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2016年01月04日の記事は以下のとおりです。

午後5時半のハニートースト

「や~いや~い吸血鬼ヤロ~寝坊しやがった~、もちろん同じユニットの俺様も寝坊!!! やべぇ!!!」

晃牙は零の後を追ってバタバタとベッドを飛び出した。時は夕刻、撮影の1時間前だ。太陽に弱い吸血鬼が「ちゃんと夜に入れられたぞい♪」とわざわざ誇らしげにスケジュール帳のひとコマを指差してみせたその時間に遅れようとしているのだから大目玉だろう。とりあえずの服と財布だけ掴んでヘアセットは向こうでしてもらえばいい、ああでもギリギリだったらそんな時間もあるかどうか。
「おい馬鹿きのうのヤツ穿くんじゃね~ぞ!」
「んあ~……?」
廊下でボクサーパンツに脚を通そうとしていた零を制止する。回りにはきのうの残滓、脱ぎ捨てたままのジーンズとか脱がして放ったハイネックとかが寝室まで続いている。欲望に忠実な零はもちろん、アイドル兼零のストッパーもといマネージャーみたいなことになっている晃牙も仕事終わりの熱に身を任せて抱き合ったから、今日の予定なんて頭から飛んでいたのだ。零が穿こうとしていた下着は、晃牙が上から零の性器を散々苛めて濡らしたはずで、勢い余って舐めたり噛んだりしていたかもしれなくて、それがすっかり乾くだけの時間は爆睡していたのだろう。
そんなくたくたの服を着て、つまり昨日と同じ格好で行ったら、どう冷やかされるかわかったものじゃない。同棲中のふたりがラブホから重役出勤しただなんておかしな話だけれど。
「だってわんこが勝手にパンツ片付けとくんじゃもん……」
「あ〜そうですね俺様が甘やかすのが悪ィんですねぇぇぇ。ホラこれ穿け、ズボンも!」
ぎっちり詰まったタンスから替えの下着と穿きやすそうなスラックスを放って渡す。自分の分はめんどくさいから昨日のスキニーでいいだろう。服から同じ洗剤の匂いがすんのもヤベ〜よな、とVネックのシャツから頭を出しながら思って、“同じ匂い”に少しだけ嬉しくなった自分を脳内で殴りつけたら笑顔の零と目が合った。
「わんこの匂いじゃ」
「ちげ〜っつの!」テレパシーかよ。
晃牙が下着を身につけ服の山を跨いで廊下に出る頃には、零はまだセーターを着ているところだった。鼻歌なんて歌いながら寝癖のついた頭をふらふらさせている。ただでさえ狭い廊下が零の両腕に占領されて、晃牙はぶつからないよう身を縮こまらせてスキニーに右脚を入れる。聴きなれたメロディは晃牙のバンドの新曲のようだ。紅蓮の瞳の狼じゃねぇドラキュラだ、と歌詞間違いに突っ込む気すら起きない、甘やかな声。増した愛しさを隠すように、
「なんでそんなに機嫌いいんだよ」
「だって醍醐味じゃろ?」
とん、とズボンをはく脚を下ろす。
首をかしげた晃牙に向けて、甘やかな声がうっとり唄う。
「一緒にあわてて一緒に出るの、家族って感じじゃのう?」

そのまま洗面所へ消える零を見送りながら、ああ、とか、うう、とか晃牙はうめいた。すぐに激しい水音が聞こえる。いつもなら水の出しすぎを叱るのに、今夜ばかりはそんな気になれなかった。
「わんこ~、洗顔フォーム知らんかえ~?」
ぴょこり、と1DKの柱の陰から愛しい笑顔が覗くのを、幸せの朝だと言うのだろう。

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