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傍に

酷くありきたりなことを言われたような気がしたので、秋山はその意味を理解するのに少しばかり長い時間を要した。
眼前に大海原へとつづく浅瀬を捉え、足元の堤防には青緑色をした波が打ち寄せては白い飛沫を上げる。海水浴にはあいにくの天候不順で湿った海風は、波打ち際特有の磯臭さを重苦しく運び、日頃調味料に慣れ親しむ秋山の鼻孔に未加工の塩の匂いを届けた。
見上げれば曇天、見下ろせば荒波。塩気でごわつく髪を押さえながら元上官を振り返れば、愛娘を抱えた東郷が、再び形の良い唇を開くところであった。

「一生、俺の隣にいてくれないか」 

性別の壁を前にして安易に勘違いできるほど秋山は世間知らずではないし、以前も東郷の老後の心配をしたときに同様の内容を匂わすような発言をされてはいたのだから、今回も東郷の冗談とも本気ともつかぬ戯れだと一笑に付すことも秋山には可能であった。
しかし士官学校時代には苦楽を共にし、此度の大戦では海軍長官の参謀として誰よりも間近にいた秋山が、夏休みの家族旅行と称して連れられた海辺で聞かされるには、あまりに多くの意味を含むのではないか。そう、秋山は考えた。考えて、期待せざるをえなかった。
気が付けば駆けだしていた。距離にして数歩、けれどずっと届かないと思っていた相手の元へ。女癖の悪さに胃と胸を痛め、無鉄砲な振る舞いに不安を抱える度に、秋山は東郷を呪った。どうして貴方はそうなのだと。どうして自分を裏切るような真似をするのだと。しかし東郷への恨み辛みは的はずれであるとも、聡い秋山は気付いている。東郷の振る舞いは今に始まったことではないし、自分の意に沿わぬ事に従う義務もない。東郷は東郷らしくあり、そんな東郷へ勝手に理想を押しつけたのは、自分ではないか。お門違いの恨めしさを秋山は自覚していた。けれども同時に、それを一人で抱えることにも疲れていたのだ。自分は右腕となるに足らないのか、と。
それが、雰囲気や情緒に重きを置く東郷が、ありきたりな言葉で、らしくもない状況下で、言ったのだ。
それだけで、秋山は東郷に認められた気がしたのだ。 

まろび出るように東郷の元に駆け寄った秋山は、酷く弱い力で東郷の両腕を掴んだきり、無言で頭を垂れている。
片腕で愛娘を抱き、もう片腕で秋山を抱き寄せた東郷もまた、何も言わない。
父親と秋山に挟まれた真希は、一度だけ大きく身じろぎして、秋山の肩口から広がる海を見た。

 

 

あなたは2時間以内に 5RTされたら 堤防で受が攻に縋っている東←秋を 描(書)きましょう。

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