吸血鬼村は地獄ですか?
コーギーの絵本があるらしいのう、としどけない寝姿で言われた。
コーギーの絵本。にんげんの、子どもが読むための絵本で、コーギーについて絵と文でかかれた本。そういうニュアンスで言われたので、晃牙はそっと息を吐いた。
「コーギー村のクリスマスのお話なんじゃと。……あぁ、これじゃ」
闇の中、立ち上げたパソコンで書籍販売のページを見せてくる。まぶしい、闇の中で見ることを想定していない画面の明かりが、棺桶の内側を照らすので、晃牙は外側で跪いて覗いた。
明るい絵柄の表紙。クリスマスツリーを囲むたくさんのコーギー。服を着たり眼鏡を掛けたりしている。一様に舌を出し、期待のこもった眼差しを向ける。
「クリスマスのプレゼントにいらんかえ?」
「持ってる」
「おお……そうか」
そうかや、吐いた息が夜闇に溶けた。
棺桶から離れて、闇の色を確認した。藍色をしていた。晃牙は棺桶模様のネクタイを締めた。零のぼんやりとした眼差しを感じた。
母親に買い与えられた、とは言わなかった。答えてしまえば、わんこのご母堂もコーギーなのかやと聞かれ、自分の母親も吸血鬼であると話し出すに違いなかった。
晃牙の想像を裏打ちするように、零は去りゆく晃牙に「おやすみ」と言った。
おやすみ、吸血鬼村にまたおいで。
吸血鬼村は地獄ですか。はい地獄です。
地獄であるところの吸血鬼村の話。
昔々あるところに吸血鬼がいました。吸血鬼は吸血鬼一族の長男でした。吸血鬼は絶滅しつつあったので、というのは吸血鬼狩りに狩られていたので、吸血鬼狩りに国内外を追われました。
というのは嘘で、吸血鬼一族は夜の世界に生きていました。健やかに生きていました。
ただ、夜の世界で生きるには一芸が必要だったので、才能を見出された長男だけが母親と国内外を飛び回りました。夜の世界は世界として確立されており、吸血鬼も等しく住人でした。母親も一芸で夜の有名人でした。
ところで長男はアイドル養成学校に興味を持ちました。吸血鬼でしたが昼の世界の学校に入りました。母吸血鬼の制止は振り切りました。弟吸血鬼も入学しました。
アイドル養成学校で長男は楽しく過ごし、なんだかんだあって人間の男と恋に落ち、幸せに過ごしました。おしまい。
盛り上がりのない寝物語を、晃牙は横になって聞いた。しどけない姿でダブルベッドに寝ている恋人の横で、うつ伏せに寝ていた。午前3時。吸血鬼と人間の男の愛の巣。
地獄の要素がなかった。それでよかった。選び抜かれなかった逸話は散逸し、なかったことになった。
事後、恋人とピロートークした。それだけの話だった。