考える前に体が動くのがトリコだ。我に返った頃には赤い顔をした恋人が繊細な指で額に触れ、驚いた顔から恥じらう顔へ、匂いも目まぐるしく変化する。また毒砲かな、と思うトリコは、けれどこの瞬間の至福を味わい尽くす。「人前だぞ!」怒るココから歓びの香りが漂うからだ。
(おでこにキスをしよう)
アイツが来るまで2週間。狭い自宅の大掃除、食料ハントに下拵え。食用食器も買い込んで、ひいひい運ぶココにサニーが「外食すれば良んじゃね?」。助言をしても止まらない、準備が苦になるはずがない。彼に会うのを指折り数えてココは待つ。
(ああ、そっか、知らないうちにこんなにも、)
期間限定ココ料理塾。名ばかりだから、生徒もココも、思いのままに料理する。最初は丸焼き、明日はサラダ。トリコとふたり、基礎の基礎からお勉強。共同作業だと言う生徒は、ココの気も知らずに無邪気に笑う。日が暮れたら今日は終わり。あと何回で『明日』は終わる?
(最終回はナシの方向で)
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人の相を見るのは楽しい。星の瞬きのように輝く相、真夏の太陽の相、瑞々しく踊る相……想い人に似た相が、店にに座るだけで運ばれてくるから。不健全だと言われるだろうか? 根暗でもかまわない。当たって砕けるなら、彼の影を追うだけでいい。
(待ってるだけでも、黙ってるだけでも)
彼の影を追うだけでいい、とは誰が言ったのか。一度再会してしまえば、会えない時間に想いが募るばかりだった。占いをする間も、寝る前も、花瓶の水を換えるときですら、ボクは彼と会うことを考えている。そのくせ花占いは、花弁の多いものを使う臆病者だ。
(なんてばかばかしいことを)
「それで『会えない』で終わったから?」と、面白そうなトリコの声。「悪かったな、どうせボクは馬鹿だよ! 花占いなんてものに一喜一憂するなんて」そう喚くボクの背中を、大きな手が撫でる。「違うぜココ。会いに来なかったのが馬鹿なんだ」ボクは影を捕まえた。
(あやす手のひら)
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アイツは嘘つきだと膝を抱える主に、人より大きな体の鴉はそっと寄り添った。主の柔肌は血と毒にまみれて、獣のニオイを放ちながら、暗闇に溶け込んでいる。鴉は夜目が利かないけれど、鼻のきくアイツは主がどこにいても見つけられるだろう。なのに来ないアイツが大嫌いだと、優しい鴉は人知れず鳴く。(どこにいても、きっと見つける)
見られるといけないから、ブランケットの中で繋がった。ふたりの熱でつくったサウナで舌を絡めながら腰を振れば、汗ばむ肌がぬらりと光る。伸ばした爪先にふと冷気を感じて脚を引き寄せると、大げさに喘ぐトリコ。仕返しにと武骨な手に強く扱かれて、ココは気をやりそうだった。熱帯夜のことだった。(「あつくて、溶けそう。」)
上目遣いで問いかけると、トリコは怒ったように返事して、繋いだ右手に力を込めた。「怒るんだ」「だってよ」「わかってる」星の瞬く帰り道、おうちについてもトリコの部屋まで手は解かない。「手を離すなんて、考えもしなかったんだよな」ふくれ面で頷く弟のあどけなさに、つい意地悪したココだった。(離したくないって言ったら、怒る?)
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