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描写練習・桜

文章書きに送る50枚の写真お題(http://petit.hotcom-web.com/50photo/)






「先輩! 俺、傘持ちます!」
「よろしく」
 ワンと言うように申し出た後輩に、零はためらわずに日傘を寄越した。
「物好きだな~、おまえ?」
 真っ青な空が黒く遮られる。夜闇の魔王はこうでなくちゃな。満足気に歩き始めると、横を犬がトトトトと追いかける。魔王だけど犬を散歩してる気分だ。悪くない。
「いい天気だなぁ」
「っす」
 晃牙が律儀に返事して、傘の位置を微調整した。靴の先にあたっていた日差しが影に飲まれる。気が利くヤツ。後でご褒美やらね~とな、何がいいかなぁ。考えながら見上げた空は雲ひとつない。吸血鬼殺しの春の昼下がり。
「ほんっと、憎いくらい快晴。早く日が暮れね~かなぁ」
「日ィ暮れたらギター弾いてほしいんすけど」おやつの要求かよ。
「またぁ? まっ、それくらいい~けど? おまえとやるの楽しいし。……おっ」
 中庭を見渡しながら横切る途中、珍しいものを見つけて足を止める。晃牙もつんのめりつつ『マテ』をした。
「八重桜じゃね~か。なんでこっちに生えてんだ?」
 青々と茂る木々に混じって桃色の小木が立っている。桜は校庭限定で、掃除が大変なので中庭には植えないはずだ。なんだかはみだし者という感じで、零はおもわず近づく。
「お~、綺麗だな。敬人とか好きそう……晃牙?」
 見上げる視界に日傘の黒が入らない。みぎひだりと見回して、振り向いたところに日傘を差したままの晃牙がいたので、零は手招きする。「なにしてんだ?」
「……あ、す、すんませんっ。木陰あるし、俺の出番ね~かなって」
 心底申し訳なさそうに走り寄ってくる。隣に並ぶのかと思いきや、斜め後ろで零に日傘を差し掛けた。
 なるほど飼い犬の分際。馬鹿だ。首輪の代わりに腕を引っ掛けて引き寄せると、晃牙は真っ赤な顔で抵抗する。
「ななななにすんだっ! あっ、いや、朔間先輩! なにすんすか!」
「馬鹿だな~おまえ。花見だろ? おまえと見ないと意味ね~じゃん」
「…………」
「ふふん、魔王からは逃げられない♪」
 大人しくなった。
 にっこり笑顔を与えてから、改めて桜を見上げる。憎らしいくらい綺麗な青空。それを縁取る木々の青葉。にょきりとのびた桜の枝が、桃色の塊を空に自慢するようにぶら下げている。
「自慢ねぇ……」
 何となく、本当に何となく腕の中に目をやる。晃牙があわてて桜を見上げた。高校に入って1月たらずのほっぺたが、木陰の下で桜色に染まっていた。


 それから2年。暇だったので母校を訪ねると、中庭で晃牙がギターを弾いていた。
「何をしておるのじゃ?」
「花見」
 そう答えつつ手元を見つめる横顔が赤い。晃牙の向かいに座る後輩も、桜ではなく晃牙を見ている。
 零は近くに腰を下ろして、晃牙と桜を眺め続けた。

お題写真
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