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2016年09月の記事は以下のとおりです。

祝日ダイヤ

  • 2016/09/25 23:28
  • カテゴリー:その他

 小野陵は今日が初デートだ。相手は高校の頃の同級生で陵の元親友。元がついているのは先週末に恋人になったからだ。
「心臓が破裂しそうや」
 陵は部屋をぐるぐる回りながら現状を把握した。待ち合わせまであと30分。待ち合わせ場所は烏丸御池駅改札前。デートコースはパン屋巡りとヨドバシと御所散策。財布OK、iPhone充電OK、予備バッテリーOK、ICOCA……は一日乗車券を買ってある、ハンカチティッシュもOK。全部いつものカバンに入れた。腕時計はもう着けてある。
 服は? とうぜん着替えてる。といってもいつもの紫色のカーディガンに白シャツ黒ズボン。白シャツは昨日着たのを夜中に洗って干したばかりだ。干した?
 あっ!
「シャツしわしわやん」
 陵は両親の出払ったリビングに下りると慌ててアイロン台を出した。
「キャラやない……キャラやない……」
 アイロンが熱くなる間がもどかしい。
 そもそも合理主義者の自分が昨日着たシャツをわざわざ今日着ようとしたのがおかしかったのだ。なぜ手洗い手干しの手間をかけたか? 緊張で寝られなかったからだ。キャラ崩壊!
 熱くなった。脱いだシャツの襟や袖をきっちり折り直し、糊をきかせたところをアイロンで撫でていく。
 心が凪ぐのを感じる。
「あ~……落ち着く」
 そこへ妹が部屋から下りてきた。
「あ、アイロンかけとる。デートや」
「!!!」

 アイロンをすごい勢いでかけ終えると陵はそのまま小野駅に向かった。
 改札に一日乗車券を通して階段を駆け上がる。息を整える前に太秦天神川行の電車が来たので、ヘロヘロと2両目に乗り込んだ。
 祝日の朝はすいている。陵は臙脂色の座席に向かわず、あえて出入口の傍に立った。外の風景を眺めるフリだ。
 京都市営地下鉄東西線はずっと地下を走っている。
 ガタン、ガタン。
「まあ大丈夫や……アイツはいつも遅刻してくるし、ギリギリ来てもこっちは55分着、改札出て素数数えるだけの時間はある……」
 陵はカバンの肩紐を力強く握った。
 気を紛らわそうと窓に映った自分を見る。最後の身だしなみチェックだ。寝癖なし、シャツの皺なし、顔色ちょっと赤め。その割に手は青白く、爪の根元なんて青紫だ。緊張している。
 タケルも……陵の恋人も、緊張しているだろうか。
 細くて女みたいな自分の手に比べると、タケルの手はパン職人見習いだけあってゴツくて男らしい。イースト菌をここに住まわせんねん、と見せびらかされた手の平で、この間のタケルは陵の手をぎゅっと握り締めた。そうして震える声で「好きやねん、付き合ってくれ」と告白してきたのだ……。
「…………っ!」
 ぼぼっ、と顔に血が集まった。

 三条京阪、京都市役所前、ときて電車は烏丸御池駅の1番ホームに入った。
 陵は通勤客の波を避けると殊更ゆっくり階段を上る。
 もうすぐ連絡通路に差し掛かるというとき、
「よお!」
 脇からタケル。
 転げ落ちそうになった。
「!? な、なん、なんで」
「遅刻したらアカン思て待っててん!」
 偉いやろ!
 いやぜんぜん偉ないやろ、とツッこむところだが余裕がなかった。陵の心臓は破裂寸前、祇園祭のぼんぼりレベルでパンパンだ。突いたら破ける繊細さも一緒。
 棒立ちの陵の後ろを残りの客が通り過ぎてゆく。邪魔になったらいけないと階段を上りきり、タケルを探すと彼は隅でカバンを漁っていた。ピンクのパーカーに迷彩柄のショルダー。いつも通りなのに、妙にかっこよく見えてくやしい。
「あんな、カルネ食う? 朝メシまだやったから食っててんけど、調子乗って買いすぎてん」
「全部はよう食わんわ……」
 じゃん、とひしゃげた丸パンを取り出された。こういうところもタケルらしい。
「というか、昼は北大路のベーグル食べに行くちゃうんか。入んの?」
「あ! じゃあ半分こ……」
 タケルが急に口をつぐんだ。
「なんや」
 下から覗き込むと、精悍な顔を真っ赤にしている。
「恋人同士、みたいやな……」
 恋人やんか、と言えない陵の顔も、秋の京都の色だった。

隠される

髪のびたな。そうじゃな。いつもどこで切ってんだ。なんか、適当なところで。じゃあ俺の通ってるとこ来いよ。

「髪お綺麗ですね~」
事前診断の台で手櫛を通されながら、朔間先輩は控えめに微笑んだ。
「ありがとうございます、いちおう夜闇の魔王なので」
朔間零の笑顔にサロンの空気が1℃上がる。
なんとなく前髪を直した。後ろで俺の担当が笑った。俺は前髪を切りに来て、朔間先輩が先にシャンプー台に連れていかれた。

いつもの感じでお願いします。そう言ってから、やっぱり後ろも切ってもらうよう頼んだ。理由は言わなくても伝わったらしい。
心置きなく視線を左にやった。左、つまりひとつ隣の席で黒髪が断たれていく。
「この前のツアコン最高でした。ドラマで大変なのに、本当にすごいです」
「あはは、ありがとうございます。実はけっこうあっぷあっぷしてました」
「ええ~見えなかったですよ!」
スタイリストの熱い視線が注がれている。アシスタントのもだ。
やっぱりかっこいいっすね、とは俺の担当の談。そうだろそうだろ!
「髪って男の人にとっても命ですよね。朔間さんの髪、照明にあたって輝いてました。すごく綺麗……」
「食事に気を付けた甲斐がありましたね」
「やっぱり気を遣われてるんですね~」
刃の擦れ合う音をBGMに、先輩の回りを黒い花びらが舞う。
朔間先輩の髪は切られても綺麗だった。はらはらと、墨染の桜のような美しさ。
見とれていると、先輩の担当が俺の方を見た。
「……大神さんも気になります?」
「へっ?」
「気になるんだろ、晃牙」
朔間先輩が鈴の鳴るような声で笑って俺を見る。

俺は整えるだけなので早く済んだ。
ワックスつけます?お願いします。手慣れた指先が白いクリームを掬い、毛束を摘まんで立たせる。掬って摘まむ。無造作ヘアは、作られる。
「乾かしてから前髪切りますね~」
温風が朔間先輩の頭を襲う。指でかき混ぜて、根元から乾かす。
先輩の髪がつややかに舞う。白いうなじの上で死神の鎌のような毛先が跳ねている。ショートヘア。
えっ。
朔間先輩が俺を見た。はっとして、俺に笑いかけてから鏡に向き直った。
「前髪、やっぱり長めでお願いしていいですか?」
「大丈夫ですよ~」


帰り道。河川敷を、なんとなく一列になって歩く。
川は静かだ。空の薄藍色を溶かしたような色が、枯れかけた野草の間を億劫そうに流れていく。
「晃牙、晩はピザとろう」
先輩が振り向く。眉の下で揺れる前髪。
夕焼け色の瞳は笑ったままだ。
「スペシャルマルゲリータとダブルミートのコンボじゃ」
剥き出しのうなじはこちらから見えない。
風が冷えている。

不死者青春ラジオ局

千夜一夜めちゃくちゃおもしろかった……

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明日の朝食はちからうどん

  • 2016/09/17 17:30
  • カテゴリー:その他

使用済みゴムの形は焼いた餅に似ている。焼きすぎて膨らみの割れた切り餅。
「なんでおれ太刀川さんとセックスしてんだろ」
迅は疑問を素直に口にした。
「入る方に餅10個!」
太刀川がゴムの口を縛って投げた。ゴミ箱に当たった。絨毯の上で伸びるゴムを、迅は太刀川の代わりに捨てに行った。振り返ると太刀川はヘラヘラと笑って言った。
「さっきの賭けナシな」
「5個でいいよ」
ここは迅の部屋だ。自分達以外は誰もいない。林藤と陽太郎すら。
家人の出払った家でセックス。恋人の真似事だと気付いている。

服を着て、外で餅を焼く。
「なんでだろうなあ」
太刀川が先ほどの迅と同じ角度で首を傾げたので、迅はまあいいかと思った。まあいいか。未来は続いていて、最良の未来に向けて太刀川さんとセックスするのが最良の選択だったのだろう。意味わからないけど。
焼いた餅は砂糖入りだった。よく噛んで飲み込む。もうひと口囓る。
餅の張り付いた口でキスをする。
「もっかいヤろう」
「お盛んだな」
「お盛んって言いたいだけでしょ」
「よくわかったな!」
そりゃおれとあんたは同じですから。

夏の香りのする傍まで

晃→零補完

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今の晃牙くんでディープキス初体験する五奇人零くんの話

~これまでのあらすじ~
 ある日とつぜん過去からやってきた五奇人・朔間零。同じようにタイムスリップ(?)してきた零達と同様、彼も晃牙と零の家に居候することになった。持ち前の適応力で現状に慣れると思われた五奇人零だったが、他の零たちがそれぞれの恋人を今の晃牙に重ね合わせて抱かれている状況に耐えきれず……。
~あらすじおわり~

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