七色のさみしさ
贈り物はモミの木の傍から続くお話
※
1日目、カツ丼。
2日目、スーパーのノリ弁。3日目は友達と焼肉で、4,5日目は惣菜コーナー。
6日目はムシャクシャしたから1人でバイキングに行ったけど、むなしいだけなので今日もノリ弁にした。
野菜ジュースをつけた。朔間先輩を思い出した。
「うう~っ、先輩~~っ」
晃牙は涙ぐんだ。しかしすぐに怒り顔になった。
「けど! ぜって~謝んね~からなっ! 先輩もわり~し!」
ズゴゴゴ、とジュースのパックをへこませながら、晃牙は決意を新たにする。
朔間先輩と喧嘩してから1週間経ったのだった。
――そ~だよ。先輩もわり~んだよ。
たくあんの最後のひと切れまで飲み込むと、晃牙はそう自己弁護した。
家庭内別居を始めて1週間になる。家庭内というかルームシェア内というか、同棲部屋内? つまりお互いの家事を放棄するようになったのだ。
洗濯物を手洗いするのは別に良かった。寒い時期で下着くらいしか洗う物がなかった。掃除も苦じゃない。レオンの抜け毛もあるから晃牙はマメに掃除機をかける。
でも、独りで晩ご飯を食べていると、もうすぐクリスマスなのに、とか、先輩のサンドイッチうまかったな、とか思い出すのだった。食卓が暗くなった。電球切れてんのかなと椅子にのぼると、背の高い先輩がラクラク電球交換をしていた姿が脳裏をよぎった。
12月だ。12月で、17日だ。クリスマスまであと8日。先輩と過ごせる初めてのクリスマスを、こんな気持ちで迎えたくなかった。
「……ごちそうさまでした」
向かいに誰もいないのに手を合わせる。
ゴミはゴミ箱へ。冷蔵庫の横の資源ゴミ入れに弁当の容器を洗って入れようとして、晃牙は真上のカレンダーに目を止めた。晃牙と先輩の予定を一緒くたに書き入れており、お互いの家事当番の分担を決めるのに便利だった。
今日のマスには「零 21時頃帰宅」と書いてある。
時計を見た。20:43。
外に出たら雪交じりの北風が晃牙を切りつけた。慌てて部屋に戻って手袋を取ってくる。2組。先輩の革手袋は晃牙のよりもひとまわり大きく、それも晃牙を変なキモチにさせる。
自宅から駅まではそう遠くない。ほぼ一本道だから、先輩が帰りたくないとさえ思わなければ擦れ違えるだろう。
「帰りたくない……」
きゅうと縮み上がる心臓を叱咤しながら住宅街を行く。
しかし現実はこういうとき残酷で、雪の残る駅前には人っ子ひとりいなかった。もちろん誰とも擦れ違っていない。次の電車が来るまで15分もあるから、先輩がいないとおかしいのに。
どこかに泊まるほど帰りたくね~のか。先輩。手袋もせずどこかに行くほど。
晃牙は肩を落として裏手に回った。スーパーがまだやっているはずだ。明日の朝食--1人分--を買わなければと、頭の冷静な部分が脚を動かしていた。
細い道。両脇は用水路と駐輪場で、足元で雪が汚く解けていた。しゃく、しゃく、と踏み鳴らす音が物悲しい。革靴の爪先が冷たく湿った。
後悔が晃牙の胸を濡らしていく。先輩も悪いけど、俺もあんなに怒らなきゃよかった。先輩が帰ってこないことに比べたら、喧嘩の原因なんて取るに足らないから。そういえばなんで喧嘩したんだろう。なにが先輩も悪かったんだろう。忘れるくらいつまらないことを、俺はこだわって腹を立てて。
そうして、先輩の背より大きなクリスマスツリーが見えた頃――
「あ……」
――ツリーに寄り添うようにして、先輩が、いた。
雪が足の下で解けていく。
まだちらちら降る結晶が、七色に輝くモミの木と先輩の頭に積もっていた。肩にも。先輩の大きな両手が紫色した口元に添えられて、はぁ……、と白い吐息が手の平を湿らせていた。
いつかと同じように、かじかんだ指先がプラスチックの枝に触れ、紙のオーナメントをめくった。
紅い目で誰かの願いを見ていた。切ない顔で、そうして、ポケットから携帯を取り出して、ためいきを吐いた。赤い頬に電飾の明かりが反射していた。
寂しい横顔だった。
先輩が顔を上げる。
「……晃牙」
「よう、先輩」
「……何をしにきたのじゃ」
そう言って先輩が、俺は謝んね~ぞという顔をした。
晃牙がおもわず噴き出すと、美しい眉がひそめられた。
――俺様たち、似てんだなあ。
「仲直り、しにきたんだよ」
七色の明かりは先輩の頬から遠ざかり、晃牙の手にはぬくもりが戻った。
手袋はしたくなかった。させたくなかった。
2人は、雪の夜道を踏みしめて帰る。