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ユーザー「mitsahne108」の検索結果は以下のとおりです。

この後めちゃくちゃ同棲した

「卒業できてよかったのう、天祥院くん。単位は足りたかえ?」
「そちらこそ留年を免れたみたいで本当によかった」
「ふたりとも無闇に火種をつくるな……」
晃牙が人混みをかき分け会館前に辿り着くと、零はいつもの様子で天祥院と会話していた。会話というと聞こえが良いが嫌味の応酬、言葉のデッドボールの乱発に思える。そんな蛇とマングース2匹を仲裁する蓮巳は心底あきれた顔で、「せっかくのめでたい日に」とため息を吐き、それでも目尻にキラリと光る跡があった。
「ありゃ死ぬまで変わんねぇな」
声を掛けるタイミングを逸した晃牙の傍らに、いつの間にか鬼龍が佇んでいた。
「旦那もよく取り持つぜ。挨拶みたいなもんだからほっときゃいいのによ」
そう笑う鬼龍の鼻頭も赤らんでいる。
「あん? 鬼の目にも涙とか言うなよ」
「……言わね~よ」
「そうか。ま、そうだな」
鬼龍は赤い髪を春風になびかせ静観していたが、ふと蓮巳を呼び付けるとどこかへ連れていってしまった。「朔間さんをよろしくな」連れ立つふたりの胸にはユニット名と揃いの薔薇が咲いている。姫宮を抱きしめる天祥院の胸元にも、思い思いに散らばる卒業生の胸元にも。
そうして彼らに駆け寄る後輩たちの目元も赤い。
「ばっかみて~」
晃牙は独りごちると零の元へと歩いていった。どうせ明日からも毎日会う、自分の家で。実家に帰りたがらない恋人は、後輩兼恋人の下宿に住みたがるだろう。仕事がどうなるかはわからないが朝飯くらい共にとれるだろうし、時間が合わなくとも寝台はひとつだ。おはようまたはおやすみを交わして始まる明日を思うと溢れかけた涙も引っ込むというものだ。
だから泣かない。朔間先輩の学院生活の最後は大好きな後輩の笑顔で飾ってやるのだ。


というつもりで零の手を取って軽音部室に連れて行き、自分のギター、ひなたのベース、ゆうたのキーボードで追い出し会の開会を宣言しようとした晃牙は部室の異変に気付いた。
「なんか……広くね~か?」
部活動に予算の割かれないアイドル科では、とうぜん部室も猫の額だ。いつもぎゅうぎゅう詰めになってセッションする広さが今日に限ってレッスン室並み、春風が人と人との間をびゅんびゅん吹き荒ぶなんて一体どうしてだろう。
まさか吸血鬼には部屋を伸び縮みさせる能力なんてないだろうし、人が急に小さくなったはずもない。ということは「広い」というより「物足りない」が正しいが、一体何が欠け――
「棺桶ないですよね、朔間先輩」
「うむ、新居に送った。……どうした、晃牙?」
ぽかんと間抜け面で立ち竦む晃牙を、零は不思議そうに覗き込んだ。
タイムリープでもしたかえ、例えば1年前に。零の声が遠く聞こえる。ナンセンスな冗談を笑う余裕なんてなかった。
「……しんきょ……?」
「うん? そうじゃ。実家に帰るのもアレじゃしのう。かといって棺桶ごと追い出されてもかなわんから、昨日さっさと決めてきたぞい。ほれ、住所はここじゃ」
「わ~、中華街の近くですねっ? 駅近で良い立地♪」
「めちゃくちゃ遊びに行っちゃいますね~♪ 引越し祝いに肉まん持ってきますっ♪」
零は新居の地図を学院グッズのネコミミメモに書きつけると、丁寧に畳んでひなたとゆうたに渡した。ネコミミメモとは猫耳などを生やしてデフォルメされた生徒の姿をかたどった折りたたみ式のメモである。零はこれを可愛い可愛いと特に気に入って、隙あらば誰かに渡そうとする。おかげで晃牙の机はすでに3匹もの零に占拠されて賑やかだ。
4匹目のネコミミメモを渡された晃牙は、ぐい、と突き返した。
零は首を傾げて受け取ると、晃牙の肩を見た。ぶるぶると、痛々しいほど震えている。
「俺んち……こね~のかよ……っ」
「おお……?」
「一緒に住むんじゃね~のかよっ! この、クソ野郎~~~~っ!!」

部室を飛び出して夢中で走るうちに、景色は人の群れから草花の群れへと変わっていた。
どうやら庭園の奥の奥に迷い込んでしまったらしい。草木の生い茂るそこは春の訪れを喜ぶ花で溢れていて、晃牙の歪んだ視界を七色で鮮やかに彩る。
「う、ううぅ……っ」
喘ぎながら走ったから、とっくに膝はがくがくだ。力無くしゃがんだ拍子に涙がひと粒だけ溢れてしまう。
「うっ、うぐっ、くそやろうぅ~……!」
――クソ野郎、クソ先輩、クソ吸血鬼!
ひと粒溢れるともう止まらなくて、晃牙は誤魔化すように声を張り上げた。
「何が新居だよ! 俺んちじゃね~じゃん! せっかく掃除して棺桶置く場所も作ったのに! 食器とか買い足すモンもリストアップしたのに! 食いもんとか飲みもんとか、好きそうなヤツ補充してやったのに! あっ、明日からっ」
ずっと一緒にいられるって、思ったのによう……!
晃牙はとうとう声を詰まらせて泣いた。抱えた膝に顔を伏せるとスラックスが熱く濡れていく。悲しくて悔しくて、ますます悲しい。朔間先輩の卒業も、会えない時間が増えていくことも。スキの大きさがこんなに違っていることも。やっと素直になったのに、こんなことで拗ねて飛び出してきたことも。大好きな朔間先輩を罵って、最後にあんな悲しい顔をさせてしまったことも……。
「……っ……?」
そうやって泣きに泣いて疲れた頃、晃牙の鼻に甘い香りが運ばれてきた。
甘ったるくて瑞々しい、零がたまに纏う匂いだ。ハッと身を起こして辺りを見回すが、物憂げに黒髪を垂らした姿はどこにもない。
代わりに色とりどりの満開の花々が目に飛び込んできて、晃牙は恋しい香りの本当の持ち主を知る。
「なんだ、テメ~かよ……」
こんなときでも想い人の跡を辿っていた自分に呆れる。呆れて、心が穏やかになるのを感じる。
「だいたいよう……」
――だいたい水くさいのだ、付き合っているのに。さんざん飼い主ヅラしてわんことか呼んどいて、一緒に住まないとかどうかしてる。ムカつくから一発殴らせてほしい。
過激なキモチが涙の代わりにどんどん口をついて出てくる。好きなら住むんじゃね~のかよ、ゆうたに痴話喧嘩と言わしめ羽風先輩からはラブラブだと弄られたほど返礼祭で愛を確かめ合ったのに。大好きだと言う代わりに想いのすべてを歌とダンスに乗せてぶつけて、3倍返しどころか10倍返しはしたはずなのに。
「ん?」
『大好きだと言う代わりに』? 告白したんじゃなかったか?
「んん? 」

……!?!?

 

「おかえりなさい~」
「お菓子開けてますよ~」
息を切らして部室に戻ってくると、部長以下3人の部員は追い出し会のお菓子になごやかに手をつけていた。
「早かったのう、わんこ。おしっこかえ?」
「……ゴメン!」
唇をすぼめて棒菓子を食べる零に勢いよく頭を下げる。零も葵兄弟も驚いた様子だったが、晃牙は構わず釈明する。
「俺、すげ~勘違いしてた。……その、あんたと俺の関係を。マジでごめん……」
「いや、我輩こそすまんかったのう。付き合ってすぐに同棲なんてと気を回しすぎた」
「わかってんじゃね~か!」
この後めちゃくちゃ同棲した。

フォーチュンボーイはお年頃

 

 

「あ、あのっ、脱がしたいっす」
「いいぜ」
「そりゃそうっすね、いくら恋人でもされるがま……えっ?」
――山田さんも寝静まる深夜のエーデルローズ寮。香賀美タイガ、つまり俺の部屋。
普段使いしている方のベッドの上で、一生のお願いはいとも容易く叶えられてしまった。
「いいんすか!?」
「おう。……つっても、あと下着くらいだけど」
「それは別にいいっつーか、それがいいっつーか」
後ろを向いて、小さくガッツポーズ。
いざそういう雰囲気になっても、カヅキさんの着衣は絶対不可侵領域だ。先輩の服を脱がせるなんて恐れ多くて申し出られなかった。その最たるもの、つまり下着を剥かせてもらうなんて何度抱き合っても考えてもみなかったが、そこは健全な男子、いざ隙だらけの下着姿を見ると口が止まらなかった。
「いいんすか? いいんすよね……?」
「狼狽えんなって。俺がいいんだからさ」
かわいいよなお前、なんてこぼして、カヅキさんは俺の頭をくしゃくしゃ撫でる。俺に何度も聞き返されたせいか、カヅキさんの頬までうっすら赤い。
カヅキさんがベッドの端から俺の目の前まで近づいて、細いのに逞しい両腕を俺に伸ばす。両手を広げて、welcomeのポーズ。
にぱっとしたいつもの笑みではなく、ふたりきり限定の笑顔が視界一杯に広がった。
「……俺ら、付き合ってるもんな」
マシュマロみたいなキスの感触と慰撫するような甘い声に、生ぬるいんすよと憎まれ口を叩くしかなかった。

「じゃ、よろしくな! ……けど、」
カヅキさんは素直にうつ伏せになると、顔だけ振り向いて、
「前からの方が取りやすくねーか?」
恥ずかしそうに言った。
「…………」
わからない。わからないが、カヅキさんの小ぶりな尻が褌をキュッと挟んでいるのを、まじまじと見る。
六尺褌は日本男児の証だ。ストリート界のカリスマとして誰よりも雄々しく振る舞うカヅキさんに良く似合う、チャラチャラしない男らしい下着。……のはずなのに、先輩の浅黒い肌が着けると妙にいやらしい。
「タイガ?」
「――はっ、ハイ! 失礼しゃすっ」
両手が震えている。聖域を侵す緊張は抑えきれないが、何もしないでいるのも先輩を不思議がらせる。
南無三、と褌と尻の間に指を差し込んだ。
「う、」
いざ触れてみると、先輩の尻は搗き立ての餅のような程よい弾力で人差し指を押し返してきた。そりゃそうだ、先輩は男なのだから。
脂肪でぷにぷにしているでもなく、カチカチの筋肉質でもない。プリズムショーで鍛え抜かれたしなやかな筋肉は、俺の指の下で静かに息づいている。
「……けっこー、キツイっすね……」
誤魔化すように褌を話題にすると、「踊ってるときにずり落ちないようにな」なんて妄想を逞しくさせる回答が返ってきた。ずり落ちたらカヅキさんはどうなってしまうのだろう。恥ずかしがるのだろうか、男らしくその場で締め直すのだろうか。
……脱がしたいとは言ったものの、褌の構造は知らない。布きれ1枚で、どういう着け方したらこんなに締まるのだろう。
現に尻肉に褌の跡がついている。擦れてヒリヒリしないんだろうか? いたわるようにそこに触れると、カヅキさんが息を詰めた。
「す、スンマセン」
「っあ、こそばい、って」
先輩の腰がくねって俺の指から逃れる。追い付いてもう一度撫でる。
「は、んん」
「カヅキさん……」
「ぅあ、っく、はっ」
親指を沈めるようにゆっくりと撫で上げると、親指と人差し指の間に乗った尻肉がつられてむっちりと持ち上がった。桃尻とはよく言うけれど、カヅキさんのそれは本当に齧り付きたくなる見た目だ。それも、ジューシーな果汁の代わりに肉汁が溢れ出そうな、ふかふかの肉まんじゅう。おもわず両手の指を広げて掴めば、肉まんじゅうがびくりと強張った。「おい……っ」あわてて謝りながら、五指を揃えてむちむちの皮膚を撫で上げる。
尻たぶに指をくまなく往復させた次は、谷間の線をなぞることにした。割れ目と言うほうが正しいだろうか。肉まんを割る要領で尻たぶを押し開き、褌の下に指を滑らせる。尾てい骨のあたりまでつーっとなぞってみても反応は薄い。ふだん歩くときとかに褌と擦れるから、気にならないのかもしれない。
どさくさに紛れて窄まりのシワを押せば、先輩の口から吐息ひとつ。思いがけず快感を拾ったらしい。
「馬鹿、そんなとこ撫でんな……っ」
「…………」
エロい。
先輩に気付かれないようこっそり生唾を飲み込む。
こうして見てみると、なんともいやらしい光景だ。ハリのある尻肉は刺激に備えて締まり、愛らしい尻えくぼができている。寄せられた尻たぶの最奥、純白の木綿からそっと覗くのは薄ピンクの窄まりで、妖しく誘われている気さえした。
もちろんカヅキさんにそんなつもりはないのだろう。かわいい恋人の性質の悪い悪戯だとすら思っているかもしれない。そう思うと、カヅキさんの厚意につけこんでくすぐることに罪悪感がわいてくる。
それでも思春期真っ盛りの好奇心が、指先を無遠慮に動かしてしまう。すみませんカヅキさん、カヅキさんの肉まんもとい尻を揉める機会なんて、そうそうないと思うんです。こんなに淫猥なことをしてしまったら、次から先輩に断られる気がして。
「はっ、あ、……っ……さっさと……なあ……ッ脱がせてくれよ……っ」
尾てい骨の上、腰骨、脚の付け根……わざとゆっくりとした動きで褌と肌の合間をなぞっていけば、カヅキさんの息も上がっていく。
先輩の尻たぶは両手に収まるほど小さいけれど、筋肉で張り詰めている。その筋肉が、指の動きに感じて引き締まったり緩んだりするのはすごく面白いし……エロい。
いつの間にか汗ばんでいたからか、カヅキさんの尻が俺の手のひらにしっとり吸い付いてくるのなんてたまらない。
「――ひゃ、っ」
あえて頭の方に向かって布を引っ張り上げると、先輩はとうとうあられもない声を上げた。急いで両手で口を覆っても遅い。先輩のかわいい声はとっくに記憶している。
「こ、こら! ……っあ!?」
もっと聞きたくて何度も小尻に食い込ませれば、その度にカヅキさんは女みたいな声を零して泣く。「あっ、あ、うぅ!」当然だろう、褌を引っ張り上げるということは木綿に包まれた性器も持ち上げるということで、マットと体に挟まれた先輩のペニスは擦れて気持ちいいに違いない。いわゆる床オナ――カヅキさんがオナニーしてるところなんて想像つかないが――状態だ。
「ぁ、ア! ひっぱんなっ、よぉ……っん……! あっあ、ひぃ……っ!」
「カヅキさん、やらしーっす……」
「はっ、んン、ふざけっ、くうぅ……っ!?」
カヅキさんの腰が大きく跳ねた。俺の手が前張りごとペニスを掴んだからだ。散々尻を苛められたおかげで、そこは先走りでぐっしょり濡れている。
イヤイヤとかぶりを振るカヅキさんの後頭部を見ながら、わざと性器を強く擦った。もちろん褌を性器に張り付かせるように、だ。
「ひっ! あ、ばか、ぁーっ……!」
そうして10分は先輩をいじめて、褌を弄るのに飽きた頃には、カヅキさんの後孔は真っ赤に腫れ上がりひくついていた。
広くない部屋に、二人分の呼吸の音がやけに響く。ぐったりとマットレスに沈む先輩の尻には、褌だったものが申し訳程度に纏わりついている。行き当たりばったりだったが、褌を脱がせることには成功したのだ。
……でも。
「カヅキさん」
「んう……?」
「このまま挿れていいスか……?」
先輩は真っ青になって振り向いた。抱き合うために脱がされているのだと忘れていたらしい。
そんなかわいそうなカヅキさんに「大丈夫っす、痛くしないんで」とは言えない。優しくする理性なんてとっくに擦り切れたのだ。
カヅキさんの表情とは裏腹に、窄まりは期待するみたいに収縮している。

「あっ、んぐ、っ、ア、ぁっ」
後ろから何度も前立腺を抉るように突き上げると、カヅキさんは喉を震わせて甘く泣いた。
根元まで押し込んだらすぐカリ首まで引き抜いて入口の肉をめくれ上がらせる。そうするとカヅキさんの中はきゅうと吸い付いてわななくのだ。亀頭が腸壁にゴツゴツと当たって気持ちいいのだろう。腰を打ち付けるたびに締め付けが強くなり、今や腰を引くにも苦労するほどきつく咥え込まれている。けれどそれは同時にカヅキさんも苦しめているということで、カヅキさんは排泄感に似た快感にすすり泣くばかりだ。
「ぁう、っ、アッ、いい、いぃ……っ」
「カヅキさんっ、カヅキさん……っ!」
後ろからだと顔が見えなくて悔しい。きっとカヅキさんはとんでもなくいやらしい顔をしているのだろう。伏せたまぶたを震わせて、薄い唇は半開きで、ストリートのカリスマだなんて忘れたようなだらしない顔。
3歳も年上のこの人が、後輩の手で良いようにされて泣いている。先輩をここまでにしたのは他の誰でもない自分だ。キスすら恥ずかしがる先輩に土下座して頼み込んで、ベッドの上でおそるおそる下を触れ合わせるところから始めたのに、カヅキさんはいつの間にか誰よりも男らしく快楽を求めるようになった。だから俺もカヅキさんとより高みへ上っていけるよう頑張って――AVとか雑誌とか見て――技を磨いた。ベッドの上も男の戦いの場だ。
今日は最初の攻めが効いたのか、俺の圧勝だ。カヅキさんは言葉を忘れたように喘ぎっぱなしの感じっぱなし。男冥利につきる。
カヅキさんの真っ赤な耳たぶを甘噛みする。「ぁ、」オバレの基本衣装は先輩のかわいい耳を隠すのが惜しい。先輩は感じやすいから仕方ないのかもしれないが。たとえばこんな風に。
「……カヅキさん、好きです」
「ひっ……!」
「すげぇ嬉しいっす、こんな、俺」
毎日祭りっす。何がどう祭りか囁かなくても、頭のいい先輩はわかったらしい。キツい後ろをさらにきゅうきゅうに締め付けて、直腸全部でハグしてくる。
無限ハグするのは恥ずかしい、と先輩は言っていた。そのままでいてほしい。そうすればこうして全身で抱き締められるのは香賀美タイガただひとりになる。
先輩に俺を刻みつけるために腰を大きくグラインドさせる。先輩は後孔のヒダの引き攣れる感覚に背中を反らす。追いかけるように背中を抱きしめる。その拍子にさらに深く繋がって、カヅキさんがぶるりと頭を打ち振る。
そうして、振り向きざまに、言う。
「……っお、れも、ぁ、す、すき……っ! すきだ……っあぁああぁ!?」
――反則だ。
奥の奥に捩じ込むように腰を打ち付けながら、先輩の無邪気さに歯噛みした。「あっあぁ、ア! なんで……っ!」さらに質量を増した俺自身に愕然としたらしい先輩は、前立腺を突かれてまた直ぐに言葉を忘れたようだった。今にも射精しそうな硬さの性器が膨らんだのだから当然の反応だ。はじめての大きさと硬さでガツガツと抉られて、カヅキさんの喉が仰け反る。
「はっ、ぁ、たいっ、たいがぁ、あぁっ」
「カヅキさん……っ」
お互い限界が近い。カヅキさんの理性は途方もない快感に塗りつぶされ、獣のように尻を揺さぶらせている。
こみ上げる射精欲と戦う俺は、そんなカヅキさんから目が離せなかった。
あんなに男らしいプリズムジャンプを魅せるカヅキさんが、俺のことを性的な意味で好いて、四つん這いで犯されて感じている。頭をガツンと殴られたような感覚だ。まだカヅキ先輩のことを神様か何かだと思っているのだ。カヅキさんも人間でオトコで、セックスもする。
こんな風に、甘ったるい声で喘いで尻を突き出して、俺を欲しがってる。
「……イく……っ!」
――そのとき。
カヅキさんが顔だけで振り向いた。予想通りのトロトロ顔、ではなく俺という獲物を捕らえた雄の顔をしている。捕らえただけじゃない。雄獅子が獲物の喉笛に牙を立てて仕留めた顔で、カヅキさんはうっそりと笑う。
「――ッ」
カヅキさんの腹の中で、屹立がぶわりと膨らんだ。精液が精?から勢いよく送り出されてくるのを感じる。先輩に求められている。直腸ヒダが精液を渇望するように俺の根元から亀頭に向けてぞりぞりと締め付け搾り上げ、一滴残らず吸い取ろうとする。
「カヅキさん……っ!」
「ぁ、あぁ――……!」
そうして俺は、先輩の最奥に熱い精液をぶちまけた……。

 

 

「……俺も、ボクサーパンツでも穿こうかなぁ」
「えっ!」
先輩の体を濡れタオルでくまなく清め終えると、カヅキさんは擦れ切った声で呟いた。
「なんでですか! すげぇカッコいいのに!」
「なんでって……」
わかるだろ、と言葉を濁した先輩の頬が赤い。カヅキさんには珍しいジト目で見上げられて、俺はすぐに自分のしでかしたことに思い至る。
「すすすスイマセン! すんませんマジで馬鹿でした……!」
「ったく……もうすんなよ? すげーヒリヒリするから」
体液でぐしょぐしょなのと後孔が擦れて痛いのとで、今のカヅキさんはノーパンもといノー褌だ。心もとなさに脚をもぞもぞさせては俺の方を恥ずかしそうに見るから、申し訳なさと愛おしさがこみ上げてくる。
「……けど」
俺にタオルケットを掛けられながら、カヅキさんが頬杖をつく。片足はお尻の方に蹴り上げて、楽しいことを思いついたときみたいにぶらぶらさせている。みたい、というよりその通りなのだろう。
隣に寝転んだ俺を引き寄せて、破顔一笑。
「タイガも褌にするなら、考えようかな」
「ええ……!?」
そしたら覚悟しとけよ、と笑うカヅキさんは最高にカッコよくて、俺は不安と不純な期待にドギマギしながら朝を待つのだった。

 

卒業式の日

「卒業できてよかったのう、天祥院くん。単位は足りたかえ?」
「そちらこそ留年を免れたみたいで本当によかった」
「ふたりとも無闇に火種をつくるな……」
晃牙が人混みをかき分け会館前に辿り着くと、零はいつもの様子で天祥院と会話していた。会話というと聞こえが良いが嫌味の応酬、言葉のデッドボールの乱発に思える。そんな蛇とマングース2匹を仲裁する蓮巳は心底あきれた顔で、「せっかくのめでたい日に」とため息を吐き、それでも目尻にキラリと光る跡があった。
「ありゃ死ぬまで変わんねぇな」
声を掛けるタイミングを逸した晃牙の傍らに、いつの間にか鬼龍が佇んでいた。
「旦那もよく取り持つぜ。挨拶みたいなもんだからほっときゃいいのによ」
そう笑う鬼龍の鼻頭も赤らんでいる。
「あん? 鬼の目にも涙とか言うなよ」
「……言わね~よ」
「そうか。ま、そうだな」
鬼龍は赤い髪を春風になびかせ静観していたが、ふと蓮巳を呼び付けるとどこかへ連れていってしまった。「元気でな」連れ立つふたりの胸にはユニット名と揃いの薔薇が咲いている。姫宮を抱きしめる天祥院の胸元にも、思い思いに散らばる卒業生の胸元にも。
そうして彼らに駆け寄る後輩たちの目元も赤い。
「ばっかみて~」
晃牙は独りごちると零の元へと歩いていった。どうせ明日からも毎日会う、自分の家で。実家に帰りたがらない恋人は、後輩兼恋人の下宿に住みたがるだろう。仕事がどうなるかはわからないが朝飯くらい共にとれるだろうし、時間が合わなくとも寝台はひとつだ。レオン以外の体温を感じて寝るのは久しい、久しいけれど心が躍る。なのに何故か、この広い校舎に彼の匂いがしなくなるとは思いたくなかった。紅月の度肝を抜いて1年越しの痴話喧嘩もしたライブ会館、水曜日の生ハムサラダを食べに通った庭園、よく貧血で倒れていたグラウンドの隅の植込、文化祭の準備で連れ立って歩いた廊下、バイオリンの音を夕闇に紛れてこっそり聴いた屋上、歌い踊り演奏し続け喧嘩もした聖域の部室、どこを探しても零の甘い匂いは見つからないのだ、明日になれば。卒業式の日が終わってしまえば。
「晃牙、泣かないでおくれ」
今生の別れじゃあるまいし、と見上げた零の胸元にも赤い薔薇が咲き誇っていて、造花だというのに枯れちまえと願う。

 

湯たんぽいぬの憂鬱

「今日は、するのは、いい……」
胸に手を這わせてきた恋人を、零は小声でたしなめた。
「このまま、ぎゅってして……?」
晃牙の右手は零の背中に誘導されて、同じく背中に回した左手と再会する。
いや俺様が会いたいのは手じゃね~し。
するのはいいじゃね~よ、して~んだよ。
だってベッドで抱き合うとか、することはひとつだろ。
「…………」
そう訴えるのをやめにして、晃牙は零のうなじをぼんやり見つめた。
肩口に顔を埋めて抱き着く恋人のあたたかさ。これでは湯たんぽいぬではなく抱き枕だ、と勤続4年目・恋人2年目の晃牙は思う。
「くっついたまま……ねよ~ぜ……」
すでに零は夢うつつで、逆に晃牙の目は冴えている。いい匂いにやわらかい肌、耳元の吐息。なやましくさせる三神器。
「……おやすみ」
昨日も一昨日もこんな感じだったのに、明日も抱き着くだけで夜を終えるのかーーそう思うと殊の外憤った声が出た。 

そうして更に3日続いたところで湯たんぽいぬも我慢の限界だったから、友人に労働相談することにした。
「朔間さんはさあ、今までの分もくっつきたいんじゃないかな」
としたり顔で言うのはスバルだ。
おかわり、と持ち上げたビールジョッキに居酒屋の照明があたってキラキラしている。
「朔間さんってスキンシップ多めだし、その割に学院時代はガミさんにすら遠慮して抱きついてこなかったし。人肌恋しいんじゃないかなあ」
「そうか……?」
遠慮してたかアイツ?
腑に落ちなくて手に取った枝豆を見つめると、スバルは通りがかった店員を捕まえた。
チーじゃが、唐揚げ、トマトサラダ。
次々と運ばれてくる料理を見ながら、晃牙はこの前ここに零と来た時のことを思い出す。トマトサラダを2つも頼んだ恋人は、4人席だというのにしきりに隣に座りたがった。そのときはコイツ酔ってんなとあしらうばかりだったが、そういうことだったのかもしれない。帰りは服の背中を掴んできたし。住宅街の路地裏に引っ張り込まれて、キスもねだられたし……。
メニューをぱたんと閉じて、スバルが声を潜めて笑う。にっひっひ、なんて時代錯誤のくせして底意地が悪そうだ。
「突っぱねてると、よそに行っちゃうかもよ? 『三奇人』の人とか、この前共演してたし」

慌てて帰宅すると、零の長い腕の中にはレオンがいた。
「おかえり。……なに膝ついてんだ?」
「……ただいま……」
レオンを抱いて入り口まで来た零を、レオンごと抱き締める。
「な、なんじゃ、なんじゃ」
「うっせ~」
「レオンも我輩もくるしいんじゃけども……」
「我慢しろ」
零は照れ隠しで昔の口調に戻る。それがわかっているから抱く力を強めると、うなじが赤く染まった。
「抱き締め返せないんじゃけども」
「…………」
それもそうだとレオンを逃してやれば、晃牙はすかさず抱き締められて文字通り締め上げられた。ぎゅうぎゅう、もう離さないと言わんばかりの強さだ。
「俺様とレオンだけにしとけよ」
キスの雨を降らしながらのお願いに、零は両目をにっこりさせた。「大好きだぜ、晃牙」
それを見つめて弾き出した最適解、『2倍抱き締める』。冬も終わりだけどまあいいだろ、と自分を納得させて、晃牙は湯たんぽいぬの務めに励んだ。

AM7:00のハニーミルク

吸血鬼職人の朝は早い。だいたい18時くらいが日の入りだからだ。
「おはよう……」返事がないのにも慣れっこで、朔間零は食パンを焼く。部室の片隅、朔間零専用私物置き場の年代物のトースターが今朝も唸る。唸る割には物悲しい、チーンという音を聞きながら、朔間零は服を整える。パジャマ兼部屋着兼運動着兼制服のアイドル科特注ブレザー一式。コーヒーをこぼしてもバレないズボンの柄がお気に入りだ。おぐしを梳かして朝食の席へ、着く前に顔を洗い忘れたと洗面台へ。すれ違う人ほとんどみんなの振り向く美貌は寝ぼけ眼であどけない。ちょっと凛月に似ておるかなと見入りながら乳液を塗り終えた頃にはパンは黒コゲ。なるほど寝ぼけて10分も焼いたらしい。
インスタントカフェラテを注いで着席。炭を齧りながら窓の外の闇を見て、あぁひとりぼっちだとうっすら笑うと、窓ガラスに大神晃牙が映っていた。
「寝ぼけてんじゃね~よ」
「おっ、おぉおおぉおう!?」
大神晃牙、2年B組、UNDEADの狂犬担当。来年には狼になってやるよとは本人談で、狼の牙が見えた返礼祭は記憶に新しい。というか昨日の話だ。返礼祭の衣装を脱ぎ、いつも通りに制服を着崩して、いつも通りというにはちょっとだけ甘い拗ね顔で朔間零の目の前にいる。
「こっ、晃牙、どうして」
「卒業式まで一緒にいるって言っただろ」
平然と言い放たれて困惑する。
卒業式まであと何日だ。3日か。たしかにそんな話を返礼祭打ち上げで聞いたけれど、まさか本気だとは思わなかった。
本気も本気の大神晃牙は向かいのパイプ椅子に腰掛けて脚を組んだ。「それ朝メシ?」
「お、おん……」
「俺様は晩メシにも逃げられたよ。まだ腹空いてんなら食堂行こ~ぜ」
朔間零の頭は混乱を極めた。起き抜けだからだ。わがはいおねむだからむずかしいことわかんない、どうしてこうがはここにおるのじゃ? おなかすいた? ままのおちちがこいしいのかえ?
「さては我輩のハニーミルク目当てか」
「はぁ?」
「超絶絶品なのに我輩が自分の飲む分と合わせて1日2杯しか提供しないというお休み前のホットドリンクのことじゃ」
「そんなんあんのかよ……」
というかそんな紛らわしいネーミングでいいのかよ。いいのじゃよ。
作ってやろう、と牛乳パックを取り出すと、晃牙はキラリと目を輝かせた。しゃあなしに飲む、みたいに取り繕わない大神晃牙も、それはそれで居心地悪い。
作り方は簡単だ。文字通りハニーとミルクしか入れない。コウモリ柄のマグに注いでレンジでチン、それだけで絶品なのは愛し子への愛情が入っているから……もとい朔間零のハチミツの好みが良いだけの話だ。
とろりとかき混ぜたものを、晃牙に寄越す。ふうふうしてひと口、ふた口、み口目はたっぷり飲んで、晃牙はコーギーみたいな笑顔になる。
「うめ~な」
「じゃろ?」
「たしかに1日2杯限定になるな」
「ちなみに我輩のハニーミルクは生涯を誓い合った者にしか飲まさぬ後朝の文じゃ」
「ぶっ」
むせすぎて肺に入ったらしく、晃牙はゆうに1分は咳き込んだ。
「全部、わかってやってんだろ……」
「はてさて」
人の心はわからないけれど、言われたことは思い出せる。たった今思い出した。
『卒業式まで一緒にいたい。あんたのことが大好きだから』
俺もだと応えようにも晃牙は夢の中だったから、零がおぶって帰ったのだ。
くたくたへとへと、かわいい晃牙。愛しい晃牙。スキを伝えるだけ伝えて、吸血鬼の冷たい心にぬくもりを残していった。
「はやくわかるようになりたいのう」
告白くらい待てね~のかよ、と呟く晃牙を、朔間零は腕いっぱいに抱き締める。
あれが告白でなければ、きっと晃牙は世界一かっこいいプロポーズをしてくれるのだろう。1人の男になったときみたいに、全身全霊で大好きと叫びながら。
「本当の後朝に飲めるのを楽しみにしておるよ」
だから早く迎えに来いよな。
そう言う代わりに微笑んで、朔間零の1日が始まる。

純情♡トキメキ公園デート

カヅキくん今日はオフかい、サッカー上手いね、理工学部は忙しいだろうけど応援してるよ、これオマケ。
「はふひはん」
お友達もと2個多く盛られた唐揚げを頬張りながら、タイガは公園の隅のベンチで呼びかける。
「んぐ、カヅキさん」
俺はカヅキさんの友達じゃねぇしカレシだし、理工学部は忙しいけどカヅキさんはそれを理由に頑張らないヤツじゃねぇ。なによりカヅキさん、カヅキさんはこれデートだと思ってますか、この草サッカー。俺たちデートしてるんですよね。
「ほふ?」
「うまいっすか」
「ん、おう!」
……とは聞けなかった。
「ここの唐揚げ、大好きなんだよなー。運動した後は特にうまくてさ」
それでダンスの練習しにきてた、と笑うカヅキの視線を追って、タイガは一面の芝生に目をやる。 大勢の子供が駆け回るその下で、生えたての芝生が陽光に照らされて輝いている。やわらかな黄緑と快晴の青は青春の色だ。始まったばかりのふたりの恋路を応援するように、きらきら煌めいて見えさえした。

新緑あざやかな6月の週末は久しぶりの全日オフだ。タイガにはエーデルローズの行事が入らず、カヅキの大学は一通りの新歓行事を終えたところ。高校の頃からカヅキが続けている実家の手伝いも、今はちょうど人手の余る時期らしい。 だからタイガは決死の覚悟でカヅキを誘い、カヅキは「どこ行くか俺に任せてくれねぇか?」と答えた。
それがこれだ。
つまり公園での草サッカーデート、ただしギャラリーと大勢の仲間つき。
もちろんタイガも男の子だからサッカーは楽しい、楽しいけれど、デートとはなんだったかと、頭を抱えずにはいられない。
とうとう休憩中にカヅキの手を引いて抜け出して、遠く離れた木陰の近くで間食を買って、今に至る。
「お茶あったっけ……っと。ん、んく」
「……っ」
カヅキの喉がお茶を飲んで上下するのを、タイガはじっと盗み見る。 プリズムスタァに大騒ぎしていた子供達(あるいは同年代達)は、カヅキ達のことなど忘れて思い思いの遊びに夢中になっているだろう。サッカー、キャッチボール、縄跳び、あるいはダンス。たまに誰かが通りかかって手を振るけれど、キャアキャアとうるさい声から木陰の下は隔離されている。パス、いけ、オッシャ、なんて掛け声が飛び込んだり、涼やかな風がタイガとカヅキの間を通り過ぎたりするくらいだ。
これはデートなのだろうか。カヅキさんは、自分と恋人同士だとわかっているのだろうか。こんなに無防備な姿で、みんなに笑いかけて。先輩後輩の距離を変えずに、近くて遠くて。
「ぷはっ!」
「あのっ」
オトコならぐだぐだ悩まずに切り込むべきだ。そう決心してカヅキに体ごと向かい合うと、無垢な笑顔と目が合う。
「う……」
「ん? も1個食うか? 育ち盛りだし」
「……あざっす」
「いっぱい食べて大きくなったら、大和の背も抜きそうだな」
デート中に他のオトコの名前を出すなんて生温いんすよ、なんて非難は心の中に留めて、カヅキの容器から唐揚げを摘まむ。大和アレクサンダーとは最悪の出会いだったけれど、カヅキの良いライバルなのだ。迂闊なことを言ってカヅキに中傷だととられるのは避けたい。
かすかな苛立ちを唐揚げに八つ当たりしたら、再出撃。
「あの」
「うん?」
「その」
不満も不安も、言葉にならない。
「おー、慌てんなよ?」
「っ、スンマセン、あのっ」
あの、と切り出したところで唐揚げのかけらが喉に詰まる。 タイガがおもわず咳き込むと、カヅキの手が慌てたように背中に伸びた。さする手つきが優しくてあたたかくて、タイガの心はどんどんはやる。
「大丈夫か?」
「ごほ、っ、く、ごほっ……けほ……」
これだって恋人の手つきじゃないのだ。好きな人の体に触れることを躊躇わない、何の気ない触れ方に、昔のタイガは何度も心を震わせた。ようやく手に入れた恋人のポジションで、あのときと同じ気持ちになっている。
――俺は恋人らしいこと、たくさんしたいのに。
――そう、たとえば俺の部屋に行くとか。
「……昼から走りっぱなしで疲れたなぁ。マックとか行くか?」
「……っ、行かねぇっす」
とっさに口を突いて出た返事に、そうか?とカヅキが小首を傾げた。
こてんと音のするような仕草に胸が高まる。 大きくてまん丸な瞳がタイガを見つめている。
間が空いた。思いがけず。マックには行かない、ならどうする、恋人同士で。 木のベンチの上で拳を握る。
漢タイガ、決めるなら今だ。ホイッスルが鳴る。
「行かない、っす。これから俺の部屋、行くんで」

しん、としたのは一瞬で、すぐに公園の喧騒が戻ってきた。木漏れ日を喜ぶように、新緑の煌めきが視界のそこかしこで踊っている。煌めきの中央にはカヅキ先輩がいる。新緑をイメージカラーにするこの人の、零れんばかりに見開かれた両目の下で、褐色の頰が色づいている。
「あ、う、」
カヅキの唇がわなないた。 タイガの頰も熱い。遠くの方から子供の掛け声が聞こえる。いけーシュートだ、走れー。プリズムショーならプリズムジャンプを決めるところだろう。応援されてるみたいだ。昔のタイガなら馴れ合うなんてと怒っただろうが、もう気にならない。
だってタイガは高校1年生、カヅキがエーデルローズ入学を決めたのと同い年だ。
「俺、貴方とふたりきりになりたいんです」 2連続。
とっさにカヅキの手を取る。意外と華奢な指先が震えている。
「たい、」
「カヅキさん」
ぎゅっと握り込んで、3連続。
いけータイガ、ジャンプだ!
「やさしく、するんで!」

  ※  


「おかえりぃ〜……って、カヅキじゃん。どうしたの〜?」
「……ご無沙汰してます、山田さん」
茜さす玄関をくぐる来訪者に、山田とミナトは目を丸くした。華京院学園を卒業したばかりのカヅキが、在学生の不良息子を背負って帰ってきたのだ。
もちろん背負うには大きすぎて、半ば引きずるような体勢だ。カヅキはミナトの手を借りつつタイガを下ろすが、未だふらつくようだったから2人で慌てて肩を貸す。
「タイガ、どうかしたんですか? ぐったりしてる……」
「気付けなかったんですけど、熱中症っぽくて。俺、連れ回しすぎました」
カヅキが自分の迂闊さに唇を噛むのを、ミナトが気遣わしげに見やる。
世紀の大宣言の後、タイガは鼻血を出して倒れたのだ。原因は炎天下でのサッカーと、おそらく寝不足だろう。慌ててタイガを抱き上げたときに、下瞼に濃いクマが出来ているのを見つけたから。
そして、寝不足なのは、たぶん……自分とのデートを楽しみにしてくれていたからだ。
「カヅキさんも顔赤いですよ、大丈夫ですか……?」
「あ、あぁ、うん、俺は……うん」
2階に上がりタイガの自室のドアを開けると、カヅキは使われていない方のベッドに恋人を寝かせた。寝起きしている方には地域情報誌が広げてある。きっとタイガが今日のために見てくれたのだろう。
「カヅキさぁん……」
ふと、パーカーの裾が引っ張られた。振り返るとエメラルドグリーンの瞳がカヅキを呼んで揺れている。
「ごめんな、タイガ。傍にいるから」
「……生殺しっすよぉ……」
オトコがすたる……と唸るタイガの手を、カヅキは小さな両手で包んだ。それがまた生殺しになるのだと気づかないカヅキの後ろで、ミナトと山田が顔を見合わせ苦笑している。
「純情派も大変だねぇ」
「そうですねぇ……」
それがタイガの良いところなんだけど……と言いかけて、ミナトはぽんと手を打つ。
「そうだ、今夜は唐揚げ定食にしよう。それで元気出して。カヅキさんもどう?」
「いや……ちょっと」 思い出すから、と俯くカヅキのうなじがほんのり染まっている。
「……唐揚げは……もーいい……」
唐揚げも公園も懲り懲りだ。……などと言うには元気が足りない。
だから、
「…………」
「タイガ?」
せめてカヅキ先輩の手を引き寄せて、タイガはお部屋デートの代わりにするのだった。

恋宿り

下駄箱を出たときは薄曇りだった空はみるみるうちに崩れ、坂を下りきる頃には辺り一面土砂降りだった。おかげでタイガとカヅキは中央線の高架下から寮へと行き先を変えなければならなかった。
「夕立かあ」
2歩先に玄関をくぐったカヅキが頭を拭きながらのん気な声を上げる。
つづくタイガも寮長からタオルを投げ渡されて、ふかふかのパイル地の間から外を振り仰いだ。「夕立っつか、ふつうに雨だと思うんすけど」前庭を彩る新緑が豪雨に打たれて頭を垂れている。東北の夏の午後を思わせる、つややかな景色だ。
「午後から明後日までずっと雨だってさ。天気予報、見なかったかぁ?」
「……」
じわり、とカヅキの頬が染まった。寮長の垂れ目がふたりの寮生とその手元を交互に見て「ははーん」「……んだよ」笑いかけたまま多くは語らなった。おかげでタイガはカヅキの顔を窺えない。
「別に?」
寮長は寮生の外泊状況を知っている。香賀美タイガ、6月×日外泊。久しぶりの外泊先は、寮から少し離れた仁科家。連れ立って帰ってきたふたりのどことないよそよそしさが、口ほどにものを言ったのだろう。
「別にじゃねーだろ! こ、……ッ」
「まっ、仁科も泊まってけば? 部屋ならいくらでも空いてるし、空いてなくても香賀美の部屋あるし」
「すんません」
「いいよいいよ。じゃ、風呂沸いてるからなー」
寮長が手をひらひらと振って去るのを、タイガは歯噛みして見送った。「……離してくださいよ」幼いトラは今にも飛び出さんばかりに身を乗り出して、噛み付こうと思っていたのに……繋がれた手に止められているから。
「……何もしねーっすから」
「いやだ」
「なんでっすか」
「俺が繋ぎたいから繋いでるんだ。いいだろ?」
「つな、」
「風呂、入ろうぜ」

地面を叩く雨の音が、タイガとカヅキの世界を囲んでいる。
身体は爪先まですっかり冷えて、けれどカヅキの右手とタイガの左手にだけ熱が灯っている。天気予報を見る余裕もないくらいなのに、いつもよりふたりの距離は離れているのに、カヅキはタイガの手を離さない。
「……カヅキさん」
離したくない、なんて思われていたい。
「――そうだ!」
「はっ?」
タイガの恋人は、急に振り返ってタイガの右手に手を伸ばしてきた。
慌てて手を引っ込めたタイガに、笑いかける。幼い手の中のものを……傘を、指して。
「傘、ここで乾かしとくから……開いてくれねーか?」

――肩がぶつかるのすら恥ずかしくて、腕しか入れなかった折り畳み傘。
緑色をして、男子中学生ひとりにも小さなその傘は、タイガの右手とカヅキの左手でまっすぐ広げられた。
やっぱふたりじゃ開けにくいな、なんてカヅキが笑う。タイガは当然っすよとそっぽを向く。
折り畳み傘を玄関のすぐ横に置くと、ふたりは脱衣所へとゆっくり歩いていった。
お互いの手を握って、あたためて、相合傘ができるくらい、肩を寄せ合って。

「わんこは我輩のこと……スキ?」

花占い……わんこは知っておるかのう?

嬢ちゃんたちのような、かわいいおなごの遊びじゃよ。占いたいこと――それはたいてい片想いの恋路なのじゃけども――を心に決めながら、野の花を手折り、花弁を1枚ずつちぎってゆく……「わんこは我輩のことがスキ」「キライ」「スキ」なんてのう……そうして最後に残った花弁が「スキ」の花弁か「キライ」の花弁かで結果を見るのじゃ。
花弁の多い花ほど結果がわからなくてよいとか、ついムキになって何度もやり直してしまうとか……それでも「キライ」にしかならずに落ち込むとか…………ククッ、可憐じゃのう……?
そんなかわいらしくも真剣な乙女の恋占いがあるのだと、このあいだ嬢ちゃんに教えてもらって…………屋上の庭園の隅で休んでいるときに……ふと、目をやると……傍らにはたんぽぽ……。

「そうじゃ……♪」

我輩も、『花占い』してみようぞ……♡

ああ……無論、我輩はおぬしの好意を疑ってはおらぬぞ? わんこは我輩のことが大好き……世界一、誰よりも大好きで……我輩はわんこに世界一愛されておる、幸せな吸血鬼じゃ……♡
けれども……やっぱり、確認したいじゃろう……?

「わんこは我輩のこと……スキ」

ぷちり。爪先で花弁をそっとちぎると、嬢ちゃんのように愛らしいたんぽぽはその身を震わせて……少しだけ、痛そうじゃった。我輩の心もチクリと痛んだのじゃけども……キライ、スキ、キライって呟くことに夢中になって……痛みは遠くどこかに消えていたのじゃ……。

スキ、キライ、スキ、キライ、スキ…………わんこは我輩のこと、スキかのう……キライかのう……よく死ねって言ってくるし……大嫌いとか……昔は「朔間センパイ最高っす!」って言ってたのにのう…………スキ、キライ、スキ、キライ……あぁ、黄色い花弁がどんどん減ってゆく……キライ、スキ、キライ…………。
花弁をちぎる手は止まらなくて……4限おわりのチャイムが鳴る頃には、あんなにフサフサだったたんぽぽは残り4枚じゃった……。

「スキ、キライ、スキ…………やはり、のう……」

そうして最後に残ったのは……「キライ」の花弁……。

真実を……突きつけられてしまったようじゃのう……? いつしか陽光から逃れるように棺桶に引きこもり、輝くステージに立てなくなった我輩に……わんこは失望しておるから…………だから……わんこはもう、我輩のこと…………。

我輩の心につられるように、あたりは急に暗くなり始めた……。ずっと濃くなった木陰が、ブラウンチェックのスラックスに黄色い花弁を散らした我輩の膝と、たんぽぽの群れの上に覆い被さって……たんぽぽは寒そうに身を寄せ合うけれど……我輩の隣にはもう誰も…………そうするとますます落ち込んで、悲しくなって……。

そのとき……

「あのっ、朔間先輩……ですよね?」

ぱっと顔を上げると……我輩の目の前には、泣きそうな顔の紫乃くんが……おったのじゃ。

「あっあのっ、大丈夫ですか? しんどかったら……これ、あったかいお茶ですっ。水分補給してください……!」

我輩は言われるままに水筒のお茶を受け取って……こくりと飲み干すと、喉の奥までカモミールの香りが広がってゆくのを感じたのう。
あたたかくて、穏やかで……優しい、思いやりの香り……。

「紫乃くん……ありがとう、人心地ついたぞい。しかしなぜここへ……?」

我輩はおもわず尋ねたのじゃ……紫乃くんと普段出くわすのは、中庭の庭園やグラウンドの花壇……校内バイトで洗濯物を干しに来たにしては、洗濯かごも見当たらぬ。それに、なにやら息を切らしているような……?

「えへへっ、よかったです。お代わりたくさんありますから、おっしゃってくださいね? 実は大神先輩に、朔間先輩を探すよう頼まれて……」
「――いやがったな! 吸血鬼ヤロ~!」

おぉうっ?

 

「…………んだよ、なに花なんか毟ってんだよ。テメ~にはやることが沢山あんだろ~が。UNDEADの仕事とってくんのと、サーカスの打ち合わせと、文化祭の出店申込書書くのと、あと俺様のギター! テメ~の歌に合わせられんのは俺様だけだかんな、さっさと練習しようぜ。……なにニヤニヤしてんだ」

ふふっ……なんでもない、なんでもないぞい……♪ 少しばかり……占いに惑わされただけなのじゃ……。
わんこ、大好きなわんこ……世界一大好きなわんこ……♡ わんこのことが大好きなのも、世界一愛しているのも、我輩じゃったのう……? わんこは優しくて真面目で……今の我輩のことはスキになれないじゃろうけれど…………今だけはおぬしのこと、独り占めしてもいいかのう……?

秘すべき醤油ラーメン

※「秘すべき袋めん」ってタイトルにしようと思って最初に思いついたのが「秘封醤油ラーメン」だったけど秘封はそういう意味じゃなかった

 

 

おぬしはチャルメラ、我輩はチキンラーメン。たまごポケットには落とし卵ひとつ。
「それで『ヒヨコさんが可哀想です~』とか言いやがったらぶっ飛ばすかんな」
「なに訳のわからんことに毒されておるのじゃ」
「……合コンでそうほざいたヤツがいやがったんだよ」
深夜にほど近い11時、大神宅。
肩を落として帰宅した愛犬に即席ラーメンを振る舞って、零は恋人を慰めた。
ぽつりぽつりと零された話を聞くに、ファンク・ロック好きの飲み会に誘われて行ったらただの合コンだったらしい。
「だいたいおかしいと思ったんだよ」
青い方の箸を受け取りながら、晃牙が吐き捨てる。
「ブリティッシュ・ロックが好きだっつってんのに『ファンクで集まるから来い』とか。まあたまには新規開拓っつ~の? 凝り固まるのもよくね~かなって行ったのによ……」
「それでムシャクシャして一杯引っ掛けて帰ったのじゃな」
「おう……」
少し伸びた麺を乱暴に啜ると、付属のスープのささやかな油分が憂い顔を映して弾けた。
「問い詰めても悪びれね~し。『だってカノジョいないだろ?』って」
「あ~……」
カノジョはいない。いることにするのは、晃牙の誠実さが許さなかった。
それでも優しいギタリストは途中まで参加して、割り切れない気持ちを抱えている。
「合コンなんてよう……」
「うむ」
「はあ~……」
「よしよし」
「子供扱いすんじゃね~よ、チクショウ」
「あ、これ……ん」
隣から抱き寄せられ、ままならなさへの苛立ちをぶつけるように体をまさぐられて、零は声を湿らせた。絡めた舌は醤油ラーメン味と発泡酒味、つまり庶民の味だ。酔っ払いの指先で拙く愛撫されても、愛され慣れた肌は快楽を思い出す。
「馬鹿者……我輩お手製のラーメンじゃぞ?」
腰骨をなぞる指に左手を重ねてあやすと、晃牙はしぶしぶといった様子で箸を構え直す。
「ううう」
「ほれほれ、伸びきるぞよ~」
おぬしの零は逃げぬからな……。
そう囁くまでもなく晃牙が汁まで飲み干すのを、零はじっと見つめていた。アルコールに浸した舌には絶品らしい。プラスチックのどんぶりを置いて息を吐く横顔に、零はいつも魅せられる。
「おぬしチャルメラのCMに出るのはどうじゃ?」
「出てど~すんだよ」
「伝えるのじゃ。『恋人と食す深夜のラーメンは至高の味だ』と」
それじゃスキャンダルになるじゃね~かと笑う横顔に、一抹の寂しさが滲んでいた。

午後5時半のハニートースト

「や~いや~い吸血鬼ヤロ~寝坊しやがった~、もちろん同じユニットの俺様も寝坊!!! やべぇ!!!」

晃牙は零の後を追ってバタバタとベッドを飛び出した。時は夕刻、撮影の1時間前だ。太陽に弱い吸血鬼が「ちゃんと夜に入れられたぞい♪」とわざわざ誇らしげにスケジュール帳のひとコマを指差してみせたその時間に遅れようとしているのだから大目玉だろう。とりあえずの服と財布だけ掴んでヘアセットは向こうでしてもらえばいい、ああでもギリギリだったらそんな時間もあるかどうか。
「おい馬鹿きのうのヤツ穿くんじゃね~ぞ!」
「んあ~……?」
廊下でボクサーパンツに脚を通そうとしていた零を制止する。回りにはきのうの残滓、脱ぎ捨てたままのジーンズとか脱がして放ったハイネックとかが寝室まで続いている。欲望に忠実な零はもちろん、アイドル兼零のストッパーもといマネージャーみたいなことになっている晃牙も仕事終わりの熱に身を任せて抱き合ったから、今日の予定なんて頭から飛んでいたのだ。零が穿こうとしていた下着は、晃牙が上から零の性器を散々苛めて濡らしたはずで、勢い余って舐めたり噛んだりしていたかもしれなくて、それがすっかり乾くだけの時間は爆睡していたのだろう。
そんなくたくたの服を着て、つまり昨日と同じ格好で行ったら、どう冷やかされるかわかったものじゃない。同棲中のふたりがラブホから重役出勤しただなんておかしな話だけれど。
「だってわんこが勝手にパンツ片付けとくんじゃもん……」
「あ〜そうですね俺様が甘やかすのが悪ィんですねぇぇぇ。ホラこれ穿け、ズボンも!」
ぎっちり詰まったタンスから替えの下着と穿きやすそうなスラックスを放って渡す。自分の分はめんどくさいから昨日のスキニーでいいだろう。服から同じ洗剤の匂いがすんのもヤベ〜よな、とVネックのシャツから頭を出しながら思って、“同じ匂い”に少しだけ嬉しくなった自分を脳内で殴りつけたら笑顔の零と目が合った。
「わんこの匂いじゃ」
「ちげ〜っつの!」テレパシーかよ。
晃牙が下着を身につけ服の山を跨いで廊下に出る頃には、零はまだセーターを着ているところだった。鼻歌なんて歌いながら寝癖のついた頭をふらふらさせている。ただでさえ狭い廊下が零の両腕に占領されて、晃牙はぶつからないよう身を縮こまらせてスキニーに右脚を入れる。聴きなれたメロディは晃牙のバンドの新曲のようだ。紅蓮の瞳の狼じゃねぇドラキュラだ、と歌詞間違いに突っ込む気すら起きない、甘やかな声。増した愛しさを隠すように、
「なんでそんなに機嫌いいんだよ」
「だって醍醐味じゃろ?」
とん、とズボンをはく脚を下ろす。
首をかしげた晃牙に向けて、甘やかな声がうっとり唄う。
「一緒にあわてて一緒に出るの、家族って感じじゃのう?」

そのまま洗面所へ消える零を見送りながら、ああ、とか、うう、とか晃牙はうめいた。すぐに激しい水音が聞こえる。いつもなら水の出しすぎを叱るのに、今夜ばかりはそんな気になれなかった。
「わんこ~、洗顔フォーム知らんかえ~?」
ぴょこり、と1DKの柱の陰から愛しい笑顔が覗くのを、幸せの朝だと言うのだろう。

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