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2016年03月15日の記事は以下のとおりです。

卒業式の日

「卒業できてよかったのう、天祥院くん。単位は足りたかえ?」
「そちらこそ留年を免れたみたいで本当によかった」
「ふたりとも無闇に火種をつくるな……」
晃牙が人混みをかき分け会館前に辿り着くと、零はいつもの様子で天祥院と会話していた。会話というと聞こえが良いが嫌味の応酬、言葉のデッドボールの乱発に思える。そんな蛇とマングース2匹を仲裁する蓮巳は心底あきれた顔で、「せっかくのめでたい日に」とため息を吐き、それでも目尻にキラリと光る跡があった。
「ありゃ死ぬまで変わんねぇな」
声を掛けるタイミングを逸した晃牙の傍らに、いつの間にか鬼龍が佇んでいた。
「旦那もよく取り持つぜ。挨拶みたいなもんだからほっときゃいいのによ」
そう笑う鬼龍の鼻頭も赤らんでいる。
「あん? 鬼の目にも涙とか言うなよ」
「……言わね~よ」
「そうか。ま、そうだな」
鬼龍は赤い髪を春風になびかせ静観していたが、ふと蓮巳を呼び付けるとどこかへ連れていってしまった。「元気でな」連れ立つふたりの胸にはユニット名と揃いの薔薇が咲いている。姫宮を抱きしめる天祥院の胸元にも、思い思いに散らばる卒業生の胸元にも。
そうして彼らに駆け寄る後輩たちの目元も赤い。
「ばっかみて~」
晃牙は独りごちると零の元へと歩いていった。どうせ明日からも毎日会う、自分の家で。実家に帰りたがらない恋人は、後輩兼恋人の下宿に住みたがるだろう。仕事がどうなるかはわからないが朝飯くらい共にとれるだろうし、時間が合わなくとも寝台はひとつだ。レオン以外の体温を感じて寝るのは久しい、久しいけれど心が躍る。なのに何故か、この広い校舎に彼の匂いがしなくなるとは思いたくなかった。紅月の度肝を抜いて1年越しの痴話喧嘩もしたライブ会館、水曜日の生ハムサラダを食べに通った庭園、よく貧血で倒れていたグラウンドの隅の植込、文化祭の準備で連れ立って歩いた廊下、バイオリンの音を夕闇に紛れてこっそり聴いた屋上、歌い踊り演奏し続け喧嘩もした聖域の部室、どこを探しても零の甘い匂いは見つからないのだ、明日になれば。卒業式の日が終わってしまえば。
「晃牙、泣かないでおくれ」
今生の別れじゃあるまいし、と見上げた零の胸元にも赤い薔薇が咲き誇っていて、造花だというのに枯れちまえと願う。

 

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