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夕立

ちょっとした用事を済ませて外に出ると、見計らったように雨が降り出した。
「夕立か」
「そのようですね。えぇと……」
腕組みをして空を見上げる東郷の横で、秋山はごそごそと小脇の鞄を漁る。
行きがけに二人分の折りたたみ傘を放り込んだはずなのに、いくら漁っても出てこない。自分の勘違いだろうか。
そうこうする間にも雨はどんどん激しくなる。小雨のうちに駅まで走ってしまえばよかったのに、すでに軒下のここから一歩出れば土砂降りだ。傘を差しても歩けるかどうか。
「……申し訳ありません東郷長官、傘を忘れてきてしまいました。車を手配しますので、しばらく中でお待ち下さい」
「いや、いい」
「え?」
「じきに止むだろう」
携帯ごと腕を引かれて、秋山は東郷の胸に倒れこんだ。身を起こす間もなく顎に指をかけられて、そのまま口付けられる。実に手馴れた様子に、雨宿りをするときはいつもこうなのだろうか、と考えてしまう秋山の歯列を、東郷の舌がやわやわとなぞる。
まるで職人のようだ、と秋山はぼんやりと思った。
……気まぐれに口付けられて、気まぐれに心をもてあそばれる。
こうして部下の失敗をカバーするような振る舞いをするのも、気まぐれの一種なのだろうとは思うけれど、そんな気遣いをしてくれる東郷が、秋山は好きだった。
(好きです、東郷長官。好きです……)
角度を変えて何度も口付けると、東郷が口の端だけで笑った気がした。
夕立は止まない。雨粒は激しくアスファルトに打ち付けられてけぶり、外界とこちらとを仕切る幕のよう。
ふと東郷の後ろに視線をやれば、磨き上げられた壁面に上官のたくましい背中が映り、真っ白な制服の布地の流れをさえぎるように、二本の傘が腰に差されているのが見えた。
……傘?
「東郷長官……」
「ん?」
「……いえ、なんでもありません」
気のせいだろう、そう思うことにしよう。秋山はぶるぶると頭を振って、東郷の首に腕を回す。
夕立は止まないし、傘は見当たらない。わかっててやってるんじゃないか、とは思えても、そんなことをしてまで口付けてくる上官が秋山は好きなのだ。

 

 

東秋へのお題:雨にかくれてキスしよう/(すき。すき。)/かがみの中に落とし物 ttp://shindanmaker.com/122300

落とし物というか忘れ物

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