ししゅんき
「んしょ、んしょ……むぎゅっと♪」
むちむちの太股はスキニージーンズに押し込まれた。腰回りも丈もちょうどなのに太股だけキツい。
「太ったかのう~? 晃牙、どう?」
「わ、わかんね~よ」
すげ~エロいのはわかるけど……。
晃牙が顔を背けると、朔間先輩は小首を傾げてベッドに座る。
俺様のベッドに先輩が乗ってる。尻が沈んで太股も平べったくなって、晃牙の貸した黒いジーンズをぱつんぱつんに伸ばし切る。胸いっぱいの晃牙に朔間先輩は気が付かない。英国旗柄のクッションを枕元から取り寄せて、膝の上で腕置きにしたりしてる。
「晃牙の部屋は居心地が良いのう、ずっとここにいたいのう……♪」
太股と腕の間でたわむクッション。先輩のふかふかの太股に、ぎゅっと押し付けられてるクッション。
俺も押し付けられたい。
「わわわワケね~だろ!」
「ひゃうっ?」
先輩を驚かせたことに謝りながら、目は太股から離せない。
大神晃牙は思春期だ。
ししゅんき
隣に座ると、朔間先輩を盗み見た。
(すげ~……むっちりしてる……)
紙パックのトマトジュースをちゅうちゅう吸いながら、音楽番組の録画を見つめる朔間先輩……の太股。レオンが歓迎の意を涎の量で表したので、先輩のズボンはベランダに干してある。一度この部屋で剥き出しにされた太股に、晃牙は後輩特権の至近距離で見とれてしまった。
まず肉付きが良い。腕も体もやせているのに、そこだけ狙いすましたように脂肪をつけている。アンバランスさが醜いどころか朔間先輩に人間味を持たせ、より生々しくて魅力的だ。朔間零の生命を感じる。
やわらかそうなのもすごく良い。重力に従ったもも肉が、横でプニッとたわんでいる。スキニーはもものラインがよく出るのだ。自画自賛。テレビの演奏に興奮した先輩が、体を揺らして太股が弾んだ。その躍動感も拾うスキニー。
晃牙は太ったコーギーのむちむち具合に感心しないが(腰のくびれた標準体型がかっこいい派)、心惹かれる人の気持ちがようやくわかった。
言いようのない魔力に捕らわれるのだ。捕らわれた晃牙が断言する。
触ってみたい。
「晃牙」
「ッ!?」
「トマトジュース、も1本飲ませておくれ?」
冷蔵庫から紙パックを取って戻ると、朔間先輩は足元のカバンを漁っていた。太股はクッションをどかしてガラ空きだ。
(寝てみて~な……)
今度は膝枕を思いついた晃牙だった。大神晃牙は思春期だ。世界一大好きな先輩の、むちむちで柔らかそうな太股。枕にするに決まっている。
けど、カッコわり~だろ。膝枕してくれとか頼むのは、一人の男として見られたい晃牙にはハードルが高い。幻滅されたら嫌だし。ダセ~し。朔間先輩が貴重なオフに録画見るためだけに来てくれたのだ、カッコイイ俺様をアピールして惚れさせたかった。健気な努力。
ところで朔間先輩は何をするのだろう。その、細くて綿帽子のついた棒で。
「今日はのう、わんこに耳掃除してやりたくてお邪魔したのじゃ♪」
晃牙はトマトジュースを差し出したまま立ちすくんだ。
耳掃除?
「カノジョかよ……」
「何か言ったかや? やはり飼い主がお手入れせんと、病気になっちゃうらしいぞい」
「そっちか……」
「おいで、晃牙♪」
先輩がポンポンと膝を叩いた。袖口から指先だけ出して、かわいらしく手招き。
「…………」
「ふふ……耳掃除は久しぶりかえ?」
朔間先輩が寝転がった晃牙に話しかけたが、当の晃牙には答える余裕がなかった。
(う、うおおお……!)
太股だ。太股なのだ。押し付けられたくて触りたくて膝枕されたい朔間先輩の太股に、今、膝枕されてる。
頭を支えるのは、意外に強いももの弾力。肉厚の太股がむっちりと筋肉を蓄え、晃牙の頭を押し返している。しかし頬の当たった感じは吸い付くようにやわらかい。低反発の枕ともお気に入りのクッションとも違う優しさで、晃牙の横顔をふかふか包み込んで離さないのだ。もちろん朔間先輩の匂いと体温つき。じんわりあたたかいのだ。いつまでも寝ていたくなる最高級枕。
耳かきが晃牙の耳垢を甘くこそげていく。
「おっきなお耳じゃのう~? よく聞こえるじゃろ?」
「…………」
「晃牙~? 晃牙!」
「ぅわっ!?」
「痛かったら言っておくれ? かわいい晃牙に我慢なぞさせたくないゆえ」
「んだよ……痛くね~よ……」
せっかくうとうとしていたのに。
叩き起こされたことにぶつくさ言いつつ、晃牙がもう一度まぶたを閉じると、痛い、と思った。
痛い?
どこが?
痛みの出所に視線をやった。そこは股間だった。勃起している。
「――――」
「左耳はおしまいじゃ♪ 右のお耳を見せておくれ♪」
晃牙はとっさに体を丸めた。
大失敗だ。先輩が覗き込んだ。
「晃牙? おなか、痛いのかえ?」
「そ、そ~だな! 冷えたかも!」
「大変じゃ! おなかをお見せ、さすってやろうぞ」
声にならない悲鳴が上がる。
「治った! 勘違いだった! 俺様こう見えても中にヒート*ック着てんだぜ! 2枚!」
「ヒート*ックってじっとしてると冷たいんじゃろう? 我輩のブランケットを掛けておおき」
先輩がカバンからブランケットを出そうと余所見している間に、晃牙は先輩のお腹側つまり壁側から、反対側へと体の向きを変える。しかし足の置き場がない! あやうく脚を伸ばして股間を晒け出すところでお腹に布が掛けられた。
「コウモリ柄じゃよ♪ あったかいじゃろ~♪」
先輩の優しさがあったかい。
晃牙はこっそり溜め息を吐いた。難所は乗り越えた。あとは萎える何かを考えながら、先輩のふかふか膝枕を堪能しよう。さっきブランケットを探していたとき、太股が動いて顔に押し付けられたのだ。むっちり・プニッの波状攻撃を遅効性で喰らっている。右耳は朔間先輩に掃除され、左耳は左頬と桃源郷。いつもロックの精神で気を張る晃牙も今だけならばと緊張を解いた。リラックスした全身で、先輩の太股枕を近くに感じる……。
……ところで。
ヘソを天井に向けて寝こける犬は飼い犬だけで、野生動物はいつでも立ち上がれるよう体勢を選ぶ。自然のどこから敵がくるかわからないからだ。そう、敵はどこからでもくる。
少し離れたところにいたレオンが、この瞬間すっくと立ち上がった。彼は飼い主の大好きな人間を涎まみれにしたのを彼なりに反省していたのだ、小屋に入ることで。しかし晃牙が警戒を解いた、解いたということはもう怒っていないということだ。ちょうど人間も晃牙の傍でにこにこしている。来たときから笑っていたが、本当にリラックスして晃牙の頭を撫でていたのだ。つまり僕は、許された。
許されたから、遊んでほしい。
近寄って、ブランケットを振り回したのだ。
「晃牙、おぬし……」
「…………」
朔間先輩の視線の先に、張りつめた股間があった。
ぱつんぱつんだ。スキニージーンズを穿いたまま勃つと窮屈で痛い。痛いくらい勃起した晃牙自身を、大好きな朔間先輩に見られている。待つのは死刑だ。元デッドマン(死刑囚)ズらしく、うなだれて先輩の二の句を待つ。
『おまえさ~、恥ずかしいと思わね~の?』
絶望しすぎて幻聴を感じた。それでも萎えないのがすごい。
「そんなに耳掃除がよかったのかえ?」
「恥ずかし~し情けね~よ。朔間先輩ごめん……ん?」
「うん?」
「耳掃除……耳掃除?」
「うむ、耳掃除じゃ。気持ちよかったようじゃのう♪」
「…………」
そういうことにした。
来週もやってもらえることになった。