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☆に願いを、おぬしに♡を

贈り物はモミの木の傍七色のさみしさ→これ の順に続いてます~
メリ~クリスマス晃零!



「ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴るぞい……♪」
 世界中の子どもが待ち遠しくなるクリスマス。
 大人も子どもに戻って待ちわびる。
 12月25日、ふわふわの雪が冬空に舞い、幸せな吐息が冷たい大気をふるわせる日。
「今日は楽しい、クリスマス……ほれ、晃牙も歌って?」
「……ヤだ」


 ☆に願いを、おぬしに♡を


 ただし今は大人の時間だ。
「俺様以外に気を取られてんじゃね~よ」
「ン! んんぅ……はぁ……っ」
 晃牙は朔間先輩の肩を掴み、強引に口づけた。カーテンの隙間から外を見ていた紅い目が、奪われる喜びに恍惚と閉じられる。
 硬度を取り戻した雄を先輩の中に突き入れると、朔間先輩は喉を反らして悦んだ。
「っ、ぁ、くぅ……!」
「気持ちいいか、先輩……っ」
 あぁ、となまめかしい吐息が漏れる。
 濃い暗闇に先輩の痴態が浮かび上がった。玉のような汗が肌を真白く輝かせ、外に積もる雪もかくやの美しさを見せた。
 雪原を踏み荒らすのは晃牙という名の獣だ。晃牙以外に暴かせたことのない最奥を、恋人の特権で荒々しく捏ねる。
「はっ、あ、ぁ、あぁ……っ!」
「……ぐ……っ!」
 先輩の後孔がきつく締まり、晃牙はたまらず射精した。
 びゅくびゅくと最奥めがけて子種が噴き出る。
 中でしばらく余韻に浸ると、晃牙は台所から蒸しタオルを持ってきた。先輩の体を拭き清めるのだ。
「はぁ……晃牙、悦かったぞ……♪」
「おう。俺も……」
「晃牙は子どもの頃、クリスマスの日はどのように過ごしたのじゃ?」
 突然の話題転換に面食らったが、晃牙は朔間先輩の視線を追いながら言う。
「……こないだも話したろ。プレゼント――バスケットボールとか持って公園行って、同じようにして集まったダチと遊んでたんだよ。ちょうどクリスマスから冬休みだから」
 寝静まった住宅街に、雪が音もなく降っている。
 窓ガラスに映る先輩の顔は穏やかだ。やわらかく笑んだ瞳に見つめられて、晃牙が慌ててそっぽを向くとくすくす笑われる。
「……そんだけ余裕あんなら、もう一戦すんぞ」
「駄目じゃよ。明日はたくさん体を動かすのじゃ、今日はこのままお休み」
 しなやかな腕が晃牙の背中に回り、恋人をベッドの中に招き入れる。
 明日がクリスマス当日だ。もちろん晃牙も先輩も1日休みで、先輩考案のデートコースを回ることになっている。喧嘩の仲直りをした日に「お詫びにクリスマスは任せておくれ」と先輩にねだられたのだった。
「我輩が最高のクリスマスにするからのう……」
 甘く擦れた囁き声。まどろむ晃牙の鼓膜をやさしく震わせ、クリスマスデートのイメージを頭に送り込む。
 最高のクリスマスか。映画とか見んのかな、それとも大人っぽくレストランディナーかな。寄り添って夜景とか、イルミネーションとか先輩好きかな……。
「…………」
「ふふっ……寝てしまったかや? よし、よし……♪」
 先輩の手が晃牙の額を撫でた。
 そうして、薄桃色の唇から、歌がそっと紡がれる。

「ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴るぞい……♪
 今日は楽しい、クリスマス……じゃ♪」


 ☆ ☆ ☆


 翌朝、つまり25日の朝を迎えると、晃牙と朔間先輩はいつも通りの朝食をとった。朝ごはんまで豪華にしては夕食が霞む、と晃牙が言い張って用意したのだ。
 すべては最高のクリスマスデートのため。しぜんと朝の支度にも熱が入る。
「ふふん、今日はとっておきのジャケットを着るぜっ♪ 下はこれで、ピアスはこっちで……く~っ! どこから見ても最強だなっ♪」
「おぉ、今日のおべべはそれかえ? 動きやすそうじゃのう♪」
「ぅおっ!?」
 土間の姿見で最終チェックをしていたところに、先輩が鞄とレオンのリードを持って現れる。
「……リード?」
「準備万端かえ? もうすぐお迎えが来るゆえ、エントランスにて待機しようぞ♪」
「お、おう……?」
 朔間先輩にヒイラギの葉の首輪飾りをつけられたレオンは、自動ドアを抜けると玄関脇の雪山に勢いよくダイブした。ふかふかの腹に雪の塊がくっついてびしょびしょだ。
「あ~っ! いいなあレオン! でも大吉はダメっ、結晶のキラキラに我を忘れてどっか行っちゃう☆」
 なぜかエントランス前にいたスバルが柴犬の大吉を抱えて大はしゃぎしている。
「明星くん。あいかわらずテンション高いのう~」
「そりゃクリスマスだしっ、豪邸に行くしっ? ガミさんもおはよ~☆」
 晃牙が呆然と佇んでいると、黒塗りの車が音もなく止まる。リムジンだ。
 初老の紳士が3人と2匹の前に降り立ち、恭しくこうべを垂れる。
「姫宮家の使いの者にございます。朔間様、大神様、明星様、お迎えに上がりました」


「ようこそおいでくださいました、坊ちゃまは中庭にてお待ちです」
 玄関から先は弓弦が案内を代わり、晃牙たちを廊下の奥へと連れて行く。
 中庭へは突き当たりの応接室の窓から出られた。夢ノ咲学院の校庭ほどもありそうな敷地に桃李と愛犬のキングが仁王立ちしている。
「メリ~クリスマス! 桃李様とかわいいキングがお前たちと遊んであげるよっ☆」
 挨拶もそこそこにボールを投げられる。そこらじゅうのキラキラした調度品に目を輝かせていた大吉はもちろん、キングにレオンまでもが真っ白な庭を駆けていく。
 スバルも踏み荒らされていない雪景色に大喜びで、両手で雪を掬っては撒いて風に舞わせる。
 犬は喜び庭かけ回るってホントじゃのう~、とのん気な朔間先輩を晃牙は応接室まで引っ張った。
「おい! なんで桃李ん家に来てんだよ! 今日はデートじゃね~のかっ!?」
「んむ~? クリスマスデートじゃよ~? ……あっ、そうじゃったな♪」
 ぽん、と手のひらを叩いてカバンを漁ると、綺麗な色のボールを出した。
「1つ目のプレゼントじゃ♪ これでレオンたちと遊んでおいで♪ ――ほれっ♪」
「うが~~~~!」
 悲しき習性か、体が勝手に獲物を追いかける。
 おそらく金糸で『LEON.O』と刺しゅうされたボールが朝日に輝くと、大吉が先に空中でそれをキャッチした。見事な跳躍。勝ち誇ったように晃牙に見せつけ、レオンとキングに追いかけられながら庭の隅へと走っていく。
「おいこら大吉! それは俺様の――ぶっ!?」
「アハハハ、ナイスヒット~☆」
 雪玉の出所を探ると怯える桃李と目が合った。
「てんめ~!!」
「ふみ~っ!? ボクじゃなくてアホが誘導したんだよ~っ! 投げたのはボクだけど~!」
 ヘルプの弓弦も加わって雪合戦が始まった。本気の試合だ。機械並みの精密さで弓弦がこしらえた雪玉を桃李がどんどん投げる。命令されれば弓弦も投げるから、作っては投げ作っては投げのスバル・晃牙側は攻めが遅い。しかし飼い主の楽しそうな様子に気付いた愛犬たちが4人のまわりをぐるぐる走ると、弓弦は縮み上がって気絶寸前。大吉が雪玉を手あたり次第にくわえて潰したり、試合はいつしか雪の下の泥まで見える『泥仕合』になった。
「っつ~かこれ勝ち負けわかんね~じゃね~か! ……あ?」
 雪まみれの晃牙が顔を上げると、応接室の先輩と目が合った。
 ひとり優雅にお茶など飲んでいたらしい。にっこり微笑まれ、手で作ったメガホンで「がんばれ~♪」なんて応援される。
 汗をかいた体が北風で冷えてムッとした。クリスマスなのに、朔間先輩はひとり傍観者を気取っているのだ。
「……こっち、来いっつの」
 これじゃ晃牙と桃李たちのデートだ。よく見れば先輩もこの前買ったばかりのコートに身を包み、耳元には誕生日に晃牙に贈られたピアスが輝いている。立派なデートコーデなのに、雪合戦なんてぜんぜんデートらしくない。
 午後からはちゃんとデートするのだろうか。きっとそうだ。手を振り返そうとしたところで後頭部を冷たい衝撃が襲い、晃牙は威勢よく前線に戻っていった。


 ☆ ☆ ☆


 雪合戦は引き分けのまま解散となった。くたくたの晃牙とスバル、そして2人の愛犬2匹を抱えた先輩が、リムジンで自宅まで送り届けられる。
 先に着いたのは明星邸。大吉(使用人にもふもふに乾かされた)を受け取ると、スバルがバイバイも言わずに家の中に消える。
「運転手さん、ありがとうっ☆ もう出してくれていいよ~☆」
「あ? なんで戻ってきてんだ?」
 滑らかに動き出したリムジンの後部座席の、向かいにどうして明星は座っているのだろう。朔間先輩と食べるお昼ご飯のことを考えていて反応が遅れたが、車がもう一度停まり、朔間先輩がレオンを部屋に置いて戻ってくると、まさかと晃牙は顔を引きつらせる。
 桃李の忠実な使用人は晃牙たちをレストランの前で降ろして去った。
 真緒と北斗と真と凛月が奥の個室で待っていた。
「よう、晃牙。外寒かったろ? この席けっこ~あったかいぞ♪」
「しばらくぶりだな。メリ~クリスマス」
 真緒と北斗が口々に話しかける。真も暖房であたたまった笑みを浮かべ、凛月は兄らしき者と同席するので不貞腐れている。
「待たせてすまんのう、各々方。それでは……メリ~クリスマス♪」
 宴の主の合図で乾杯すると、晃牙以外の6人は見苦しくない旺盛さでランチメニューを攻略しにかかった。ランチといっても、サラダはもちろんオードブルにパスタとピザがつく本格イタリアンだ。生ハム、サラミ、牛塊肉の入ったボロネーゼ……青少年の胃袋をずっしり満たしてくれる。
「晃牙? どうした、お腹でも痛むかえ?」
「……別に」
「そうかや? しんどいようならすぐに言うのじゃよ、午後もたくさん運動するからのう……♪」
「…………」
 デザートのソルベと食後のコーヒーを胃に収めたら、先輩は晃牙たちを連れて街に出た。全員が押しも押されぬトップアイドルなので騒がれるかと思ったが、みな恋人の顔を見るのに忙しいらしい。晃牙の恋人の顔を見ようにも先頭で真緒と話に夢中だ。
 どうせリッチ~の普段の様子だろう、と暗い気持ちの晃牙の目の前に、大きなスポーツ施設が現れる。
「おのおの受付で運動靴のサイズを選んでおくれ。2チームに分かれて勝負とゆこうぞ♪ 手始めは……バスケットボールでどうかのう?」
「イヤって言ってもやるんでしょ」
 凛月がため息を吐いて空を見上げた。雪を輝かせていた青空は、気が付けば濃い灰色の雲に覆われていた。


「またコーギーが2点~。8対0~」
 ネットを揺らしたばかりのボールを掴む。敵にパス。慌てて両手で受け取った真緒が、凛月の合図とともに走り出す。
 トロくせ~ので抜けると思ってんのか。奪う。速攻。怯える真の真横に踏み込み、ぐっと沈んで伸びあがりシュート。スリーポイント。
「11対0~」
 タンッ、とボールがコートに落ちた。何度か弱弱しく跳ねて、あてどなく転がる。
「ハッ! テメ~ら本気出してんのかぁっ!? 3人まとめてかかってこいよ!」
 じゃね~とイライラが止まんね~んだよ……!
 敵も味方もポカンとこっちを見つめてくるので、晃牙はそう吐き捨てて腕を組んだ。
 機嫌が悪いなんてものじゃなかった。イライラしてムシャクシャして、叫びだす代わりにコートを跳んだ。咆哮がドリブルになった。シュートの型で飛び上がるとき、視界に先輩がうつると血が上った。
 何がデートだよ、クリスマスは特別な日じゃね~のかよ! 学院時代に戻ったようなことばっか、先輩がいなくても出来んじゃね~か!
 晃牙の怒気を感じ取ったのか、Trickstarの4人は一様に困り顔だ。たしかに(おそらくは朔間先輩に誘われて)遊びに来たら晃牙が苛ついているのだ、どうしようもないだろう。
「……ふむ」
 敵も味方も棒立ちするなか、ふと朔間先輩が腰をかがめた。
「では、我輩がおぬしと1on1をしてみせよう」
「上等だオラ……!」
 薄く笑った先輩の手の中でボールが踊る。凛月の合図。ゆっくりと手の平を下に向け、重々しい音でドリブルを始める。
 踏み出した。
「……ッ!」
 晃牙の動体視力が先輩の挙動に集中した。先輩は素人だ。フェイント抜きの間の読み合いが命。じりじりと重心が移動し、突破口を探っている。
 空気の切れ目を突かれる。
「抜かせね~よっ!」
 追い縋る。回り込む。ドリブル。一瞬の逡巡ののち、抜かれた。
「ちぃっ」
 踏み込み、晃牙のときよりも鮮やかな跳躍。
 先輩のシュートが放物線を描く。ゴール!
「兄者2点、11対2~」
「……クソッ」
 得意顔の先輩の横を通り過ぎ、晃牙はベンチに座り込んで頭を振った。苛立ちと悔しさ、自己嫌悪がまとわりついていた。
 晃牙抜きのゲームが始まった。ハンデのつもりか真が晃牙のポジションに移動し、先輩と真緒が2人チームでパスを回し合う。そこへスバルがカッティング。北斗がゴール下でボールを待つが、先輩が野性的勘でフェイントを見破り真へのパスを止めた。
 みんな楽しそうだ。朔間先輩も気の抜けた表情で笑っている。
 クソ、なんだよ。ガキみて~。
「兄者にさ。普通のクリスマスなんか、わかんないんだろうねぇ」
 凛月が兄……朔間先輩を眺めながら、ポツリと言った。
「あの人、クリスマスは演奏会に引っ張りだこだったし……『困ってる人』なんか、いくらでもいる時期だし。一般家庭のクリスマスなんて夢のまた夢。……やっぱり兄者は、誰の気持ちもわかんないんだと思うよ」
 凛月の両手が得点のカウントでせわしなく動くのを、晃牙はぼんやりと見つめる。
 普通のクリスマス。
 晃牙の気持ち。望み。ふたりきりで、『今日は楽しいクリスマス』を過ごすこと。
 朔間先輩……。


 ☆ ☆ ☆


 灰色の雲の後ろで、冬日が暮れなずんでいると思う。
 雲が厚いから本当のところはわからない。晃牙はそんな仄暗い帰り道を、チキンを抱えて先輩と歩いている。ケーキは朔間先輩の利き手にあった。ふたりとも黙り込んでいた。 
「……あまり楽しくなかったようじゃな?」
 先輩がふと、晃牙の顔を覗き込んだ。
「いや……楽しかったぜ。桃李なんかほとんど1年ぶりだった。スバルたちも、現場で会うのとオフとじゃ違うし。けど……」
 そのまま口を閉じた。どう続けていいのかわからなかった。 
「先に言っておいてほしかった?」
 首を振った。
「違う場所がよかった?」
 違う。
「ごはん、おいしくなかったかえ?」
 違う。
「……なんじゃろうなぁ……」
 ぜんぜんちげ~よ、朔間先輩……。
 先輩が目を伏せた。晃牙に見つめられているのに気づいて、眉を下げたまま笑った。ごめんな、と小さな声が聞こえた。謝ってほしいワケでもないのに。
 そうやってわからなかったから、この間も喧嘩になったんだろうなと思い出した。
「なぁ、『楽しいクリスマス』って……」
「あぁ、薫くん、アドニスくん!」
 晃牙がむなしい気持ちで不満を伝えようとしたとき、先輩の紅い目が夜道の先を見据えていた。あたりはすっかり闇の中だった。垣根から見える家の灯りのように、数メートル先のマンションのおもてもぼんやりとライトアップされ、軒先に誰か2人が佇んでいるのがわかった。
 近づいたらよく見えた。
 穏やかに微笑むアドニスと、気まずそうな顔の羽風先輩。
「のう、晃牙!」
 先輩が振り返る。嫌な予感。じっとりと、冷気が晃牙の背筋を舐める。
「今夜は徹夜でパーティーじゃ♪ ボードゲームでもトランプでも、心ゆくまで楽しんでおくれ」
 ふたりの肩に手を回し、朔間先輩は笑って言った。


「――わかった」
 晃牙はチキンの容器をアドニスに渡した。4人分もあって重かった。大きな袋を受け取ったアドニスが、晃牙の顔を見てぎょっとした。
「大神……」
「わかった。あ~わかったぜ。俺様としたことが、こんな簡単なことに気付かね~なんてよぉ……はは、笑っちまうぜ」
 3人から距離を取る。一様に不安そうな顔して、俺が気づいちまったのがそんなにおかしいかよ。だったらずいぶん馬鹿にされたもんだと思った。
 だって。
「俺様は朔間先輩とふたりきりになりたかったけど、先輩はそうじゃなかったんだな。『楽しいクリスマス』はあんたと俺様だけじゃ作れね~し、作る気もね~んだよな。毎日毎日同じ部屋で寝泊まりして、喧嘩もたくさんして、い~かげん飽き飽きしてんだろ? だから色んなヤツの手を借りて、あんたがいなくなっても俺様が幸せに過ごせるようにしたんだろ? そうでもなきゃみんなと過ごそうなんて思わね~じゃん……俺があんたとずっといたいって思ってても、朔間先輩はふたりきりになんね~んだもんな……っ」
「こう……」
「もういいよ! 今日すげ~楽しかったよ、じゅ~ぶん楽しんだよっ。だからよう、ちょっとくらいひとりになってもいいだろ……? ひとりにならなきゃ、あんたの楽しい気分に水差すだろ……っ」
 雪の踏み固められた道路で、一歩、二歩と後ずさる。先輩達の背後に温かい明かりが満ちていた。エントランスは固く閉ざされていた。少しでも入ったら、泣きたい気持ちが溢れそうだった。
 踵を返す。
「……ッ!」
 来たばかりの道を、全速力で駆けていく。


 ☆ ☆ ☆


 頬を北風が切り裂いた。すぐにそれより冷たい何かが混じった。雪だった。上気した頬に貼り付いて、解けて涙のように流れていく。
 ――あんたがいなくなっても、俺様が幸せに過ごせるようにしたんだろ?
 自分で吐いた言葉が晃牙の心に深く刺さる。
 朔間先輩は晃牙と幸せになろうとしなかった。晃牙は朔間先輩がいいと言っているのに、一緒がいいと言ってきたのに、ぜんぜんわかっていなかった。大小いろんな喧嘩をしても、朔間先輩とじゃなきゃ幸せになれないから、迎えに行くのに。
「朔間先輩の、クソヤロ~……っ」
 駅前はぐにゃぐにゃの光が溢れて揺れていた。涙を拭うとまばゆい光を背にして利用客が笑っていた。あるいは待ち遠しそうな顔で、迎えの車を今か今かと待っていた。
 逃げるように裏手に回った。途中で転んだ。泥水でジャケットをびしょびしょにしながらスーパーに辿り着く。人の出入りが少なそうだった。もう家族がディナーを作って待っているから。大好きな人の背よりも高いクリスマスツリーが、七色の電飾の明かりを夜の濃い闇に溶かしていた。
 朔間先輩。
「……っ」
 晃牙は咄嗟に携帯を取り出して、着信もLINEも来ていないとわかると握りしめた。鼻がツンと痛んだ。機械の冷たさに手の平が慰撫されて、アドニスと羽風先輩も寒いよな、来てもらったのに馬鹿やっちまったと後悔がこみ上げた。もう遅い。遅くなくても、ここから動けない。
「じんぐるべ~、じんぐるべ~……♪」
 うつむく晃牙の目の前を、子どもが父親に手を引かれながら横切った。
「おとしゃん、サンタさんのぼうしとおひげ、どうしてかうの~? サンタさんさむくない?」
「サンタさん寒くないよ~、でもパパさむいさむいだから帰ろうね~?」
 サンタさんになる父親もサンタさんを待つ子どもも、楽しそうに夜道を急ぐ。
 あ、と子どもが晃牙を見た。あわててモミの木に駆け寄り、オーナメントを眺めるフリをする。
 適当に手に取ったら字に見覚えがあった。走り書きだった。あいうえおよりabcの方が書き慣れてそうな筆記体。

『大好きな子が、幸せなクリスマスを過ごせますように  R.S』

 ――Rei Sakuma。
 これを見ていた先輩の、寂しそうな横顔を思い出す。
 誰かの願いを見ていた。自分の願いなのに、羨ましがるような目の色をして。晃牙の幸せだけを、必死に考えていてくれた。
 なあ先輩、もしかして。単純な想像が晃牙の胸を締め付ける。
 もしかして、幸せになろうと思わなかったんじゃね~か?
 幸せになる資格が自分にないからって、幸せになれない自分が傍にいたら晃牙も幸せになれないからって……そんな馬鹿な遠慮、してたんじゃね~か?
「馬鹿だろ……先輩」
 オーナメントに雨が降り出した。星の形の切り紙がしょっぱい雨を吸い込み、濃く輝いていた。


 ☆ ☆ ☆


 晃牙があえてインターホンを押すと、ドアの向こうから慌ただしい足音が近づいてくる。ドアノブを回す音、蝶番の軋む音、そして先輩が姿を現し……まんまるく、目を見開いた。
「メリークリスマス、先輩」
 口ヒゲに邪魔されながら、モゴモゴと口を開く。帽子がずり落ちて晃牙の視界を赤く塞いだ。白いおヒゲに真っ赤な三角帽――まるでサンタクロースだ。
「……っこうがぁ」
「――俺様は、違う、ワシは、晃牙ではなくサンタクロースじゃ」
「へ……?」
 恥ずかしい。
 ドラマでクサい台詞を言うのとは違う種類の恥ずかしさだ。負けないように先輩を見つめる。
「朔間零くん、ずっとよいこでいたようじゃな。じゃからこうしてサンタクロースがおぬしの家を訪ねたんじゃよ。よいこの零くんにプレゼントを贈ろう。欲しいものは何かね?」
 困ったの先輩が、きょろきょろとあたりを見回した。もちろんカメラなんて回ってない。不安そうに晃牙サンタを見つめ返した。笑いかける。
 よいこの朔間先輩は、
「笑顔の晃牙が……ほしい」
と言って、晃牙に抱きすくめられた。
「~~~~っそこはよう! 『2人で過ごす夜』とか言えよ! 俺様の笑顔くらいお安い御用だけどさっ、あんたの幸せが含まれてね~じゃんっ! あんたホントに自分のこと考えてね~なっ!?」
「考えてるもん……」
「考えてね~よっ!」
「晃牙が笑顔になったら俺も幸せだもん……」
 口づけるとヒゲが当たって先輩が笑った。
 笑ってくれた。よく見たら涙目で、辛い思いをさせたとわかった。
「あんたといね~と笑顔になんね~から」
「今朝はあんなに楽しそうじゃったのに?」
「そう、そ~いうのだよ。『わんこは我輩がいちばん大好きじゃからな♪』くらいの気持ちでいろっての。ぜって~言いそうにね~けど。何度も言ってやるけど俺様はあんたがいちばん大好きだからな! 死ぬまで好きだし死んでも好きだから覚えとけよ! んで俺様は世界一大好きなあんたが幸せになんね~と笑えね~からよ、自分の幸せくらい真面目に考えとけよ? ……なんで赤くなるんだよ。あんたの方が普段から惜しみなく愛を振りまいてんじゃね~か。俺様が真似して何がワリ~んだ?」
 晃牙はハッと廊下の向こうを見た。
「羽風先輩もアドニスもいね~じゃん。覗かれてるかと思ったぜ」
「帰ってもらったのじゃ。クリスマスに恋人とふたりきりにならなくてどうするの、と叱られてのう……気を遣われてしまった。晃牙の気持ち、ちゃんと考えられなくてごめん」
「……俺も、急にどっか行ってごめん」
「ふたりきりになりたい?」
 答えずに、朔間先輩の肩を掴んだ。
 と、その前につけヒゲを外し、帽子を靴箱に放り投げた。先輩と一緒に玄関に入って、ドアを閉めて鍵をかけた。念入りに。
「晃牙……」
 先輩が吐息だけで名前を呼んだ。熱く湿っていた。
 なりたい。ふたりきり。
 あんたとずっと。
 震える唇を、晃牙の舌が甘くなぞった。


 ☆ ☆ ☆

「お気に入りの上着、びしょびしょじゃのう?」
 先輩がベッドに寝かされながらそう言うので、晃牙はあわててジャケットを脱いだ。
 くすくすと笑って震える先輩のお腹を、照れながら撫でる。
 体のラインを見せつけるような赤いタートルネック。湿っている。「わ、わりぃ!」
「もっと触れておくれ……」
 裾に伸ばした手を取られて、胸の蕾のあたりに置かれる。ドキドキしてる……。緊張しながらそっと捏ねると先輩が「あぅ」と啼いた。股間に血が集まるのを感じる。
 先輩の乳首はニットの上からわかるほど勃ち上がっていた。ぷっくりと、晃牙の愛撫を待ち遠しがって鬱血している。
「おぬしに望まれてこうなったんじゃよ」
 先輩が微笑んだが、それは違うと思った。晃牙もたくさん触ったが、触ってほしいと思っているのは先輩だ。いやらしい服を着て、乳首を尖らせて、先輩も気持ちよくなりたいと望んでいる。
「ぁ、んん……っ」
 乳首を摘まみながら口づけた。
「……ん……」
「ン、んぅ、ウ、」
ねっとり絡みつく舌に夢中になると、後頭部を抱えられて深く繋がった。
「んぁ、ン、ふ……っん、あ、……っ」
 舌と胸とを犯されながら、先輩の体がびくびくと跳ねる。晃牙に口腔内を愛撫されるたび、胸の突起を押し潰されるたびに、柳眉が切なげに寄せられた。はあ、と熱い吐息で唇を湿らせて、もっと触っておくれと胸を突き出す。
 挿れたい。焦れた先輩の指先が晃牙の雄を強く掻いた。先輩も欲しがってる。でもまだだ。スキニー越しに下腹を擦りつけて、それでも脇腹を撫でていると、先輩が恥ずかしそうに目を伏せる。
「晃牙ぁ、こいよ……なぁ? ほらぁ……っ」
 先輩の長い脚が腰に絡む。
 太ももの付け根をなぞって割り開くと、先輩がクッとお尻を持ち上げた。柔らかいそこが股間に押し付けられてたまらないのに、もっと密着させてねだられる。
 先輩が羞恥と期待に顔を蕩かすのを無視しながら、後孔のあたりを指で押した。ひくついている。
「こう、」
「――ここに、俺を覚えさせたら」
 晃牙は想像して喉を鳴らす。
「……あんたは、俺から離れられなくなるかな。身を引こうとか考えずに、俺が欲しいって言い続けるかな。何度忘れたくても思い出して、俺と一緒に気持ちよくなりて~んだって……泣き叫ぶかな」
 たとえばそれは、都合のいい夢物語。
 何も知らない子どもがねだるような荒唐無稽な晃牙の願望を、本当に望んでいるのだと言って聞かせる。おとぎ話だ。でも、そうなったらいいのにと思ってる。そうならいいのに。
 一生、俺の傍にいてくれたらいいのに。
「……ま、ありえね~か。なぁ先輩?」
「……っばかもの、」
 冗談めかして笑いかけると、先輩はスラックスを脱がせる間じゅう晃牙のことを愚か者だとかおバカわんこだとか罵った。喜ばれているとわかったのは、ずっと後のことだった。晃牙も先輩の心の機微に疎い。でも、両手で顔を覆っていても、耳たぶは真っ赤だった。
 ばか、ともう一度言って、先輩が息を詰めた。ローションまみれの指を差し入れられたのだ。
「あ、ぁ、うぅ……っ」
「マジでやらけ~……俺の形になってきてるか?」
「う~っ、大馬鹿わんこ! 早く挿れろ!」
「ハイハイ」
 笑って腰を高く上げさせる。先輩の頬がカッと染まった。
「……っ! あ、ま、まって、やめ、ぁ、うあ、あぁぁ……っ」
「きつ……っ」
 いわゆるまんぐり返しの姿勢で挿れるのは、挿れられる側もすごく気持ちいいらしく、先輩は大股開きで押し潰されながらぎゅううと晃牙を締め付けた。食いちぎられるかと思った。晃牙の形になりそうな内側で包み込んで離さない。
 ふと泣きたくなったから、晃牙は代わりにたずねてみた。
「っ、な、先輩っ」
「……っ?」
「けっこ~ヘンな体勢だけど……平気かっ?」
 答えを待たずに打ち付けた。先輩が息を漏らして笑う。かわいい。俺の好きな先輩。
「カッコわり~とこも、おまえが全部好きって言うなら。……っあ!」
 前立腺に当たるところを何度も突く。ふくらはぎにも噛み付く。先輩の余裕の笑みが晃牙の与える快楽で蕩けていく。ルビーの瞳が熱に浮かされ、すすり泣いて晃牙を求める。もっと、いい、とねだる合間に腰をわななかせる。
「あっぁ、いっ、っいく、あたまっ、チカチカする……っ」
「どんな感じだ……っ?」
「へんっ、へんになるぅっ、やだぁっ、いかせろぉっ、っ、あ~~……っ♡」
 先輩、変わっていってる。カッコわり~ことも言うし見せるし、頼ってくれる。
 晃牙は嬉しくなって先輩にキスした。体の重みで挿入が深くなった。先輩が泣きながら笑って、舌と唇で晃牙の舌に縋りついた。唇がスキの形をつくった。
 ふたり同時に弾ける。
「あ、ぁっあぁあぁぁ……っ!」
「せんぱい……っ」
 慌てて引き抜いたが間に合わなかった。白濁は窄まりからあふれるほど出て、先輩の胸と顔も汚していった。うっとりと、先輩は染められるのを受け容れてる。
「あぁ……晃牙、メリ~クリスマス……♡」
 ――いつかあんたが俺のものになるように。
 子どもっぽい願いを込めながら、晃牙は先輩の唇にキスをした。

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