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朔間零の恋人

2017朔間零誕・零くんおめでとう!



 
 抱かれたいアイドルNo.1こと朔間零。
 朔間零は大神晃牙に抱かれている。
「来年は俺様がNo.1だな! 首を洗って待ってやがれ!」
「残念ながら我輩殿堂入りじゃ」
 ぐっ、と詰まった大神晃牙、気を取り直して言う。
「テメ~を殿堂入りさせるとは、編集部も悪くね~センスだな。だが来年は俺様が新記録を打ち立ててやる! 投票数で超えて……はあ? 5万票? 5万人があんたに惚れてんのか? マジかよ……」
 
 
 朔間零の恋人
 
 
「な~んじゃ、てっきり隠し子でもこさえたかと」
 
 11月2日、見事な秋晴れの昼下がり。
 それはもう買い物日和ということで、商店街は家族やら学生やらで大賑わい。気の早いクリスマス商戦か店先は赤と緑のモールで飾られ、ケーキ屋の前には雪だるまのバルーンまで置かれている。さらにはスーパーなど秋の行楽弁当を並べる傍ら「おせち予約受付中!」「お年賀は当店で」と来年のことまでノボリでアピールしているのだから、ここにいる全員が今どの季節か聞かれてもわからないだろうと晃牙は思った。
 そんな馬鹿なことを考えていたからか、隣の恋人が晃牙の隠し子疑惑など持ち出してきて、
「馬鹿なこと言ってんじゃね~ぞタコ!」
「そのタコに泣きついてきたのはどこのわんこじゃったかのう~?」
「ぐっ……」
と、晃牙は返り討ちにあうのだった。
「まあ、我輩に泣きついてくれてよかったぞい。赤子ならば先日の撮影で見たばかりじゃ」
 道行く人々がちらちらと視線を寄越す中、零が赤ん坊を抱え直し、悠然と微笑む。
 赤ん坊――大神の名字になにやらキラキラした名前を持つらしい子どもは、晃牙が家を出ようとした瞬間に従姉から無理やり押し付けられた正真正銘晃牙の親戚である。母親である従姉には数年前に結婚披露宴に呼ばれて以来だが、竜巻のように唐突に現れ、子ども関係で役所に行くから預かれと晃牙に命令すると風のように去っていった。自分の命令を絶対と信じているところは子どもの頃のままである。
 母親に置き去りにされた赤ん坊は最初こそ静かだったが、ものの5分と経たないうちに大号泣。「ふえぇ……」が名状しがたい叫び声に変わったところで、頭をやられた晃牙が零に半泣きで電話したのだった。
「赤子がなにゆえ泣いておるのか、お母さんにもわからぬときがあるようじゃからのう? わかったところで一介の未成年はおしめの換え方など知らんじゃろうし、泣き喚く赤子を前に落ち着いて助けを呼べたのは偉い……うむ? 我輩の顔に何かついておるかや?」
「べ! 別に、なんでもね~し!」
「ふむ、頭ならあとで存分に撫でてやろうぞ」
「違げ~よ!」
 笑いをかみ殺す零から顔を背けると、晃牙はふうと息を吐いた。零が面倒がっている様子はまだ見られない。むしろ面白そうな、愉快そうな声で赤ん坊をあやしているから、その絵になる姿に見とれてしまったのだった。
 零は赤ん坊を抱いてもすごく絵になる。だが、今日は零にとって大事な日――誕生日だ。晃牙は午後から夜中までデートする約束を取り付けていたのだ。
 恋人の生まれた日にデート権を貰えた晃牙としては、零を思いきり楽しませたい。いや、俺様が恋人であるからには朔間零をあっ!!!!と驚かせる日にしたいのだった。
 だが、これではまるで駄目だ。
「おぉ、よしよし……♪ 吸血鬼とわんこがおぬしを見守っておるぞよ~♪」
「だから犬じゃね~……じゃなくて。わりぃ、誕生日に面倒かけちまって」
 晃牙の謝罪に、零は艶のある双眸をぱちくりと見開く。
 零の紅い瞳が晃牙をじっと見据える。美しい、血の色の紅だ。血の雫が揺れるように、双眸がゆっくりと三日月の形をつくる。薄い唇の端が吊り上がる。
「……この後、練りに練ったデートコースを案内してくれるのであろう? 楽しみにしておるぞ」
 朔間零は最高だと、晃牙は改めて感じるのだった。
 
 零と晃牙は通行人の邪魔にならないよう適当な空き店舗の前に移動した。
「さて……ここへは昼餉をとりに来たのじゃったか。喫茶店にでも入ろうかのう? それとも……」
 零は辺りを見渡した。赤ん坊は晃牙が抱くと泣くので引き続き零に頼んでいる。零の腕力は晃牙も身をもって知っているが、運ぶのに気を遣う物を抱え続けるのは大変だろうから、さっさと店に入るのは賛成だ。
 喫茶店ならもう少し向こうだと晃牙が言いかけた瞬間、
「晃ちゃん!」
「ん?」
 聞き覚えのある声に振り向くと、近所のガキ共が群れなして走り寄ってくるところだった。
「晃ちゃん久しぶり! サッカーしようぜ!」
「メンバー足んね~んだよ、俺のチームこいよ」
「バ~カ! ジャンケンだし!」
「バカっつった方がバカだろ! なあ晃ちゃん!」
 パーカーにサッカーボール柄の砂埃のついた、いかにもサッカー少年という風体の子どもが池の鯉か奈良の鹿のように晃牙の腰にまとわりついてくる。慌てる晃牙をぐるりと囲み、ほとんど包囲網だ。
「つ~か引っ付いてくんなテメ~ら! おい!」
 相手はガキなので威嚇はするが荒々しく引きはがせない。ガキ共も晃牙のことをわかっているので、ギャーと叫びつつ離れようとはしない。
 デート中なのにどうする。いや、どうもこうもないというか、どう説明すればこいつらを黙らせられるんだよ。頭を抱えていると、くすりと小さな笑い声が聞こえた。
 その瞬間、思い思いにやかましかったはずのガキ共が一斉に笑い声の方を向き、はっと黙りこむ。
 声の主――零が、ガキ共の前にかがみ込んだ。癖のある黒髪が流れ、真っ白な鎖骨に一房垂れ落ちる。剥き出しになった首筋の白さにガキ共の視線が集まると、零はその目を覗き込み、
「坊やたち、晃牙が大好きなんじゃのう。……しかし今日は我輩が借りておるゆえ、おぬしらとサッカーはできんのじゃよ。許しておくれ」
「…………」
 呆けたように零の言葉を聞いていたガキ共だったが、コクン、と首を縦に振ると、素直に晃牙の腰から離れた。
 なぜか服の埃を払って横一列に綺麗に並ぶ。サッカーの練習試合でもこんなに綺麗に整列しね~だろおまえら。
 よく見ると顔も林檎のように赤かった。
 まさか。晃牙の危惧をよそに、晃牙に最初に飛びついたガキが口を開いた。
「サクマレイって、テレビでもカッケ~けど、本物はもっとカッケ~んだな。カッケ~っていうか、キレイってか」
「ほほう、テレビの我輩も見てくれてるのかえ? ありがとう♪」
「ウン……へへ」
 喋らなかったガキ共も、落ち着かない様子で脚を交差させたり、腕を後ろで組んだりする。
 そして、顔を見合わせると元来た道を走り去っていった。
 後には晃牙と、ガキ共の背中を見送る零が残された。
「若い子は元気じゃのう~」
「初恋がこの人かよ……」
「なんじゃ?」
「なんもね~よ……」
 これが5万人に抱かれたい男の魔性か……。晃牙の胸に、なんとも言えないモヤモヤが渦巻く。
「――晃ちゃん!」
 今度はなんだと振り向くと、一軒先の肉屋のおばちゃんが大きく手を振っていた。
「今日は先輩と一緒かい? オマケするからた~んと食いな!」
 零がびっくりしたように晃牙を見た。肉屋のおばちゃんとも晃牙は顔見知りだ。肉質の良さが評判の肉屋だが、貧乏学生だった晃牙には安くてうまいコロッケの方が馴染みがあり、学校帰りや昼飯の調達時にはアドニスとよく買い食いしにきたのだった。
 いつもの癖とオマケという言葉の響きでふらふらと近づきかけて、あわてて零を振り返った。
 今日は零の誕生日だ。たしかにここのコロッケはうまいが、零がいつも食べているだろう豪華な飯を奢るつもりで現金も下ろしてきている。
 食うか?と零に目で聞くと、
「わんこがうまいと言っておったのは、ここだったのじゃな」
「朔間センパイに紹介してくれたのかい? 嬉しいねぇ!」
 零が笑顔で店先に歩いていったので、晃牙も吸い込まれるように後を追った。
「コロッケ4つとメンチカツ2つとから揚げ6つだね!」
「なんで全部2倍にすんだよおばちゃん」
「アイドルってお腹空くんだろ、テレビでやってたよぉ。ジャンジャン揚げるからジャンジャン食いな!」
 ジャーッと油の濃い匂いが奥から漂いはじめたので、もしかしたら3倍にしてるのかもと思いながら会計を済ませる。「朔間センパイ、テレビの100倍恰好いいねぇ」声を潜めて言うおばちゃんの頬も赤い。肉屋に嫁いで30年のおばちゃんだが、零と目が合うとキャッと小さく叫んで乙女のように目を逸らした。
「おばちゃん……」
「おッ、晃ちゃんじゃね~か! 元気してんな! 久しぶりに肉まん食って……」
 肉屋の隣の中華屋から出てきたオヤジが息を止め、短く刈り込んだ白髪が眩しくなるほど額を赤くする。
「…………」
「わんこ、なに難しい顔をしておるのじゃ? ……おぉ、こんなに沢山。ありがとうございます♪ おじいさんも? あぁいや、お支払いさせてくだされ。といっても後輩の財布を借りねばならんのじゃけども……晃牙、お支払い頼んでもよいかのう?」
 コロッケ6つメンチカツ4つ唐揚げ8つと肉まん4つの支払いを終えたので、晃牙はおばちゃんとオヤジに短く挨拶し、零の背中をぐいぐい押して商店街を引き返した。
 なんじゃなんじゃ、そんなにお腹減ったのかえ、と間抜けな声で聞かれる。それに無言を貫くと、零は目を瞬かせて考え込む仕草。
「ふむ……おぬしは人気者じゃのう? 晃ちゃんは商店街でもアイドルじゃな」
 晃牙はため息をついた。どうせ零の方が人気で嫉妬したと思われているのだろう。零が自分に向けられた感情に鈍感なのは今に始まったことじゃない。
「当然だろ、っつかテメ~も呼ぶな。テメ~は俺の親戚か」
 親戚、と呟いたところで、意外といいんじゃね~か?と気が付いた。
 晃牙は零の腕の中をチラリと見る。ぷくぷくの手足の赤ん坊が、口をふにゃふにゃさせて呑気に寝ている。晃牙の親戚の子なので、目元と鼻筋が晃牙によく似ている。あんなに騒がしいのに眠れる不敵さも晃牙似だと、零なら言うだろうか。
 年上の恋人が『親戚のかっこいいお兄さん』になって正月なんかに大神家に顔を出すのを妄想する。テメ~も朔間先輩が親戚だと嬉しいだろ、盆と正月に抱っこされたり高い高いされたりするんだぜ。朔間先輩の身内とか、身に余る光栄だろ。
 話しかけると、わかるのかわからないのか、赤ん坊はむにゃむにゃ寝言を言った。
 わかんね~か。まあ俺としては……嫁の方が嬉しいけど。想像するだけで顔が熱くなる。正月とか盆に来る親戚に、「叔父さん、大神零です。ご無沙汰しております」と隣でよそいきの挨拶する先輩……いい。そうだ、この人は俺の恋人なのだ。今はできなくともいつか俺がこの人を超えて世界一のアイドルになったら、きっと結婚のひとつやふたつ喜んでするだろう。
「な、なあ、ついでに俺んち寄ろうぜ」
「ふむ? 良いが、やはり『大神くん』呼びかのう? 呼び捨てして友達に噂とかされると恥ずかしいし。……なに怒っとるんじゃ」
「ぜんっぜん怒ってね~し!」
 意識されてね~のがちょっとショックなだけだし!
 
 苦笑する零を従えて商店街を出る。アーケード付きの商店街は秋になっても春みたいに暖かいが、パチンコやらゲーセンやらでうるさいので赤ん坊の安眠にはよろしくない。商店街の脇を抜けた先の小さな公園も、さっきのガキの軍団の縄張りだから、晃牙は踏切を渡って大きい方の公園に行くことにした。
 カンカンカン、と哀愁漂う音の向こうから、秋風が落ち葉の匂いを運んでくる。落ち葉はたいてい誰かに踏まれるか、風に吹かれて地面と擦れ合って土の匂いをさせている。少し甘く尾を引くそれはまるで幾層も重なる落ち葉のメロディーだ。晃牙は道の端を歩くとき、注意深く地面を踏みしめては匂い立つメロディーを楽しむことにしているのだった。
 踏切を抜けると落ち葉の積もった歩道に出たので、さっそく足裏でメロディーを奏でる。乾いた音に紛れて秋が香る。良い匂いだ。先輩もそう感じてくれると連れてきた甲斐があるのだが。
「秋の香りじゃのう」
「……わかんのか?」
 零はにっこりと笑った。
「おぉ、見えてきたのう。ずいぶん広い公園じゃな。はらはらと舞い落ちるイチョウが幻想的じゃ」
 言われて前を向くと目と鼻の先に目的地があった。また零の笑顔に見惚れていた、と気づくと顔から火が出るようだったが、平常心のフリで公園の真ん中をずんずん進んでいった。
 秋も盛りの公園は見渡す限り金色だ。公園に密生するイチョウが秋風に吹かれ、金色の葉が静謐な敷地に舞い降りてゆく。
 晃牙は入口からは見えにくい木陰を見つけると、適当な丸太を持ってきて零を座らせた。そして自分も、一瞬ためらったが零の横に腰を下ろす。腰同士がくっつきそうな、恋人しかしない座り方だ。
「コイツの母親、役所でいろいろ手続するんだってよ。ここで連絡待とうぜ」
「部屋にいなくてよいのかえ?」
「携帯持ってきてるし、コイツも室内ばっかじゃつまんね~だろ」
「なるほどのう~」
 本当は部屋で先輩とふたりになるのが耐えられないからだが、男のプライドにかけて言わないでおく。
「肉まんと揚げ物どっちから食う? あんたが食う間……っつか、これからガキは俺が抱えるから、好きなだけ食ってくれよ。飲み物は――」
「晃牙」
「うおっ!?」
 零が晃牙の肩に自分の肩をくっつけてきた。
「学院はどうじゃった? 楽しかったかや?」
 零は晃牙自身のことではなく、この前晃牙がひとりで訪問した母校のことを聞いてきた。
 せっかくふたりきりになったのによう、と口に出すのはガキっぽいのでやらない。代わりに数日前の記憶を手繰り寄せる。
「ん……まあ、それなりに……。軽音部とかは未だに俺様の天下だな」
「『とか』にはおぬしのファンクラブも入っておるのかや?」
「なんで知ってんだよ!?」
「我輩を誰だと思うてか」
 晃牙は今度こそ顔から火を出して飛び上がった。ファンクラブというのは晃牙の後輩が作った私設部隊で、構成員いわく一昨年の返礼祭で漢を魅せた大神センパイに岡惚れしたアイドル科生が大勢いるらしい。ホントかよ、とおもわず口にした晃牙だったが、その場の構成員の晃牙を見る目がマジだった。嘘のようなホントの話である。
「そ、それで」
「それで?」
「その、俺様のファンがいて、どう思うよ」
「少し見ぬ間にアイドルとしての格を上げたのう~。ユニットリーダーとして鼻が高いわい」
「ユニットは関係ね~だろ!?」
「では”恋人”として――」
「っ!?」
「……素直すぎるのも問題じゃのう」
 零は苦笑すると、ついと目を逸らして腕の中に視線を落とした。
「よく寝ておる。おぬしのように、すくすくと育つじゃろうな」
「……」
 秋の柔らかな日差しが肌にあたたかい。晃牙たちしかいない公園に、電車の音と、落葉の擦れる音と、ふたりの息遣いだけが聞こえる。
 零が愛おしそうに目を細めるのを、晃牙は切なさといとしさの混じった気持ちでじっと見つめた。
 零は博愛主義者だ。人間が大好きで、老若男女に分け隔てなく愛を注ぐ。だから晃牙の前では泣き止まなかった赤ん坊も、零の無償の愛を感じ、その腕に抱かれてすやすや眠るのだ。
 そうして、注がれた方はみな朔間零を求めるようになる。零のファンも、夢ノ咲の生徒も、商店街の知り合いだって背後の零をチラチラと気にしていて、晃牙のためというより朔間零に好かれようとオマケやら安売りやらしているように見えた。
 その気持ちはよくわかった。晃牙も同じだから。
「……朔間先輩」
「うむ?」
 晃牙が名を呼ぶと、零は穏やかな表情のまま振り向いた。神代の物のように美しい顔立ち。吸い込まれそうに紅い瞳が、ふと見開かれると、すっと逸らされる。
 日差しを受けて白く輝いていた頬が、鮮やかに色づいてゆく。薔薇が薄い花弁を1枚ずつ広げていくように、頬から耳朶へ、首筋へと紅が差す。
「夜まで、待たんか」
「何を」
「おぬしの顔が言っておる……」
「…………」
「……口づけ、したい……と……」
 
 ――この人を、俺だけのものにしたい。
 
「……できるかよ」
 晃牙は勢いよく立ち上がった。
 零が咄嗟に腕を強張らせたので、そうだ赤ん坊がいたのだったと晃牙も慌てたが、当の赤ん坊は少しぐずるとすぐに寝息を立て始めた。
 ぷにぷにの見かけによらずたくましい。それでこそ俺の親戚だと胸を撫で下ろしていると、晃牙のiphoneが鳴った。
「あ~、もうちょっとで手続終わるってよ。駅で待ち合わせるか」
「もう行くかえ?」
「これちょっと食ってから行こうぜ。1個ずつ食ってもけっこう残るから、後はあいつに押し付けてやる」
「優しいのう」
 全部お見通しじゃと言わんばかりの笑顔に少しムカつきつつ肉まんの封を開ける。育児中の母親がメシをつくる暇もないというのは零の出たドラマで見た。肉まんも揚げ物も栄養価が高いし温めれば食べられるので、そういうときには丁度いいだろう。おばちゃんやオヤジの厚意を横流しするのは気が引けたが、まあ、俺はこれからもあそこで買うし、従姉も赤ん坊が大きくなってから足繁く通えばいい。そのときのために思いきり宣伝しておいてやろう。
「のうのう、わんこ」
「あ?」
「食べさせておくれ」
 見ると、大きく口を開ける零。
「恥ずかしがるところが違うだろ……」
「あ~……んむ♪ 美味じゃのう♪ おぬしもどうじゃ?」
 俺は指先があんたの唇に当たるのが気になるよ……。
 そうして肉まんをちぎっては食べさせ、揚げ物もかぶりつかせて大役を終えた晃牙は、公園の水道で手を洗うと、上着から小さな箱を取り出した。
「食わせたんだからコレつけろよ、絶対」
と言い終わらないうちに包装を解き、中身を片耳ずつ零に着ける。
「贈る相手に見せぬままプレゼントを着けさせるってどうなのじゃ」
「うっせ~な。オラ、これでいいだろ」
 パシャッ。
 iphoneで撮影したばかりの高画質朔間零を本人に見せる。
「お、おぉ~……これは……」
「俺様の恋人なら当然だろ」
 真っ赤な顔で黙り込む零の耳元を、隣でニヤニヤを隠さず見つめる。
 晃牙がデザインから描き起こしたピアス。
 モチーフはオオカミの歯型だ。つまり、オオカミが零の耳朶に噛み付くような。
「今日はそれ着けたままデートしろよ。この大神晃牙様が忘れられないバースデーコースを案内してやる。泣いて喜びやがれ!」
 晃牙はぽかんと間抜け面の零を立たせると、先に公園の出口へ歩き出す。
 しばらくして後ろから、どっちの誕生日なのじゃ、とか、悪い意味で忘れられんのう、とか聞こえるがまったく気にならない。それどころか勢いよく振り向いて、フフンと牙を剥き出して笑ってみせもする。
 だって晃牙は知っているのだ。零が写真の中のピアスを見た瞬間、まんざらでもなさそうに微笑んだのを。
 
 ――俺だけのものにできなくても、俺のものだと主張するのはぜんぜんいいよな。
 
 見事な秋晴れの下、晃牙は誇らしげに大きく笑った。

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