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2016年08月31日の記事は以下のとおりです。

ノーバレットはノーライフ

 網が焼けるか肉が先に届くか賭ける間もなく白飯が届き、相手に促されてタレで1杯目を食べることにする。
 茶碗の底が見える頃には肉が所狭しと網に並んだ。銀色に輝くトングで生肉を敷き詰めたのは朔間先輩だった。黒のポロシャツを汗で湿らせて、網から立ち昇る熱と煙にヒイヒイ言っている。
 汗ばむ喉の白さをオカズに山盛りを完食、お代わりする。入れ替わりにジョッキが2杯やってきた。ウーロン茶をなみなみと注がれている。受け取って乾杯。
「誕生日おめでとう」
「おう」
 誕生日だ。
 お祝いしようぞ、たらふくお食べ、トップアイドルの我輩の奢りじゃ遠慮するでない。そう矢継ぎ早に言われて連れてこられた。晃牙はかろうじて一言声を挟めただけだった。そうしてねっとり纏わりつく夜風の間を縫うようにふたりは焼肉屋に来て、おすすめセットの大盛りを頼んで焼きだした。
 にっこり笑って向かいの席でウーロン茶を飲む先輩の、青白い喉が晒されている。
「焼けたぞい」
 トングの先が肉を掴んで晃牙の皿に積み上げた。全部タレに漬ける。ジュワッ。5枚それぞれが油にまみれて輝いていて、タレと馴染んで食欲をそそる。
「今度はみんなで来ようぞ、晃牙」
「そうだな」
「ちょっと頼みすぎたかのう?」
「んなこたね~だろ。つかあんたも食えよ」
「おぉ、ありがとう。相変わらず優しい子じゃな」
 そのときトングにつままれ震えた肉が網を下まで油を落とし、ふたりの間が燃え盛った。
「うぐ、煙いのうっ?」
 朔間先輩は体を折って咳き込んだ。煙がもうもうと立ち込め真上の換気扇に吸い込まれていく。「先輩、わりぃ」「いや、おぬしは大丈夫か」「俺は平気だぜ」「そうか、ごほっ、けほけほっ」
 すまないと詫びた晃牙は先輩の背中をさすりに行けず、代わりに煙の向こうから先輩の汗ばむ横顔を見つめ尽くす。
「けほっ、ん、はぁ……っ、あ! 焦げておるぞ! ほれ晃牙、黒くなったのはこっちにおやり。我輩のと交換じゃ。……晃牙?」
 晃牙は頷いて手を伸ばした。胸が痛むのを隠しながら。
 ……朔間先輩は知らないだろう。軽音部の面子全員で行くはずだった焼肉に、ふたりきりがいいと言った真意を。
 朔間先輩には思いもよらないだろう。まだ生のままの牛肉に、先輩の腰のラインを重ねていることを。
 先輩の腰が血に濡れて輝いている。しかしそのなまめかしさは煙に隠れて見えにくい。しっとりした肉の曲線が大皿の上で倒れ伏しているのを、晃牙はウーロン茶の陰から盗み見た。
 

「なあ、ここ結構きてんのか?」
「うむ? そうさのう、薫くんとかと」
「そっか。そうだよな」
「おいしいじゃろ?」
「そうだな」
「本当にのう……」
 零は晃牙の目を盗んだ。
 零は晃牙の目がギラギラと獰猛なことに気づいている。獲物を狙う獰猛さで、焼肉会が終わるや否や零を襲って食べてしまうつもりであると知っている。サンチュのように波打つシーツに辿り着こうと舌舐めずりをしていると、晃牙の油で濡れた唇を見て解った。
 零は気取らずにトングを操った。肉をよそい、空いた場所に赤身をじゅっと焼き付かせる。本当に気取らせなかっただろうか? 零が肉を裏返すとき、薄いポロシャツをたくし上げた気分だったと晃牙はわかっただろうか?
 迷いは手元に出た。トングが手から離れた。追いかけた手の甲に別の手の平が重なった。晃牙の、汗ばみ冷えた掌が、零の素肌に縋り付いた。
 それだけで充分だった。


 目を合わせると黙々と肉を焼いた。赤身の残るうちから口に放り込んだ。どちらが早く食べ尽くすか、晃牙の自宅に何秒で着けるかふたりきりで争っていた。

 

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