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2016年11月20日の記事は以下のとおりです。

忠犬

泊まっていくかと聞かれたので、零はどうしようかと答えた。
「えっ」
「なんじゃ」
「どうしようって……他に何があるんだよ」
首を傾げる。
「泊まらないとか」
「泊まってけよ!」
肩を揺さぶられてくらくらした零は、
「えぇ~? お泊まりセット持ってきとらんぞい?」
とか言う。
「……ッ!」
晃牙が何度も口を開いては何も言えずに俯くので、だんだん可哀想になった零は後ろを向いた。こらえた笑いが吹き出そうだった。
「冗談じゃ」
「はあ?」
「とうぜん泊まってくぞい」
「最初からそう言えよ!」
悔し紛れの怒声が背中にぶつかる。
零はこう言って浴室に消えた。
「お伺いを立てるようでは狼とは言えんのう?」

零は洗濯機の回る音で目を覚ました。
起き上がって服を着ようにも見当たらない。そこらへんに脱ぎ散らかしたのに。
「起きたか」
洗面所から出てきた晃牙はニヤニヤしている。
「あんたの服、洗ってやったぜ!」
微笑む零を、不思議そうに晃牙が見ている。

時間

晃牙は授賞式以来のスーツを着て、お土産を提げて、左手と左足を一緒に出した。
「……笑うなよ」
精悍な横顔が項垂れるのを、それこそ零はいつぶりに見たか。
ひび割れたアスファルトを跨ぎながら、そっと横目で眺めていた。ピアスホールが寂しげだった。短い毛足が春風に揺れた。糊のききすぎた白シャツが裏地に擦れて音を立てた。右手を空けるのが癖になっていた。
「晃牙、ありがとう」
「何が」
「いろいろ」
涙もろくていかんのう。笑った零を、晃牙の右手が抱き寄せた。
「披露宴まで取っとけよ」
きつく寄せた眉間より、目尻の皺が深かった。それがふたりの時間だった。

 

 

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