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描写練習・鳥居

文章書きに送る50枚の写真お題(http://petit.hotcom-web.com/50photo/)





朝から続いていた曇り空はここにきて大きく崩れ、生温い水の粒を住宅街に落とし始めた。
井戸端会議の主婦がパラパラと散ってゆく。庭のスズメみたいだと思っていたら、塀の上で日向ぼっこしていた猫まで身を起こした。俺達も帰路を急ぐことにした。
住宅街の、緩やかなカーブを描く道を小走りで行く。
「ツイてないのう」
朔間先輩がぶるぶる首を振ると、黒髪があちこちへ跳ね、死神の鎌のような毛先がコンクリート塀の灰色を切り取る。
その手には日傘はない。ちょっとそこまでだからと玄関の隅に置いたときは、ひと駅近く歩くつもりはなかったのだ。
俺だってなかった。ただ、何となく、たまのデートだったから、散策するだけじゃつまらなかったから、住んでる町を探検とかしたかったからだ。
発見は沢山あった。たとえば耄碌してるじ~ちゃんの、プラモとか並んだ駄菓子屋。よく吼える犬のいる屋敷。児童公園。置物かと思ったら店員だった古本屋。八百屋の隣に肉屋があって、コロッケがうまそうだったから2つ買って食べた。八百屋は毎週水曜日が安いらしい。
喉が渇いたから100円自販機でサイダー買って飲んでるときに雨がぽつぽつ降ってきて、さあおうちに帰りましょ。……って、小学生かよと思わなくもない。
でも、楽しかったからいいか。
「あ! 雨宿りできるぞい!」
俯いて雨に耐えていた先輩がそう叫んだのは、児童公園を通り抜けているときだった。
点在する遊具の奥、色あせたゾウの向こうを指差すと、
「鳥居じゃ!」
と俺を振り返る。そして鳥居にダッシュ。
「あ! おい、転ぶなよ!」
「平気じゃよ、これで止むまでここにいられ………いられない……?」
軽い足取りが赤い塊に近づくにつれて遅くなる。
先は読めていたが、朔間先輩と小さな鳥居に駆け寄ると、濡れた頭めがけて脱ぎたてのライダースを投げた。
先輩はスカスカの鳥居を見て呆然としていた。
「雨宿りできんのう……」  
ま、そりゃそうだよな。間隔を空けて並ぶ鳥居の、細い赤を眺める。
頬に雨が流れた。頭上と背後で雨が本降りになっていた。鳥居を囲む雑木林も役に立たず、根元の落ち葉が濡れ始めている。
鳥居の奥の社を見る。社? 祠? とにかく人ふたり分くらいの神様の部屋は格子で締め切られ、罰当たりなのを抜きにしても雨宿りできそうになかった。
神様はいいよな。
だからというか、まあちょっと、一瞬、邪魔するぜ。先輩の腕を掴むと、鳥居をくぐって社の前まで連れていく。
「ばっ、罰当たりじゃ……」
「大丈夫だろ。これくらい近所のガキもしてる」
ジャケットごと抱きすくめた先輩は、体は冷え切り、頬もしっとり濡れて震えていた。
目を逸らされる。
青ざめた唇は薄く開いて、熱い息を吐き出す合間に結ばれる。もの言いたげな紅い瞳が俺を見る。伏せられる。力を抜く。唇がほどける。
呼吸を奪う。


雨粒の隙間を縫って、朔間先輩の声が耳に染みる。
「罰当たりじゃよ……」
もう当たったから大丈夫。大丈夫じゃなかったが、雨はじきに止みそうだ。
耳を澄ませる。悪寒が背中と肩を撫でる音、100円自販機のサイダーの音。
中学生だったな、と探検の成果を振り返りながら、腕の中のぬくもりに浸る。

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