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晃牙は固唾を飲んだ。朔間先輩がつまらなさそうに封筒を見た。真っ赤な顔でその封筒を差し出したのは晃牙で、封筒は黒地に銀の十字架を散りばめコウモリのシールで封をした、正真正銘のファンレターだったからだ。朔間先輩先輩の白い指先がシールの縁を剥がしていく。ゆっくりゆっくり、もったいぶるように桜色の爪がつやつやのコウモリを追い立てて、慌てたコウモリはプラスチックの羽と体を先輩の爪に覆い被せた。それどころか離さないとばかりに人差し指にしがみつくのだから、晃牙はコウモリがうらやましい。「これ」「はっ!?」「やる」晃牙が顔を跳ね上げると、朔間先輩が悪戯そうに笑って指差してきた。「え、な、」「テメ〜の目は節穴か? これだこれ」「シール、すか」「俺様の眷属だからな、丁重にもてなせよ」ん、と目の前に差し出されたコウモリを、晃牙は震える指で慎重に剥がす。緊張すんなよと言うように紅い目が笑っていたけれど、粘着面が剥がれる度に微かに揺れる指先に張り詰めないでいることなんて不可能なのだ。「取れたな。じゃ、さっさと帰れよ」「はっ、ハイ! 失礼しゃす!」晃牙が膝に額のつきそうなお辞儀をして出口に向かい、ふと振り返って朔間先輩を拝もうとしたとき、既に先輩の姿は見当たらなかった。「…………?」部室を見渡してもどこにもいない。代わりに窓が開いていて、吹き込んだ桜の花弁が落ちた先には封筒ひとつ。便箋代わりに、風に乗って差し込まれた。