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2015年11月05日の記事は以下のとおりです。

晃牙のグルメ

「ふふん、今日の晩メシはひと味違うぜ」
どんぶり茶碗に山盛りご飯を1杯分。
今夜の大神家のメインは鮭ふりかけ――秋の味覚を堪能できる逸品だ。
「ワン!」
大神レオンの夕食はドッグフードだ。
「お前のは後でな。……っと」
利き手に鮭ふりかけの袋を構え、主食のごはんをじっと見る。
つやつやの白ご飯から湯気が上がっている。炊き立てで、新米。そこに鮭ふりかけを散らすと、橙色の粒がほんのり湿って美しくかがやいた。
「……っ」
夕焼けの色。紅葉の色。何より、秋鮭の色だ。アクセントの白ごまも薄橙に染まっている。細かく切られた海苔でさえ。
実りの秋の色が瑞々しい白米の山に広がり、積もっている。
「……いただきますっ」
ふりかけが溶け切らないうちに、その山を箸でたっぷり掬って――口の中に入れる。
「~~~~っ」
悶絶するほかなかった。
アンサンブルだ。秋鮭の豊かな脂と新米の甘みが、口の中でアンサンブルしている。
新米の繊細な柔らかさが旬の濃い旨みをあまさず受け止めていた。咀嚼される前のつややかな米肌でも、柔らかく噛みしめられた後の米全体でも。受け止めて、舌と喉に鮭の身の逞しさを教える。
そして、匂い。焼き上がりの香ばしさは口に入れた瞬間そのままに、鼻の奥を駆け上がる鮭の匂い――そう、いっそ磯臭さすら感じさせる鮮やかで濃厚な香りが、秋の盛りを感じさせる。
鮭が五感に訴えかけ、指先まで旬で満たしてゆく。
「……やっぱうめ~なぁ」
こぼれた吐息にすら鮭を感じる。
もう一口。
「~~~~っ」
悶絶。

「…………」
それを、じっと見ている吸血鬼。
「……なんだよ」
孤独のグルメを見つめられた晃牙は、羞恥に頬を染める。
零の前にも同じ茶碗が置いてあった。晃牙がわざわざ昔買ったところでもう1膳探したのだ。
そうやってペアにした茶碗には、少なくよそったご飯。
手をつけない。
「ふふっ。た~んとお食べ?」
「当たり前――」
手を付けないのは、
「今夜も子作りがんばってもらうからのう♪」
食後の運動に備えるためだった。
「――ッ!? ゴホッ、げほ、げほっ」
「クックックッ、ややこはやっぱり吸血鬼かのう?」
咳き込む晃牙を尻目に、零は未来の息子に想いを馳せる。「吸血鬼は黒髪赤目と相場が決まっておるし、吸血鬼なら我輩似かのう? しかしわんこそっくりの赤ちゃんオオカミも悪くはないのう。ふたりのややこじゃから、かっこよさ2割増しじゃろうて。……おやレオン、なんじゃ? ふむ、おぬしみたいな男前なわんこも良いと。ふふっ、考えておこうかのう」
「げほげほっ。このっ、てめ~っ!」
恋人の気管支の危機に目もくれないどころかレオンの前足を握って戯れるとは何事か。
……そう非難しようとしたのに、ふと紅い目と合う。
「わんこ」
「……っ」
妙に真剣な表情が――蕩ける。
「たっぷり……愛しておくれ?」
「うが~~!」


こうしてひと味違う夜が更けていくのだった……。

 

 

 

 

「ご馳走様じゃ♪」
「……ご馳走様でした……」
「さてわんこ、共に眠れない夜に溺れようぞ……?」

 

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