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夜間飛行

「カニを食べに行きました」
「薫くんの奢りかや?」
「奢ろうとしたら経費でって……レシート切って……」
「そして宛名は上様じゃな。まあいちおうロケ地じゃし、打ち合わせを兼ねておったなら仕方あるまい」
 冬の日本海沿岸。
 明け方に堤防の上を歩いているとプロデューサーと薫がやってきて昨日のメシの話なんかを始めるので、凍えていた晃牙は彼女に憐れみの目を向けた。冬生地のスーツにブカブカのチェスターコート。
「それ羽風先輩のだろ」
「朔間さんと同じことしてるの地味にショックなんだけど。優しさアピール大失敗なんだけど」
「朔間先輩のはアピールじゃね~よ」
「寒くない? 寒くても抱き締めてあげられないんだよね~ごめんね」
「今さら取り繕ってんじゃね~よ! つかカニ食ったあと何してたんだよ」
「普通に寝てた。別々の部屋で」
 無言。
「……やだな、今撮られたらダメージ大きすぎでしょ」
 そこで気付いたのか考え込む薫を零が優しい目で見る。
「部屋に戻ろうかの、嬢ちゃんもいい加減寒いじゃろう……うむ? あったかい? よかったのう色男」
 薫は鼻を鳴らして先を行った。
 晃牙と零とプロデューサーも飛び降りる。冷えたアスファルトの感触。
 海岸通りは妙に静かだ。立ち並ぶ民宿はオフシーズンなので朝餉の湯気も立てず、人気のない通りに吐く息だけが白くのぼる。
 晃牙はしぜんと零の隣を歩いた。いつものことだ。犬のように狼のように傍にいる。
「おい」
「ん?」
「楽しかったか?」
「それはもう」
「ふん」
 ふたりは手を伸ばし合い、指は絡んできらきら光る。朝陽が上り始めた。白金の日差しが背中を叩いて追い越した。日は空高いのに零はここにいる。
 

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