完全無欠のラヴヴァンプ
――ほら晃牙、なんかポーズ決めろよアイドルらしく、アイドルだろ?
ドーナツの穴から朔間先輩が覗き込んでそう言うから、晃牙はとっさに右手の甲を掲げて見せて、穴の向こうから笑われた。
「俺様の真似すんなよ馬鹿! もっとお前らしいのがあんだろ」
生徒写真の先輩の真似をしたのだとすぐにばれてしまった。慌てて挙げる手を替えれば「そうそう」なんて満足そうな返事に笑顔。ふたりで笑うそこは商店街で、買い物中のオバサンに不思議そうに眺められた。
「そうやってっと、俺様の次にかっけ~な」
それで来年の写真撮れよ、そう付け加えてカメラ代わりのチョコドーナツで頬を膨らませる先輩を、晃牙はそっと窺い見る。先輩がチョコレートドーナツを食べている。けぶるように付いたココナッツチップで真っ白な外側に、しっとりとしてほろ苦そうな茶色の生地。誰よりも美しい容姿の内側に、繊細でひたむきな魂が宿っていることを、大神晃牙は知っている。だからお祈りみたいな溜め息が出た。――あんたには遠く及ばね~よ、俺の先輩。
そんな、ため息……
☆ ☆ ☆
……とは程遠い溜め息を、20歳の晃牙はついた。
「晃牙~、似合うかのう~?」
くるくる、ぴたり、と擬音がつくようなモデルウォークを決めた零に、晃牙は大げさに息を吐いた。何が似合うかだ馬鹿馬鹿しい朔間先輩に似合わない服なんてね~だろ。心がそう叫びたがっていて、その心は冷静でないので冷静な頭が代わりにしかめっ面を作る。おかげで評価を不当と感じた零がもう1ターン。神族のような完璧な肢体が晃牙に見せびらかされ、遅れてふわりとベビードールが舞った。物の少ない部屋に大輪の花が咲いたようだ。
ベビードール、それもピンク色の透けたやつを零が試着している。明らかに安っぽい見かけで朔間先輩(不安定なアイドル業なのにクレジットカードを持っている!)が満足そうにしているので、晃牙はどこにその価値があるのか注視してみた。斎宮宗の胸元みたいなフリルがたっぷり、そこかしこにフサフサしている。そのフサフサは零の細い腰を見せたり見せなかったり、なのに慎ましやかな乳首は一切隠さない。あざとい造りだ。まったくもって、世界一かっこよく最高な朔間先輩が着るにふさわしくない。
「んなモン、どこで買ったんだよ」
「“あまぞん”じゃ。お急ぎ便って渉くんが配達してるのかのう~? 昨日の今日で届くとは思わなんだ」
「昨日ってライブだろ……」
「うむ」
「帰りのバスでそんなことやってたのかよ」
「やってたのじゃ」
ふたりは目を合わせて同時に噴き出した。実際まだツアー中なのだから終わったみたいな言い方は間違いで、今はUNDEADワンマンツアー(アイドルのライブなのにこう言うのはおかしいかもしれないがニュアンスとしてはこうだ)中日、九州遠征から自宅に帰っての休憩タイム。ふたりは愛の巣(2DK)で英気を養い明日からまた全国各地で吼えるのに、日の入る前からこんな馬鹿騒ぎをしている。
「くくっ、今日届かなかったら不在連絡票入ってたんだな、ベビードールの」
「ベビードールのな」
「ははは!」
体をくの字にして笑う晃牙を見て、零は「誘惑失敗じゃの~♪」とキッチンに行ってコーヒーを淹れ始めた。明日早いのにコーヒー! ますます笑い転げながら、晃牙は零の華奢な背中を眺める。
華奢な背中――そう、男にしては華奢で中性的な背中をしている。これでも同棲してから肉がついた(本人は「幸せ太りじゃ♪」と嬉しそうだった)方で、夢ノ咲時代に更衣室で見たときは、いっそ儚げな背中をしていたのだ。浮かび出た肩甲骨は白い背中に生えた悪魔の羽のように見えてかっこよかった。
その羽をたたみ、今の零は晃牙の腕の中にいる。
「……晃牙?」
抱き付かれて振り向いた零は、妙にどきりとさせる表情だった。喜びの中に憂いが混じるような、梅雨に濡れる紫陽花みたいな雰囲気だ。晃牙が自分の中にあった詩人めいた考えに感心している間に、零はいつものご機嫌顔に戻って「ミルクも入れるかえ?」と聞く。
「いい。冷めるし」
「?」
不思議そうな零には応えず、細い体を抱く腕に力をこめる。
居間から笑い声が聞こえてきた。テレビで、ひと月前に収録したバラエティ番組が流れているのだ。振り向いて見ると共演者に話を振られた自分がテロップ付きのリアクションをしている。その隣ですました顔で笑う零。あの顔にベビードールは似合わない。
「なぁ、これってどんな感じなんだ? やっぱスースーすんのかよ?」
「うむ? ……んっ」
揺れる裾を摘まむ振りをして、指で脇腹をなぞる。
悪戯から逃げようとした零はたたらを踏んで後ずさり、晃牙の膨らんだ股間にお尻をぶつけて慌てて飛び退いた。キッと、強気の眼差しを寄越してくる。
「転けるぜ」
わざとベビードールの上から両胸をわし掴みにすると、あられもない声が上がった。
「これっ、手元が狂うじゃろ」
「わりぃわりぃ」
叱りはするが、零もエッチなスイッチが入ったらしい。晃牙の胸に背中で凭れて、自分の下唇を噛む。気持ちいいことをねだるときの癖だ。
晃牙は、けど、と言って両乳首を摘まむ。
「ほら、もうすげ~勃ってる」
親指と人差し指で乳首を捏ねると、きもちいいことの好きなそこはすぐにぷっくり膨れ上がった。桜色をしていた乳輪もレース越しにわかるほど充血し、つやつやと晃牙を誘っている。
「抱きつかれて興奮したか?」
「別に。我輩、高貴なる吸血鬼じゃし……」
「嘘つけ」
「ンッ!」
言葉で責めながら乳首を弄る。潰したり摘まんだり、ベビードール越しにいじめると布のざらざらとした感触が強すぎるのか晃牙に縋る手に力が入ったので、一度手を休めて油断した零の乳頭に爪を立てた。
「ひぃっ!?」
「あんたのココ、よがると摘まみやすいようにデカくなるよな。マジやらしい」
「くぅ、んン、ぁ……っ」
「母乳とか出んじゃね~か? 微妙に膨らんでるぜ」
あんたが俺様に揉ませてたから、と耳元で囁く。そうして乳搾りみたいに指で扱けば、零はビクビクと体を跳ねさせた。
「母乳、出てほしいかや……?」
「何か言ったか?」
「べつに……」
零は胸元に視線を落として頬を赤らめた。
「おぬしの方こそ、早く出したいのではないか……?」
零のほっそりした指が、ジーンズの上から晃牙の股間に触れる。昂ぶりを人差し指と中指の股に挟んで擦ると、そこはますます張り詰めた。
「なぁ、ベッド行こうぜ」
かわいい姿ばかり見せられて限界だ。零もベビードールの裾を先走りでぐっしょり濡らしている。
それなのに首を振る零を、晃牙はどうしてという顔で見つめた。
「ここで……ここがいいのじゃ」
こちらを向いた零をキッチンの縁に後ろ手に掴まらせて、晃牙は零の右太股だけ持ち上げて挿入する。
「う、うんっ……うあぁ」
キツい。零がこらえきれずに声を漏らし、小さな顎をクッと反らせた。
剥きだしになった白い喉に歯を立てると、零の後ろが痛みで締まる。
「くっ、あっ、はぁっ」
「……っ……はっ、はっ」
「んう、んっ、あっ」
零が腰をもじもじとくねらせているのに晃牙はすぐに気づいた。気持ちよくなれるところを探しているのだ。
太股を抱え直して揺さぶるが、零の自重もあってうまくいかない。悦いところから離れた場所ばかり突かれる零ももどかしさが増すらしく、「やっぱベッドにしね~か」と言われるとしおらしく頷いた。
男の見せ所だと、挿入したまま零の体を抱えて移動する。
「ひっ……お、落ちるかと思ったぞ!」
「あんたが寄り道させるからだろ」
居間で通販の箱を拾わされた晃牙は、憮然とした顔のまま零をベッドに寝かせた。苛立ちまぎれに腰を打ち付けて、喘いだ零に気分を良くする。
「で、もう飽きたのかよ? 仕舞う前に洗濯した方がいいんじゃね~の?」
「ううう、我輩のわんこが酷すぎる……これじゃ」
箱から出してきたものに晃牙はぎょっとした。手錠だ。ラブグッズらしく、手首にあたる部分はピンク色のパイル地でできているが、恋人の自由を奪うものには違いない。
「ん」
両手首を胸の前に突き出して、晃牙に着けさせろと命令してくる。
どうにでもなれとヤケクソになって従えば、零は満足そうに手錠を近づけたり離したりして強度を確かめた。
「これなら爪を立てたりできんじゃろ? ツアー中でも気にせず、存分に抱いておくれ」
「存分にって……」
「存分には存分にじゃ。ほれ、いつもみたいにがっつかんか」
そう言われるといつも獣のように激しく零を求めているように感じられる。実際その通りなのだが、釈然としないまま晃牙は零の体に目を落とし、胸元に視線が吸い寄せられる。
寝かせた拍子にベビードールが引き摺られたらしく、シフォン地のそれから乳首が顔を覗かせている。もともと隠れるような素材ではないが背徳的だ。チラリズムの魅力だろう。
「はっ、恥ずかしいじゃろ……」
安っぽい衣装をまとった零の全身を、しげしげと眺める。
シーツに散らばった黒髪と、上気した肌のコントラストが色っぽい。ベビードール自体は高貴な零に似つかわしくないが、手錠はもちろん剥き出しになった首筋や腋の下の無防備さを思うと、イケないシチュエーションを楽しんでいる気になれる。実際、普段は革の衣装でぴっちりと覆われた脚が晃牙の体で割り開かれ、使い込まれた跡のない性器が脚の付け根でひくひくと鬱血しているのを、ベビードールのフリルはかろうじて隠せていないのだ。晃牙のものを咥え込んだ後孔など、間接照明に照らし出されて濡れ光っている……。
「こ~いうのも、いいかもな」
零がうっそりと笑った。見られて興奮しているのだ。試しに最奥まで押し入ってみると、いつもより甘い悲鳴を上げる。
晃牙は自由のきかない零の腰を掴んで、がむしゃらに突き入れ始めた。
「アッ、おくっ、ゴリゴリしてるっ、もっとじゃぁっ」
「ぐうっ、クソ、しめんな……っ」
「むり、むりじゃっ、あ、あーっ」
「……っ!!」
――なんで、いきなりラブグッズなんだ?
零の体に没頭するさなか、ふと晃牙の頭に疑問が浮かんだ。
背中に爪を立てたくないなんてもっともらしい理由を言っていたが、そんないかにも用意されたような言葉は信用できなかった。
「っ、朔間先輩」
「はっ、んん、なんじゃっ?」
「なんでこういうの買ったんだ?」
ストレートに聞くと、快楽に耽っていたはずの零がぎくりと体を強張らせる。
「ま、マンネリかと思って……」
「マンネリって、まだ3年しかたってね~だろ。熟年夫婦じゃね~んだからさ」
「晃牙、はやく」
「答えるまで動かね~からな」
「ふええ……」
「かわいくね~からヤメロ」
顔で凄むと、零はしばらく沈黙したのち、飽きられたくない、と呟いた。
「は、はあ?」
冗談言ってんのかと本気で思って呆れ声が出た。けれど恋人の紅い目は真剣そのものだった。涙まで浮かべている。
「3年目の浮気とか言うじゃろ。別に晃牙の浮気を疑っている訳ではなく、真面目な晃牙ならば本気の心移りをすることになるじゃろうけれども、夢ノ咲も卒業したし、バラエティにも結構出ておるし、世界が広がれば我輩に執着しないだろうと……」
言い訳する声はどんどん小さくなっていき、しまいには尻すぼみに消えてしまった。後には力なく身を投げ出す零だけが残る。
晃牙はさっき見たばかりの番組を思い出した。共演者に話を振られて怒ったり笑ったりする自分と、それを楽しそうに眺める零。本当に楽しそうに見えただろうか? 梅雨に濡れる紫陽花のような、悲しそうな目をしていなかったか?
「……それであんたは、俺様に飽きられると思ってんのかよ」
おもわず語気を荒げると、零が顔を背けたまま震えた。
「この大神晃牙様があんたと出会ってから5年間、1日たりともあんたのことを考えなかった日はないくらいあんたに夢中になってんのに、ぽっと出の共演者なんぞが俺様の中の朔間零を超えるのかよ? 朔間零を差し置いて俺様の頭ん中を占拠し続けて、5年間あんたを欲しがり続けた俺様が朔間零に見向きもしなくなる? マジで言ってんならブッ殺す。俺様を失望させるあんたは俺様の大好きな朔間零なんかじゃね~からな」
「こ、晃牙……」
「……それが嫌なら、何も心配すんなよ。飽きるワケね~だろ。それか、」
祈るように息を吸い込んで、懇願する。
「飽きるな、って命令しろよ。いつもみたいに、犬の躾するみたいにさ。俺様オオカミだけど、今回だけは特別に聞いてやってもいいぜ。その代わり――」
「我輩だけを、愛しておくれ」
その瞬間、晃牙の胸に熱いものがこみ上げた。
あんなにも晃牙を自分から離そうとしていた零が、こんなにも直接的な言葉で晃牙を引き留めようとしているのだ。
「……おう、ずっと愛してるよ」
震える声でそれだけ言って、目の前の体を掻き抱く。朔間零も大神晃牙の肩に顔をうずめた。零を縛るオモチャの鎖がかすかに音を立てる。
お互いの心音が落ち着いた頃、晃牙は腕の中の零を放して優しく言った。
「なぁ、ここに後ろ向きに座れよ」
「なにゆえ……?」
「いいから」
あぐらをかいた晃牙の屹立を挿入するのが怖いのか、零は腰を浮かせたままだ。仕方ないので両手で腰を支えてやった。
「ンン、ぅ、うぁ……」
ようやく腰を落とした零の顔を、顎を掴んで上げさせて、壁際の姿見の中で目を合わさせる。
零はすぐ晃牙の意図に気づき、鏡の向こうの恋人たちを食い入るように見つめた。
「ほら、あんたも俺も、お互いに夢中になってますって顔してるだろ。まだまだ飽きる訳ね~よ。死んでも飽きね~んじゃね~か?」
「地獄でも恋人同士かのう?」
「そうに決まってんだろ。あの世に行っていきなり捨てられたら、今度こそブッ殺してやる」
零は泣きそうな顔のまま笑った。
「我輩、あの世でも長生きしそうじゃのう」
長生きでもなんでもさせるから、ゼッタイ俺様の手を離すんじゃね~ぞ。そう言う代わりに、晃牙は零を振り向かせてキスをした。
苦しい姿勢で、それでも舌だけは熱心に絡める。先端を甘噛みすれば、繋がった部分がぎゅっと締め付けられた。
「んっ、はあっ、はあっ……やっぱりこれ、外してくれぬか」
零の胸元で鎖がしゃらしゃら音を立てる。気が散るのか、もしかしたら晃牙に抱き付きたいのかもしれない。まんざらでもなかったが、
「ヤだ」
「!!!」
「脱マンネリしたいんだろ?」
零譲りの意地悪な笑顔で断ると、零が柳眉を八の字に下げた。おもわず噴き出す。
「オラッ、俺様の積年の恨みをとくと味わいやがれ!」
「あんんっ、いつもおぬしがっ、アッ、暴れるのが悪いんじゃろ~! っひあぁっ!」
おもいきり突き上げられるのは慣れているはずなのに、零の喉からは無防備な喘ぎばかり上がる。すっかり気を許した証拠だろう。零の不安が解けたとわかったので、晃牙も遠慮せず体を貪ることにする。
零の体は正直で貪欲だ。たまに体の持ち主(というと変な感じだが)のように意地っ張りになるときもあるが、すぐにトロトロに蕩けて晃牙の雄を受け容れる。
姿見で自分自身の痴態を見せつけられた零は、もっと感じさせてほしいとばかりに直腸全体で晃牙の昂ぶりを扱きにかかった。入口で竿を扱き、口腔よりも熱い粘膜で亀頭にしゃぶりつくのだ。『アナルセックスは気持ちよくない』などと晃牙自身は中学時代の仲間から聞かされていたが、本当に同じセックスなのかと思うほど零とのまぐわいは気持ちよかった。晃牙が零の前立腺を執拗に開発し続けたのもよかったようで、亀頭の先端がふっくらとした突起を押し潰す度に、男にはありえない『愛液』のようなものが分泌されて零の性感を高めていた。
「あっ、あはぁっ、ぁ、あーっ」
『愛液』が晃牙の肉竿を伝って垂れ落ちる頃になると、零は焦点の合わない目で舌足らずに喘ぐばかりになった。お腹を撫でられてもびくびくと感じ入る体に、晃牙は雄としての征服欲を満たされる。
この薄いお腹の中に、いつも精子が注がれているのだ。誰よりも美しく高潔な魂を持ち、晃牙のことになるといじらしさすら見せる朔間零の最奥に。誰にも、自分以外の誰にも触らせやしない。この独占欲は、地獄に落ちても失いそうにない。
「んっ、く、はあっ、先輩っ」
「あっ! あ、らめじゃ、いくっ、こーがぁっ、ん、んん……っ」
キスで真っ赤に腫れ上がった唇に、もう一度口づける。
細い体を揺さぶるたびにベビードールがフワフワ広がる。ピンク色の花弁を重ねた新種のバラが、晃牙と零の門出を祝っているようだ。
嬉しさと切なさが同時にこみ上げてきて、零の背中に抱き付きながら射精する。
「……はあっ、はっ、はあ、さくま、先輩」
「んんぅ……?」
「地獄でもプロポーズ、するからな」
「……まっておるよ」
誓いのキスを受け入れると、零は涙をこぼして恋人に凭れ掛かったのだった……。
☆ ☆ ☆
曲が終わると、薫と零のMCに入った。
「さっきの手錠のダンスすごかったね~。まるで本当に誰か縛っちゃったことがあるみたい。朔間さんってコイビトを束縛しちゃう方?」
薫が悪戯そうな表情を作って零に話しかける。
「そうじゃのう、束縛しちゃう方かもしれんのう~? 我輩、けっこう嫉妬深いし」
客席全体から黄色い悲鳴が上がる。「え~、マジ? 曲まんまじゃん!」束縛されたことなんかね~けどな、と晃牙が舞台袖で鼻を鳴らす。
「じゃあ鳥籠の中に一生閉じ込めたいとか思っちゃう?」
「いや~、閉じ込めたら動いてる姿が見られんじゃろ? 動いて、怒ったり笑ったり……『人間』らしく幸せそうにしているところが、我輩見たいんじゃよ。でも、あんまり傍にいなくても寂しいから、『我輩だけ愛しておくれ』とか言うかもしれんのう?」
絶対余所見しないよー!と黄色い声。
「薫くんはどうじゃ?」
「俺? 俺はね~……」
MCが終わり、零は晃牙とすれ違いざまにアイコンタクトを交わした。
「朔間先輩にゃかなわね~なぁ」
「そうじゃろ」
言ってろよ、と腕で頬の赤みを隠すように晃牙が進み出る。
満足そうに笑ってステージを去る先輩に、ココナッツチップがキラキラ降り注いだように見えた。