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今年こそ

皆で総選挙を見ていた。
総選挙、と言ってもAKBではなく夢ノ咲。要するに二番煎じだ。一応立候補制のそれに晃牙も零も名乗り出ていて、下から順に呼ばれていく。
立候補者の控え室であるところの講堂は男だらけなのに姦しく、全校生徒がぎっしり詰まって順位の当否を論じるのに忙しい。
「あ~くそ、俺様がTOP10以下とかおかしいだろ」
「そうじゃのう。わんこはもっと上かと思ったが」
「…………」
「別に嫌味ではないぞ?」
「わかってるよ」
「ククッ、わかってなさそうな顔しておる」
そんな会話をしながらうるさい講堂で中継を見ているうちに、30位近くあった発表はベスト5まで来た。5位、と呼ばれた名前は朔間零ではなかった。大好きな朔間先輩の名が出てないことにほっとする。
「わんこは」
「あ?」
「わんこは、何位だと思う?」
遠くから聞こえてくるような声に、晃牙は左隣で笑う零を見た。
「賭け事じゃ。当たったらジャーキーでも奢ろうぞ」
「もっとマシなもん奢れよ」
「その意気や良し。で、何位じゃ?」
悪戯そうな瞳で覗き込まれる。
逡巡があった。言うまでもなかった。言うまでもなく、けれど言うには強すぎる抵抗があった。意地という名の。
司会が声を張り上げる。4位、朔間零ではない。零が流し目をくれる。
「……3位。いまどき吸血鬼キャラとか流行らね~し。海賊フェスもグダグダだったしそれに――」
「3位じゃな」
『3位――朔間零!』
言い訳を打ち切るように零が断ずると同時に司会が零の名を呼んだ。大当たり、賞金のジャーキーは大神晃牙君のものです! そう煽る赤目が、呆けた晃牙を見る。
「おぉ……おめでとう」
「……めでたかね~よ、クソが」
立ち上がって壇上に向かう朔間零を背に、晃牙は荒々しく立ち上がって大股で出口に向かった。前方に座る生徒の視線は3位に向けられ、後ろの方の生徒の不躾な視線は「朔間零が1位でなかったことに怒る大神晃牙」に注がれた。実際その通りだったので、晃牙はそいつらの座席を蹴飛ばして出た。

教室に戻って鞄を引っ掴み、坂を下って駅前まで行った。商店街のスーパーでカレールウをかごに入れ、レジを通して鞄に捩じ込んだ。家に帰って玉ねぎとジャガイモとニンジンでカレーを作って、作って、鍋一杯に作ったそれをひとりでよそって食べた。辛い、のは辛口を買ってきたからで、晃牙はどうして自分がわざわざ辛口なんて買ってきたのかよくわかって辛さに涙を零した。辛かった。

 

そんな風景を、すすきのでスープカレーを食べながら思い出す。
「これ晃牙、もっとおいしそうに食べぬか」
「小さいわんちゃんには早すぎたんじゃない?」
「羽風先輩、大神は腹が痛いのかもしれない」
「それとも誰ぞ推しでもいたんじゃないかのう~?」
総選挙に、とスプーンで頭上のテレビを指した零に、薫とアドニスが見上げて「まさか」と薫が笑った。
総選挙、と言っても夢ノ咲ではなくAKB。1位の子が笑って、2位も3位も笑っている。
「晃牙くんの1位は朔間さんでしょ」
晃牙はああ、と頷いた。

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