お前がパパになるんだよ!
「ややこができたのじゃ」
馬鹿なことを言うものだと、晃牙は零の顔から視線を落として目を見張った。
薄いはずの腹が膨らんでいる。赤子ひとり入るには小さすぎるが、生命を宿すには十分な大きさだ。零の両手に大事そうに抱えられ、ベストの合わせ目から覗いている。
「わんこのややこじゃ」
俺様がパパか。多幸感あふれる零の笑顔を見てから二度見すると、なるほど愛おしさが込み上げる。
「……名前」
「うん?」
「名前、考えるか」
かっこいいのが良いなと呟いたら、零が笑って、大きなお腹がぽこんと蹴られた。「ややこは女の子かもしれんのう?」
晃牙は受け入れた。できたんなら仕方ない。この歳で学生結婚するとは思わなかったがママと子どもと3人で仲良くやれるだろう。未来のことも、自分はともかく零は早めに産休をとらせよう。ハロウィンまでには生まれるだろうか。子どもに見せる初めてのライブが零の心待ちのS1だなんて嬉しい誤算だ。こんなに元気にお腹を蹴るのだから、寒くなる前に生まれるかも…………にしてはなんだかお腹を蹴りすぎやしないか?
「あっこれ、予定日はまだじゃ、あっ、ああ、あー」
はたして零のシャツの裾から元気に生まれてきたのは前足の大きなコーギーだった。
「あああ……せっかく寝ておったのに……」
わらわらと部室を駆け回るコーギー2匹を回収すると、零は肩を落としてネタばらしした。親戚が飼い始めて1週間たらずで急な用事に家を空け、子守を一任されたらしい。
「リッチ〜は」
「『コーギーの飼い方よく知ってるでしょ?』って……」
なるほど月光色の毛並みなんかは晃牙の弟と言っても不思議でない。俺様は狼だ、と言い返すには幼い姿に心惹かれ、晃牙は1匹だけ抱かせてもらった。あたたかい。悪くない。
「ガキも悪かね〜けど、まだいいだろ」
新婚だし。
そうこぼして不覚をとるはずの唇は、子どもの真上で零の唇に塞がれた。