吸血鬼でしたが昼の世界の学校に入りました。母吸血鬼の制止は振り切りました。弟吸血鬼も入学しました。
アイドル養成学校で長男は楽しく過ごし、なんだかんだあって人間の男と恋に落ち、幸せに過ごしました。おしまい。

盛り上がりのない寝物語を、晃牙は横になって聞いた。しどけない姿でダブルベッドに寝ている恋人の横で、うつ伏せに寝ていた。午前3時。吸血鬼と人間の男の愛の巣。
地獄の要素がなかった。それでよかった。選び抜かれなかった逸話は散逸し、なかったことになった。
事後、恋人とピロートークした。それだけの話だった。

 

ハニーレモンシロップ(みか+宗)

「またそれかね!」
 おおごえをだす『おしさん』に、みかちゃんはおどろきとびあがりました。せなかにかくしたふくろのなかで、きいろいあめちゃんがころんとなります。
 ここはゆめのさきがくいん。『あいどる』をそだてるがっこうに、みかちゃんと『おしさん』はかよっています。みかちゃんは2ねんせいで、きょうは2ねんせいは5げんまでです。
「ぼくにかくれて、また『だがしや』にいったね」
 『おしさん』は『だ』をにあくせんとをつけていいました。
「『だがし』はからだによくない! そんなもの、やひなにんげんしかたべないのだよ」
「でも、おいしいんよ? ちょっとだけやし」
「くちごたえするのかね!」
 ぴしゃり、しかられたみかちゃんはちぢこまりました。
 『おしさん』がきびすをかえしてあるきだしたので、みすてられないよう、おいすがります。
「おしさん、ごめんなあ。あしたはがまんする」
「あさっては!?」
「あさっても!」
「あさっても、しあさっても、おまえのおやつはぼくがかんりする!」
 きがつくと、『おしさん』はかふぇのちゅうぼうではくりきこをもっていました。みかちゃんはめをこらします。はくりきこは、はくりきこではありませんでした。
 ほっとけーきみっくすです。
 『おしさん』は、ほっとけーきみっくすと、たまごとぎゅうにゅうと、ぼうるとあわだてきとふらいぱんとで、さっさとほっとけーきをつくりました。
「きょうからこれをたべたまえ!」
 ほっとけーきはふわふわ・ふかふかおいしかったので、みかちゃんはあしたもあさってもおいしいといってたべたのでした。

 けれど、あさってのつぎのひもほっとけーきをつくるのは、かんぺきしゅぎの『おしさん』にはゆるせませんでした。
 かんぺき、つまり、あきのこないこと!
 『おしさん』はどーなつをつくることにしました。
「あぶらたっぷり、どないしたん?」
「きをつけたまえ! むこうでみているのだよ」
 ちょうりだいをはさんだむこうで、『おしさん』はきじをこねこね。
「おなじざいりょうで、べつのおやつ。かんぺきだ」
 『おしさん』はうっとり。すぷーん2つですくったきじを、あぶらにうかべて、まるまるときつねいろになったらあげます。
 ほれぼれするようないろです! みかちゃんは、よだれがあふれそうです。
「うまそうじゃね~か。ひとつくれよ」
「あ!」
 ところが、だれかがたべてしまいました。
「りゅ~く! いじきたない!」
「うめ~な、あいかわらず。ごちそうさん」
 『りゅ~く』とよばれただれかは、おれいをいうと、さっさとかえってしまいました。
 なんてすきかってをするのだろう。
 みかちゃんは『おしさん』をみました。『おしさん』は、おこったような、こまったようなかおで、『りゅ~く』のせなかをみつめました。
 そして、わらいました。
「しかたないな」
 わらったのです。
 みかちゃんはおちこみました。『おしさん』は、みかちゃんといるときはおこってばかり。あんなふうにわらったりしません。
 『どーなつ』も『りゅ~く』にたべてもらったほうがいい。『おしさん』をわらわせたほうがいい。みかちゃんは、えんりょしたほうがいい。
 そうおもうのに、あまずっぱいかおりがすると、よだれがとまりません。
「まだ、れもんのしろっぷにくぐらせてないのに」
 『おしさん』は、はちみつをおゆでうすめて、しぼったれもんを1てきいれました。そこに『どーなつ』をいっしゅんいれて、ひきあげます。
「かんせいだ! さあ、たべたまえ」
 いただきますをして、みかちゃんは『どーなつ』をかじりました。
 あまずっぱい! おもわずかおをすっぱくさせると、『おしさん』がわらいます。
「れもんがきいているだろう。カカカカカ!」
「おしさんのおやつ、せかいいちおいしいわあ」
「とうぜんだ! かんせいひんをたべられないなんて、あいつはかわいそうなやつだね」
 みかちゃんはわすれていました。『れもんのどーなつ』は、みかちゃんのためにつくられたおやつでした。『おしさん』は、みかちゃんのおやつがれもんのあめちゃんだと、おぼえていました。
「あついうちにたべるのだよ」
 ひとくち、ふたくち。もったいなくてゆっくりたべて、もうひとつ。みかちゃんのてはとまりません。
 なみだがでるほどすっぱいれもん! ああ、すっぱい!

 こうしてみかちゃんは、いつまでも『おしさん』のおやつにとりこにされました。
 めでたし、めでたし。

⭕️⭕️⭕️⭕️

大神の期末が酷いのでどうにかしなさいと言われた。何点だったんですか。12点。あまりに酷すぎるから、そして零は人の心がわからなかったから仲間内でさんざ笑って、でも俺内申もっと酷いし、でもう一度爆笑した。
「勉強くらいしろよ」
パイプ椅子を突き合わせて勉強をみてやると、晃牙は首まで真っ赤にしてせんぱいといるほうがたのしいんすと言った。ツインギター、せんぱいと、永遠に弾けるんす。
だからピックを摘む要領で、指先でなぞった。答案の4つの赤丸と「あ」答えを綴る利き手の甲。
「もっと首輪をさ、掛けさせろよ」
膝が触れた。震えていた。歓喜が愛し子の中を駆け巡り、胸元の赤ネクタイを弾ませた。

「勉強くらい、しろよ」
それが5人の仲間内で流行った。全員勉強しなかった。しないからこそ敗れ、膝をついたのだと零は思っている。
「なんじゃわんこ、おしっこかえ?」
4つの首輪をやりくりして、零は犬を飼っている。

In the Rye

キミは芝居掛かった仕草が抜けないね、と監督に言われた。深夜帯の学園ドラマの撮影だった。残念なイケメン吸血鬼という役で売っているから、あるいはそう売るように学院で指導されてきたから抜けないね、と言われる。零はしょんぼりとしてすいませんと言う。すいません、気を付けます。次からしないよう気を付けます。
「馬鹿馬鹿しい」
そういう話を聞かされた宗は2回舌打ちをして零の道化さを笑った。
「そういう役作りで売っていると思わせるのが君だろうに、あざとさを鼻につかせるなど」
完璧であるところの斎宮宗は人形の糸を見破るのが早い。
「お手の物だろう。謝る気などないくせに」
宗はバナナケーキの先端をフォークで切って食べた。バナナがキャラメリゼされて美味しそうだと零が行きつけのケーキ屋で見かけておもたせにしたのだった。バナナケーキ。3つ、家主の宗とお客の零と居候のみかの分。
いつまで茶番をするのかねとみかの分のケーキを箱に戻しながら問われた。どちらかというと責める口調だった。大きな箱にバナナケーキ1ピース、ボール紙で固定して片道分の保冷剤を入れ替える。蓋を閉じる。零に渡して持って帰らせる。零は受け取る。
お茶会から帰宅した零は箱を開けて、綺麗な絵柄の皿にケーキを乗せるとリビングで待つ晃牙にフォークを添えて差し出す。
「ひとつ? いらね~の? 半分こしようぜ」
綻びが出ないよう気を付けます。

 

 ※

 

彼の茶番を聞きながら、作るならケーキよりタルトだろうと宗は思った。
ケーキよりタルト。キャラメリゼよりチョコレートがけ。土台だけ焼いて一緒に作るのもいいかもしれない。
「バナナと好きなフルーツを買ってきたまえ」
タルトにするからね。思いのほかやさしい声が出たことに驚いて、キャラメル焼けだと納得する。あるいは電話のマジック。
土台のクッキー生地をキツネ色にした頃に、みかが息咳切らして帰ってきた。「こんなに買ってどうするのかね」「ぜんぶ乗せてスペシャルにしよ思てん!」
ぜんぶ切って乗せた。
「乗りきるもんやねえ、マド姉」
『みかスペシャルね、みかちゃん』
ケーキナイフを慎重に入れる愛し子ふたりを、宗は見ている。
「ノン! 余所見していると崩壊するだろう」
言ったそばからラズベリーが転げて落ちた。みかの手が拾って食べた。
「あっ!先に食べてもた! お師さんごめん」
タルトの縁の高さまで王国建設完了それでおしまい。

 

夜長

2016年春の晃+零

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橋を焼く

大神晃牙は平均的な家庭で育ったと朔間零は思っている。平均的な、平凡でそれなりに行き渡り満ち足りた愛情と教養。
たとえば大神晃牙は月に二度夜の9時頃かかってきた電話を受けていくつか話す。飯食ってる掃除してる、鍵なくしてない、野菜はラーメンのもやしとか。先輩に迷惑?かけてね~よ。
そうすると仕送りに野菜と先輩の好きなトマトジュースの紙パックが増える。みっしり詰まった大型の段ボール箱を前に大神家の息子は途方に暮れて、鍋でもするかと俺に言う。困り果てたように言って、出汁のとり方を電話する。母親に。そして鍋で野菜をあらかた食い尽くしたら晃牙は俺を大切に抱いて俺は晃牙に愛情を充填される。
「豆ごはん」
その日も晃牙は宅配便を受け取って、蓋のガムテープをバリバリ剥がしながら背後の俺に問いかけた。「豆ごはんでもいいか?」悪くなるから今日中に炊けってうるさくてよとひっつかんだ袋に剥いた豆がずっしり詰まっている。
「炊けるのかや?」
「親が炊いてるとこ見た」
「それは……」
「わぁってるよ! ググりゃいいんだろ!」
面倒くさそうに携帯端末を取り出したのはただのポーズで、晃牙は鼻歌混じりに米を研いで豆を流し入れた。そうして俺は食事当番じゃないので食卓について待っていると、豆ごはんと昨日の残りのからあげと豆腐の味噌汁と買ってきたコロッケと一昨日のほうれん草のおひたしが並んだ。一汁三菜。箸の束を持ってきた晃牙が変な顔をする。
「言いたいことあるなら言えよ」
「豆ごはんイヤじゃ」
「そっち!」
「食べたくないんじゃもん」
「別にいいけど」
「けど?」
「俺様がこれ食いすぎて腹ん中で発芽して食い破られて死んでも文句言うなよ」
「……冗談キツイのう」
「食うのかよ」
「…………」
「豆ごはん食っててもかっこいいんだな」
「…………」
「ふたりとも発芽したら庭に埋まろうな。朔間先輩」
晃牙は豆の死体を、白米の上で潰れて黄緑を広げる豆の死体を見て、向き直って笑った。甘やかな笑い方だった。電球色の灯りが食卓を照らしていた。俺と晃牙が豆ごはんを囲むその部屋には当たり前だが俺と晃牙しかおらず、中央にはトースターで焦がしたコロッケとから揚げがひとつの皿に、ほうれん草には醤油とカツオ、味噌汁の味噌の匂いがぷんと香り、部屋中に炊き立てのご飯の匂いと豆の青臭さが充満している。
凄惨だ。
そう、であることは俺の中では明らかだったのに晃牙は発芽しそうなほど豆ごはんを食べて食いすぎたと笑ってベッドにもぐりこんだ。すぐに寝息が聞こえてきて、俺はひとり残された。最初から残されているのもわかりきったことだった。

玄関を出て階段を下りてアパートを出た。住宅街の真ん中の公園まで歩いて行った。ベンチに座って、座り続けて、夜が明ける前に家に戻った。晃牙は身じろぎもせずに丸まっていた。
「なあ晃牙、朝だぜ」
朔間零はそれ以外の言葉を持たない。「なあ、起きろよ」 

リボルバー式

雨が降ったから吸血鬼を犯した。それだけだった。それだけ、つまり傘も差さずに土砂降りの校庭に向かう吸血鬼を昇降口で捕まえて、お誂え向きに鍵の開いた部屋に押し込んで犯しただけ。たんたんと。
「几帳面じゃのう」
満ち足りた顔で零が言う。
「ゴムなんぞせんでよかろうに」
レイプだった。
レイプ以外の何物でもなかった。合意など当然なく、ただ雨が降ったから犯さなければならないので犯した。ゴムをつけ、脱がせた服を畳み、うつ伏せに押し付ける床は綺麗なところを選んで犯した。そして零はそれに希望を見いだし晃牙は絶望している。だからレイプだ。
誰にとって?
「黙れよ」
黙り込んだ。
雨が降り続けている。もう一度犯した。
淡々と腰を振る晃牙の下で、吸血鬼は体をくねらせた。しなを作るような、媚びるような曲線だった。実際そう見えたのは晃牙だけで尻の穴と男性器の摩擦に苦悶の表情を浮かべる吸血鬼だった、ということにするべきで晃牙は気持ちよくなかった。そういうことにするべきだ。雨音のような単調なレイプ。零にとってレイプにしたかったから晃牙は再びゴムをつけた。零と隔たりを作ってこれはレイプだと示すように抱いた。レイプである必要があった。雨の中を行くのと同じくらい酷いことをされているのだと教えなければ、晃牙は、望まれているから教えなければならなかった。吸血鬼は水が禁忌だから。射精して吸血鬼の腸が満たされる。水に近い色の液体。水は雨になって吸血鬼と晃牙を包囲している。
「お腹空いたのう」
死ぬほど酷い目に遭った、2度も遭った吸血鬼がへらりと笑って身を起こす。痣ひとつない美しい、この上なく完璧で十全な肉体が人質に取られていた。命を命とも思わぬ態度で零はいた。
レイプしたのに。
「猥雑な言葉を使うでない」
なら銃の手入れだった。銃の手入れをするように行うべきレイプ、たんたんと、リボルバーから弾丸を抜き去り分解する。部品をくまなく磨き上げ、収まるべきところに全てを収め、弾丸を込め直し、構える。構えた。構えているのは朔間零だった。弾丸ひとつない銃。
「今日の日替わりなんじゃったかのう?」
「知るかよ」
自殺用リボルバーを向けさせながら、晃牙が答える。

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