悪い子たちのクリスマス
2017年の聖夜の晃零
冒頭から晃牙くんの過去を捏造しています
冒頭から晃牙くんの過去を捏造しています
ーー悪い子の家にサンタは来ない。
うんと昔の親の台詞を、晃牙はしみじみと思い出した。
10年前のちょうど今日。同じように大雪で、晃牙は雪合戦をしに学校に行った。
給食はクリスマスのスペシャル献立。休んだ子のローストチキンは雪合戦のMVPが貰えることになっていた。
晃牙はMVPだった。
給食は食べられなかった。
張り切りすぎてジャングルジムから滑り落ち、足の骨を折ったのだ。
病室で迎えるクリスマスの朝。ちゃちなクリスマス飾りや、イチゴとキウイののったヨーグルトがむなしかった。面会に来た母親からプレゼントのサッカーボールを渡されて、晃牙はおいおい泣いた。
もちろん、悪い子の家にサンタが来ないことはない。
小学生の頃の晃牙は良い子とは言い難かったが、プレゼントがボール1個なのは家が貧乏だったからだ。翌年以降のクリスマスを振り返っても、成績とか生活態度の良し悪しは関係なかったと思う。もちろん、雪の積もった遊具に登ったのは馬鹿だったが。
だけど、今年――19歳のクリスマスに限っては。
「……俺が悪い子だからかよ」
早朝の電車の中、零れた声は嘘みたいに情けない。
――24日の夜、絶対予定入れんなよ。
――来週のことだけど。
――明日、イブだろ。来るよな?
祈る気持ちで通知を探す。今日は12月24日。
悪い子たちのクリスマス
出演者控室のドアを開けるや否や、既読スルーが嘘のように熱烈に歓迎された。
「メリークリスマス! よいこのわんこにサンタさんからプレゼントじゃよ♪ 何が欲しいか言っとくれ~♪」
「……サンタクロースはZ×RAの服着てね~だろ」
しかもサンタの部分は三角帽だけだ。首から下は墨色のタートルネックに真っ黒なスキニー。
「我輩サンタさんのお使いじゃもん、Z×RAの服だって着るもん」
「ハイハイ」
じゃあAm×zon.co.jpは通販サイトの皮を被ったトナカイかよ。テメ~がスマホで開いてるそれ、サンタクロースの勤務先じゃね~だろ。
恋人を押しのけて中に入ると、既に羽風とアドニスが待機していた。
「おはよ~。朔間さんがごめんね、老人の出番だって張り切っちゃって」
「おはよう大神、今日は特別なライブだ。共に頑張ろう」
今日はUNDEAD単独クリスマスライブの日だ。開演は17時。デビュー1年目の晃牙達だがファンを楽しませる気概は十分で、今夜初披露のソロ局や今日限りの振付のデュエットも盛り込んである。
それに……、と晃牙は零に視線を送る。ライブが終われば明日の夕方まで束の間のオフだ。クリスマスだなんだと浮つくのは自分らしくないが、1日にも満たない短い間だからこそ、大切な人と一緒に過ごしたいと晃牙は考えていた。
それに……、と晃牙は零に視線を送る。ライブが終われば明日の夕方まで束の間のオフだ。クリスマスだなんだと浮つくのは自分らしくないが、1日にも満たない短い間だからこそ、大切な人と一緒に過ごしたいと晃牙は考えていた。
その大切な人は、同じ気持ちではないようだが。
晃牙はふたりに挨拶だけ短く返し、無言で零を押しつけた。
零が羽風とアドニスから欲しいものを聞き出す間(ワインとジャーキーだった。食品購入は初めてらしく零は声を上げて喜んでいた)、晃牙はなるべくゆっくりと着替えをした。早く着きすぎて時間が余っていたし、怒りのあまり乱暴に袖を通して破きそうだったからだ。
零の嬉しそうな声が憎らしい。廊下は関係者の行き来でざわざわしていて、今日はライブだから当然だが、それも耳障りだった。
だいたい、なんでここでクリスマスを済ませようとしてんだよ。恋人と過ごすんじゃね~のかよ。なんだよ欲しいものを言えって、俺が欲しいのは。
「LINE返信しろよ」
スパンコールのゴテゴテついたシャツから首を出した勢いのまま、零の背中に言う。
「……はて?」
「ふざけんなテメ~、既読ついてんじゃね~か。それともテメ~の実家は仏教か何かか? クリスマスに恋人と過ごす習慣はないんですかねぇぇ?」
「お、大神」
ここに4人以外いなくてよかった。怒声は抑え気味だが、聞かれたら週刊誌ものだ。
「ちょっとわんちゃん、落ち着きなよ。ステイ」
「煽ってんだろそれ。俺は朔間先輩と話してんだよ、なあ先輩」
だが、アドニスも羽風も困ったように見てきたので、晃牙はそれ以上はやめにした。ライブ前だ。リハーサルは冷静な頭で、万全にしたい。
万全にしたかったが、晃牙はありえないケアレスミスを連発して、衣装も少し破いた。
「すいません! マジですいません……」
「いいよいいよ、本番にビリッといくより今やっといてくれた方が。それよりリラックスしといてよ、本番まで時間あるからさ」
シンメかっこいもんね、とスタッフ。零とのデュエット……晃牙が何度もステップをずらした曲のことを、まだ期待してもらえるのだ。
動揺しているのがくやしい。普段なら、零と張り合って演るのは最高に楽しいのに。
シンメかっこいもんね、とスタッフ。零とのデュエット……晃牙が何度もステップをずらした曲のことを、まだ期待してもらえるのだ。
動揺しているのがくやしい。普段なら、零と張り合って演るのは最高に楽しいのに。
落ち込んで控室に戻ると、羽風はアドニスを連れて部屋の隅にいた。目が合うとサッと逸らされる。触らぬ神に祟りなしということか。
「わんこ」
零が進行表を置いて近寄ってくる。ほっといてくれよというオーラを出したつもりだったのに、わざわざ隣のパイプ椅子に腰かけて、顔を覗き込まれた。
嫌味のない、けれどどこか無防備な仕草。奇麗な顔立ちにドキッとする。男とも女ともつかない美しさで、長い睫毛に縁どられた血の色の瞳が晃牙をじっと見つめていた。
好きだ、と思う。朔間零が好きだ。実力はまだ釣り合っていない。すぐに追いつく。本当は下の名前で呼びたいが、早い気がして心の中だけで呼んでいる。代わりに、ラブソングを歌うときはいつも零のことを考えている。
見つめ合うだけで想いが伝わればいいのに。四六時中でも傍にいたい気持ち、わかれよ。
すると、零は本当に困ったふうに眉を下げ、
「年長はこういう時でもないと活躍できんのじゃ、何か贈らせてくれんかのう」
ま、そうだよな……。
じゃあ、と晃牙は口にする。
「なんでLINE無視してんだよ」
「……それは」
晃牙の好きな紅い瞳が、所在無げに膝の上を見つめた。
零はうなだれたまま口をつぐむ。
返事を待っているうちにむなしくなった。10年前のクリスマスの朝、病室でヨーグルトを見たとき以来だ。俺は『悪い子』だし、サンタはこない。
「いいよ、もう。俺とイブの夜にいたくね~んだろ。気分が乗らね~こともあるよな。俺はね~けど。ライブ終わったら即解散しようぜ」
「そういう訳では……しかし……」
零が弱弱しくかぶりを振ると、襟足と練習着の隙間から白いうなじがチラチラ覗いた。タートルネックの似合う零。控室のドアから零の姿を見たとき、俺の好きな服で着てくれたんだと勘違いして嬉しかった。クリスマスに舞い上がってるのは俺だけだった。
「わんこ……ごめん」
謝んなよ。謝られたら余計に惨めだって、わかんね~かな。わかんね~んだろうな。人の心がわからないと気にするくらいだから。他人の思惑や策略は怖いくらい読めるくせに。
……他人の思惑……?
「あっ。晃牙くん朔間さん、セトリ調整やるって。立ち位置も変わるから、ステージ行かなきゃ」
わざとらしい羽風の声かけに零が腰を浮かせたので、晃牙は肩を掴んで引き留める。
不安な顔で振り向かれた。その肩から脇腹をなぞり、腰に腕を回す。明確な意図を感じさせる手つき。
うわ、とか、げっ、とか言いそうな羽風の前で、零の耳に唇を寄せる。
「……そういう気分に、させりゃいいんだろ」
細い体がびくりと震えた。
悪い考えを読まれただろうか。読めばいい。俺の思惑――ドロドロに煮詰めた羨望と情欲を、全部。
「今夜、あんたを惚れ直させたらーー死ぬほど抱いてもいいよな」
「なっ……なっ……」
「欲しいもの言ったんだからちゃんと叶えろよ、『サンタさん』」
零に呆然と見上げられるのは良い気分だった。いつも飄々として掴みどころのない男。恋人になっても手に入らないなら獲りに行けばいい。要するにクリスマス献立のローストチキンだ。恋人をその気にさせるのにかこつけて、マグマのように湧き上がる気持ちをぶつけてやろうと晃牙は思った。
奇しくも今夜のライブのサブタイトルは『悪い子たちのクリスマス』。恋人を抱き殺すためにファンに愛を振りまくアイドルは悪い子の中の悪い子だろう。
※
そして。
「よいクリスマスを~!」
スライド式のドアを閉めると、アドニス達を乗せたマイクロバスは深夜の雪道をゆっくりと走り出した。
助手席の窓からプロデューサーが手を振っている。暗闇でもわかるほどに満面の笑みを浮かべて、ランナーズハイならぬライブハイらしい。
アドニスと羽風は後部座席だ。もう後頭部しか見えないが、おそらく各自の家に着くまで死んだように眠っていることだろう。
そして零は……、綿雪の舞う中、晃牙の隣でにこにこと手を振り返している。
その肩を掴んだ。
「約束」
「あ、うう……」
「守るからここで降りたんだよな?」
目が血走っておるのじゃ……とせつない声で呟く零の腕を引き、積雪を踏み抜きながら部屋の中へ。
後ろ手に鍵を閉めながら、抱き寄せて口付ける。
「んぅっ」
数日ぶりに触れた零の唇はライブで血が巡ったからかあたたかく、きつく押し当てるとふにふにのやわらかさながら晃牙の唇を押し返した。
泥雪が染みて脚が冷たい。セックスはもう始まっている。コートを脱がせながら、尖らせた舌で歯列をこじ開け、口腔をねぶる。
「ん! ふっ、ぅ、」
「はぁ……先輩……っ」
「んんぅ、っは、ぁ、これっ」
「……っ!」
零が晃牙の肩を押して後ずさる。逃げられない。玄関から奥は晃牙のテリトリーだ。
後ろから抱きすくめ、零の下腹部に手をやる。「ぁっ」触れられていないのに硬い。スキニーを寛げて擦ると、零の喉が熱い息を吐く。
「……んんっ……ぅ」
うなじから汗まじりの体臭が立ち上った。雄を挑発する濃い匂いだ。
「は、あぁ……駄目じゃ、シャワーを浴びさせておくれ……」
「時間がもったいね~だろ」
零の好きなところを繰り返し扱いてやりながら、胸も服の上からまさぐった。小さな突起がすぐに指の間でぷっくりと膨れる。
毛糸に擦れるのが気持ちいいのか。無意識で胸を反らす零の淫らさが、ひどく興奮する。
「あっ、は、ぅあ……ん、」
零の呼吸が浅く速くなり、堪えきれずに喘ぎ声が甘く蕩ける。この瞬間が晃牙は好きだ。狼としての狩猟本能が疼くのだ。
男にしては大きい尻に、スキニー越しに自身を押し当てて晃牙も気持ちよくなる。
男にしては大きい尻に、スキニー越しに自身を押し当てて晃牙も気持ちよくなる。
いく、と零が吐息だけで呟く。俺の手で先輩をイかせたい。限界まで硬くなったそこを、きつめに擦る。
「うぁ、っ、くぅ、んんん……っ」
ねだるように尻を突き出して、零は晃牙の手に射精した。
熱くどろどろした迸りを手の平で受け止め、零に見せびらかしながらゆっくりと舐める。相変わらず不味い。だが、恋人の蕩けた目尻を羞恥と怒りに染まらせようと、晃牙は一滴残らず舐め取るのだ。
情欲に縺れる脚でベッドに向かう。
滑稽だがここには晃牙と零しかいない。レオンは馴染みのペットホテルに預けている。
零は下だけ脱ぐと、ベッドに膝立ちになった。月の光に照らされた内股は柔らかく、処女雪のような白さで晃牙を誘う。
「おぬしも物好きじゃのう」
はあ、とため息。零はぶるりと身震いをして、自分を抱く。
寒いか。それもそうだ。
リモコンに手を伸ばした瞬間、背中にのしかかられた。
「うおっ、……っ!?」
「こんなに硬くして……愚かな男じゃ」
前に伸ばされた手で前を寛げられると、晃牙自身が勢いよく飛び出した。
剥き出しの先端には冷気が痛い。そうじゃない、零の様子がおかしい。射精してから時間が経っているのに息が獣のように熱かった。
だが零はおかまいなしに、戸惑う晃牙をベッドに引き倒す。
ひやりと晃牙自身に絡みついたのは――ローション。
「さ、朔間先ぱ、あ!」
赤黒い先端が零の窄まりに口づけ、すぐにずぶすぶと飲み込まれていくのを、晃牙は呆然と見つめるしかなかった。
熱くて、締め付けられている。だが入口は晃牙が入念に解したときのようにやわらかい。
先輩、準備してたのか。あんなに拒絶してたのに?
根本まで秘奥に収めきると、零はもう一度ため息を吐いた。今度は熱そうに、獲物を狙う豹のように恍惚と身震いする。
「ん……んぅ、ふ……っあ、……んぁ、あ……はあぁ……っ」
目を閉じ、白い喉をぐっと反らして尻を弾ませる零を、晃牙は下で何度も見てきた。零は腰遣いがうまいのだと思う。苦しいだろうに後孔をきつく窄めたまま、緩急を変えて扱き上げ、自分で抜くときよりもはるかに早く晃牙をイかせてしまう。
だがこんなに気持ちよさそうではなかった。今の零は吸血鬼というより淫魔――精を渇望する魔性だ。
「うぁ、せ、んぱいっ、やばい……っ」
晃牙の呼びかけを懇願と勘違いしたのか、零はひときわ強く腰を揺すった。
だらしなく開いた口からとろりと雫が垂れた。あぁ、と零がうなだれた瞬間、雫は顎を伝って晃牙の胸に染みをつくる。
よだれを垂らして感じ入る零――見たことのない恋人の、紅い双眸が瞼から覗く。虚ろに揺れている。
「あっ……あっあ、あぅ、……はぁっ…………あ、」
そうして、覗き込む者すべてを惑わすような紅色が、ふいに焦点を結んだ。
「……ぁ……? ――っ!? あっ、うあぁっ!?」
「うぐっ!」
後孔急激に締め付けられ、晃牙は耐え切れず射精した。
零も同時に奥だけでイく。挿れられたまま身じろいだせいで、晃牙自身にいちばん悦いところを貫かれたようだった。
羞恥と戸惑いの入り混じった表情のまま、真っ赤な顔でびくびくと痙攣する零。タートルネックの下で胸の飾りを尖らせ、下腹部はとろとろと白濁を垂れ流している。
零の目が晃牙を見た。
整った顔がくしゃりと歪み、両腕で弱弱しく覆われる。
整った顔がくしゃりと歪み、両腕で弱弱しく覆われる。
「見ないでおくれ……」
か細い声が、聖夜の闇に静かに落ちた。
※
出かけたら零が逃げてしまう。だから零に服を着せ、マグカップで温めた牛乳を渡した後は零の隣に座り込んだ。
ベッドを背もたれにすると、カーテンの隙間から外が見えた。
大粒の雪が闇夜を埋め尽くすように舞っている。10年前もこんな天気だった。欲しいものを勝ち取りに行って、ヘマをして悪い子になるのも昔と変わらない。
「……ライブ後にまぐわえば、こうなると思ったのじゃ」
「こう、って」
零の親指がマグカップの縁をなぞる。ぽってりとふやけた唇。濡れた瞳が、晃牙の腰のあたりを彷徨う。
「呆れたじゃろう。我慢が利かなくなるのじゃ……ライブの昂揚を忘れられず、おぬしの雄を貪欲に求めてしまう。体の疼きを、飢えだけを満たしたくて堪らなくなる……」
別に、好きなだけ求めりゃいいだろ。恋人なんだし。
零はかぶりを振った。聞き分けの悪い子供みたいに。
零はかぶりを振った。聞き分けの悪い子供みたいに。
「けれど、今宵は聖夜じゃろう」
――サンタさんは、悪い子のところには来ない。
――我輩は悪い子じゃ。昔から自分勝手で、人の気持ちを考えられない。
――聖夜をおぬしと過ごしたいなどと、願ってはならなかった……。
「…………どこが悪いんだ?」
零が座ったまま器用にズッコケた。
「我輩の言うこと聞いておったかえ!?」
「いや、俺様が死ぬまで抱くっつって、テメ~は満足するまで抱かれて~んだろ。完全に利害が一致してるっつ~か、クリスマスに七面鳥が丸裸で歩いてきたっつ~か……別に『良い子』だろ」
晃牙は立ち上がると、スマホと鍵と財布を尻ポケットに突っ込み、零にコートを投げて寄越した。自分の上着はお気に入りのレザージャケットだ。
呆気にとられる零の腕をとって、帰ってきたときのようにぐいぐい引っ張って外に出た。
当然だが、アパートの塀の前に出るだけでめちゃくちゃ寒い。だから、零の長い指に自分のを絡めた。
「こっ、晃牙……!」
「こんだけ吹雪いてりゃ文×もいね~よ。深夜だしな。ヤらね~ならコンビニにメシ買いに行こうぜ」
横顔を綿雪の吹き付けられながら、ニヤリと笑ってみせた。
零は、しぶしぶ一歩、二歩、と雪を踏み抜く。
三歩目は出ない。
「晃牙……」
繋いだ手を、ぎゅっと握られる。
零の息が荒い。体がコートの上からでもわかるほど、ぶるぶると震えている。スキニーに包まれた太股を擦り合わせ、もの言いたげな視線を送られる。
「言わなきゃわかんね~だろ」
「……っ、く、」
泣きそうにわなないた唇が、したい、と呟いた瞬間、晃牙は恋人を塀の陰に連れ込んだ。抱きすくめて唇に噛み付く。吐息ごと奪われた零は、嬉しそうに喉を鳴らすと晃牙の背中に腕を回した。
歯列の向こうから、待ちきれないとばかりに零の舌が飛び込んでくる。
「んんぅ、っんン、ぁ、んむっ、んちゅうぅ……っはぁ、んん……っ」
「ン、ははっ、先輩はこうじゃなくちゃ、んぐ、っ……ン……」
暴れ回る舌を押し返し、くすぐり、絡ませて、擦り合う。
お互いが相手の背中の冷たさに我に返る頃には、ふたりのコートは雪まみれだった。零なんか髪まで黒いから、粉砂糖ののったチョコケーキみたいに甘そうに見える。
離した唇の間に銀糸が垂れ、ぷつりと切れた。漏らす吐息は雪よりも白い。
「部屋戻って飽きるまでヤろうぜ」
晃牙が言うと、闇の中、紅い瞳がぎらりと輝いた。
全部脱がせるのはもどかしかった。晃牙は後ろから零を組み伏せると、尻のところだけスキニーを摺り下した。ロッカーの晃牙も愛用するスキニーは零が着ると体の線を拾うのがエロいから好きだ。だがこういうときは力技で脱がすしかなく、もたもたしているところを笑われるのが恥ずかしい。
しかし今夜は零も笑う余裕がない。早くしろとばかりに尻を揺らされる。
割れ目の奥から白い液が伝っている。
晃牙の精液。
「あぁ……そうじゃ、注ぎ直しておくれ、我輩の――あぁう!」
最奥まで一気に突き入れると無我夢中で腰を振った。零の中はぐずぐずに蕩けて熱い。一度イったのと雪の中でのキスが零をますます発情させている。
「あっ! ぁ、あっ、ん! ン! ンんぅ……っ」
零が枕で声を殺しているのをいいことに、晃牙は零の弱いところばかり突いてやった。ひと突きするたびに柔らかくなるそこはもう、窄まりから最奥まで嬉しそうに吸い付いてくる。
「ぁ、いくっ! いく、ぁ、あっぁ、あ、あぁぁ……」
零の絶頂はすぐにきた。恐ろしいほど締め付けられる。
息を止めてやり過ごし、緩んだ隙に一度抜く。絶頂の余韻に浸る体をひっくり返した。
あ、と目が合った瞬間にぶち込む。
「~~~~~~ッ!」
絶頂2回目。
「ぁ、ぁ、ぁ、……」
「先輩? 死んでね~よな?」
「あッ! あっ、ん、んむぅ、ンんっ、ゥ、ぅあ……っ」
晃牙に奥を叩かれるなり我に返った零だったが、すっかりスイッチが入ったらしく、吸血鬼の脚力で晃牙の腰にしがみついた。
根元まで入っているのにもっともっとと後孔が締まって気持ちいい。喘ぎ声は晃牙の唇で塞ぐぶん距離が近くて、無防備な声色に惑わされる。
晃牙の放った残滓が零の中で絡みつく。絡まり切れなかった分は窄まりと晃牙自身の間から溢れ、晃牙が動くたびに泡立った。
「ン、んぅ、はぁ……っ、ぁ、こうがぁ……んうぅ、」
「ぷはっ……はは、最高」
晃牙の放った残滓が零の中で絡みつく。絡まり切れなかった分は窄まりと晃牙自身の間から溢れ、晃牙が動くたびに泡立った。
「ン、んぅ、はぁ……っ、ぁ、こうがぁ……んうぅ、」
「ぷはっ……はは、最高」
零と同じステージで演るのが『逝っちまいそうな快感』なら、こうして交わるのは『地獄の底を這っても忘れない悦楽』だ。心も体も一つになれる。獣のように求め合える。
俺がこの人で感じてるくらい、零を気持ちよくさせたい。もっと何か……そうだ。
「んッ、んっ、……っ?」
快感の波をたゆたう零を抱きしめると、晃牙は零のニットの裾をたくし上げた。
白い肌の中でぽってりと主張する胸の突起。刺激を待ちわびるように尖ったそれを、指先で摘まんで潰す。
「ぁう……っ」
「先輩、胸で感じるようになったんだよな。後ろと前と胸で……3つ同時にイったことはなさそうだけど」
すげ~いいと思う。晃牙が笑うと、零の中がせつなく疼いた。
そこからは早かった。零の好きなところをだけを繰り返し突きながら、甘痛い強さで突起を捏ねた。爪を立てたり押し潰したり、いつも零が晃牙自身を可愛がるときのテクニックを使ってやる。零も気づいているのか、晃牙の腹に自分の高ぶりを擦りつけて快楽を貪る。
「んっんっぁ、あっ、い、」
零は惚けた顔で揺すられている。我を忘れたのではなく晃牙に委ねきっている。
顎を伝った唾液を舐め取り、深い角度で口付けると、晃牙は零の最奥を貫く。イけ。俺を喰らい尽くしてくれ。
「ぁ――――……!」
腹の間で零自身が爆ぜた。
「くぅ……っ」
零の最奥が脈打つのと、最奥に浴びせかけたのは同時だった。
「ぁ、あぁ……こうがの……あついぃ……❤」
「ぁ、あぁ……こうがの……あついぃ……❤」
晃牙は零の中に挿れたまま、目の前の体をかき抱いた。好きだ、とどちらが呟いたのか知る前に、ふたりは眠りの海へと沈んでいった……。
※
そうして、泥のように眠って起きたら昼過ぎだった。
「わんこ~、昨日のライブ映ってる~」
零がテレビの前から声を張り上げた。
晃牙はコンロで骨付きローストチキンを炙る係だ。痛む腰をさすりながら、鶏皮をまんべんなくこんがりさせてゆく。馬鹿力ヤロ~め。今度ヤるときは絶対四つん這いか立ちバックだ。
「わんこ早く~! 終わっちゃうぞい~?」
「おうおう」
皿に生ハムサラダと一緒にチキンを並べて、炊飯器からご飯を山盛りよそってテーブルまでトレイで運ぶ。
零は晃牙のパーカー姿でレオンを抱いていた。ペットホテルで入念にトリミングされたレオンはつやつやのふわふわだ。はしゃぐ零にぎゅううと抱きしめられて苦しそうだが、文句ひとつ言わずに抱き枕を務めている。
「先輩。体、大丈夫か?」
「おぬしが働いてくれるおかげでのう。それより、ほれ、おぬしのソロじゃよ」
そう言いつつもいろいろなところが痛そうだったので、晃牙はテレビを見ながら2人分の食器を並べた。大皿2枚、グラスも2つ。黒い箸が晃牙で、零の食器はお茶碗も箸も真っ赤だ。歯ブラシも置いてあるし、零の存在は近頃ますます晃牙の生活を侵食している。
テレビでは、昨日の自分が光の海の真ん中でギターを奏でていた。ライブ初公開のソロ曲だ。オケもぜんぶ自分で演奏したのが思い出深い。『ラブソング』がテーマだと言われたから、零のことを思いながら弾いた。
零の隣に座り、愛しい横顔を眺める。気づいた零が恥ずかしそうにこちらを見たが、映像が切り替わるとすぐにテレビの方を向いて、あっと声を上げた。
「これ、昨日おぬしが1番かっこよかったやつじゃよ」
我輩とおぬしが背中合わせで踊るやつ。シンメトリーの動きで、最後に向かい合って手を重ねて。
額をくっつけて、相手の瞳の奥を覗き込む。そして……。
振り付けは完ぺきに覚えているから、話し終える前に零の手を取った。重ねて、昨日は髪を後ろにやっていたから今日は前髪を掻き上げて額を合わせて、紅い瞳を見据える。
そして、零の唇を、さっと奪った。
「んっ……」
「……『全部食らってやる、俺の魔王』ーーだろ。勇者が魔王食ってどうすんだよって思うけどな。事務所の出す曲、なんか狙いすぎじゃね~か?」
「くくくっ、曲の面白さを全否定じゃのう。そも、勇者が世界を救うとも限るまい。これこそが現世の愉快なところじゃ」
笑いながらもう1度、2度と口づける。やわらかくてあたたかい。
晃牙は最後に零の唇をひと舐めすると、いただきますをしてローストチキンに歯を立てた。
「それに……実際食べられたじゃろう? 我輩」
俺も食おうとして食われたけどな、と晃牙。
勇者も魔王もらしくない。どちらも『悪い子』だ。
テレビはライブの特集を終えてジングルベルを流している。
悪い子のところにもサンタは来た。最高のクリスマスだ。