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描写練習・鳥居

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朝から続いていた曇り空はここにきて大きく崩れ、生温い水の粒を住宅街に落とし始めた。
井戸端会議の主婦がパラパラと散ってゆく。庭のスズメみたいだと思っていたら、塀の上で日向ぼっこしていた猫まで身を起こした。俺達も帰路を急ぐことにした。
住宅街の、緩やかなカーブを描く道を小走りで行く。
「ツイてないのう」
朔間先輩がぶるぶる首を振ると、黒髪があちこちへ跳ね、死神の鎌のような毛先がコンクリート塀の灰色を切り取る。
その手には日傘はない。ちょっとそこまでだからと玄関の隅に置いたときは、ひと駅近く歩くつもりはなかったのだ。
俺だってなかった。ただ、何となく、たまのデートだったから、散策するだけじゃつまらなかったから、住んでる町を探検とかしたかったからだ。
発見は沢山あった。たとえば耄碌してるじ~ちゃんの、プラモとか並んだ駄菓子屋。よく吼える犬のいる屋敷。児童公園。置物かと思ったら店員だった古本屋。八百屋の隣に肉屋があって、コロッケがうまそうだったから2つ買って食べた。八百屋は毎週水曜日が安いらしい。
喉が渇いたから100円自販機でサイダー買って飲んでるときに雨がぽつぽつ降ってきて、さあおうちに帰りましょ。……って、小学生かよと思わなくもない。
でも、楽しかったからいいか。
「あ! 雨宿りできるぞい!」
俯いて雨に耐えていた先輩がそう叫んだのは、児童公園を通り抜けているときだった。
点在する遊具の奥、色あせたゾウの向こうを指差すと、
「鳥居じゃ!」
と俺を振り返る。そして鳥居にダッシュ。
「あ! おい、転ぶなよ!」
「平気じゃよ、これで止むまでここにいられ………いられない……?」
軽い足取りが赤い塊に近づくにつれて遅くなる。
先は読めていたが、朔間先輩と小さな鳥居に駆け寄ると、濡れた頭めがけて脱ぎたてのライダースを投げた。
先輩はスカスカの鳥居を見て呆然としていた。
「雨宿りできんのう……」  
ま、そりゃそうだよな。間隔を空けて並ぶ鳥居の、細い赤を眺める。
頬に雨が流れた。頭上と背後で雨が本降りになっていた。鳥居を囲む雑木林も役に立たず、根元の落ち葉が濡れ始めている。
鳥居の奥の社を見る。社? 祠? とにかく人ふたり分くらいの神様の部屋は格子で締め切られ、罰当たりなのを抜きにしても雨宿りできそうになかった。
神様はいいよな。
だからというか、まあちょっと、一瞬、邪魔するぜ。先輩の腕を掴むと、鳥居をくぐって社の前まで連れていく。
「ばっ、罰当たりじゃ……」
「大丈夫だろ。これくらい近所のガキもしてる」
ジャケットごと抱きすくめた先輩は、体は冷え切り、頬もしっとり濡れて震えていた。
目を逸らされる。
青ざめた唇は薄く開いて、熱い息を吐き出す合間に結ばれる。もの言いたげな紅い瞳が俺を見る。伏せられる。力を抜く。唇がほどける。
呼吸を奪う。


雨粒の隙間を縫って、朔間先輩の声が耳に染みる。
「罰当たりじゃよ……」
もう当たったから大丈夫。大丈夫じゃなかったが、雨はじきに止みそうだ。
耳を澄ませる。悪寒が背中と肩を撫でる音、100円自販機のサイダーの音。
中学生だったな、と探検の成果を振り返りながら、腕の中のぬくもりに浸る。

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ぶんぶん

ふたりで買い出しに出て、ハンズの商品棚をうろうろしていると、
「あ」
と短く鳴いて、晃牙は黙り込んだ。
自然と歩くのが遅くなったので、合わせてやりつつ顔を覗き込む。ゆるく跳ねた髪のかかる、柔らかそうな頬がゆっくり赤く染まっていく。
「どうした?」
「あ、ええと……」
晃牙の視線の偏る方にカートを誘導する。蛇みたいに歩くうちに、輸入雑貨コーナーに差し掛かった。視線をたどる。英国旗柄のクッション。俺がきのうまでいた国だ。よくわからないことが起きてよくわからないうちにみんなの仲が悪くなって、よくわからないから助けてほしい。そう言われて飛んだのだった。1週間。俺は俺様だからすぐに片付けて帰ってきた。晃牙に留守を守るよう言いつけておいた(そうすると喜ぶから)けど、これくらいなら現地に行かなくてよかったかなとも思いつつ、労をねぎらうのも飼い主の役目だと思ってこいつの好きそうな新譜をお土産に買ったのだった。
お土産?
「これ? ほしいの? 買ってやろうか」
「いいいいえ!」
手を伸ばして目の前まで持ってきてやったら、両手をぶんぶん振られた。
「そ、そ~いうのじゃ、ね~っす……」
足りなかった訳ではないらしい。
そのくせ、晃牙はコーナーから離れてもチラチラ後ろを向いた。明らかに後ろ髪を引かれている。
欲しいなら言って? いいいいいやいいっす!
「ん~? 変なヤツ」
イギリスならなんでも好きって訳じゃね~のかな。
後輩の好みをふんわり考えながら、棚の間に突っ込んでいく。

マーカーとか模造紙とか適当に突っ込んでレジに並んだ頃、ようやく晃牙が答えた。
「……その、朔間先輩の匂いがしたっす」
「ふ~ん? ……そうか?」
なるほど、と思って自分の腕を嗅いでみる。クッションの匂いはしない。
俺の匂いというよりイギリスの匂い?
聞くと、あ!と晃牙。
「そっすね! 朔間先輩の匂いじゃなくて、……先輩の、匂い……」
それきり黙りこくった晃牙の横で会計を済ませると、輸入雑貨コーナーに戻ってクッションを持たせる。買ってやるけど? わかったんでいいっす。
そう言うのに離れがたいらしい。
「お前、マジで犬みて~だな」
犬のくせに遠慮深いけど。
慌てて追いかけてくるので買い物袋を投げつける。ボール遊び。
俺が放り投げた袋を両手でキャッチして、大事そうに抱え込んで。そうして着いてくる晃牙の後ろで、見間違いじゃなければ銀の尻尾が揺れていた。


羽田空港の長い廊下を歩きながら、そんなことを思い出していた。
何年前の話だろう? 記憶が混濁しているから学院時代を思い出すのだ。俺は我輩で、我輩はスマートフォンを使いこなせるようになって久しい。でもロケ地の空気に頭まで浸かりすぎたから、日本に帰ってきた気になれないのだ。そういうところは年をとっても変わらない。
ふわふわした気分で踏んだ廊下が固い音を立てる。
帰りのゲートに辿り着くと、晃牙が仁王立ちして待っていた。
「おかえり」
しぜんなふうに抱き合う。挨拶のハグ。
「ただいま……うむ?」
我輩は固まる。しぜんなふうに離れようとする晃牙を引き留めて、確かめる。
「日本の匂い」
「あ?」
「これかぁ~……」
肩にしっかり鼻をうずめる。晃牙が跳ねる。
我輩の髪にも、晃牙の鼻が近づく。
晃牙お気に入りのフードの向こうで、ふさふさの尻尾が持ち上がる。

描写練習・川

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 ※

橋の上、先輩が先を歩く。俺が着いていく。先輩の日傘の影が俺の行く先を塞いでいるような気がした。勘違いだと思いたかったが、それでもう2歩分あいている。
告白なんてしなけりゃよかった。
俺が溜め息をつくのと、朔間先輩が欄干に寄りかかったのとは同時だった。
「晃牙、ごらん」
先輩は日傘の下から、欄干の向こう側――橋の下を通り、遠くに延びてゆく川の流れを指さしていた。
横に立って同じ景色を見た。横にといっても、1人分の距離を置くのは忘れないけれど。
そうして、なんてことない川だな、と思った。
西日が土手に遮られ、川に大きな影を落としていた。仄暗いその中で、小さくて浅い川が土手の間を緩やかに流れている。川底の小石で水面を波打たせながら、さみしげな音を立てて、どこか知らない場所へと。緩やかに弧を描き、終端は見えない。
小川に寄り添うように、右の土手で並木が生い茂っていた。そうして静かな水面に頭を垂れていた。あの木の陰で遊んだらたくさん魚がとれるだろうな。似たようなことをしたと思い出して、懐かしくなる。朔間先輩も俺も高校生で、俺が意地を張っていた頃の夏の思い出。
水しぶきの鮮やかさも肌を焼く太陽の激しさもここにはない。もう何年か経った、穏やかな秋の午後。
まだ俺は意地を張っているのだろうか。先輩に断られても泣いて縋って、朔間零の傍にいたいと言えないなんて。
「それでいいんじゃよ」
そう声がして、振り向いたときにはいなかった。
それが最後だった。
川のせせらぎと風が並木を揺らす音とが、鼓膜を甘く撫でていた。

 

お題写真
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隠される

髪のびたな。そうじゃな。いつもどこで切ってんだ。なんか、適当なところで。じゃあ俺の通ってるとこ来いよ。

「髪お綺麗ですね~」
事前診断の台で手櫛を通されながら、朔間先輩は控えめに微笑んだ。
「ありがとうございます、いちおう夜闇の魔王なので」
朔間零の笑顔にサロンの空気が1℃上がる。
なんとなく前髪を直した。後ろで俺の担当が笑った。俺は前髪を切りに来て、朔間先輩が先にシャンプー台に連れていかれた。

いつもの感じでお願いします。そう言ってから、やっぱり後ろも切ってもらうよう頼んだ。理由は言わなくても伝わったらしい。
心置きなく視線を左にやった。左、つまりひとつ隣の席で黒髪が断たれていく。
「この前のツアコン最高でした。ドラマで大変なのに、本当にすごいです」
「あはは、ありがとうございます。実はけっこうあっぷあっぷしてました」
「ええ~見えなかったですよ!」
スタイリストの熱い視線が注がれている。アシスタントのもだ。
やっぱりかっこいいっすね、とは俺の担当の談。そうだろそうだろ!
「髪って男の人にとっても命ですよね。朔間さんの髪、照明にあたって輝いてました。すごく綺麗……」
「食事に気を付けた甲斐がありましたね」
「やっぱり気を遣われてるんですね~」
刃の擦れ合う音をBGMに、先輩の回りを黒い花びらが舞う。
朔間先輩の髪は切られても綺麗だった。はらはらと、墨染の桜のような美しさ。
見とれていると、先輩の担当が俺の方を見た。
「……大神さんも気になります?」
「へっ?」
「気になるんだろ、晃牙」
朔間先輩が鈴の鳴るような声で笑って俺を見る。

俺は整えるだけなので早く済んだ。
ワックスつけます?お願いします。手慣れた指先が白いクリームを掬い、毛束を摘まんで立たせる。掬って摘まむ。無造作ヘアは、作られる。
「乾かしてから前髪切りますね~」
温風が朔間先輩の頭を襲う。指でかき混ぜて、根元から乾かす。
先輩の髪がつややかに舞う。白いうなじの上で死神の鎌のような毛先が跳ねている。ショートヘア。
えっ。
朔間先輩が俺を見た。はっとして、俺に笑いかけてから鏡に向き直った。
「前髪、やっぱり長めでお願いしていいですか?」
「大丈夫ですよ~」


帰り道。河川敷を、なんとなく一列になって歩く。
川は静かだ。空の薄藍色を溶かしたような色が、枯れかけた野草の間を億劫そうに流れていく。
「晃牙、晩はピザとろう」
先輩が振り向く。眉の下で揺れる前髪。
夕焼け色の瞳は笑ったままだ。
「スペシャルマルゲリータとダブルミートのコンボじゃ」
剥き出しのうなじはこちらから見えない。
風が冷えている。

不死者青春ラジオ局

千夜一夜めちゃくちゃおもしろかった……

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夏の香りのする傍まで

晃→零補完

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今の晃牙くんでディープキス初体験する五奇人零くんの話

~これまでのあらすじ~
 ある日とつぜん過去からやってきた五奇人・朔間零。同じようにタイムスリップ(?)してきた零達と同様、彼も晃牙と零の家に居候することになった。持ち前の適応力で現状に慣れると思われた五奇人零だったが、他の零たちがそれぞれの恋人を今の晃牙に重ね合わせて抱かれている状況に耐えきれず……。
~あらすじおわり~

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ノーバレットはノーライフ

 網が焼けるか肉が先に届くか賭ける間もなく白飯が届き、相手に促されてタレで1杯目を食べることにする。
 茶碗の底が見える頃には肉が所狭しと網に並んだ。銀色に輝くトングで生肉を敷き詰めたのは朔間先輩だった。黒のポロシャツを汗で湿らせて、網から立ち昇る熱と煙にヒイヒイ言っている。
 汗ばむ喉の白さをオカズに山盛りを完食、お代わりする。入れ替わりにジョッキが2杯やってきた。ウーロン茶をなみなみと注がれている。受け取って乾杯。
「誕生日おめでとう」
「おう」
 誕生日だ。
 お祝いしようぞ、たらふくお食べ、トップアイドルの我輩の奢りじゃ遠慮するでない。そう矢継ぎ早に言われて連れてこられた。晃牙はかろうじて一言声を挟めただけだった。そうしてねっとり纏わりつく夜風の間を縫うようにふたりは焼肉屋に来て、おすすめセットの大盛りを頼んで焼きだした。
 にっこり笑って向かいの席でウーロン茶を飲む先輩の、青白い喉が晒されている。
「焼けたぞい」
 トングの先が肉を掴んで晃牙の皿に積み上げた。全部タレに漬ける。ジュワッ。5枚それぞれが油にまみれて輝いていて、タレと馴染んで食欲をそそる。
「今度はみんなで来ようぞ、晃牙」
「そうだな」
「ちょっと頼みすぎたかのう?」
「んなこたね~だろ。つかあんたも食えよ」
「おぉ、ありがとう。相変わらず優しい子じゃな」
 そのときトングにつままれ震えた肉が網を下まで油を落とし、ふたりの間が燃え盛った。
「うぐ、煙いのうっ?」
 朔間先輩は体を折って咳き込んだ。煙がもうもうと立ち込め真上の換気扇に吸い込まれていく。「先輩、わりぃ」「いや、おぬしは大丈夫か」「俺は平気だぜ」「そうか、ごほっ、けほけほっ」
 すまないと詫びた晃牙は先輩の背中をさすりに行けず、代わりに煙の向こうから先輩の汗ばむ横顔を見つめ尽くす。
「けほっ、ん、はぁ……っ、あ! 焦げておるぞ! ほれ晃牙、黒くなったのはこっちにおやり。我輩のと交換じゃ。……晃牙?」
 晃牙は頷いて手を伸ばした。胸が痛むのを隠しながら。
 ……朔間先輩は知らないだろう。軽音部の面子全員で行くはずだった焼肉に、ふたりきりがいいと言った真意を。
 朔間先輩には思いもよらないだろう。まだ生のままの牛肉に、先輩の腰のラインを重ねていることを。
 先輩の腰が血に濡れて輝いている。しかしそのなまめかしさは煙に隠れて見えにくい。しっとりした肉の曲線が大皿の上で倒れ伏しているのを、晃牙はウーロン茶の陰から盗み見た。
 

「なあ、ここ結構きてんのか?」
「うむ? そうさのう、薫くんとかと」
「そっか。そうだよな」
「おいしいじゃろ?」
「そうだな」
「本当にのう……」
 零は晃牙の目を盗んだ。
 零は晃牙の目がギラギラと獰猛なことに気づいている。獲物を狙う獰猛さで、焼肉会が終わるや否や零を襲って食べてしまうつもりであると知っている。サンチュのように波打つシーツに辿り着こうと舌舐めずりをしていると、晃牙の油で濡れた唇を見て解った。
 零は気取らずにトングを操った。肉をよそい、空いた場所に赤身をじゅっと焼き付かせる。本当に気取らせなかっただろうか? 零が肉を裏返すとき、薄いポロシャツをたくし上げた気分だったと晃牙はわかっただろうか?
 迷いは手元に出た。トングが手から離れた。追いかけた手の甲に別の手の平が重なった。晃牙の、汗ばみ冷えた掌が、零の素肌に縋り付いた。
 それだけで充分だった。


 目を合わせると黙々と肉を焼いた。赤身の残るうちから口に放り込んだ。どちらが早く食べ尽くすか、晃牙の自宅に何秒で着けるかふたりきりで争っていた。

 

独占権主張ちゅう

 8月末の夕方の雰囲気が好きだ。
 薄水色の空に溶け込むあいまいな雲。もう少しだけ昼までいたがるそれは穏やかでちょっと哀愁漂ってて、80年代ロックという感じがする。きつく吹く風は秋そのものみたいに涼しいし、なぜか10時のオヤツに出てくるパンの匂いがする。10時のオヤツのパンとは、そういうパンだ。食パンでも菓子パンでもない、大人の手のひらサイズの色白のパン。
 思い出すと食べたくなった。頼りない甘さの素朴な味だった。10時のオヤツは中学校に上がるとなくなってしまったので、かれこれ10年近く食べていない気がする。
 無意識のうちにオヤツのパンの口をした晃牙の唇に、ふかふかの何かが当たって離れる。
 ちゅっ。
「晃牙、ひま」
 ふかふかの正体は朔間先輩。
 の、唇だった。
「……っ、なんだよ、先輩」
 急に現実に引き戻されて、晃牙は慌てて格好をつけた。
「じゃから、ヒマ」
 朔間先輩は晃牙のカッコつけを見透かすように頬にキスした。ちゅっ。続けてちゅ、ちゅっと首筋にもいくつか落とし、甘いくすぐったさが肌に残る。
「これっ」
先輩が晃牙を怒ったのは仕返しに甘噛みされたからだ。しかも喉。謝る代わりに舐めると仰け反って、あ、と声帯を震わせる。捕食される間際の恍惚に似た嬌声。
興奮して喉が渇いた。座卓の上のコップを取ろうとして横取りされる。「このっ」のせられた晃牙が朔間先輩を押し倒すと、桃色の唇はつんと尖って晃牙を待った。潤んだ目で見つめられる。
「こうがぁ」
 誘ってんのか。晃牙は胸をせつなくしながら顔を近づける。
 きゅっ。
 ……きゅっ?

「おなか、鳴ったのじゃ」
 見下ろした朔間先輩は恥ずかしそうにお腹を撫で、晃牙の下からそそくさと抜け出した。晃牙が呆然とする間に台所に行って冷蔵庫の中身を物色する。
「何もないんじゃけど。……っおぉう!?」
 ふくれっ面で晃牙に抗議した朔間先輩は、抱きすくめられるとすぐに目尻を蕩けさせた。晃牙と向かい合ったまま、おずおずと背中に腕を回す。
「すまんのう、慣れないことしたようじゃ」
「パン相手じゃしまらね~な」
「ぱっ……早く言わんか!」
「いてててて」
 絞め殺すのは勘弁してくれ。言おうとして、キスで唇を塞がれた。
 甘い。おもわず緩む口元。「我輩だけでよいのじゃ」強気の舌が捩じ込まれた。

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