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しょうどんバレンタイン

「空から落ちてきたんだ、神様が俺にくれたもんだと思うだろう」
非難がましい目で見てくる田口にそう言い訳して、速水はチョコを摘んで口に入れた。
「うまいなコレ」速水の長い指が小さなトリュフを持ち上げる。形は不揃いで、いかにも手作りらしいあたたかみのあるチョコレートだった。くやしいけどうまいな、等とうなりながら、一つ、二つと速水の口がトリュフを咀嚼する。
「俺がもらったやつなんだけど」
「そうか」
「おい」
「安心しろ行灯、これは俺がおいしく頂いて午後の練習の燃料にかえてやる」
ちがう!
次々と速水の胃に消えていくチョコレートは、田口がけさ教室の前でもらった物だった。贈り主は小柄で結構かわいくて、般教のクラスでよく見かける子。可愛らしくほどこされた包装も、彼女の普段の様子を彷彿とさせた。
それを昼休みに校舎の窓際で食べようとした自分も自分だし、ラッピングのリボンがほどけなくて躍起になっていたのを勢い余って窓の外に落としてしまったのも不注意極まりなかったと思う。だが、そこに運良く通りかかって、急いで3階から降りてきた自分の前で悠々と落とし物を食べる速水は悪魔以外の何者でもない。田口はそう思った。
「ご馳走様」
ニヤリと悪餓鬼の笑顔をして礼まで言う速水から、田口は空の箱を回収する。唇の端にココアの粉をつけて、おいしかったと言わんばかりの顔だ。してやったり、おいしかったぞ、なんて言うんじゃないか。そう考えて、ふと、田口は思いついたことを口にする。
「チョコならちゃんとやるから」
「へっ!?」
いたずらっぽい笑顔から一変、速水が呆けた面で田口をまじまじと見る。
「また後でな、晃一」
こういち、と心なし強く呼んで速水みたいに笑ってみれば、恋人の顔がみるみるうちに驚きに染まる。ついで耳まで赤くなったのを尻目に踵を返すと、階段を上る田口の背中に「おい行灯!」とか「絶対だぞ!」とか、東城大剣道部次期主将の怒鳴り声が投げ掛けられた。
結局、速水は恋人がチョコをもらったのに嫉妬したのだ。窓から慌てた顔で見下ろす田口と頭にぶつかった箱を見比べて、瞬時にそれがどんな経緯で恋人の手に渡ったのかを判断して、その上で、自分にはくれないくせに、なんて子供っぽい嫉妬をしながら包みを開けたのだろう。さすが次期主将の判断能力はすばらしく高い、けれど自分の恋人は思いつかなかったのだろうか?
「誰が大学でなんか渡すか、馬鹿」
女子に囲まれる恋人を見るのも、恋人にチョコを渡して噂になるのも、どっちも願い下げだ。
顔を真っ赤にしながら、田口は元いた窓際に向かって歩いていった。

 

 

しょうどんへのお題:変換はお手の物です/「空から落ちてきたんだ」/頼りなくても頼ってほしい ttp://shindanmaker.com/122300

もとの140字SSSもこれもちゃんとお題に沿っていないしょうどん。

 

↓もとのSSS

空から落ちてきたんだと言い訳して、速水はチョコを摘まんだ。手作りらしいそれを、田口はけさ教室の前で貰った。「ふーん」嫉妬したのかなんて馬鹿なことは聞けないし、その考えに行き着くこと自体恥ずかしい。だから速水が恋人の貰い物を食べ尽くすことの理由に、田口はいつまで経っても気づけない。

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