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秘すべき醤油ラーメン

※「秘すべき袋めん」ってタイトルにしようと思って最初に思いついたのが「秘封醤油ラーメン」だったけど秘封はそういう意味じゃなかった

 

 

おぬしはチャルメラ、我輩はチキンラーメン。たまごポケットには落とし卵ひとつ。
「それで『ヒヨコさんが可哀想です~』とか言いやがったらぶっ飛ばすかんな」
「なに訳のわからんことに毒されておるのじゃ」
「……合コンでそうほざいたヤツがいやがったんだよ」
深夜にほど近い11時、大神宅。
肩を落として帰宅した愛犬に即席ラーメンを振る舞って、零は恋人を慰めた。
ぽつりぽつりと零された話を聞くに、ファンク・ロック好きの飲み会に誘われて行ったらただの合コンだったらしい。
「だいたいおかしいと思ったんだよ」
青い方の箸を受け取りながら、晃牙が吐き捨てる。
「ブリティッシュ・ロックが好きだっつってんのに『ファンクで集まるから来い』とか。まあたまには新規開拓っつ~の? 凝り固まるのもよくね~かなって行ったのによ……」
「それでムシャクシャして一杯引っ掛けて帰ったのじゃな」
「おう……」
少し伸びた麺を乱暴に啜ると、付属のスープのささやかな油分が憂い顔を映して弾けた。
「問い詰めても悪びれね~し。『だってカノジョいないだろ?』って」
「あ~……」
カノジョはいない。いることにするのは、晃牙の誠実さが許さなかった。
それでも優しいギタリストは途中まで参加して、割り切れない気持ちを抱えている。
「合コンなんてよう……」
「うむ」
「はあ~……」
「よしよし」
「子供扱いすんじゃね~よ、チクショウ」
「あ、これ……ん」
隣から抱き寄せられ、ままならなさへの苛立ちをぶつけるように体をまさぐられて、零は声を湿らせた。絡めた舌は醤油ラーメン味と発泡酒味、つまり庶民の味だ。酔っ払いの指先で拙く愛撫されても、愛され慣れた肌は快楽を思い出す。
「馬鹿者……我輩お手製のラーメンじゃぞ?」
腰骨をなぞる指に左手を重ねてあやすと、晃牙はしぶしぶといった様子で箸を構え直す。
「ううう」
「ほれほれ、伸びきるぞよ~」
おぬしの零は逃げぬからな……。
そう囁くまでもなく晃牙が汁まで飲み干すのを、零はじっと見つめていた。アルコールに浸した舌には絶品らしい。プラスチックのどんぶりを置いて息を吐く横顔に、零はいつも魅せられる。
「おぬしチャルメラのCMに出るのはどうじゃ?」
「出てど~すんだよ」
「伝えるのじゃ。『恋人と食す深夜のラーメンは至高の味だ』と」
それじゃスキャンダルになるじゃね~かと笑う横顔に、一抹の寂しさが滲んでいた。

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