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宵の蜜華

えっちな晃零・エロコメは作中で2回セッさせるものだと習った

 

 午前3時、郊外の廃工場に冷気が満ちている。港にほど近いそこは生を受けた者すべてを凍りつかせ、容赦なく命を奪う。満身創痍の美青年――零も、砂埃まみれのコンクリート床に転がされた今、例外ではなかった。
 おもむろに足音が響いた。懐中電灯の明かりが夜闇を切り裂き、足音の行く先を照らす。迷いのない光と足取りが、ことさらゆっくりと零に近づく。
 まず零の上半身が照射され、足音の主が喉を鳴らした。驚愕ではなく歓喜。仕立ての良いスーツには幾重にも縄が食い込み、零の美しい肉体をこの上なく辱めている。布地の皺にぬらりと反射した明かりが、胸から肩、首へと這い上がり、零の血濡れの美貌を明らかにする。
 白い吐息が曝露の光の中で煌めく。
「……っざけんなよ、テメ、っあ゛ぐ!」
 男の靴先が鳩尾にめり込んだ。
 地面にぱっと零の胃液が飛び散る。
「無様だなァ、『龍崎』」
 体をくの字に曲げて胃液を垂らす零の、赤黒く腫れ上がった頬で靴底を拭う。そうして足音の主は零を見下ろした。撫でつけた濃緑の髪の下に、酷薄な笑みが浮かんでいる。
「手前の自慢の舎弟はよォ……とっくに死んじまったんだわ。全員。使いもんになんね~よなァ、頭の一大事に駆けつけねェでさ……まっ、生コン飲んだら浮かばねェだろうがよ」
「…………ッ、ぎ!?  ア、」
「手前もイくかぁ?  ピチピチピチピチ……そうやってっとイワシみて~じゃねェか!」
 笑いながらもう一度鳩尾を、今度は捻じ込むように蹴り上げる。
 男の下卑た爆笑は零――激痛に悶える龍崎には届かない。
 そうして稚気じみた戯れに興じていると、ふと、男は体を強張らせた。
「……殺してやる……」
 地獄めいた声。間違いなく、龍崎の口から発せられていた。
「殺してやる、手前も組も……地獄から這い上がって皆殺しにしてやる……!」
「……やってみろよ」
 男――梶川組若頭は、うっそりと零を見下ろし、とどめのひと蹴りを繰り出した。
 零の体が大きくたわむ。痙攣を起こした痩躯は、やがて事切れたように冷たい床に投げ出された――。





「そこで終わんなよぉ……」
 テレビにかじりついていた晃牙は、悲痛な声を上げてソファに沈み込んだ。
「今回も面白かったかえ?」
「おもしれ~よめちゃくちゃ……あぁ~、龍崎どうなるんだよ……!」
 頭を抱えて悶絶している。模範的な反応だ。その愛らしい様子に、『龍崎』――零はおもわず忍び笑いを漏らす。
 ふたりが見ていたのは朔間零主演の暴力団ドラマだ。裏社会の義理と人情を手堅く描く硬派な作りに評価が高い。放送開始直後こそ女性視聴者が多いのだろうと揶揄した与太新聞も、息もつかせぬ展開と零の好演を好意的な見出しで報じている。零本人も、それじゃ仕込みみたいだと思いつつ、世間の様子に気を良くせずにはいられなかった。
「ほれ、もう寝るんじゃろ? あんまり興奮すると目が冴えるぞい」
 晃牙がじたばたしている間に、零は台所でホットミルクをこしらえて帰ってきた。
 まだ熱いマグカップを晃牙に手渡す。
「おおうっ?」
 と、ホットミルクは机に置かれ、代わりに零の体が抱き込まれた。
「晃牙? 枕はあっちじゃよ?」
「知ってる」
「そうかや? ……っん」
 おもわず笑うと言葉少なに唇を奪われ、柔らかく硬い舌に歯列をぬるりとなぞられた。
 唐突な雄の雰囲気に驚いた零も、瞼を下ろすと夢中になって唇を擦り合わせる。
「んちゅ、ん、……んむ……」
「っ……はぁ……先輩……ン」
 これを言うと怒られるだろうけれど、晃牙の舌は少しだけ犬に似ている。
 前にレオンに舐められてわかった。ザラザラ感と、舐め方。ぺろぺろと、舐めたものの奥の味を探り出すように、丹念に舌を這わす。
 零は晃牙に情欲を探られている。だが舌使いが未熟だ。零の奥をぐずぐずにする気なら、もっと犯すようにねぶらなければ。
 だから、教えてやることにする。
「ン、んぁ、う……?」
「晃牙……舌を出せ」
 零は唇を離すと、晃牙に見えるように舌を突き出した。妖しくうねるそれで晃牙を招くと、かわいい恋人は真似て唇を薄く開ける。
「そう、もっと……ククッ」
「命令すんじゃね~よ……」
 晃牙が眦を吊り上げながら、それでも従順に舌を見せるのを、零は法悦すら感じながら眺める。
 零に舌を捧げた晃牙の瞳が揺れている。蜂蜜に似た金色。期待を溶かした――零から与えられる快楽で蕩けていくのを期待した色だ。
「う!」
 成長途中の喉から嬌声が上がった。零が尖らせた舌先を触れ合わせたのだ。
 舌先をほどくと今度は裏に這わせた。裏筋、舌の輪郭、窪みへと……包み込むように動かす。
「おぬしのここが……我輩の性感帯を擦り、嬲って……我輩の身体を支配する。わかるか、晃牙……?」
「……ッ」
 晃牙が期待と興奮に頬を染めて頷く。
「そうだ、賢い子だ……『俺』と同じようにしろよ……できるな?」
 あえて乱暴な言葉で誘導し、命じる。
 嬲った。
「はっ、あ、ウウ」
 晃牙は突き出したままの舌をぎこちなく動かすと、零の舌に絡ませ始めた。絡ませるというより縺れ合わせるというべきか。舌の凝らせた部分を複雑に擦り合わせ、隙間なく重ね合う。恋人を導く零の舌の、有無を言わせぬ動きが晃牙の背筋を甘く痺れさせた。
 口の端から涎が零れる。零は幼子にするように舌でそれを拭うと、己の口の端も手の甲で擦って晃牙の舌へ戻っていった。硬く絡めて舌全体で抱き合う。
 唇の合間から忍び笑いが漏れ出ていく。慣れない動きを揶揄するそれがくぐもった嬌声に変わった瞬間、晃牙は零の肩を掴みソファーに押し倒していた。
「朔間先輩、俺――」
 零の喉が淫らに上下した。
 見上げた瞳が爛々と輝いていた。暴力の描写に性欲を掻き立てられたことへの戸惑いが、今やはっきりと支配への渇望に塗り替えられている。
 背徳的な輝きに、零の後孔が甘く疼く。
「……クク、これでは眠れんのう。おぬしの剛直、我輩が鎮めてやろう……」
 零はうっそりと囁くと、細い指で晃牙の高ぶりを撫で上げた……。





 指の間で瀟洒な音を立てて擦れる銀色の包み紙――外国の蜜菓子のそれを剥がした子どもの頃のように、零は晃牙の下着から性器をそうっと取り出した。
 赤黒く猛る雄の先端から、透明の蜜が滴り溢れている。
「ほほう……随分と立派にしおって」
 花を手折る優しさで握ると、晃牙の腰が大げさに震える。肉茎は更に芯を持ち、手の平に先走りの蜜を擦りつけていった。
「朔間先輩……っ」
 喉を焼くような甘さの唸り声が零を呼ぶ。はやく挿れたいとばかりに腰を揺らす愛犬を、零は急所を握って躾けた。
 固さを失わない肉芯――これならば手で扱き上げる必要はない。零の後ろを解すだけですぐにでも体を繋げることができるだろう。
 蠱惑的な笑みで晃牙をあやしながら後ろ手を伸ばしたところで、ふと、零の心に影が差した。
 ――挿入るだろうか。
 気のせいでなければ、晃牙の中心は夜を共にする度に大きさを増している。おかげで零は何度その身に雄を迎えても一向に慣れることがなく、体を割かれるような痛みに苦悶の声を上げるのだ。
 そしてあの排泄感……腸を捏ねるような圧迫感と、勢いよく引き抜いたときの喪失感は排泄のそれによく似ている。いつも中を清めているとはいえ、寝台で粗相をしないか抜き差しの間じゅう気が気でなかった。
 零の躊躇いを察したのか、晃牙が鼻を擦り合わせてきた。顔が離れたのも束の間、すぐに舌が唇を割って零を慰撫する。
「は……ぁあ……」
 零は指先で不安を紛らわせた。晃牙から見えない角度で後孔にジェルを仕込み、浅いところを掻き回す。まだ快楽を拾えない秘奥も、晃牙を愛するためなら十分な働きをしてくれるだろう。愛しい犬が強直を扱かれ射精感にすすり泣く様は零の心にこの上ない悦楽を与えるのだ。それで良い。情欲に溺れない身でこそ為せることがある。
 晃牙と体勢を入れ替え、引き締まった腹を跨ぐ。
 コンドームを被せた雄芯に潤滑剤をまぶすと、一息に腰を落とした。
「ぐうううぅ……!」
 尻をめりめりと侵される感覚に、零は背中を丸めて耐えるばかりだった。まるで熱した槍で体の中心を串刺しにされているようだ。亀頭が括約筋を通り抜けるまでの時間が永遠の責苦に感じられる。心で欲しがった晃牙を体が拒絶していると信じられるはずもなく、はやく入れとばかり祈り続ける。
 ようやく肉棒すべてが収まった。乱れた息はそのままに、腰を上げて素早く落とす。
「アッ!」
 晃牙が短く啼いた。おかげで自分の辛苦を悟られずに済む。零は己の窄まりが晃牙に縋り付くのを感じながら、より淫蕩に見えるよう派手に腰をグラインドさせた。
「く、っうぁ、せんぱ、はぁっ」
「……ぁ、ぐ、……うぐっ……くくっ、ン、いやらしい顔をっ、くっ、しておる……っ」
 太股の上に尻を跳ねさせる合間に、腰に添えられた両手を優しく払い落す。晃牙は悲しそうに目を見開くと手を彷徨わせ、ソファカバーの皺を固く握りしめた。吸血鬼のことなど構わず自分だけ気持ち良くなれば良い。それが本心のはずなのに、晃牙の様子に腰が切なく疼いた。
 ゆっくりと体を折り曲げ、唇を触れ合わせる。
「んっ……晃牙、良い子だから我輩をしっかり感じておくれ……?」
「せ、先輩……あんた」
「ほれ、っ、もっと……っあ、あぁ……っ」
 ――それが我輩の悦びじゃよ。
 晃牙が感じ切れていないのは自分が苦しむ顔を見せたからだ。怯える体を叱咤して、全身の力を抜いてみせる。快楽に耽る女優のごとく吐息を濡らし、陶然と体を揺すれば、愛しい男は瞳の蜜色を濃くして言う。「なぁ、も、出そ……っ」
 それで良い。
「あっ、あ、ほらっ、イけ、イくのじゃ……っ!」
「っ、ぐ、うう――」
 最奥を勢いよく抉らせ、射精を促す。
 弾けた。
「――ッ……ぁ……あぁ……」
 膜越しに想い人の脈動を感じながら、零も自らを擦り上げ昇りつめたのだった……。





 翌朝に昇った日が秋の空で燃え上がり、沈み切る頃になっても、零は気怠さを払えずにいた。
 単なる肉体の疲れではない。どこか知らない街で彷徨うような、言い知れぬ負の感情が零の全身を重くしている。
 零の体は自宅から電車を乗り継ぎ、目的の部屋にたどり着く。入口を閉めるのも忘れ、椅子にへたり込むように腰を下ろした。
「苦しそうだね」
 はっと顔を上げると、シナモン色の瞳とぶつかった。
 くすんだ赤をした髪が右目の上で揺れている。持ち主の笑い声に合わせて踊っているのだ。天邪鬼な青年にこそ似つかわしいストレートの、アシンメトリーボブ。
 持ち主――逆先夏目は、切れ長の目を猫のように眇めると零から遠ざかった。
「寝不足かナ、零にいさんモ」
 そう言われて周囲の音が戻ってくる。指示出しの声、化粧道具のぶつかる音、化繊衣装の擦れ合う音……聴き慣れた雑音が耳の奥で膨張して届き、零はここがテレビ番組の楽屋であることを思い出した。
「いや……夕方までぐっすりじゃったがのう、寄る年波には勝てんわい」
「ふぅん? 今日の勝負は貰ったヨ?」
 これから収録するのはクイズ番組だ。その時々で違う芸能人が招かれ正答率を競う。今回招かれたのは人気深夜ドラマの出演者――夏目は梶川組の末端組員役で出ている。ドラマ自体はクランクアップしたが、宣伝活動は続いているのだ。
 夏目はにんまりと笑みを深くした。チェシャ猫の表情に零に向けられた気遣いが見え隠れする。ここまでなら親愛なる先輩の負担にならないだろうという配慮と、自分の懸念に気づいてもらいたいという甘え。綿密に計算された振る舞いに、老獪の零も舌を巻かずにはいられない。
「今宵は夜更かしせず眠ろうかのう。お肌にも悪いしのう~?」
「零にいさんは親しい人の精気を吸って元気になるんジャ……まあ、そうしてくれるなら一番だけド」
「おぬしの精気も喰ろうてやろうか~!」
「ちょちょちょっ、収録前だかラ……!」
 アームロックを掛けると魔法使いが焦って胸を押してくる。その腕の細さに愛しい子犬の姿が脳裏をよぎった。続く鈍痛。香辛料色に覗き込まれる。
 視線を遮るようにふざけていると共演者の笑いを誘い、待機者全員で盛り上がっているうちに入口が開いてスタッフの顔が覗いた。
「朔間零さんお願いします~」
「おぉ、よろしくお願いします。……では、失敬」
「零にいさん」
 振った利き手に幼い指が絡んだ。
 振り返ると猫目が爛々と輝いている。
「すぐに悦くなるよ」
 共演者たちは夏目の言葉を話題の〆――零の腹痛へのお見舞いとだと勘違いしたらしい。口々にお大事にとか寝たら良くなるとか零を励まし、スタジオへと送り出す。
「寝たらよくなる、のう……」
 長い廊下を歩きながら、薄い腹をそっとさする。
 肉の下、恋人を迎え入れたそこが熱く痺れる感覚は、収録が終わるまで続いた。





 闇を縫うように住宅街の中を進み、自宅のあるマンションまで辿り着く。
 思いのほか収録が長引いた。夜闇が棲家の零にとっては真夜中こそ目の冴える頃だが、同棲相手――晃牙は睡魔に襲われる時間だろう。
 居間で寝ていたらブランケットに包んで寝室に運んでやろう、と部屋を見上げると明るい。帰りを待っていてくれたのだろうか。零の胸に甘酸っぱいものが広がった。
「ただいま……晃牙?」
 狭い玄関を抜け、居間の扉を静かに開く。
 入口に背を向け絨毯に座り込んでいた恋人は、
「う、わぁっ!」
 と振り返るや否や手の中の物を背後に隠して後ずさった。
「なんじゃ~?」
「おおおおかえり! 早かったな! メシ出来てるぜ! 先フロ入れよ!」
「ただいま。……なんじゃ、これ?」
「あああああ」
 脚も長く腕も長い零とではリーチに差がある。抵抗空しく得物を取り上げられた晃牙は、両腕をだらりと下げると苦虫を噛み潰したような顔で白状した。
「……アナルパール……」
「あなるぱある?」
「大人の玩具だよ……」
 あんたこういうのは疎いんだな、と言いながら零に歩み寄る。咄嗟にアナルパールを抱き込むと、忠犬の手は玩具ではなく零のショルダーバッグを攫って絨毯に置いた。
 ソファに座るよう促される。昨日交わったのと同じ位置に、零は注意深く腰掛けた。
「…………」
「あの、さ。きのう気持ちよくなかっただろ?」
「はて……」
「いいよ、もう俺に気ィ遣わなくて。っつ~か、遣われたくね~から買ったんだけどさ。あんたがいいならって好きなようにさせてたけど、俺しか気持ちよくなれてね~し」
 はて、ともう一度言おうとしたところで勘づく。
「これ、どこに使うんじゃ?」
 晃牙の横顔に朱が走った。
 零は握ったものをまじまじと見た。さくらんぼ大の黒い球体が等間隔に連なるそれは、軽く握ると手の平を跳ね返した。芯のある材質だ。片方の先端には輪がついており、どこかに入れた球体を引っ張るのに役に立つだろう。柔らかい表面も、粘膜を傷つけないよう出来ているに違いない。
 晃牙が体全体で零に向き直った。蜂蜜色の瞳が熱意に燃えている。
「ぜって~気持ちよくするから、今日は俺に任せてくれね~か」
 こんなものを挿れられたら……。
 恐れと不安が背筋を舐めるのを、しかし零は笑顔でやり過ごした。可愛い恋人が考えてくれたことを無碍にする訳にはいかない。
「よかろう。楽しみにしておるぞ」
「マジか! 頑張るぜっ、ふふ~ん♪」
「まっ待て張り切るなっんんぅ!?」
 年下の恋人はさっそく情熱的なキスで吸血鬼を蕩かしにかかった。
「んっ! んぁ、ふ、っ、これ、っんふぅ……!?」
 抗議の吐息すら奪うように舌を搦め取られる。闇雲ではなく零の反応を見ながら弱いところを擦る舌先。肌を愛撫するのと同じ繊細さで先端を突かれ、聞いたことのない吐息が鼻を抜けた。
 教えた通りの手順だ。従順な愛犬の、愛を込めた逆襲。まるで耳元で愛を囁かれ続けるようで、胸のざわめきが止まらない。
 質量を持った舌は口腔内に強引に攻め入り、顎裏の溝を愛おしげになぞって帰ってゆく。気を緩めたのも束の間、下唇を甘噛みされて舌で嬲られる。大きく開いた口で唇全体にしゃぶり付かれたとき、零は晃牙という男が雄の狼であることをようやく知った。
「はぁっ、んむ、ア、……んはっ!」
 吸血鬼は狼男に負けられない。口を離された隙に首に抱き付き歯列を割り開くと、狼の熱い舌に歓待された。「はぁ、ン、んぅ、ふぁ……っ」お互いに唾液をまぶし合ったそこを、擦り合い、重ね合う。舌先で愛を捏ね合う。
 そうしてふたたび見つめ合った頃には、零の体はくったりと晃牙の胸に凭れ掛かっていた。
 雄狼の口づけが額と頬に落とされる。「ベッド行きて~けど……俺様が運んだ方がいいか?」
「……歩く。手出しするでない」
 そうは言っても震える膝に、零は真っ赤な顔で寝室まで伝い歩くのだった。





 四つん這いの零の尻を、晃牙の両手が容赦なく鷲掴む。
「そう……もうちょっと尻、突き出してくんね~か」
 ――これ以上は耐えられん。
 まるで犬のような格好をさせられた零は、眦を吊り上げて振り返った。
 視線で射殺す勢いで恋人の姿を見た瞬間、しかし怒りが急速に萎んでいく。
「なっ……なんて顔しておる」
 頼んで照明を消させた寝室の、シーツの上。
 晃牙が夜闇の中でもわかるほど茹だった顔をしかめて、零の腰の位置を調整していたのだ。
「なにゆえ我輩ではなくおぬしがしかめっ面するのじゃ!」
「だってよう、朔間先輩すげ~エロい……」
「うっ」
 直球で褒められて狼狽える。
「昨日の今日だから、ひくひくしてんだよ……ちょっと緩くなってて、俺のがここに入ってたんだなって感じする……」
「馬鹿者、口に出すでな――ひっ」
 ローションのついた指で皺を丁寧になぞられる。体の芯に火をつける愛撫に零の尻が揺らめいた。
「あっあ、うぅ、はやく挿れんか……っ!」
「切れたら困るだろ。緊張も解かね~とだし」
「あ、あぁ、ひぃ……!」
 窄まりを押し潰すように伸ばしていた晃牙は、尻穴に指を差し入れるとぐるりと縁を馴らした。
 晃牙の太さに広げられている……。当然のはずの事実に引き攣れた声が出て、零は咄嗟に口を押えた。
 シーツに突いた片腕が震える。獲物の急所に手を掛けた狼の愛撫は止まない。賢いこの狼は孔の拡張をやめると腹側の1点をおもむろに刺激しだした。前立腺だ。セッションのカウントを取るように、リズミカルにふくらみを押してくる。
「アっあっくぅっ」
「ヘンな感じするか? きゅうっとくる感じ?みて~な」
「す、するぅ……っ、するから! もう……っぁ、ア!」
 ちゅぼっ、と卑猥な音を立てて指を引き抜かれた。始まりとは真逆の荒々しさに興奮を煽られる。
 零はおもわず息を吐いた。ようやく晃牙のものを挿れてもらえる。全身くたくただから、晃牙をイかせて早めに寝よう。
 そして、今夜のことは忘れて……。
「挿れるぜ……」
「ぅん、んン……ひ、……っ? なに……あ……ぐうぅ……っ!?」
 朦朧とした頭が居間での約束を思い出したのは、4個目のパールが入りきったときだった。
「こ、晃牙ぁ……っ!?」
 直腸を容赦なく侵す球体に恐慌状態で振り向くが、「あぐっ」上半身から崩れ伏す。
「こうが……っんぐ……うくぅ……っ!」
 細いはずのアナルパールが腹を中から圧迫している。それも球体の数が増えるごとに加速度的に。
 内臓には感覚がないはずだ。けれど零の直腸は確かに性具の冷ややかな質量を伝え、薄い腹を張らせた。残留し続ける異物感に体内が疼いている。繊細な粘膜がパールに吸い付くと、硬質な膨らみが前立腺を押し下げ零に未知の感覚を教える……。
 とうとう体内の玩具の長さが晃牙の性器を超えたとき、零は肩越しに捕食者に抗議することにした。金色の瞳を探して睨むと、晃牙はこちらに気付いた瞬間あわてて目を逸らす。一瞬の邂逅。けれど零は確かに見た、美しい蜜が煮詰められカラメルのように熱を秘めているのを。本気の……本気で零を喰らう目だ。
「……15個目。全部入った」
「……ぁ……」
 零は頭を垂れ、自分の腹を呆然と眺めた。筋肉すらうっすらとしか付かないそこが波打っているように見える。アナルパールの大きさを考えると錯覚に違いない。けれど晃牙ですら届かないところを拓かれ黒々とした異物を収めたこの身は、寝台に上がる前とは別物のように思われた。
 ごり、ごり、と腹の奥で擦れ合っている。
「大丈夫か、朔間先輩……?」
「……っ、案ずるでない……これくらい吸血鬼には屁でもない」
「また強がりやがって……ったく」
 ローションまみれの手が後頭部を掻く。もう片方の手は零の剥き出しの腰に添えられ、脂汗の浮かぶ肌をゆっくりとさする。
 労られるのは嬉しかったが、アナルパールの入ったままでは落ち着かない。いっこうに抜こうとしない晃牙に、零はとうとう耐えきれなくなり声をかけた。
「いい加減抜いても良いのではないか?」
「ん? あ、あ~……先輩が出してくれね~か」
「うむ。……うむ?」
「手を使わずに出してくれね~か」
「はあ!?」
 出す!?
 あんぐりと口を開けた零を見て言葉足らずだったと悟ったらしく、恋人は慌てて説明を付け足す。
「いやその、中で感じるにはトレーニングが必要らし~んだよ。筋肉を動かして、中を緩めたりキツくしたりすんだけどさ。感じるときの動きがこれ出すときの動きらしくてよ」
 要するに排泄の真似事をして、排泄で気持ちよくなれということらしい。大人しく聞いていればとますます頭に血が上る。
 全身に怒気を漲らせる夜闇の魔王に、夜闇の狼がびくりと震える。
「おぬしは……どこまで我輩を辱めるつもりじゃ……!」
 と唸った、その時。
「あ……っ!」
「先輩?」
「ぁ、うぅ……っ!」
 零は腰を思いきり突き出すと体を大きく震わせた。
 晃牙が支えようとしてくるが、今の零には振り払えない。途方もない排泄欲求と性感が同時に零を襲ったからだ。
「はっあ、ア、うぐうぅ……っ!」
 出したい。気持ち悪い。きもちいい。
 頭の中で矛盾する信号がチカチカと交差する。感覚を払いたくて、尻が弱弱しく揺れた。
 必死にいきんで押し出そうとしても、息を吸った瞬間ぬるりと戻ってくる。むしろさらに奥まで咥え込み、逃れられない快楽に悲鳴を上げさせた。
「っ、ひ、ぃいっ、あっ」
 落とせば、すぐ抜けるかもしれない……。
 零はなんとか上半身を起こしてトイレ座りをする。体勢を変える間もアナルパールが腸壁を押し下げた。直腸の中で揉まれるパールに身もだえすると、零を後ろから見守っていた晃牙が息を飲んだ。
「あっぐ、ぅ、~~っ!」
 排泄を……おトイレをするように、尻の穴を緩める。下腹にゆっくりと力を込める。肛門が開き、中が動いた。
 切ないぐらいの感触で、パールが柔らかい粘膜の壁を圧迫してゆく。
 下へ、下へと。
 ――出る。
 羞恥が零の美貌を紅潮させた。

「…………んっ、んんぅ……っうぁ、……ぁ…………」

 ぷつっ、ぷっ、ぷつっ……。
 ローション塗れの黒い球が、窄まりから押し出されはじめた。
「は……ぁ……っア、ぁう……っ」
 下腹部の異物感が薄れると、零の体は瞬く間に快感に染まった。
 自分で狭めた肉筒の中を滑らかな質感の物体が焦らすように通っていく。肉筒の中、前立腺につながる急所が責められている。一度押してみたが気持ちよくなかったところを、愛しい晃牙の用意した玩具が押し上げ、爪先まで痺れさせるような悦楽に変えている。
 疑似排泄。原始的で、だからこそ強烈な快感だ。
 零の脳裏に自分の姿が浮かんだ。高貴なる吸血鬼が、裸のまま寝台の上でトイレ座りをしている。尻の割れ目からは黒いアナルビーズ――ローションで濡れ光る性具を尻尾のように生やし、奇妙なその尻尾は尻の震えるのにつられて揺れている。紅い顔で悶え、嬌声を上げ、尻をくねらせてはビーズをひり出す零。ぷっ、ぷつっ、と一粒ひとつぶが熟れた穴から産み落とされる。
 そしてそれを……恋人に、息を詰めて見られている。
 視線に溶かされる……。
「ア、ぁ……あっ……、あぁあっあ、ア、ぁ……」
 最後はほとんど滑り落ちるようにして抜けた。
 アナルパールの尻尾がシーツを叩くのと同時に、零はベッドに前のめりに倒れ込んだ。
 快楽の余波が体じゅうを覆っていた。ストロベリーアイスを食べ過ぎたときのような、脳を犯す甘さの綿雲が思考を包み込んでいた。気怠い体。持ち主の欲望に忠実な直腸は、けれどきもちいい玩具を探してうねっている。窄まり――異物を出し入れしすぎて鬱血し、皺がわからないほど腫れ上がったそこも、熱を鎮めてくれるものを求めて緩やかに開閉していた。
「朔間せんぱい……」
 晃牙の声がした。
 低く擦れて甘いそれに、息が詰まる。
 晃牙の指は零の内股を優しくなぞり、肌を湿らせる汗を掬うと、それを振り向いた零の視界に入れた。
「後ろでイってる」
 白い汗――精液を舐めて、晃牙は恋人の体を仰向けに返した。
 有無を言わせない動きで太股を抱え、赤黒く充血する肉茎を宛がう。
「……ぁ……い、いやじゃ、だめ、今したら気持ちよすぎて死んじゃ、あ、アあ――」
「……ッ」
「ぁあ……こうがぁ……っ!」
 繋がった部分から途方もない快楽が広がっていくのを、零は熱に浮かされながら全身で感じた。
 熱い――熱くて、恋い焦がされる晃牙の楔が、自分の秘奥に打ち込まれてゆく。
「はぁ……! あ……っくぅ……!」
 きゅうと後孔が窄まり、晃牙に縋りつく。触れ合ったところが熱く痺れたので、零は慌てて力を抜き、しかし耐えきれずに直腸で扱き上げる。沸き上がる快感は、涙となって零の頬をこぼれ落ちた。
 嫌だと言ったのはどうしてだろう。自分を求めて脈打つこれになら、快楽で絞め殺されても本望なのに。
 そう思った瞬間、キスするときのように密着した結合部が離れ、晃牙の昂ぶりが遠ざかる。
「……ぁ……っ」
 嫌だ。
 咄嗟に脚を絡めると、晃牙が小さく噴き出す。「行かね~よ」
「ほんとに? 抜かぬかえ?」
「うん、動くだけ」
 壊れものを扱うような手つきで髪をかき混ぜられ、頬にキスまでされたら、ちいさな子どもではない零は従わざるをえない。
 せめてもの反抗に、と踵で背中を叩く自分に、晃牙は呆れ笑いを浮かべて腰を引いた。
『死んでしまうほどの気持ちよさ』を、与えるために。
「あっ? ……ぁ、……はぁ……っ、あ、あぁ……やじゃあ……っ、あっ! ああうぅ……! きもちっ、いいぃっ! ああァっ!」
 最奥を捏ねて苛めて、焦らして、いたぶるくらいゆっくりと、恐ろしく時間をかけて引き抜くと、蕩け切った後孔は肉竿からあますことなく快楽を拾って零の脳に流し込んだ。
 アナルビーズを押し出したときの快感が、カリ以外にくびれもなく太いままのそれで引き起こされたのだ。身をよじって紛らせようにも腰は晃牙のたくましい腕で固定されている。
 行き場のない悦楽に悶えた零は、両手で頭を押さえてすすり泣いた。
「あっ! あ! あぁ……っ」
 快楽が頬を熱く濡らしている。揺さぶられる度に風にひりつくそこすら性感帯となり、零の体で感じないところはないようだった。波を作ったシーツが背中で擦れる感触にすら性交を連想させられるのだ。拓かれ切った肉壁が亀頭と鈴口で甘く掻かれ、より強い刺激を求める本能が、零の腰をくねらせる。
「あぁうっ、はあっ、こうがっ、こうがぁっ」
 ゆっくりと抜かれ、息継ぎの瞬間に押し込まれる。繰り返される動きを前に、晃牙の昂ぶりは一向に萎えない。
 涙で歪んだ視界で晃牙の顔を覗きこむと、カラメル色の瞳はゆっくり瞬いて応えた。
 ――精悍な顔つきが、涙の膜の向こうから自分だけに向けられている。
 背筋を何かが突き抜けていく。
「あっああ、あ、ア! あぁあぁああぁああ……っ!!」
「くぅ……っ!」
 快楽の奔流が零の意識を流し去る中、最奥に熱い飛沫が浴びせられた……。





「はいっ! 撮影終了ですっ!」
「お疲れ様でしたぁ~~!!」
 数時間にわたる収録が終わり、関係者らに深々と頭を垂れると、零は人混みを縫って廊下に飛び出した。
 放送終了から数か月……人気暴力団ドラマの続編制作は佳境だ。撮影上がりの零に声をかけながら、衣装係やメイクアップアーティストが忙しなく擦れ違っていく。次の現場への移動時間で共演者のコンディションを整えるのだろう。
 向こうからやって来る赤髪の青年――夏目も整えられるひとりだ。プロデューサーに断りを入れると、涼やかな目元を人懐こく細めて零に駆け寄る。
「零にいさん、お疲れ様。上手くいっタ?」
「うむ。撮影は順調じゃよ」
 いっそ順調すぎて怖いぐらいだ。凄みを増した妖艶さは零の演技に得も言われぬ色香を孕ませたと評判で、『龍崎』の纏う空気をこの世ならざる者のそれへと変えてしまった。男の中の男でありながら、どの女よりも美しい『龍』。想像上の生物たる所以を、零は『ある男』のおかげで表現できる。
「撮影じゃなくテ……悦くなった、みたいだ」
 悪戯に成功した子供の表情で言い残し、夏目はプロデューサーの背中を追いかける。
 擦れ違いざまに魔法使いの薬の匂いが立ち昇る。魔法使いらしい刺激臭と煙の匂いに、異国の花の香り。人を煙に巻く種類の香料に巧妙に隠された、甘くて苦い薫香が零の鼻腔をくすぐる頃……突き当たりの控室から『彼』が出てくる。
 晃牙。
 この身を焦がし、夢現の快楽の園へと誘う男。零の身も心も愛で尽くす男。
 零は恋人が廊下を歩く音に耳を澄ませている。落ち着き払った、けれど夜になれば情欲に身を委ねる狼の足音に。
 蜜を滴らせた華のように、妖艶な体で獣を誘いながら――。

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