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2016年03月12日の記事は以下のとおりです。

AM7:00のハニーミルク

吸血鬼職人の朝は早い。だいたい18時くらいが日の入りだからだ。
「おはよう……」返事がないのにも慣れっこで、朔間零は食パンを焼く。部室の片隅、朔間零専用私物置き場の年代物のトースターが今朝も唸る。唸る割には物悲しい、チーンという音を聞きながら、朔間零は服を整える。パジャマ兼部屋着兼運動着兼制服のアイドル科特注ブレザー一式。コーヒーをこぼしてもバレないズボンの柄がお気に入りだ。おぐしを梳かして朝食の席へ、着く前に顔を洗い忘れたと洗面台へ。すれ違う人ほとんどみんなの振り向く美貌は寝ぼけ眼であどけない。ちょっと凛月に似ておるかなと見入りながら乳液を塗り終えた頃にはパンは黒コゲ。なるほど寝ぼけて10分も焼いたらしい。
インスタントカフェラテを注いで着席。炭を齧りながら窓の外の闇を見て、あぁひとりぼっちだとうっすら笑うと、窓ガラスに大神晃牙が映っていた。
「寝ぼけてんじゃね~よ」
「おっ、おぉおおぉおう!?」
大神晃牙、2年B組、UNDEADの狂犬担当。来年には狼になってやるよとは本人談で、狼の牙が見えた返礼祭は記憶に新しい。というか昨日の話だ。返礼祭の衣装を脱ぎ、いつも通りに制服を着崩して、いつも通りというにはちょっとだけ甘い拗ね顔で朔間零の目の前にいる。
「こっ、晃牙、どうして」
「卒業式まで一緒にいるって言っただろ」
平然と言い放たれて困惑する。
卒業式まであと何日だ。3日か。たしかにそんな話を返礼祭打ち上げで聞いたけれど、まさか本気だとは思わなかった。
本気も本気の大神晃牙は向かいのパイプ椅子に腰掛けて脚を組んだ。「それ朝メシ?」
「お、おん……」
「俺様は晩メシにも逃げられたよ。まだ腹空いてんなら食堂行こ~ぜ」
朔間零の頭は混乱を極めた。起き抜けだからだ。わがはいおねむだからむずかしいことわかんない、どうしてこうがはここにおるのじゃ? おなかすいた? ままのおちちがこいしいのかえ?
「さては我輩のハニーミルク目当てか」
「はぁ?」
「超絶絶品なのに我輩が自分の飲む分と合わせて1日2杯しか提供しないというお休み前のホットドリンクのことじゃ」
「そんなんあんのかよ……」
というかそんな紛らわしいネーミングでいいのかよ。いいのじゃよ。
作ってやろう、と牛乳パックを取り出すと、晃牙はキラリと目を輝かせた。しゃあなしに飲む、みたいに取り繕わない大神晃牙も、それはそれで居心地悪い。
作り方は簡単だ。文字通りハニーとミルクしか入れない。コウモリ柄のマグに注いでレンジでチン、それだけで絶品なのは愛し子への愛情が入っているから……もとい朔間零のハチミツの好みが良いだけの話だ。
とろりとかき混ぜたものを、晃牙に寄越す。ふうふうしてひと口、ふた口、み口目はたっぷり飲んで、晃牙はコーギーみたいな笑顔になる。
「うめ~な」
「じゃろ?」
「たしかに1日2杯限定になるな」
「ちなみに我輩のハニーミルクは生涯を誓い合った者にしか飲まさぬ後朝の文じゃ」
「ぶっ」
むせすぎて肺に入ったらしく、晃牙はゆうに1分は咳き込んだ。
「全部、わかってやってんだろ……」
「はてさて」
人の心はわからないけれど、言われたことは思い出せる。たった今思い出した。
『卒業式まで一緒にいたい。あんたのことが大好きだから』
俺もだと応えようにも晃牙は夢の中だったから、零がおぶって帰ったのだ。
くたくたへとへと、かわいい晃牙。愛しい晃牙。スキを伝えるだけ伝えて、吸血鬼の冷たい心にぬくもりを残していった。
「はやくわかるようになりたいのう」
告白くらい待てね~のかよ、と呟く晃牙を、朔間零は腕いっぱいに抱き締める。
あれが告白でなければ、きっと晃牙は世界一かっこいいプロポーズをしてくれるのだろう。1人の男になったときみたいに、全身全霊で大好きと叫びながら。
「本当の後朝に飲めるのを楽しみにしておるよ」
だから早く迎えに来いよな。
そう言う代わりに微笑んで、朔間零の1日が始まる。

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