「わんこは我輩のこと……スキ?」
花占い……わんこは知っておるかのう?
嬢ちゃんたちのような、かわいいおなごの遊びじゃよ。占いたいこと――それはたいてい片想いの恋路なのじゃけども――を心に決めながら、野の花を手折り、花弁を1枚ずつちぎってゆく……「わんこは我輩のことがスキ」「キライ」「スキ」なんてのう……そうして最後に残った花弁が「スキ」の花弁か「キライ」の花弁かで結果を見るのじゃ。
花弁の多い花ほど結果がわからなくてよいとか、ついムキになって何度もやり直してしまうとか……それでも「キライ」にしかならずに落ち込むとか…………ククッ、可憐じゃのう……?
そんなかわいらしくも真剣な乙女の恋占いがあるのだと、このあいだ嬢ちゃんに教えてもらって…………屋上の庭園の隅で休んでいるときに……ふと、目をやると……傍らにはたんぽぽ……。
「そうじゃ……♪」
我輩も、『花占い』してみようぞ……♡
ああ……無論、我輩はおぬしの好意を疑ってはおらぬぞ? わんこは我輩のことが大好き……世界一、誰よりも大好きで……我輩はわんこに世界一愛されておる、幸せな吸血鬼じゃ……♡
けれども……やっぱり、確認したいじゃろう……?
「わんこは我輩のこと……スキ」
ぷちり。爪先で花弁をそっとちぎると、嬢ちゃんのように愛らしいたんぽぽはその身を震わせて……少しだけ、痛そうじゃった。我輩の心もチクリと痛んだのじゃけども……キライ、スキ、キライって呟くことに夢中になって……痛みは遠くどこかに消えていたのじゃ……。
スキ、キライ、スキ、キライ、スキ…………わんこは我輩のこと、スキかのう……キライかのう……よく死ねって言ってくるし……大嫌いとか……昔は「朔間センパイ最高っす!」って言ってたのにのう…………スキ、キライ、スキ、キライ……あぁ、黄色い花弁がどんどん減ってゆく……キライ、スキ、キライ…………。
花弁をちぎる手は止まらなくて……4限おわりのチャイムが鳴る頃には、あんなにフサフサだったたんぽぽは残り4枚じゃった……。
「スキ、キライ、スキ…………やはり、のう……」
そうして最後に残ったのは……「キライ」の花弁……。
真実を……突きつけられてしまったようじゃのう……? いつしか陽光から逃れるように棺桶に引きこもり、輝くステージに立てなくなった我輩に……わんこは失望しておるから…………だから……わんこはもう、我輩のこと…………。
我輩の心につられるように、あたりは急に暗くなり始めた……。ずっと濃くなった木陰が、ブラウンチェックのスラックスに黄色い花弁を散らした我輩の膝と、たんぽぽの群れの上に覆い被さって……たんぽぽは寒そうに身を寄せ合うけれど……我輩の隣にはもう誰も…………そうするとますます落ち込んで、悲しくなって……。
そのとき……
「あのっ、朔間先輩……ですよね?」
ぱっと顔を上げると……我輩の目の前には、泣きそうな顔の紫乃くんが……おったのじゃ。
「あっあのっ、大丈夫ですか? しんどかったら……これ、あったかいお茶ですっ。水分補給してください……!」
我輩は言われるままに水筒のお茶を受け取って……こくりと飲み干すと、喉の奥までカモミールの香りが広がってゆくのを感じたのう。
あたたかくて、穏やかで……優しい、思いやりの香り……。
「紫乃くん……ありがとう、人心地ついたぞい。しかしなぜここへ……?」
我輩はおもわず尋ねたのじゃ……紫乃くんと普段出くわすのは、中庭の庭園やグラウンドの花壇……校内バイトで洗濯物を干しに来たにしては、洗濯かごも見当たらぬ。それに、なにやら息を切らしているような……?
「えへへっ、よかったです。お代わりたくさんありますから、おっしゃってくださいね? 実は大神先輩に、朔間先輩を探すよう頼まれて……」
「――いやがったな! 吸血鬼ヤロ~!」
おぉうっ?
「…………んだよ、なに花なんか毟ってんだよ。テメ~にはやることが沢山あんだろ~が。UNDEADの仕事とってくんのと、サーカスの打ち合わせと、文化祭の出店申込書書くのと、あと俺様のギター! テメ~の歌に合わせられんのは俺様だけだかんな、さっさと練習しようぜ。……なにニヤニヤしてんだ」
ふふっ……なんでもない、なんでもないぞい……♪ 少しばかり……占いに惑わされただけなのじゃ……。
わんこ、大好きなわんこ……世界一大好きなわんこ……♡ わんこのことが大好きなのも、世界一愛しているのも、我輩じゃったのう……? わんこは優しくて真面目で……今の我輩のことはスキになれないじゃろうけれど…………今だけはおぬしのこと、独り占めしてもいいかのう……?