不死者青春ラジオ局
千夜一夜めちゃくちゃおもしろかった……
「それでは1通目のお便り! P.N.チベットスナギツネさんから♪
『UNDEADのみなさん初めまして、いつも楽しく聞かせてもらってます。
この間の放送で勇気をもらって告白したら、憧れの先輩と付き合うことができました! ありがとうございます♪』
いいね青春だね~♪」
不死者青春ラジオ局
「はい、ということで今日のテーマは『恋愛トーク』。アドニスくんは恋の思い出とかある~?」
「こ、恋!?」
くすりときちゃう小粋なトークをいきなり振られ、アドニスは椅子を揺らして立ち上がった。
「そうそう、初恋の人とか失恋の思い出とか♪」
無茶振りした本人は気にせず続ける。スキャンダルにならない範囲でと付け加えて。
難しすぎるオーダーに、同輩で真向かいに座る晃牙が擁護する。
「いや無茶振りすんなよ、アドニスにゃ恋とか縁遠いだろ」
「そんなことないでしょ~、男なら恋のひとつやふたつするって!」
「テメ~は100個くらいしてんだろうが、アドニスは俺様と同じ硬派なんだよ。なあアドニス?」
「幼稚園の先生と……」
「ってまたマニアックだな!」
大げさに驚いて青くなる晃牙。感心した様子の薫も「全男子憧れシチュじゃん……やるなぁ」とこぼす。
と、アドニスが首を振る。
「いや、幼稚園の先生が初恋の人だと聞いてな、友人に。そういうものなのかと」
「それ神崎くんじゃろ」
「! ……さすが朔間先輩だな」
オープニングから黙りこくっていたユニットリーダーがようやく口を挟んだのを、3人は驚きと感嘆(と胡乱げ)の目で見つめる。
UNDEADユニットリーダー……零は指揮棒代わりのフライドポテトを振り回して言う。
「というか何故マックでスキャンダル直結のテーマを練習するのじゃ。おぬしらは中学生か」
――I'm loving it.
言われてみるとそうだよな、と晃牙とアドニスは赤い店内を見回した。
赤い――イメージカラーで溢れた6時前の店内に、なぜか女性がたくさんいる。男性もいるにはいるが、近くの女子高の制服、ひと駅隣の共学のセーラー服、ちょっとオシャレなワンピース、とおんなのこの服が目を引く。偶然ひとりと目が合って、見つめられた少女はぱっと目を逸らして仲間の少女達と騒ぎ始めた。アイドルと目合っちゃった!ヤバイ!LINE聞いてきなよ、ユリコかわいいしいけるよー!
「大神、俺たちはヤバイのだろうか……」
「ああ~……いや、ヤバくね~よ……たぶん」
「やっぱ場所変える?」
肩を寄せ合って囁く後輩を横目に、薫がリーダーの指示を仰ぐ。
「ここに寄ると言ったのは薫くんじゃろうに……よそ行っても同じではないかえ?」
「それもそうだよね~。それじゃアドニスくん、続き」
アドニスはハンバーガーでむせた。
「……! ……!!」
「大丈夫? 水いる?」
「って、テーマは変えんのかい」
「苦手な話題を克服しなきゃ意味ないでしょ~? ちなみに俺は得意っ♪」
「じゃろうな……」
「朔間さんも意外と苦手っぽいよね~。晃牙くんは? ……いくらでも語れるか」
薫が零を見る。
「頭かち割って診てやろ~か」
晃牙はナゲットを噛みちぎり、咀嚼したものを嚥下してから唸った。育ちが出ている。
「俺とコイツがデキるとか天地がひっくり返ってもありえね~よ。だいたい吸血鬼と狼男って天敵だし。……おいちょっと悲しそうにすんのやめろ、チャラ男どころかアドニスまで誤解すんだろ!」
「朔間先輩と大神は恋人同士なのか?」
「ほら勘違いしてんだろ~~~~~」
遠吠えが小粋なBGMを掻き消した。
晃牙が慌てて周囲を見回すと、ユリコ達含む女性グループは軒並み黄色い悲鳴を上げ合っている。
苦虫を噛み潰した顔の晃牙に、ハンバーガーを食べ終えた零が自分のポテトを勧めてやる。
「わんこどうした? 舌でも噛んじゃったかのう?」
「誰のせいだよ……」
「ホントに付き合ってないの? 大丈夫だよ、俺たち偏見ないし」
「何度同じ会話したらわかんだよ! 付き合ってね~し!」
「ホントに~?」
「…………ッ!」
「羽風先輩、俺の国では恋をしている余裕がなかった」
はっ、と3人が固まる。
「だから、これからしようと思う」
「いやいやいやいいけど俺ら恋愛御法度だからこっそりね!?」
「テメ~ほど説得力ね~やつもいね~よ」
「恋は落ちるものじゃよアドニスくん……およ? ポテトがないぞい?」
「俺様の前にあるのがテメ~のだろ。買いに行ってやるから話題変えとけよ! クソ先輩ども!」
4人分のポテト(すべてM・2箱目)を載せた晃牙が席に戻ると、薫はさっそく話題を変えた。
「そういえば体育祭どうすんの?」
「どうって……ライブやんのか!?」
「いやいや、そうじゃなくてエントリー状況。軽音部はともかく陸上部と種目被んのやだな~って」
「随分と舐められてんじゃね~か……」
がうがうと威嚇する晃牙は軽音部だ。零も同じ。アドニスは陸上部所属で、薫は海洋生物部に籍を置いている。
海洋生物部は運動部でもなければ競走の得意な部員もいない。先ほど名前の出た神崎は部員で武道を嗜むが、剣道なので走らない。
「わんこ、リレー出る?」
「と~ぜん!」
「だ、そうじゃ♪」
ほくほくのポテトにケチャップをつけてひと齧りする零。バトンに見立てたそれを見て、しかしハッと思い出す。
「けど我輩走れんから、なんとかよろしく頼むぞい? ……なにショック受けておるのじゃ」
「バトンタッチしたかったんだねぇ……青春青春」
「したかね~し! フン!」
「陸上部も出るだろな、間違いなく」
しょげかえった晃牙の両目がキラリと光る。
「おうおうアドニス、俺様に勝てると思うなよ? 派手に蹴散らしてやる」
「場内乱闘はルール違反だが……負けるつもりはない」
「こっちのが青春じゃのう~? 善哉善哉」
「熱血は苦手だな~……」
ここでふと黙り込むと、まわりの客の囁き合う声が聞こえてきた。夢ノ咲も体育祭やるんだって、いつだろー? 入れるかな?
入れない。が、番組公開録音の気分になってきたので告知したくなる。
「体育祭はもうすぐだけど、一般入場ないからつまんないよね~? 俺の活躍見てもらいたいのに」
え~、残念。
「……ここであの子らに番号渡しに行ったら駄目じゃよ。わかっておるな?」
「ようやく真面目になってきたと思ったのによ~。羽風……先輩は相変わらずだな」
「男に養豚場の豚を見る目されても傷つくだけなんですけど!」
「いや、羽風先輩は一般客の不法侵入を牽制しているだけだ。さすがだな」
「不純な自分が恥ずかしくなるなぁ」
「不純と言えば……わんこや」
色気のある声に晃牙はもちろん薫とアドニスまで肩を跳ねさせた。
視線が集まる。
「化学の濾過実験、もうやったかえ?」
「はあ~~?」
「なんじゃ薫くん、おぬしの方がよほど酷い目をしておるぞ」
「いやそういう前振りじゃなかったよね? わんちゃん真っ赤なんだけど!」
「赤くね~よクソが、っつか紛らわし~んだよ!」
「???」
「ほらアドニスくんも照れてんじゃん……ちょっと朔間さん~」
「むう……訳わからんのじゃ」
ずぞぞぞぞ、とストローを啜る。
「濾過実験なら昨日やったし大成功だったよ! それがど~した!」
「えっ? 本当に?」
「化学ってまだ◯◯先生じゃろ? 何事もなかったのかや?」
「たかが濾過で爆発とかしたらやべ~だろ。アドニスんとこもだろ?」
「あぁ。うまくいった」
零と薫は顔を見合わせた。
「うっっっそだ…………ええ…………無理…………」
「我輩たちの代とは出来が違うんじゃよ」
「出来っていうか授業態度かなぁ……爆発しないんだ……怖すぎ……」
「恐ろしいのう……」
「訳わかんね~んだけど」
零がストローから口を離し、後輩を呼び寄せて耳打ちする。
「ごにょごにょ……ごにょごにょ」
「ごにょごにょって発音してど~すんだよ!」
「冗談じゃよ。………………という訳じゃ」
晃牙とアドニスはナゲットを持ったまま固まっている。
「それは…………」
「よく死者が出なかったな……同情するぜ」
「同情するならバーベキューソースちょっと貰っていい? 朔間さんに使い切られちゃって」
「たくさん食えよ……」
「えっ何そのノリ」
ナゲットの先を晃牙のソースに浸けていると、隣の席にシェイクを持った客が座った。
「期間限定らしいのう」
「朔間さん限定モノに弱いタイプ?」
「う~む、我輩あまり下界に降りんから……」
「すげ~夜闇の魔物っぽいな」
「嬉しそうだな、大神」
「べ、別に!」
照れ隠しに被りついたハンバーガーからチーズが垂れた。
驚く晃牙。紙ナプキンを渡す薫。ポテトを摘まむ零。追加の紙ナプキンを取りに行くアドニス。
そうして話題が二転三転していく……。
「あ~、すっかり暗くなってる」
外を出ると辺りはすっかり夜だった。ビルの隙間の空は黒に近い藍色で、駅前広場もライトアップされている。
「カラスが鳴くから帰りましょ~、って言うけど鳴かないよね~。どこ行ったんだろ?」
「山とかじゃね~か? 夜の中庭で出くわすぜ」
「だから晃牙くんはどうして朔間さんに会いに来てなきゃわからないエピソードを持ってるの……」
くだらない話をしながら横断歩道を渡る。背広と学生服の群れ。ちらほら混じる海の色――薫たちの色。
もうすぐ駅に着く。帰りたくないなぁ、まだいたいなぁ、と思ったところで見慣れたノボリが目に飛び込んだ。
薫は零を振り返る。
「朔間さん今日帰るの?」
「うむ」
「ならジャンカラ行こう! シダックスでもいいよ、優待券持ってるし。ひと駅先だけど」
3人は顔を見合わせて、腕時計を見たりスマホのLINEを確認したりした。妙な間が薫を不安にさせる。こんなのそれこそ中学生以来だ。週末みんなで出掛けようと言って、断られないかハラハラしたとき以来。
「いいぞい」
零が応えた。
「俺も、1時間ならだけど。レオンいるし」
「俺も構わない。……家に帰っても1人の日だから、誘ってもらえて嬉しい。ありがとう」
「いや、まあ……別に」
感謝されるほどのことではないが、されたら嬉しい。
「んじゃ行こ~ぜ」
言うが早いか晃牙はカラオケ店のドアを開けた。外側で支えて、薫が入るのを待っている。
薫は可愛い後輩ふたりを先に行かせた。零にも目配せする。
と、UNDEADリーダーは入り口の脇で立ち止まり、薫の顔を覗き込んだ。
笑う。
「青春してるな、『俺』たち」
薫も笑う。
「青春してる」
ドリンクバーで何を混ぜるか騒ぐ後輩に、ふたりは足音立てて歩み寄った。