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2016年01月の記事は以下のとおりです。

「わんこは我輩のこと……スキ?」

花占い……わんこは知っておるかのう?

嬢ちゃんたちのような、かわいいおなごの遊びじゃよ。占いたいこと――それはたいてい片想いの恋路なのじゃけども――を心に決めながら、野の花を手折り、花弁を1枚ずつちぎってゆく……「わんこは我輩のことがスキ」「キライ」「スキ」なんてのう……そうして最後に残った花弁が「スキ」の花弁か「キライ」の花弁かで結果を見るのじゃ。
花弁の多い花ほど結果がわからなくてよいとか、ついムキになって何度もやり直してしまうとか……それでも「キライ」にしかならずに落ち込むとか…………ククッ、可憐じゃのう……?
そんなかわいらしくも真剣な乙女の恋占いがあるのだと、このあいだ嬢ちゃんに教えてもらって…………屋上の庭園の隅で休んでいるときに……ふと、目をやると……傍らにはたんぽぽ……。

「そうじゃ……♪」

我輩も、『花占い』してみようぞ……♡

ああ……無論、我輩はおぬしの好意を疑ってはおらぬぞ? わんこは我輩のことが大好き……世界一、誰よりも大好きで……我輩はわんこに世界一愛されておる、幸せな吸血鬼じゃ……♡
けれども……やっぱり、確認したいじゃろう……?

「わんこは我輩のこと……スキ」

ぷちり。爪先で花弁をそっとちぎると、嬢ちゃんのように愛らしいたんぽぽはその身を震わせて……少しだけ、痛そうじゃった。我輩の心もチクリと痛んだのじゃけども……キライ、スキ、キライって呟くことに夢中になって……痛みは遠くどこかに消えていたのじゃ……。

スキ、キライ、スキ、キライ、スキ…………わんこは我輩のこと、スキかのう……キライかのう……よく死ねって言ってくるし……大嫌いとか……昔は「朔間センパイ最高っす!」って言ってたのにのう…………スキ、キライ、スキ、キライ……あぁ、黄色い花弁がどんどん減ってゆく……キライ、スキ、キライ…………。
花弁をちぎる手は止まらなくて……4限おわりのチャイムが鳴る頃には、あんなにフサフサだったたんぽぽは残り4枚じゃった……。

「スキ、キライ、スキ…………やはり、のう……」

そうして最後に残ったのは……「キライ」の花弁……。

真実を……突きつけられてしまったようじゃのう……? いつしか陽光から逃れるように棺桶に引きこもり、輝くステージに立てなくなった我輩に……わんこは失望しておるから…………だから……わんこはもう、我輩のこと…………。

我輩の心につられるように、あたりは急に暗くなり始めた……。ずっと濃くなった木陰が、ブラウンチェックのスラックスに黄色い花弁を散らした我輩の膝と、たんぽぽの群れの上に覆い被さって……たんぽぽは寒そうに身を寄せ合うけれど……我輩の隣にはもう誰も…………そうするとますます落ち込んで、悲しくなって……。

そのとき……

「あのっ、朔間先輩……ですよね?」

ぱっと顔を上げると……我輩の目の前には、泣きそうな顔の紫乃くんが……おったのじゃ。

「あっあのっ、大丈夫ですか? しんどかったら……これ、あったかいお茶ですっ。水分補給してください……!」

我輩は言われるままに水筒のお茶を受け取って……こくりと飲み干すと、喉の奥までカモミールの香りが広がってゆくのを感じたのう。
あたたかくて、穏やかで……優しい、思いやりの香り……。

「紫乃くん……ありがとう、人心地ついたぞい。しかしなぜここへ……?」

我輩はおもわず尋ねたのじゃ……紫乃くんと普段出くわすのは、中庭の庭園やグラウンドの花壇……校内バイトで洗濯物を干しに来たにしては、洗濯かごも見当たらぬ。それに、なにやら息を切らしているような……?

「えへへっ、よかったです。お代わりたくさんありますから、おっしゃってくださいね? 実は大神先輩に、朔間先輩を探すよう頼まれて……」
「――いやがったな! 吸血鬼ヤロ~!」

おぉうっ?

 

「…………んだよ、なに花なんか毟ってんだよ。テメ~にはやることが沢山あんだろ~が。UNDEADの仕事とってくんのと、サーカスの打ち合わせと、文化祭の出店申込書書くのと、あと俺様のギター! テメ~の歌に合わせられんのは俺様だけだかんな、さっさと練習しようぜ。……なにニヤニヤしてんだ」

ふふっ……なんでもない、なんでもないぞい……♪ 少しばかり……占いに惑わされただけなのじゃ……。
わんこ、大好きなわんこ……世界一大好きなわんこ……♡ わんこのことが大好きなのも、世界一愛しているのも、我輩じゃったのう……? わんこは優しくて真面目で……今の我輩のことはスキになれないじゃろうけれど…………今だけはおぬしのこと、独り占めしてもいいかのう……?

秘すべき醤油ラーメン

※「秘すべき袋めん」ってタイトルにしようと思って最初に思いついたのが「秘封醤油ラーメン」だったけど秘封はそういう意味じゃなかった

 

 

おぬしはチャルメラ、我輩はチキンラーメン。たまごポケットには落とし卵ひとつ。
「それで『ヒヨコさんが可哀想です~』とか言いやがったらぶっ飛ばすかんな」
「なに訳のわからんことに毒されておるのじゃ」
「……合コンでそうほざいたヤツがいやがったんだよ」
深夜にほど近い11時、大神宅。
肩を落として帰宅した愛犬に即席ラーメンを振る舞って、零は恋人を慰めた。
ぽつりぽつりと零された話を聞くに、ファンク・ロック好きの飲み会に誘われて行ったらただの合コンだったらしい。
「だいたいおかしいと思ったんだよ」
青い方の箸を受け取りながら、晃牙が吐き捨てる。
「ブリティッシュ・ロックが好きだっつってんのに『ファンクで集まるから来い』とか。まあたまには新規開拓っつ~の? 凝り固まるのもよくね~かなって行ったのによ……」
「それでムシャクシャして一杯引っ掛けて帰ったのじゃな」
「おう……」
少し伸びた麺を乱暴に啜ると、付属のスープのささやかな油分が憂い顔を映して弾けた。
「問い詰めても悪びれね~し。『だってカノジョいないだろ?』って」
「あ~……」
カノジョはいない。いることにするのは、晃牙の誠実さが許さなかった。
それでも優しいギタリストは途中まで参加して、割り切れない気持ちを抱えている。
「合コンなんてよう……」
「うむ」
「はあ~……」
「よしよし」
「子供扱いすんじゃね~よ、チクショウ」
「あ、これ……ん」
隣から抱き寄せられ、ままならなさへの苛立ちをぶつけるように体をまさぐられて、零は声を湿らせた。絡めた舌は醤油ラーメン味と発泡酒味、つまり庶民の味だ。酔っ払いの指先で拙く愛撫されても、愛され慣れた肌は快楽を思い出す。
「馬鹿者……我輩お手製のラーメンじゃぞ?」
腰骨をなぞる指に左手を重ねてあやすと、晃牙はしぶしぶといった様子で箸を構え直す。
「ううう」
「ほれほれ、伸びきるぞよ~」
おぬしの零は逃げぬからな……。
そう囁くまでもなく晃牙が汁まで飲み干すのを、零はじっと見つめていた。アルコールに浸した舌には絶品らしい。プラスチックのどんぶりを置いて息を吐く横顔に、零はいつも魅せられる。
「おぬしチャルメラのCMに出るのはどうじゃ?」
「出てど~すんだよ」
「伝えるのじゃ。『恋人と食す深夜のラーメンは至高の味だ』と」
それじゃスキャンダルになるじゃね~かと笑う横顔に、一抹の寂しさが滲んでいた。

午後5時半のハニートースト

「や~いや~い吸血鬼ヤロ~寝坊しやがった~、もちろん同じユニットの俺様も寝坊!!! やべぇ!!!」

晃牙は零の後を追ってバタバタとベッドを飛び出した。時は夕刻、撮影の1時間前だ。太陽に弱い吸血鬼が「ちゃんと夜に入れられたぞい♪」とわざわざ誇らしげにスケジュール帳のひとコマを指差してみせたその時間に遅れようとしているのだから大目玉だろう。とりあえずの服と財布だけ掴んでヘアセットは向こうでしてもらえばいい、ああでもギリギリだったらそんな時間もあるかどうか。
「おい馬鹿きのうのヤツ穿くんじゃね~ぞ!」
「んあ~……?」
廊下でボクサーパンツに脚を通そうとしていた零を制止する。回りにはきのうの残滓、脱ぎ捨てたままのジーンズとか脱がして放ったハイネックとかが寝室まで続いている。欲望に忠実な零はもちろん、アイドル兼零のストッパーもといマネージャーみたいなことになっている晃牙も仕事終わりの熱に身を任せて抱き合ったから、今日の予定なんて頭から飛んでいたのだ。零が穿こうとしていた下着は、晃牙が上から零の性器を散々苛めて濡らしたはずで、勢い余って舐めたり噛んだりしていたかもしれなくて、それがすっかり乾くだけの時間は爆睡していたのだろう。
そんなくたくたの服を着て、つまり昨日と同じ格好で行ったら、どう冷やかされるかわかったものじゃない。同棲中のふたりがラブホから重役出勤しただなんておかしな話だけれど。
「だってわんこが勝手にパンツ片付けとくんじゃもん……」
「あ〜そうですね俺様が甘やかすのが悪ィんですねぇぇぇ。ホラこれ穿け、ズボンも!」
ぎっちり詰まったタンスから替えの下着と穿きやすそうなスラックスを放って渡す。自分の分はめんどくさいから昨日のスキニーでいいだろう。服から同じ洗剤の匂いがすんのもヤベ〜よな、とVネックのシャツから頭を出しながら思って、“同じ匂い”に少しだけ嬉しくなった自分を脳内で殴りつけたら笑顔の零と目が合った。
「わんこの匂いじゃ」
「ちげ〜っつの!」テレパシーかよ。
晃牙が下着を身につけ服の山を跨いで廊下に出る頃には、零はまだセーターを着ているところだった。鼻歌なんて歌いながら寝癖のついた頭をふらふらさせている。ただでさえ狭い廊下が零の両腕に占領されて、晃牙はぶつからないよう身を縮こまらせてスキニーに右脚を入れる。聴きなれたメロディは晃牙のバンドの新曲のようだ。紅蓮の瞳の狼じゃねぇドラキュラだ、と歌詞間違いに突っ込む気すら起きない、甘やかな声。増した愛しさを隠すように、
「なんでそんなに機嫌いいんだよ」
「だって醍醐味じゃろ?」
とん、とズボンをはく脚を下ろす。
首をかしげた晃牙に向けて、甘やかな声がうっとり唄う。
「一緒にあわてて一緒に出るの、家族って感じじゃのう?」

そのまま洗面所へ消える零を見送りながら、ああ、とか、うう、とか晃牙はうめいた。すぐに激しい水音が聞こえる。いつもなら水の出しすぎを叱るのに、今夜ばかりはそんな気になれなかった。
「わんこ~、洗顔フォーム知らんかえ~?」
ぴょこり、と1DKの柱の陰から愛しい笑顔が覗くのを、幸せの朝だと言うのだろう。

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