エントリー

2016年12月27日の記事は以下のとおりです。

すい~とあっぷるず

 美人は三日で飽きるという。
 それはその程度の美人なのだと、晃牙は言ったことがある。
 朔間先輩は違うぜ、とも言った。酒の席での言葉だったが、向かいの羽風先輩とアドニスは、晃牙を信じて頷いた。
 今も晃牙は朔間先輩を見ていた。
 たった5分だけど、熱量は負けてなかった。

「…………」
「……あ、あの……晃牙……」
「おう」
「その……」
 年末特番のUNDEAD控室。
 ゆうに5分は見つめられた後、おそるおそるといった様子で声を掛ける。すると晃牙になんでもないように返事されたので、零はどう話したものかと躊躇ってしまった。
 零たちの出演時間帯までまだ30分ある。新進気鋭のアイドルグループなので、あとのほうの順番なのだ。メイク直しも最終確認も、出番の直前にやればよい。時間が有り余っているのだった。
 ちら、と零は晃牙を見る。そして、うっ、と照れる。まだ見られてる……。晃牙の視線から逃れるように俯いた。
 どうしたのじゃ? 退屈かえ? それとも腹痛かや? なかなか言い出せないところを見ると、おしっこかのう?
 ……そんなふうに考えていた時期も、零にはあった。だけど声を掛けても見続けるので、見続けてるのを取り繕いもしないので、もしかして晃牙は自分の仕草を自覚していないのかも、と思い至った。
 無意識のうちに、零を見る。それだけ気にされているということだろうか。普段から朔間先輩朔間先輩と慕われている身でも、……恋人として想われる身でも、なんだか恥ずかしい。だってステージの上で憧れの視線を向けられるのとは訳が違うのだ。道行く人に擦れ違いざまに二度見されるのとも違った視線なのだ。恥ずかしいのじゃ。
 でも……、と零は思う。でも、無意識にしては熱心すぎないじゃろか? 視線の熱で焦がすような、服の下まで見透かすような、すべてを暴くような目で、じ~~~~~~~~~~っと見てやしないじゃろか?
 急に着ている服が恥ずかしくなった。かっこいい衣装だ。学院時代のMV撮影で着たような、艶のあるライラックカラーのロングコートは金の刺しゅうの襟を立て、同じくらい美しい黒地のシャツを合わせている。動けばシャラシャラ音のするような華奢なブレスレットとネックレスが、零の仕草にあわせて肌の上をすべるたびに、その肌のなめらかさや美しさを際立たせた。かっこよく、美しい衣装だ。けれどシャツが総レースで透けているのは、晃牙の目には毒かもしれない。綺麗な音を感じさせるのも気になるかもしれない。中東の踊り子衣装のグラビアを見て、あ~いうの目のやり場に困るぜ、と晃牙が仕事仲間に漏らしていたのを、そのあとチラリと零の方を向いたのを、しっかり覚えていた零だった。
 もしかして、見透かされてる?
 何もかも、暴かれてる?
 晃牙に……身も心も、焦がされてる?
 そんなのとっくに焦がされておるのじゃ……、と、零は赤くなった。晃牙が好きなら取り寄せようか、踊り子衣装、と思ったくらい焦がされていた。ちっぽけな胸当てと薄布のフェイスガード。豪奢な首飾り。我輩が着けたら喜ぶじゃろうか。砂漠の熱さを逃がすあの衣装で、晃牙の視線に溶かされちゃうじゃろか。魅惑的なダンスとパフォーマンスで晃牙の目をくぎ付けにするなんて、アイドルって、踊り子に向いてるんじゃないじゃろか。そしてお互いの気持ちが昂ぶったところで我輩、盗賊さんに押し倒されちゃうのじゃ。盗賊さんは晃牙じゃよ。これも学院時代、千夜一夜な衣装でグラビア撮影したときに、晃牙がはしゃいでいたのを覚えていたのじゃ。砂漠の盗賊も男のロマンなのやもしれぬ。金銀財宝の輝く中、あるいは煌々とランプの灯りまたたくテントの中、盗賊さんの手が我輩のお腹を撫でて……胸当ての裾に辿り着く。そこにも瀟洒な飾りが施され、武骨な指先がシャラシャラの飾りをかいくぐりながら、我輩の胸の飾りをそっと摘まむのじゃな。でも我輩はその手を退かすのじゃ。そうして、顔の薄布をそっと持ち上げて、「来るがよかろ……♡」とかっこよく誘うのじゃ。だって我輩、高貴なる吸血鬼じゃもの。かわいい狼男に喰われるのなら、我輩の血肉を無駄にしないよう誓ってから……誓いの口付けを、濃厚に済ませてからなのじゃ……なんて♡
 いつの間にか吸血鬼と狼男のコスプレになったふたりの愛の営みを、零は悩ましげな溜め息をお供に妄想しだす。狼男の鋭い爪で零の柔肌はそっと嬲られる。尖りすぎててひっかくのではなんてツッコミは零には届かない。晃牙はやさしくて根が真面目だから。あの脱がしにくそうな衣装も切り裂かずに脱がしてくれるぞい。ボタンは外せないけれども。
 恋は人を盲目にする。高潔な人格者である零も、晃牙に盲目なのだった。
 クリスマスはラブラブだったらしい。
「……………」
 ふと、零は己の耳を疑った。
 何か不吉なものが聞こえた気がする。我輩と晃牙の仲を揺るがすような、不吉な音色が。零の耳に馴染み深い、それはそれは聞き覚えのある音色……晃牙。
 晃牙の溜め息。
 溜め息……。
 まさか、と思った。
 晃牙、我輩に不満があるのじゃろうか。抱えた不満を言い出せずに、言葉を探して我輩を見つめていたんじゃなかろうか。根が真面目だから。やさしいから。我輩をなるべく傷つけないように、クリスマスみたいに気持ちがすれ違わないように。
 あるいは聖夜の擦れ違いが、今も晃牙の心にしこりを残していたりして。晃牙の気持ちも考えずに突っ走ったのを、未だに許せなかったりして。
 どうしよう。急に血の気の引いた感じがする。零は冷たくなった指先で、すべすべの頬を覆ってわなないた。
 もしかして、別れの言葉を探してる? 『先輩後輩に戻ろ~ぜ』とか言われちゃう? 『先輩後輩に戻っても、仲良くしておくれ』なんて返事したら、困った顔で濁される? それとも『都合いいこと言ってんじゃね~よ! あんたやっぱり俺の心がわかんね~んだなっ!』って怒ったりする? そうじゃよな、怒って当然だと思うぞい……。我輩、吸血鬼だから、好きな子の気持ちを考えられないのじゃ。考えたつもりになって、自分の厚意を押し付けて、晃牙を困らせたのじゃ。晃牙のやさしさにつけこんだのじゃ。晃牙、大好きな晃牙に、学院の頃からずっと、嫌われるようなことしたのじゃから……。
 仲間に戻ってくれるじゃろうか? 我輩の率いるユニットにいるのも嫌になって、独立する? もう敵だから、仲間じゃないからって、軽蔑しきった顔しか見せてくれない? あ、あぁ、こんなときまで我輩じぶんのことしか考えてない、嫌われたくないとしか考えてない……。
 でも、嫌われたくない。大好きで大切な晃牙に、我輩のこと好きでいてもらいたい……。
「…………あうう」
 じわ、と目の奥が熱くなった。
 情けない声に気付いた晃牙が身を乗り出した。困惑した顔で、零の顔に手まで伸ばしてくる。
 心配かけちゃダメじゃな。そう思った零は、ぐし、と手の甲で涙を拭って、むりやり笑顔を作ってみせた。健気な表情と仕草に、晃牙が言葉を詰まらせた。
 それがまた拒絶の様子に見えたので、零は作り笑顔をふにゃりと崩す。
「ちょっとわんちゃん~相棒泣かさないでよ~!」
 俯くと、今度は薫が飛んできた。化粧中らしく、ファンデーションブラシで晃牙の鼻をくすぐる。
「へくちっ☆ くちっ☆ う゛~……わりぃ、先輩」
「あ、いや、我輩こそすまぬ……う、ううぅ」
「あぁ~泣くなよぉ~……!」
 間の悪いことに飲み物を買いに出ていたアドニスまで戻ってきた。
 3人の仲間に取り囲まれながら、零はせめてものプロ根性で涙がこぼれるのを止めた。みんな明らかにホッとして、晃牙なんてそのままぎゅっと零の頭を胸に抱いた。ファンデーションが衣装につくのもおかまいなし。その腕の強さに、あぁ、まだ嫌われていないと胸が熱く震える。
「ねぇ、なんで朔間さんのこと見つめてたの? クリスマスにさんざん見つめ合ったんじゃないの?」
 取り乱しちゃった、俺のキャラじゃないよね、とばかりに鏡台に戻った薫が、呆れた顔で晃牙に聞いた。アドニスも不思議そうに晃牙を見る。
 零もおもわず恋人を見上げて、晃牙の頬がどんどん赤く染まっていくのを目の当たりにした。
 かわいい。晃牙、林檎のほっぺじゃ。すごくかわいい。
 晃牙はもっとかわいいことを口にした。


「……………………………………………………朔間先輩、美人だな、って」


「…………」
「…………」
「…………」
「なんだよ! わり~かよ! 俺たち恋人じゃね~かよっ!?」
 アドニスは呆然と、薫は笑いをこらえながら、零に至ってはほっぺを林檎のように染めながら、吼える晃牙を眺めていた。
 朔間先輩が美人だから5分もじっと見つめていた晃牙は、ひとしきり喚くと、恋人の顔をもう一度見つめてフイと逸らす。
 やっぱり見つめる。逸らす。見つめる。
「……朔間先輩、すげ~好き」
 全部だけど、顔も。
 林檎同士、晃牙と零は甘くなるまで見つめ合うのだった。

ページ移動

  • 前のページ
  • 次のページ
  • ページ
  • 1

Utility

Calendar

11 2016.12 01
S M T W T F S
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

About

【お知らせ】現在サイトデザインの一部が崩れております。ご不便をおかけし申し訳ございません。

Entry Search

Page

  • ページが登録されていません。