「悪いおてては……こうじゃ♡」
両手にするりと絡められた指に、晃牙は息を飲んだ。
いわゆる『恋人繋ぎ』というやつだ。自分達がするにはおかしい、けれど晃牙の青い心を鷲掴みにする繋ぎ方。
「――――」
夕暮れ時の部室にはふたり以外誰もいない。晃牙が吸血鬼ヤロ〜に吠え始めると、双子はいつもそそくさと姿を消す。
そう、喧嘩をふっかけていたはずだ。なのにいつの間にか妙な雰囲気になっている。逢う魔が時のせいだと零はよく言うけれど、間違いなく吸血鬼ヤロ〜の仕業だ。
「は、はなせよう!」
「なんじゃ生娘みたいに。キスもまぐわいもしておるじゃろう……?」
股間に血液が集まるのがわかった。怒りマラに加えて零の指の滑らかさ。この先を意識しないほうが難しい。
「がううっ」
振り払われまいと追い縋る両手はやはり零らしく、晃牙の手を愛おしそうに握っている。
振り払いたくない。だけど振り払わないとかなりマズイ。
違和感に揺れる腰まで、零の視線が落ちてゆき……
「……おや? なるほど、興奮しすぎて勃起しておったか」
「〜〜〜〜っ!」
こうなるからだ。
「真っ赤になってかわいいのう♪ 若くて青臭くて、恥ずかしいのう……♪」
「ぐううう……! わかっただろ、さっさと離せよ!」
「我輩から手を離すというのかや……?」
「ぐっ」
妙に寂しげに言うから、晃牙はまんまと大人しくなった。
すると嘘だったようにニッコリ笑いを浮かべられ、
「ふふん、それでよい♪ ーーあぁ、じゃがこのままでは鎮められんのう?」
「うぁ……っ!?」
あっさりしゃがんで、晃牙の股間にキスをひとつ。
「我輩が口でするしかあるまい……♡」
晃牙が呆然とする間に、零は器用にも口だけで前を寛げ、すっかり勃ち上がった性器を引きずり出した。
「おぉ……♡」
零は屹立をうっとり見上げた。
「相変わらず、おちんちんだけは狼みたいじゃのう……♡」
カリ高で竿の太い、雄々しい男根が零の唾液でぬらぬらしている。かわいい顔に似合わぬ凶悪なイチモツだ。
「……っ」
ピクピクしておる、と呟いた息が、腫れた亀頭をくすぐった。
今からこんなに張り詰めた雄をしゃぶるのだ。想像するだけでじゅわっと涎が込み上げる。
「っ、しやがるなら早くしろよ!」
「そう急かすでない。ゆっくり、ゆっくり、あ〜…………ぁむ♡」
「くぅ……っ!?」
「んんっ、んぢゅ、んく……♡」
血管の位置まで覚えるように、零は頰の内側を添わせて扱き始めた。
「っは、あ、ぁー……!」
すこし口を動かすだけで、晃牙のそこは一回り大きく張り詰める。
たっぷり溜めた唾液が亀頭を包んでめちゃくちゃに刺激するのだろう。わざと音を立てて吸い上げるから、それも耳の良い晃牙にはひどい責め苦になるはずだ。
……それにしたって早すぎるけれど。
「溜まっておるのかえ? んン、まあここのところ、はむっ、んぅ、『革命』でっ、んぢゅっ、んはっ、忙しかったからのう〜?」
「はっ、ぁぐっ、くぅぅっ!」
「暗躍しておると、んんぅ、んっ、我輩も相手してやれんしっ? んぁむっ」
「うぁ、ばっ、くそ、あぁーー」
「ーーわんこは『猪突猛進』なところもあるし、おちんちんも持ち主に似るんじゃろうか」
「ぐうう……っ」
最後だけわざと怒った顔で言うと、悔しそうな、泣きそうな表情で唸られる。
当然だ。挑発に乗って無理な勝負を引き受けたことへの叱責は、『革命』以来初めてのことだったから。
「……な〜んてのう? 怒っとらんよ」
「……っ」
と茶化しても、性器はへにゃりと萎えている。
「よし、よし……♡」
手ではなく、舌でれろぉっと裏筋をなぞる。
ちらりと上目遣いで見てみれば、切なげに揺れる瞳とぶつかった。根は優しい子らしく、自分の未熟さを意外と後悔しているのだろう。
伝えるつもりはないけれど、わんこのそういうところ、好きじゃよ。
……なんて本音は隠して、優しく囁く。
「失敗は成功の母と言うじゃろう。おぬしのアイドルとしての道は長い。ここ一番というところで成功すればよかろ?」
「……っさく」
ついでに、甘い汁も吸う。
「なに、心配せずともよい。我輩がたぁ〜んといじめ抜……鍛え上げて、一人前のおちんちんにしてやるぞい♡」
『Trickstar』のようにのう♡
そう呟くと、見せつけるように根元から先まで舌で舐め上げた。
ぱくりと咥えれば、あとは零の独壇場だ。
※
……と思われたが。
「んんっ、んっ」
「…………」
「んぷ、んン、んく」
「…………」
「……まだ出ぬのか?」
気まずそうな、怒ったような顔で尋ねられる。
「『鍛え』足りね~んだろ」
突き放して言えば、信じられないとでも言うように目を見開かれた。怜悧な目元が仕草ひとつで幼くなり、晃牙をじとりと見つめる。
「むう……我儘じゃのう? けれども我輩、そろそろ疲れてきたのじゃ……んん」
舐めて舐めて、一休み。
それでも射精しない。
……当然といえば当然だ。単調な刺激をずっと加えなければ『おちんちん』は射精できないのだ。吸血鬼ヤロ〜も同じオトコだろうに気づかないのだろうか。あるいは、自分がとてつもない魅力の持ち主だから、ひと舐めでイかせられるとでも思っていたのか。
「……くははっ♪」
ありえるかもしれない。
「……遅漏」
「あぁ?」
「遅漏。遅漏め」
むかつく、と言わんばかりの呟きが耳に届いた。
褒め言葉にしかならないそれに、晃牙の頬はますます緩んだが……
「あ"っ! ぐああ……!」
急に引きつらせて呻き始める。
「ほぉれ、『がぶがぶ』してやろう……♪」
零が自慢の吸血歯で陰茎を噛み始めたのだ。
「いっ、ぐああ、やめ、あ"ーっ!」
「嫌なら早うイくのじゃな♪ がぶがぶっ♪」
「無理っ! イけるかクソボケ〜っ!」
こうなればもう文字通り押し問答だ。両手で押し合い押し合い、相手の口と下半身をどうにかしようと奮闘する。
しゃがんだままの零の方が若干不利だ。両手を封じられているから、晃牙が後退しても、その細腰に抱きつくこともできない。しかしデリケートな部分を刺される晃牙は必死で逃げる。
勢い、後退りされる分を見越して顔を寄せるがーー
「ーーひゃ、」
「っうぁ!?」
勢い余って、亀頭が零の舌で擦れてしまう。
「うぇえ……むごいのじゃ……」
「っ……これだ」
「ん、う? んぁ……?」
居住まいを正した晃牙に、零が上目遣いで訝しむ。口の中で晃牙の雄が下を向いたのだ。代わりに根元の近くが零の歯列に引っかかり、上顎を持ち上げる。
「えあ、」
「口、すぼめろよ」
亀頭を舌に押しつけると、揃いの紅玉がとろりと蕩けた。
意外とMっ気があるのかもしれない。
「ひゃひふ……んっ、指図するでない」
「いいから……」
わざと耳元で熱っぽく囁く。零の細い指がびくりと強張り、一瞬の後にぎゅっと絡め直された。縋るような、もどかしがるような強さだ。
「……っ仕方ないのう」
そう言いながら、双眸は快楽への期待に濡れている。
「苦しかったら言えよ。すぐに止めるから」
「言う前に止めるという発想がおぬしにはないのかえ? ……ン」
ぐうの音も出ない程の正論を告げた口が、鬱血した亀頭を招き入れる。命令通り舌で鈴口を塞ぎ、唇を竿に添わせると、
「多分、これなら苦しませる前にイける」
晃牙はゆっくりと腰を動かし始めた。
※
「んぅ、ウ、」
「はぁっ……はっ……」
「うぁ、う、ぅん……っ」
ーーこんなの、違う。
『舌』で感じながら、零は愛犬を見上げた。
「はっ、はーっ、くそ……っ」
晃牙は夢中で腰を振っている。喉奥まで突き入れることなく、カリがようやく口に収まるくらいの浅いところを、舌の真ん中目掛けて延々と。
喘ぎ声を漏らしてはいない。けれど鈴口からは絶えず先走りがトロトロと溢れ出て零の喉まで流れ込んでいるから、フェラよりずっと感じているのだろう。悔しいが、金色の瞳もセックスのときみたいに零を求めてギラギラ輝いている。
「ウ、ぁえ、っ、んうぅっ」
ーー違うのは、自分。
突かれる度に全身をビクビクさせて感じてしまう、吸血鬼の方。
「ぐっ、んぅ、うあ……っ」
つるつるで柔らかい亀頭が、同じくらい柔らかい舌とキスして。
ぐに、にちゅ、と押し付けられると、そこから爪先まで電撃が走ったみたいに気持ち良くなる。
「……っ、く!」
「ウ、うぅー……っ!」
また、犯されてビリビリする。
いつも最奥でどんなことをされているかわかったからかもしれない。唇を後孔みたいに窄めると、カリが引っかかって晃牙を仰け反らせるのもいい。すぐに突かれて口を開いてしまうのは逆だけれど。
亀頭だけに吸い付く後ろに見立てたら、オナホールになった気分だ。
「わっ、わがはっ、おな、」
高貴なる吸血鬼の我輩が、自慰の器にーー
あまりにも不敬で甘美な妄想だ。
それに形を与えるように、強く突かれてた舌が縮こまりーー
「ーーぁ、ぉぐっ、ウ、うぇ、っ……!」
「だい、」
じょうぶか、と続けようとした晃牙が、零を見て生唾を飲んだ。
酷い顔をしているのだろう。涎を溢れさせて、涙まで滲ませて……陶然と、晃牙に舌を突き出して。
でも、それくらい欲しい。何もかも気にしないくらい、舌を犯してほしい。
「んっ、だい、大丈夫じゃ、だからはやく……っはやく挿れておくれぇ……っ」
晃牙が、欲しい。
「ウーッ、うぁ、ァっ」
「っ、は、ちくしょ、はぁっ」
「んン! んっ、ーーッ!」
声が裏返る。
あたまが熱い。脳が、神経が焼き切れる。
「ぁ、こぅ、んんぅ!」
ビリビリして、わんこを呼べなくなる。
「イくっ、イくぞっ、零っ」
「ぅんっ、はぁ、ア、ひへ、」
きて、晃牙。
もっと突いてーー
「ーーーーッ!!」
「あ、あぁあぁぁ……っ!」
爪先まで全部、晃牙を感じさせてーー
※
そして、3日後の軽音部室。
「『ごっくん』はNGじゃ」
股の間を見下ろすと、真剣な眼差しとかち合った。
「いくら咳き込んでも、ねばねばが取れた気がせんかった。我輩吸血鬼じゃけども精液には勝てん……」
聞き飽きた言葉を、子どもに言い聞かせるように懇々と投げかける。あの後えずきまくったお陰ですっかりトラウマらしい。絵画の女神のように美しい顔が顰められている。
「だいたい味もウェってなるし……んっ」
そのくせ……口でするのは止めない。
「んんっ、はぁ、なのに、んちゅ、癖になってっ、はふぅ、やめられん……っ♡」
晃牙の猛りをうっとり眺めては、根元まで咥えてねぶり上げる。
広げた舌に亀頭の先を押し付けてやると、零の体がビクビク跳ねた。
「はっあぁっ♡」
ーーあれから、毎日呼び出されている。
零の目的は舌コキだ。しかも、する側ではなくされる側。この前さんざん舌を使われたのが忘れられないらしい。
『我輩、オナホールになってしまったのじゃ……』とかしおらしく言った吸血鬼ヤロ〜こそ、晃牙をバイブか何かと勘違いしている。あのときの罪悪感を返してほしい。
「のうわんこ、我輩の舌をいじめておくれ? ココでたっぷりシゴいておくれ?」
「遅漏っつった癖に」
「わんこはイジワルじゃ」
「テメ〜に言われたかね〜よ!」
逃げようと腰を浮かせると、両腕でがっしり抱きつかれる。
『悪いおてて』はどっちだ。
「……っこの、クソ吸血鬼ヤロ〜!」
非難を込めて見つめると、トロトロの真紅の瞳にハートマークが浮かんでいる。……ように見えた。
「我輩をハマらせた責任、とってもらうぞい……♡」
『特訓』の成果は、晃牙ではなく零に出たようだった。