今の晃牙くんでディープキス初体験する五奇人零くんの話
~これまでのあらすじ~
ある日とつぜん過去からやってきた五奇人・朔間零。同じようにタイムスリップ(?)してきた零達と同様、彼も晃牙と零の家に居候することになった。持ち前の適応力で現状に慣れると思われた五奇人零だったが、他の零たちがそれぞれの恋人を今の晃牙に重ね合わせて抱かれている状況に耐えきれず……。
~あらすじおわり~
「俺とはこういうことしね~のかよ」
と、寝室に踏み込んで言うと、晃牙はショックを受けた様子で俺を見やがった。
「とうとう昔の我輩も房事に興味を持ったようじゃのう~?」
「そうなのか、じゃなくてそうなんすか、朔間先輩……」
「ちげ~よ!」
パンツだけ穿いた晃牙がふらふらと腕を伸ばして来るのを、俺は身を引いてかわした。青ざめた犬顔が明らかにホッとする。
こっちはムカついた。俺がセックスとか考えちゃダメなのかよ。
「でもこやつも我輩じゃよ?」
今の俺が代弁する。
「……裸だけど良いこと言うな、未来の俺」
「まあ昔の我輩の考え方なんぞ手に取るようにわかるし。房事に興味がなくとも人から愛されることに興味はあるじゃろ? しかもいっとう可愛がっていた後輩に、我輩たち全員が啼かされておるのじゃから。はたしてどれほど気持ちよいものか、どれだけ愛してもらえるのか……気になって仕方ないじゃろう?」
「……ッ」
ごくり、と晃牙の喉が鳴ったのがわかった。
熱い視線が俺の体に絡みつく。さっきまで未来の俺に注がれていた、熱に浮かされたような欲望まみれの視線。見られたところからゾクゾクして、蕩けそうな感覚が俺を襲う。
キス以上のことされたら、俺、どうなるのかな……。
そう考えて気づいた。俺、まだキスまでしかしてない。
「晃牙。舌入れるやつ、やっておやり。いきなりまぐわうのは、昔の我輩には刺激が強すぎる」
「……いいのか? 先輩」
「イイから来てんだろ……なんか、後輩とそういうことすんのって変な感じだけど」
舌入れるやつってなんだよディープキスのことかよ。内心焦る俺の手を、晃牙がベッドまで引く。
視界の真ん中で前髪が揺れた。やっぱり鬱陶しい、帰ったら(戻れたら)切るか……と掻き上げた瞬間、視界いっぱいに晃牙の顔が映った。
「っ! ん、んんっ!?」
キスされた。唇を合わせるくらいどうってことない、なのに勢いが怖くて離れようとしたら後頭部を押さえつけられて、キスの角度を変えられる。
「んぅ、ん、くう……っ!」
柔らかくて強引な唇が、何度も俺のを挟んで擦り合わせてくる。緩急つけて、唇を味わうみたいに。揉み合ううちに前髪が下りて俺と晃牙の鼻筋の間で擦れても、晃牙は気にせず俺を奪う。
不意に何かが匂った。唇を離した瞬間に遠ざかり、また濃くなる。その繰り返し。甘いような鼻につくような不思議な匂いに、俺だけが妙に気を取られる。「んンっ」晃牙の濡れた唇が脳裏にちらついて、ふと匂いと結びついたとき、顔が熱くなるのを感じた。――未来の俺の、唾液の匂いなんだ。
「晃牙……っ!」
「ん? ――うわっ!?」
何かに駆り立てられて、俺は晃牙を押し倒した。未来の俺のすぐ横、空いたシーツの海に沈んだ晃牙の唇に噛み付く。
「ん、ぁむ、はむっ、んちゅぅっ」
「うぁ、朔間先ぱ……っ!?」
俺の奇襲に動揺すると、晃牙の唇はおどろくほど柔らかくなった。そこへ見よう見まねで唇を押し付ける。挟んで擦って角度を変えて、小さく出した舌で舐めると歯止めが利かなくなってむしゃぶりつく。
晃牙が目を白黒させてる。愉快だ。甘噛みすると晃牙がビクンとなった。未来の俺の匂いをつけて平然としている晃牙が! ますます愉快になって晃牙の胸に体重をかける。
このとき。調子に乗った俺は、晃牙の指が俺の前髪を掻き上げても、あぁ邪魔なんだろうなかわいいなくらいにしか思わなかった。馬鹿なヤツだ。直後にその手が頭頂から後ろに滑り下りて俺の頭を引き寄せても、だから俺は――
「ンうぅ!?」
唐突に捩じ込まれた舌に、怯えるほかなかったのだ。
「ひっ……ぃあ……っ」
熱い。ヌメヌメして、太くて生ぬるくて芯を持った舌、晃牙の舌が、俺の口いっぱいに突っ込まれてる。意思をもっていた。口の中を犯す目的で侵入した舌が、俺の歯の裏を、内頬を、顎裏を擦るたびに、甘い痺れが脳を直撃する。頭の後ろの方がジンジンと熱くなって、晃牙のことでいっぱいになる。
自分が未知の感覚に恐慌状態に陥っていたことは、後からわかった。このときの俺は、晃牙の舌に丁重にお帰りいただくことしか考えていなかった。なるべく歯を立てないように、刺激しないように、体の力を抜いた。晃牙の胸に凭れ掛かって、歯を引っ込めて、口をオの形に窄める。後頭部に添えられた手が離れるのを感じて、俺は頭だけ浮かせた。
晃牙の舌は、奥からゆっくりと遠ざかった。
「はぁ……」
怖かった……。ほっと息をつこうと緩めた口は、けれど
「んぶっ!?」
もう一度舌を捩じ入れられる。
「アっ、お、うむぅ……っ!」
勢いをつけて舌が抜き差しされるに至り、俺はようやく失策を自覚した。
口を窄めて、それも舌の太さにぴったりと合わせて差し出すなんて、フェラチオ同然だったのだ。したこともされたこともないけど知識だけは知ってた。だから身構えるべきだったのに、俺は晃牙の舌を性器に見立てて奉仕するよう振る舞ってしまったのだ……。
唇が擦られてジンジンする。吸いきれなかった涎が結合部から溢れて、泡立てられて顎を伝う。妙なところで優しい晃牙が下に落ち切る前に涎を舐め切ると、また俺の口の中に戻って来る。
「んんぁ、はっ、こが、んくぅ……っ」
すき。晃牙が好き。思いもよらない言葉が脳裏に浮かんだ。酸素不足の脳が朦朧となって勘違いさせたに違いなかった。だって俺はみんなが好きだったから。学院のみんなが、世界中のみんなが好きで、みんなを愛してるから。
なのに、好きな気持ちが口から溢れそうだった。こんなにきもちいいことしてくれる、こんなに愛してくれるやつは、はじめてで、おれ、すげ~よくて、すきでもあいしてるでも、ことばにできそうだった。
すき。こうがすきだ。もっとして、したをかんだり、くちびるをなめたりして。のどのおくまでつっこんで、おれのことこすって――
「さあ、お終いじゃ!」
――終幕は突然だった。
「これ晃牙、がっつきすぎじゃ。昔の我輩が困っておるじゃろう」
「……っ、そ、そうだったな! ごめん先輩、夢中になっちまった」
首根っこを掴まれた俺はベッドの端に座らされて、同じく反対側の端に正座させられた晃牙が未来の俺に睨まれている。
晃牙は、俺の方を申し訳なさそうに見ると、しゅんとうなだれた。「我輩の初めてもそうじゃったのう」「悪ぃ……」
叱られた子犬みたいに落ち込む晃牙のつむじを見ながら、俺は未だドキドキする胸を手で押さえた。熱かった。夢のような感覚、ふわふわして天井の見えない気持ちよさが、脚の爪先まで広がって痺れていた。
「物欲しそうな顔、しておるのう」
はっと顔を上げると目が合った。未来の俺が俺を見ていた。
「晃牙は、我輩の獲物じゃからな」
「……わ~ってるよ、俺」
紅い双眸から、目が離せなかった。
仄暗い炎……どこまでも人間くさい怪物の嫉妬が、瞳の奥を燃やしていたから。
その後……晃牙はお仕置きと称して居間の棺桶に閉じこめられ、一緒に閉じこもった未来の俺の嬌声が夜中じゅう廊下に響き渡っていた。
陶然とした瞳の他の『俺』達が寝室で自慰に耽る中、俺は居間の扉の前に座り込み、中の宴に思いを馳せた。廊下は冷たい暗闇に満ちていた。
――晃牙のあんな顔、俺は知らない。
可愛い後輩の見せた雄の顔が、頭の中から消えなかった……。