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カテゴリー「あんスタ」の検索結果は以下のとおりです。

この後めちゃくちゃ同棲した

「卒業できてよかったのう、天祥院くん。単位は足りたかえ?」
「そちらこそ留年を免れたみたいで本当によかった」
「ふたりとも無闇に火種をつくるな……」
晃牙が人混みをかき分け会館前に辿り着くと、零はいつもの様子で天祥院と会話していた。会話というと聞こえが良いが嫌味の応酬、言葉のデッドボールの乱発に思える。そんな蛇とマングース2匹を仲裁する蓮巳は心底あきれた顔で、「せっかくのめでたい日に」とため息を吐き、それでも目尻にキラリと光る跡があった。
「ありゃ死ぬまで変わんねぇな」
声を掛けるタイミングを逸した晃牙の傍らに、いつの間にか鬼龍が佇んでいた。
「旦那もよく取り持つぜ。挨拶みたいなもんだからほっときゃいいのによ」
そう笑う鬼龍の鼻頭も赤らんでいる。
「あん? 鬼の目にも涙とか言うなよ」
「……言わね~よ」
「そうか。ま、そうだな」
鬼龍は赤い髪を春風になびかせ静観していたが、ふと蓮巳を呼び付けるとどこかへ連れていってしまった。「朔間さんをよろしくな」連れ立つふたりの胸にはユニット名と揃いの薔薇が咲いている。姫宮を抱きしめる天祥院の胸元にも、思い思いに散らばる卒業生の胸元にも。
そうして彼らに駆け寄る後輩たちの目元も赤い。
「ばっかみて~」
晃牙は独りごちると零の元へと歩いていった。どうせ明日からも毎日会う、自分の家で。実家に帰りたがらない恋人は、後輩兼恋人の下宿に住みたがるだろう。仕事がどうなるかはわからないが朝飯くらい共にとれるだろうし、時間が合わなくとも寝台はひとつだ。おはようまたはおやすみを交わして始まる明日を思うと溢れかけた涙も引っ込むというものだ。
だから泣かない。朔間先輩の学院生活の最後は大好きな後輩の笑顔で飾ってやるのだ。


というつもりで零の手を取って軽音部室に連れて行き、自分のギター、ひなたのベース、ゆうたのキーボードで追い出し会の開会を宣言しようとした晃牙は部室の異変に気付いた。
「なんか……広くね~か?」
部活動に予算の割かれないアイドル科では、とうぜん部室も猫の額だ。いつもぎゅうぎゅう詰めになってセッションする広さが今日に限ってレッスン室並み、春風が人と人との間をびゅんびゅん吹き荒ぶなんて一体どうしてだろう。
まさか吸血鬼には部屋を伸び縮みさせる能力なんてないだろうし、人が急に小さくなったはずもない。ということは「広い」というより「物足りない」が正しいが、一体何が欠け――
「棺桶ないですよね、朔間先輩」
「うむ、新居に送った。……どうした、晃牙?」
ぽかんと間抜け面で立ち竦む晃牙を、零は不思議そうに覗き込んだ。
タイムリープでもしたかえ、例えば1年前に。零の声が遠く聞こえる。ナンセンスな冗談を笑う余裕なんてなかった。
「……しんきょ……?」
「うん? そうじゃ。実家に帰るのもアレじゃしのう。かといって棺桶ごと追い出されてもかなわんから、昨日さっさと決めてきたぞい。ほれ、住所はここじゃ」
「わ~、中華街の近くですねっ? 駅近で良い立地♪」
「めちゃくちゃ遊びに行っちゃいますね~♪ 引越し祝いに肉まん持ってきますっ♪」
零は新居の地図を学院グッズのネコミミメモに書きつけると、丁寧に畳んでひなたとゆうたに渡した。ネコミミメモとは猫耳などを生やしてデフォルメされた生徒の姿をかたどった折りたたみ式のメモである。零はこれを可愛い可愛いと特に気に入って、隙あらば誰かに渡そうとする。おかげで晃牙の机はすでに3匹もの零に占拠されて賑やかだ。
4匹目のネコミミメモを渡された晃牙は、ぐい、と突き返した。
零は首を傾げて受け取ると、晃牙の肩を見た。ぶるぶると、痛々しいほど震えている。
「俺んち……こね~のかよ……っ」
「おお……?」
「一緒に住むんじゃね~のかよっ! この、クソ野郎~~~~っ!!」

部室を飛び出して夢中で走るうちに、景色は人の群れから草花の群れへと変わっていた。
どうやら庭園の奥の奥に迷い込んでしまったらしい。草木の生い茂るそこは春の訪れを喜ぶ花で溢れていて、晃牙の歪んだ視界を七色で鮮やかに彩る。
「う、ううぅ……っ」
喘ぎながら走ったから、とっくに膝はがくがくだ。力無くしゃがんだ拍子に涙がひと粒だけ溢れてしまう。
「うっ、うぐっ、くそやろうぅ~……!」
――クソ野郎、クソ先輩、クソ吸血鬼!
ひと粒溢れるともう止まらなくて、晃牙は誤魔化すように声を張り上げた。
「何が新居だよ! 俺んちじゃね~じゃん! せっかく掃除して棺桶置く場所も作ったのに! 食器とか買い足すモンもリストアップしたのに! 食いもんとか飲みもんとか、好きそうなヤツ補充してやったのに! あっ、明日からっ」
ずっと一緒にいられるって、思ったのによう……!
晃牙はとうとう声を詰まらせて泣いた。抱えた膝に顔を伏せるとスラックスが熱く濡れていく。悲しくて悔しくて、ますます悲しい。朔間先輩の卒業も、会えない時間が増えていくことも。スキの大きさがこんなに違っていることも。やっと素直になったのに、こんなことで拗ねて飛び出してきたことも。大好きな朔間先輩を罵って、最後にあんな悲しい顔をさせてしまったことも……。
「……っ……?」
そうやって泣きに泣いて疲れた頃、晃牙の鼻に甘い香りが運ばれてきた。
甘ったるくて瑞々しい、零がたまに纏う匂いだ。ハッと身を起こして辺りを見回すが、物憂げに黒髪を垂らした姿はどこにもない。
代わりに色とりどりの満開の花々が目に飛び込んできて、晃牙は恋しい香りの本当の持ち主を知る。
「なんだ、テメ~かよ……」
こんなときでも想い人の跡を辿っていた自分に呆れる。呆れて、心が穏やかになるのを感じる。
「だいたいよう……」
――だいたい水くさいのだ、付き合っているのに。さんざん飼い主ヅラしてわんことか呼んどいて、一緒に住まないとかどうかしてる。ムカつくから一発殴らせてほしい。
過激なキモチが涙の代わりにどんどん口をついて出てくる。好きなら住むんじゃね~のかよ、ゆうたに痴話喧嘩と言わしめ羽風先輩からはラブラブだと弄られたほど返礼祭で愛を確かめ合ったのに。大好きだと言う代わりに想いのすべてを歌とダンスに乗せてぶつけて、3倍返しどころか10倍返しはしたはずなのに。
「ん?」
『大好きだと言う代わりに』? 告白したんじゃなかったか?
「んん? 」

……!?!?

 

「おかえりなさい~」
「お菓子開けてますよ~」
息を切らして部室に戻ってくると、部長以下3人の部員は追い出し会のお菓子になごやかに手をつけていた。
「早かったのう、わんこ。おしっこかえ?」
「……ゴメン!」
唇をすぼめて棒菓子を食べる零に勢いよく頭を下げる。零も葵兄弟も驚いた様子だったが、晃牙は構わず釈明する。
「俺、すげ~勘違いしてた。……その、あんたと俺の関係を。マジでごめん……」
「いや、我輩こそすまんかったのう。付き合ってすぐに同棲なんてと気を回しすぎた」
「わかってんじゃね~か!」
この後めちゃくちゃ同棲した。

卒業式の日

「卒業できてよかったのう、天祥院くん。単位は足りたかえ?」
「そちらこそ留年を免れたみたいで本当によかった」
「ふたりとも無闇に火種をつくるな……」
晃牙が人混みをかき分け会館前に辿り着くと、零はいつもの様子で天祥院と会話していた。会話というと聞こえが良いが嫌味の応酬、言葉のデッドボールの乱発に思える。そんな蛇とマングース2匹を仲裁する蓮巳は心底あきれた顔で、「せっかくのめでたい日に」とため息を吐き、それでも目尻にキラリと光る跡があった。
「ありゃ死ぬまで変わんねぇな」
声を掛けるタイミングを逸した晃牙の傍らに、いつの間にか鬼龍が佇んでいた。
「旦那もよく取り持つぜ。挨拶みたいなもんだからほっときゃいいのによ」
そう笑う鬼龍の鼻頭も赤らんでいる。
「あん? 鬼の目にも涙とか言うなよ」
「……言わね~よ」
「そうか。ま、そうだな」
鬼龍は赤い髪を春風になびかせ静観していたが、ふと蓮巳を呼び付けるとどこかへ連れていってしまった。「元気でな」連れ立つふたりの胸にはユニット名と揃いの薔薇が咲いている。姫宮を抱きしめる天祥院の胸元にも、思い思いに散らばる卒業生の胸元にも。
そうして彼らに駆け寄る後輩たちの目元も赤い。
「ばっかみて~」
晃牙は独りごちると零の元へと歩いていった。どうせ明日からも毎日会う、自分の家で。実家に帰りたがらない恋人は、後輩兼恋人の下宿に住みたがるだろう。仕事がどうなるかはわからないが朝飯くらい共にとれるだろうし、時間が合わなくとも寝台はひとつだ。レオン以外の体温を感じて寝るのは久しい、久しいけれど心が躍る。なのに何故か、この広い校舎に彼の匂いがしなくなるとは思いたくなかった。紅月の度肝を抜いて1年越しの痴話喧嘩もしたライブ会館、水曜日の生ハムサラダを食べに通った庭園、よく貧血で倒れていたグラウンドの隅の植込、文化祭の準備で連れ立って歩いた廊下、バイオリンの音を夕闇に紛れてこっそり聴いた屋上、歌い踊り演奏し続け喧嘩もした聖域の部室、どこを探しても零の甘い匂いは見つからないのだ、明日になれば。卒業式の日が終わってしまえば。
「晃牙、泣かないでおくれ」
今生の別れじゃあるまいし、と見上げた零の胸元にも赤い薔薇が咲き誇っていて、造花だというのに枯れちまえと願う。

 

湯たんぽいぬの憂鬱

「今日は、するのは、いい……」
胸に手を這わせてきた恋人を、零は小声でたしなめた。
「このまま、ぎゅってして……?」
晃牙の右手は零の背中に誘導されて、同じく背中に回した左手と再会する。
いや俺様が会いたいのは手じゃね~し。
するのはいいじゃね~よ、して~んだよ。
だってベッドで抱き合うとか、することはひとつだろ。
「…………」
そう訴えるのをやめにして、晃牙は零のうなじをぼんやり見つめた。
肩口に顔を埋めて抱き着く恋人のあたたかさ。これでは湯たんぽいぬではなく抱き枕だ、と勤続4年目・恋人2年目の晃牙は思う。
「くっついたまま……ねよ~ぜ……」
すでに零は夢うつつで、逆に晃牙の目は冴えている。いい匂いにやわらかい肌、耳元の吐息。なやましくさせる三神器。
「……おやすみ」
昨日も一昨日もこんな感じだったのに、明日も抱き着くだけで夜を終えるのかーーそう思うと殊の外憤った声が出た。 

そうして更に3日続いたところで湯たんぽいぬも我慢の限界だったから、友人に労働相談することにした。
「朔間さんはさあ、今までの分もくっつきたいんじゃないかな」
としたり顔で言うのはスバルだ。
おかわり、と持ち上げたビールジョッキに居酒屋の照明があたってキラキラしている。
「朔間さんってスキンシップ多めだし、その割に学院時代はガミさんにすら遠慮して抱きついてこなかったし。人肌恋しいんじゃないかなあ」
「そうか……?」
遠慮してたかアイツ?
腑に落ちなくて手に取った枝豆を見つめると、スバルは通りがかった店員を捕まえた。
チーじゃが、唐揚げ、トマトサラダ。
次々と運ばれてくる料理を見ながら、晃牙はこの前ここに零と来た時のことを思い出す。トマトサラダを2つも頼んだ恋人は、4人席だというのにしきりに隣に座りたがった。そのときはコイツ酔ってんなとあしらうばかりだったが、そういうことだったのかもしれない。帰りは服の背中を掴んできたし。住宅街の路地裏に引っ張り込まれて、キスもねだられたし……。
メニューをぱたんと閉じて、スバルが声を潜めて笑う。にっひっひ、なんて時代錯誤のくせして底意地が悪そうだ。
「突っぱねてると、よそに行っちゃうかもよ? 『三奇人』の人とか、この前共演してたし」

慌てて帰宅すると、零の長い腕の中にはレオンがいた。
「おかえり。……なに膝ついてんだ?」
「……ただいま……」
レオンを抱いて入り口まで来た零を、レオンごと抱き締める。
「な、なんじゃ、なんじゃ」
「うっせ~」
「レオンも我輩もくるしいんじゃけども……」
「我慢しろ」
零は照れ隠しで昔の口調に戻る。それがわかっているから抱く力を強めると、うなじが赤く染まった。
「抱き締め返せないんじゃけども」
「…………」
それもそうだとレオンを逃してやれば、晃牙はすかさず抱き締められて文字通り締め上げられた。ぎゅうぎゅう、もう離さないと言わんばかりの強さだ。
「俺様とレオンだけにしとけよ」
キスの雨を降らしながらのお願いに、零は両目をにっこりさせた。「大好きだぜ、晃牙」
それを見つめて弾き出した最適解、『2倍抱き締める』。冬も終わりだけどまあいいだろ、と自分を納得させて、晃牙は湯たんぽいぬの務めに励んだ。

AM7:00のハニーミルク

吸血鬼職人の朝は早い。だいたい18時くらいが日の入りだからだ。
「おはよう……」返事がないのにも慣れっこで、朔間零は食パンを焼く。部室の片隅、朔間零専用私物置き場の年代物のトースターが今朝も唸る。唸る割には物悲しい、チーンという音を聞きながら、朔間零は服を整える。パジャマ兼部屋着兼運動着兼制服のアイドル科特注ブレザー一式。コーヒーをこぼしてもバレないズボンの柄がお気に入りだ。おぐしを梳かして朝食の席へ、着く前に顔を洗い忘れたと洗面台へ。すれ違う人ほとんどみんなの振り向く美貌は寝ぼけ眼であどけない。ちょっと凛月に似ておるかなと見入りながら乳液を塗り終えた頃にはパンは黒コゲ。なるほど寝ぼけて10分も焼いたらしい。
インスタントカフェラテを注いで着席。炭を齧りながら窓の外の闇を見て、あぁひとりぼっちだとうっすら笑うと、窓ガラスに大神晃牙が映っていた。
「寝ぼけてんじゃね~よ」
「おっ、おぉおおぉおう!?」
大神晃牙、2年B組、UNDEADの狂犬担当。来年には狼になってやるよとは本人談で、狼の牙が見えた返礼祭は記憶に新しい。というか昨日の話だ。返礼祭の衣装を脱ぎ、いつも通りに制服を着崩して、いつも通りというにはちょっとだけ甘い拗ね顔で朔間零の目の前にいる。
「こっ、晃牙、どうして」
「卒業式まで一緒にいるって言っただろ」
平然と言い放たれて困惑する。
卒業式まであと何日だ。3日か。たしかにそんな話を返礼祭打ち上げで聞いたけれど、まさか本気だとは思わなかった。
本気も本気の大神晃牙は向かいのパイプ椅子に腰掛けて脚を組んだ。「それ朝メシ?」
「お、おん……」
「俺様は晩メシにも逃げられたよ。まだ腹空いてんなら食堂行こ~ぜ」
朔間零の頭は混乱を極めた。起き抜けだからだ。わがはいおねむだからむずかしいことわかんない、どうしてこうがはここにおるのじゃ? おなかすいた? ままのおちちがこいしいのかえ?
「さては我輩のハニーミルク目当てか」
「はぁ?」
「超絶絶品なのに我輩が自分の飲む分と合わせて1日2杯しか提供しないというお休み前のホットドリンクのことじゃ」
「そんなんあんのかよ……」
というかそんな紛らわしいネーミングでいいのかよ。いいのじゃよ。
作ってやろう、と牛乳パックを取り出すと、晃牙はキラリと目を輝かせた。しゃあなしに飲む、みたいに取り繕わない大神晃牙も、それはそれで居心地悪い。
作り方は簡単だ。文字通りハニーとミルクしか入れない。コウモリ柄のマグに注いでレンジでチン、それだけで絶品なのは愛し子への愛情が入っているから……もとい朔間零のハチミツの好みが良いだけの話だ。
とろりとかき混ぜたものを、晃牙に寄越す。ふうふうしてひと口、ふた口、み口目はたっぷり飲んで、晃牙はコーギーみたいな笑顔になる。
「うめ~な」
「じゃろ?」
「たしかに1日2杯限定になるな」
「ちなみに我輩のハニーミルクは生涯を誓い合った者にしか飲まさぬ後朝の文じゃ」
「ぶっ」
むせすぎて肺に入ったらしく、晃牙はゆうに1分は咳き込んだ。
「全部、わかってやってんだろ……」
「はてさて」
人の心はわからないけれど、言われたことは思い出せる。たった今思い出した。
『卒業式まで一緒にいたい。あんたのことが大好きだから』
俺もだと応えようにも晃牙は夢の中だったから、零がおぶって帰ったのだ。
くたくたへとへと、かわいい晃牙。愛しい晃牙。スキを伝えるだけ伝えて、吸血鬼の冷たい心にぬくもりを残していった。
「はやくわかるようになりたいのう」
告白くらい待てね~のかよ、と呟く晃牙を、朔間零は腕いっぱいに抱き締める。
あれが告白でなければ、きっと晃牙は世界一かっこいいプロポーズをしてくれるのだろう。1人の男になったときみたいに、全身全霊で大好きと叫びながら。
「本当の後朝に飲めるのを楽しみにしておるよ」
だから早く迎えに来いよな。
そう言う代わりに微笑んで、朔間零の1日が始まる。

「わんこは我輩のこと……スキ?」

花占い……わんこは知っておるかのう?

嬢ちゃんたちのような、かわいいおなごの遊びじゃよ。占いたいこと――それはたいてい片想いの恋路なのじゃけども――を心に決めながら、野の花を手折り、花弁を1枚ずつちぎってゆく……「わんこは我輩のことがスキ」「キライ」「スキ」なんてのう……そうして最後に残った花弁が「スキ」の花弁か「キライ」の花弁かで結果を見るのじゃ。
花弁の多い花ほど結果がわからなくてよいとか、ついムキになって何度もやり直してしまうとか……それでも「キライ」にしかならずに落ち込むとか…………ククッ、可憐じゃのう……?
そんなかわいらしくも真剣な乙女の恋占いがあるのだと、このあいだ嬢ちゃんに教えてもらって…………屋上の庭園の隅で休んでいるときに……ふと、目をやると……傍らにはたんぽぽ……。

「そうじゃ……♪」

我輩も、『花占い』してみようぞ……♡

ああ……無論、我輩はおぬしの好意を疑ってはおらぬぞ? わんこは我輩のことが大好き……世界一、誰よりも大好きで……我輩はわんこに世界一愛されておる、幸せな吸血鬼じゃ……♡
けれども……やっぱり、確認したいじゃろう……?

「わんこは我輩のこと……スキ」

ぷちり。爪先で花弁をそっとちぎると、嬢ちゃんのように愛らしいたんぽぽはその身を震わせて……少しだけ、痛そうじゃった。我輩の心もチクリと痛んだのじゃけども……キライ、スキ、キライって呟くことに夢中になって……痛みは遠くどこかに消えていたのじゃ……。

スキ、キライ、スキ、キライ、スキ…………わんこは我輩のこと、スキかのう……キライかのう……よく死ねって言ってくるし……大嫌いとか……昔は「朔間センパイ最高っす!」って言ってたのにのう…………スキ、キライ、スキ、キライ……あぁ、黄色い花弁がどんどん減ってゆく……キライ、スキ、キライ…………。
花弁をちぎる手は止まらなくて……4限おわりのチャイムが鳴る頃には、あんなにフサフサだったたんぽぽは残り4枚じゃった……。

「スキ、キライ、スキ…………やはり、のう……」

そうして最後に残ったのは……「キライ」の花弁……。

真実を……突きつけられてしまったようじゃのう……? いつしか陽光から逃れるように棺桶に引きこもり、輝くステージに立てなくなった我輩に……わんこは失望しておるから…………だから……わんこはもう、我輩のこと…………。

我輩の心につられるように、あたりは急に暗くなり始めた……。ずっと濃くなった木陰が、ブラウンチェックのスラックスに黄色い花弁を散らした我輩の膝と、たんぽぽの群れの上に覆い被さって……たんぽぽは寒そうに身を寄せ合うけれど……我輩の隣にはもう誰も…………そうするとますます落ち込んで、悲しくなって……。

そのとき……

「あのっ、朔間先輩……ですよね?」

ぱっと顔を上げると……我輩の目の前には、泣きそうな顔の紫乃くんが……おったのじゃ。

「あっあのっ、大丈夫ですか? しんどかったら……これ、あったかいお茶ですっ。水分補給してください……!」

我輩は言われるままに水筒のお茶を受け取って……こくりと飲み干すと、喉の奥までカモミールの香りが広がってゆくのを感じたのう。
あたたかくて、穏やかで……優しい、思いやりの香り……。

「紫乃くん……ありがとう、人心地ついたぞい。しかしなぜここへ……?」

我輩はおもわず尋ねたのじゃ……紫乃くんと普段出くわすのは、中庭の庭園やグラウンドの花壇……校内バイトで洗濯物を干しに来たにしては、洗濯かごも見当たらぬ。それに、なにやら息を切らしているような……?

「えへへっ、よかったです。お代わりたくさんありますから、おっしゃってくださいね? 実は大神先輩に、朔間先輩を探すよう頼まれて……」
「――いやがったな! 吸血鬼ヤロ~!」

おぉうっ?

 

「…………んだよ、なに花なんか毟ってんだよ。テメ~にはやることが沢山あんだろ~が。UNDEADの仕事とってくんのと、サーカスの打ち合わせと、文化祭の出店申込書書くのと、あと俺様のギター! テメ~の歌に合わせられんのは俺様だけだかんな、さっさと練習しようぜ。……なにニヤニヤしてんだ」

ふふっ……なんでもない、なんでもないぞい……♪ 少しばかり……占いに惑わされただけなのじゃ……。
わんこ、大好きなわんこ……世界一大好きなわんこ……♡ わんこのことが大好きなのも、世界一愛しているのも、我輩じゃったのう……? わんこは優しくて真面目で……今の我輩のことはスキになれないじゃろうけれど…………今だけはおぬしのこと、独り占めしてもいいかのう……?

秘すべき醤油ラーメン

※「秘すべき袋めん」ってタイトルにしようと思って最初に思いついたのが「秘封醤油ラーメン」だったけど秘封はそういう意味じゃなかった

 

 

おぬしはチャルメラ、我輩はチキンラーメン。たまごポケットには落とし卵ひとつ。
「それで『ヒヨコさんが可哀想です~』とか言いやがったらぶっ飛ばすかんな」
「なに訳のわからんことに毒されておるのじゃ」
「……合コンでそうほざいたヤツがいやがったんだよ」
深夜にほど近い11時、大神宅。
肩を落として帰宅した愛犬に即席ラーメンを振る舞って、零は恋人を慰めた。
ぽつりぽつりと零された話を聞くに、ファンク・ロック好きの飲み会に誘われて行ったらただの合コンだったらしい。
「だいたいおかしいと思ったんだよ」
青い方の箸を受け取りながら、晃牙が吐き捨てる。
「ブリティッシュ・ロックが好きだっつってんのに『ファンクで集まるから来い』とか。まあたまには新規開拓っつ~の? 凝り固まるのもよくね~かなって行ったのによ……」
「それでムシャクシャして一杯引っ掛けて帰ったのじゃな」
「おう……」
少し伸びた麺を乱暴に啜ると、付属のスープのささやかな油分が憂い顔を映して弾けた。
「問い詰めても悪びれね~し。『だってカノジョいないだろ?』って」
「あ~……」
カノジョはいない。いることにするのは、晃牙の誠実さが許さなかった。
それでも優しいギタリストは途中まで参加して、割り切れない気持ちを抱えている。
「合コンなんてよう……」
「うむ」
「はあ~……」
「よしよし」
「子供扱いすんじゃね~よ、チクショウ」
「あ、これ……ん」
隣から抱き寄せられ、ままならなさへの苛立ちをぶつけるように体をまさぐられて、零は声を湿らせた。絡めた舌は醤油ラーメン味と発泡酒味、つまり庶民の味だ。酔っ払いの指先で拙く愛撫されても、愛され慣れた肌は快楽を思い出す。
「馬鹿者……我輩お手製のラーメンじゃぞ?」
腰骨をなぞる指に左手を重ねてあやすと、晃牙はしぶしぶといった様子で箸を構え直す。
「ううう」
「ほれほれ、伸びきるぞよ~」
おぬしの零は逃げぬからな……。
そう囁くまでもなく晃牙が汁まで飲み干すのを、零はじっと見つめていた。アルコールに浸した舌には絶品らしい。プラスチックのどんぶりを置いて息を吐く横顔に、零はいつも魅せられる。
「おぬしチャルメラのCMに出るのはどうじゃ?」
「出てど~すんだよ」
「伝えるのじゃ。『恋人と食す深夜のラーメンは至高の味だ』と」
それじゃスキャンダルになるじゃね~かと笑う横顔に、一抹の寂しさが滲んでいた。

午後5時半のハニートースト

「や~いや~い吸血鬼ヤロ~寝坊しやがった~、もちろん同じユニットの俺様も寝坊!!! やべぇ!!!」

晃牙は零の後を追ってバタバタとベッドを飛び出した。時は夕刻、撮影の1時間前だ。太陽に弱い吸血鬼が「ちゃんと夜に入れられたぞい♪」とわざわざ誇らしげにスケジュール帳のひとコマを指差してみせたその時間に遅れようとしているのだから大目玉だろう。とりあえずの服と財布だけ掴んでヘアセットは向こうでしてもらえばいい、ああでもギリギリだったらそんな時間もあるかどうか。
「おい馬鹿きのうのヤツ穿くんじゃね~ぞ!」
「んあ~……?」
廊下でボクサーパンツに脚を通そうとしていた零を制止する。回りにはきのうの残滓、脱ぎ捨てたままのジーンズとか脱がして放ったハイネックとかが寝室まで続いている。欲望に忠実な零はもちろん、アイドル兼零のストッパーもといマネージャーみたいなことになっている晃牙も仕事終わりの熱に身を任せて抱き合ったから、今日の予定なんて頭から飛んでいたのだ。零が穿こうとしていた下着は、晃牙が上から零の性器を散々苛めて濡らしたはずで、勢い余って舐めたり噛んだりしていたかもしれなくて、それがすっかり乾くだけの時間は爆睡していたのだろう。
そんなくたくたの服を着て、つまり昨日と同じ格好で行ったら、どう冷やかされるかわかったものじゃない。同棲中のふたりがラブホから重役出勤しただなんておかしな話だけれど。
「だってわんこが勝手にパンツ片付けとくんじゃもん……」
「あ〜そうですね俺様が甘やかすのが悪ィんですねぇぇぇ。ホラこれ穿け、ズボンも!」
ぎっちり詰まったタンスから替えの下着と穿きやすそうなスラックスを放って渡す。自分の分はめんどくさいから昨日のスキニーでいいだろう。服から同じ洗剤の匂いがすんのもヤベ〜よな、とVネックのシャツから頭を出しながら思って、“同じ匂い”に少しだけ嬉しくなった自分を脳内で殴りつけたら笑顔の零と目が合った。
「わんこの匂いじゃ」
「ちげ〜っつの!」テレパシーかよ。
晃牙が下着を身につけ服の山を跨いで廊下に出る頃には、零はまだセーターを着ているところだった。鼻歌なんて歌いながら寝癖のついた頭をふらふらさせている。ただでさえ狭い廊下が零の両腕に占領されて、晃牙はぶつからないよう身を縮こまらせてスキニーに右脚を入れる。聴きなれたメロディは晃牙のバンドの新曲のようだ。紅蓮の瞳の狼じゃねぇドラキュラだ、と歌詞間違いに突っ込む気すら起きない、甘やかな声。増した愛しさを隠すように、
「なんでそんなに機嫌いいんだよ」
「だって醍醐味じゃろ?」
とん、とズボンをはく脚を下ろす。
首をかしげた晃牙に向けて、甘やかな声がうっとり唄う。
「一緒にあわてて一緒に出るの、家族って感じじゃのう?」

そのまま洗面所へ消える零を見送りながら、ああ、とか、うう、とか晃牙はうめいた。すぐに激しい水音が聞こえる。いつもなら水の出しすぎを叱るのに、今夜ばかりはそんな気になれなかった。
「わんこ~、洗顔フォーム知らんかえ~?」
ぴょこり、と1DKの柱の陰から愛しい笑顔が覗くのを、幸せの朝だと言うのだろう。

お前がパパになるんだよ!

「ややこができたのじゃ」
馬鹿なことを言うものだと、晃牙は零の顔から視線を落として目を見張った。
薄いはずの腹が膨らんでいる。赤子ひとり入るには小さすぎるが、生命を宿すには十分な大きさだ。零の両手に大事そうに抱えられ、ベストの合わせ目から覗いている。
「わんこのややこじゃ」
俺様がパパか。多幸感あふれる零の笑顔を見てから二度見すると、なるほど愛おしさが込み上げる。
「……名前」
「うん?」
「名前、考えるか」
かっこいいのが良いなと呟いたら、零が笑って、大きなお腹がぽこんと蹴られた。「ややこは女の子かもしれんのう?」
晃牙は受け入れた。できたんなら仕方ない。この歳で学生結婚するとは思わなかったがママと子どもと3人で仲良くやれるだろう。未来のことも、自分はともかく零は早めに産休をとらせよう。ハロウィンまでには生まれるだろうか。子どもに見せる初めてのライブが零の心待ちのS1だなんて嬉しい誤算だ。こんなに元気にお腹を蹴るのだから、寒くなる前に生まれるかも…………にしてはなんだかお腹を蹴りすぎやしないか?
「あっこれ、予定日はまだじゃ、あっ、ああ、あー」
はたして零のシャツの裾から元気に生まれてきたのは前足の大きなコーギーだった。
「あああ……せっかく寝ておったのに……」
わらわらと部室を駆け回るコーギー2匹を回収すると、零は肩を落としてネタばらしした。親戚が飼い始めて1週間たらずで急な用事に家を空け、子守を一任されたらしい。
「リッチ〜は」
「『コーギーの飼い方よく知ってるでしょ?』って……」
なるほど月光色の毛並みなんかは晃牙の弟と言っても不思議でない。俺様は狼だ、と言い返すには幼い姿に心惹かれ、晃牙は1匹だけ抱かせてもらった。あたたかい。悪くない。
「ガキも悪かね〜けど、まだいいだろ」
新婚だし。
そうこぼして不覚をとるはずの唇は、子どもの真上で零の唇に塞がれた。

湯たんぽいぬ

「誰が吸血鬼ヤロ〜となんざ帰るかよ!」
と言ったのは10分前の大神晃牙だ。
今現在の大神晃牙は、襟足の寒々しい首にお気に入りの紫色のマフラーをぐるぐる巻いて、宝物のギターをしっかり背負い、
「奇遇じゃのう、おぬしも今から帰りかや?」
「……おう」
正門前で仁王立ちしている。
「別にテメ〜を待ってたんじゃね〜からな。たまたま用事があっただけだぜ」
「して、その用事は終わったのかえ?」
「……フン!」
すたすたと先を行く晃牙に、零は笑いを噛み殺した。
愛犬はすぐに止まって不機嫌顔でこちらを振り向く。こね〜のかよ、と言わんばかりの愛らしいジト目が冬の灯りできらきらして、そんなところまで犬らしい。
『まて』をさせたまま横並びに追いつくと、嬉しそうに鼻を鳴らして大股歩き。
「寒くなかったかえ」
「別に」ツンと上向けた鼻は赤い。
「テメ〜こそ風邪ひいてんじゃね〜ぞ。ライブ入ってんだからな」
「心配無用じゃ。我輩体調管理には人一倍厳しいからのう」
「……グラウンドで寝なくなってから言いやがれ」
見ておったのか、と聞けば気まずそうに目を逸らされた。
自慢の愛犬はとてもかしこい。
ふと、寒気がした。気のせいだろう。チェスターコートとマフラーを着込んだ零の身体は、北風すら抱けやしない。
……あるいは1匹のわんこなら、抱けるだろうが。
「くっつくんじゃね~よ、鬱陶しい」
「どうにも独り寝が堪えるようじゃ」
「あ?」
「なにやら寒気がするのう」
「……あったかい布団でしっかり寝やがれ」
「湯たんぽが必要じゃのう?」
この手みたいに、と17の手を握り返す。
湯たんぽいぬは顔まで熱したようだった。

メリークリスマスとか今そういうのいいから

「のうわんこ、何も良い事はないのじゃよ? お腹いっぱいだからお肉も奢れぬし、くたくただからおぬしの好きな演奏もお預けじゃ。スタフェスと打ち上げでクリスマスを満喫したおぬしと我輩はもはや家に帰って寝るばかり。残り半刻を同じ部屋で過ごすためだけに我輩を招くなぞ、まるで……まるで、」
そこから先は言わせなかった。俺様は『待ての出来ない駄犬』だから、告白も返事もすっ飛ばしてあんたの唇に噛み付いたんだ。嫌だった? ぜって〜嘘だろ。だってどこもかしこもフワフワのイチゴショートみたいに甘くて柔らかくて、あんたの舌は嘘みたいに蕩けてた。
なあ吸血鬼ヤロ〜、もっかいシたい。肉もセッションも今はいいから、焦がれたあんたと甘ったるいことして〜んだよ。ここならレオン以外見てね〜し、明日からは冬休みだし。明日は朝から晩まで肉もギターも吸血鬼ヤロ〜も全部ぜんぶ楽しんで、テメ〜の返事も聞くからよう?

 

※ ※ ※

 

(没文)

「のう、わんこ? 今おぬしが我輩を家に招待しても、何もイベントは起こらぬぞよ? お腹いっぱいだから肉も奢れぬし、くたくただからおぬしの好きなセッションも出来ぬ。本当に寝に帰るだけ、共に眠りに就いて日の出を待ち、共にクリスマスの朝を迎えるだけじゃ。それはまるで……まるで、」
そこから先は言わせなかった。告白も返事もすっ飛ばした俺様は、待ての出来ない駄犬だろう。だけど噛み付いた唇はとても甘くて、打ち上げのケーキに塗りたくったクリームを舐め取ったら今度は柔らかくて、飽きずに口の中までねぶり合ったコイツの返事は待つまでもなかった。
プレゼントを抱きかかえた俺様はその肩越しに夜道を見た。濃紺の世界に舞う雪があたりを白く染めてゆく。こんなにも美しい深夜だけれど、聖夜を祝う魔物というのもおかしいだろう。だから俺様は冒涜的なキスで呪ってやるのだ。ファッキンメリークリスマス。

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