Entry

「今日も一日」


「今日も一日」
 
 
「がんばるぞい♪」
「何をだよ……」
晃牙は呆れて物も言えないとばかりにツッコんだ。寝ぼけ眼の吸血鬼は、生徒会書記のガキのように両腕でガッツポーズを作って晃牙の脚の間に座り込んでいる。この男はのそりと棺桶から出てきて(そのままずっと引きこもってほしかった、切実に)ふらふらと晃牙の元にやってきたと思ったら、眼にもとまらぬ速さでギターを取り上げて股の間に割り込んできたのだ。吸血鬼の髪の香りに顔をしかめながら、孤高の狼は、久しい孤独に寛いだことを後悔せずにはいられなかった。
「あっ、この、テメー!」
「んー?」
そうこうする間に零は恋人のズボンの前を寛げて、性器に鼻を寄せていた。「我輩さして鼻は良くないんじゃけども、こうまで近いとおぬしのニオイがよーくわかるのう。ふふん、わんこのニオイじゃ♪」
「ド変態め……っしまえよ!」
「ヤじゃ」
薄い唇の端が悪戯そうに持ち上げられる。
形の良い鼻先を擦りつけられて、晃牙の股間は固く隆起しつつある。わざとそうしているのか、吸血鬼の吐息が先端に近い。
「最近夏らしくなったからのう、ちぃっとばかし喉が乾くのじゃ」
うっとりと晃牙を見上げる零の頬が、西日に照らされている。その白く滑らかな頬に狼の屹立を擦りつけるのが、奇人の最近の流行らしい。する、する、と三度頬擦りされれば、股間に全身の血が集まるのがわかった。
「……おお、若いの。もう固くなりよった」
「……っ!」
「よしよし、欲望に忠実なのは良いことじゃ♪ ねぶり甲斐があるぞい……んん、」
見せつけるように唇を押し付けて、亀頭に薄い唇を割らせる。歯列をこじ開けて、口腔内へ。ずるりと根元まで飲み込んで、舌の上に竿が招かれるまで一瞬だったはずなのに、晃牙にはいやに長く感じられた。
「ほーひゃ、はんほ。ひほひいはほ」
「わっかんねぇよ……っうぁ!」
「ふふっ、ん、んちゅ、ぢゅ、っ、んく、ン」
「あ! く、っん、くぅ、」
口をすぼめたまま勢いよく扱かれて、晃牙はされるがままに腰を浮かせる。
飼い主には、良いところや好きなところを知り尽くされていた。裏筋を舌先でちろちろと擽られるのも、カリ首の頬の内側を添わせて粘膜で包まれるのも、晃牙を爪先まで快楽責めにする。緩急をつけて頭を動かしながら、零が上目遣いに笑むのも、晃牙の腰のあたりを重苦しくさせる。激しい口淫に慣れない身には、年上の愛撫は刺激が強すぎた。
「んぶ、はむ、ちゅ、っ、んん、……んは、どんどん大きくなるのお」
「だれの、せいだよ、っ!」
「クックッ、誰のせいじゃろうなあ?」
人差し指で先端を撫で回されれば、零の愛犬は些細な刺激に感じ入る。口が離れても、吸血鬼は容赦しない。細い指で輪っかを作り、竿を根元から擦り上げる。
口の粘膜で包まれていたときより、与えられる刺激はずっと生ぬるい。おざなりな擦り方が晃牙をもどかしくさせるが、勝手に動けば最後、お仕置きと称して射精直前で放置されてしまうだろう。
「は、あぁ、っふ、うう……!」
「いいこじゃ、いいこ♪」
晃牙は息を上げて、飼い主の愛撫に身をゆだねるしかない。
こんな風に気まぐれに弄ばれて夜が更けることは、一度や二度のことではなかった。この前は手淫、月曜日は射精管理の真似事、厄介事続きのサーカスの翌日は朝から番まで晃牙の部屋でセックスに耽った。精根尽き果てるまでインキュバスのようなこの男に搾り取られたのに、巧みな性技に股間が固くなる。ふとした瞬間の恋人の表情も、ドリフェスで昂りを持て余したときのそれによく似ていて、屹立越しに見た晃牙の背筋に甘い痺れが走るのだ。
「ほれ、もうこんなにも固くなっておる……」
吸血鬼は真っ赤な舌を出すと、晃牙を根元から亀頭までゆっくり舐め上げた。
零の舌が先端の先走り液の玉を掬えば、晃牙の細い腰が大げさなくらい跳ねる。
固く張り詰めた性器は唾液でぬらぬらと光り、宵闇に紛れることなく興奮の度合いを見せつけている。
「ふふ、かーわいいのう……」
「くそ、ちくしょ、っ!」
小馬鹿にするような笑い方に悔しがったのもつかの間、一思いに咥えられて、口全体で晃牙を味わうようにしゃぶられる。待ち望んだ刺激だ。
「んん、はむ、んっ、ン」
「あ、あっ、ん! くぅっ」
「んぐ、んぅ、んン、はっ、わんこ、きもちいいかの?」
「はぁっ、ひ、しるかっ、あッ、んん」
「んく、っ、言わずともよい、ん、ちゅ、ン、んんく、ぢゅ、んン」
零の薄くやわらかな唇から、下品な音を立てながら赤黒い性器が出入りしている。うっとりと目を眇めた恋人はいたく幸せそうなのに、口の端から涎を垂れさせ、グロテスクなそれを夢中になってしゃぶる様は狂気じみている。長い睫に彩られた瞳の紅が晃牙を射抜き、快楽の海へ怪しく誘う。
けれど狂犬の心にふつふつと湧くのは怒りだった。あんまり焦らすのもかわいそうかの、と恋人が嘯くのを聞き逃さなかったからだ。こんな情けない状態でも、かわいそうと言われるのは癇に障った。だいたい夕方にもなって起きてきて、自分の城で快楽に耽るくらいならリーダーとして仕事のひとつやふたつ取りに行けばいい。ライブに備えた練習だって、夜闇の満ちる今ならいくらだってできるだろう。軽音部らしく楽器の練習をしたっていい。
あの元『五奇人』が、観客を煽り沸かせる口で男の物を頬張って、こんなに嬉しそうにするなんて――!
「んぐ、んんぅ!?」
突然喉に強直を突き立てられて、さしもの吸血鬼も目を見張った。晃牙の両手が零の後頭部を強く押さえつけている。頭を振って忠犬の顔を窺う瞳に、怯えた色が浮かんでいた。
「ぷはっ、これ、おイタはいかんよ? 喉の奥はウェってなるから、頬のあたりで満足しておくれ」
「知るかよ……ッ!」
「! ぐっ、んんん、ん! んぶ、ん、ウ、くンン!」
晃牙の両手が零の頭を抱えるように抑え込み、口淫を再開させる。
晃牙の屹立で歯列を割らせて容赦なく奥まで突き入れれば、縮こまった舌が亀頭を受け止めた。哀れに思えて手の力を緩めたように見せかけて、股間に澄ました顔を押し付ける。
衝動的にイラマチオを始めてしまったが、零の綺麗な顔が歪むのを見ると止まらなかった。髪ごと頭を掴んで揺すり、狂犬らしい傲慢さで快楽を追い求める。
「んあ、ぐ、う、ンン! ん! はぐ、っ、っ! ――ッ!」
「はっ、はっ、あ、くそ、っ」
押さえては緩めを繰り返すと、射精感は意外と早く訪れた。もう少し楽しみたくて内腿とともに強張らせた膝頭を、零の両手に強く掴まれている。
無理矢理顔を上げさせれば、血の色の瞳にはすっかり怯えと戸惑いが浮かんでいた。長い睫が涙で濡れて妙に艶やかだ。恐れ知らずの朔間零が、こんな顔もできるのか。
――自分がさせている。
そう感じたのと、後頭部に熱が急激に集まったのは同時だった。
「く――――!」
「ンッ、ん、ン、んん″――――!!!」
びゅるるるっ!!!
熱い精液が零の喉奥に勢いよく注がれる。
零は虚ろな目をして晃牙の精を受けた。どくり、どくりと、大量の白濁が屹立から吐き出されていく。
最後の一滴まで注ぎ込んだと感じて引き抜くと、吸血鬼が勢いよく咳き込んだ。飲み込めなかった精液が吐かれ、濁った咳が日の暮れた部室に響き渡る。
弱弱しく上げられた顔は、体液に塗れて背徳的な色香を漂わせていた。血管の浮かんだ性器を何度も出し入れしたせいで、形の良い唇は腫れ上がってひどく赤い。唇に光るのは、残滓と涎の入り混じった粘液だ。
亀頭の先に浮かんだ精液の玉を、唇全体にわざと塗りたくってやれば、零は放心したまま受け入れた。
そうして白い紅をさした唇が、ゆっくりと、弓張月のように吊り上がる。
「……わがはいの口は……よかったかのう……?」
「……」
「本当は中に出してほしかったんじゃが……ちぃと煽りすぎたかの」
うっそりと囁くと、吸血鬼は愛犬の太股に頭をもたせ掛けた。薔薇色に上気した頬に、黒い癖毛がはらりとかかる。恋人に甘えるようなその仕草にも、笑んだ双眸にも、狂犬の粗相を責める色はない。頭一つ分の重みだけが、晃牙の良心を軋ませる。
――最初は、少し怒っていただけだった。
唯我独尊傲岸不遜の大神晃牙が、わざわざ手持無沙汰にギターを爪弾いていたのはなぜか。愛犬の待つ自宅に帰らず、毎日部室に居残って棺桶の開くのを待ったのはなぜか。夜まで待てば、またあの雄姿が見られると期待したからだ。セッションでもいい、ダンスの練習でもいい。何も知らない1年の自分を魅了した姿を、自分だけに見せてくれるんじゃないかと、子供みたいに楽しみにしたからだ。
なのに朔間零は、忠犬の気持ちをつゆほども知らず、刹那の悦楽に興じている。歌も踊りも忘れたみたいに、ライブの熱狂なんて知らないみたいに、恋人ごっこに明け暮れる。
だけど、晃牙は零を責められない。自分も結局同じだったから。「それなら恋人じゃなくていい、あんたの目指した世界を垣間見させてくれ」――なんて願った癖に、舞台以外で朔間零を壊したがった。打倒朔間を掲げるには愚かすぎる行為だ。
そんなことを何度繰り返しても、決して諦めきれないのは、
「……今日は、何の曲を弾こうかのう」
憧れ焦がれた男が希望を見せてくれるから。
「おぬし、ギターを弾きにきたんじゃろう? 我輩も暇は持て余すほどあるからのう、たまには触らんと腕も鈍るじゃろうて」
「あ、おい」
「これまた偉い昔の曲じゃのう、まあ永劫の時を生きる我輩にはほんのちょっと前って感じじゃけども。タオル借りるぞい」
年寄りじみた掛け声で立ち上がると、吸血鬼は洗面台に向かって歩き出した。おざなりに手を洗い、口をゆすぎ、机に広げた楽譜を一瞥する。マイクさえ持てなさそうな細腕をしているのに、ストラップを掛ける姿は板についている。
「何もたもたしとるんじゃい。ハリーハリー、夜は短し歩けよ吸血鬼、じゃよ。狼みたいに俊敏に動くがよかろ」
背骨を痺れさせる重低音に、零は目を細めた。忠犬が服装を整え愛器を構える頃には、僅かばかりのチューニングなどとうに済んでいる。
手持無沙汰に爪弾かれる音に心を震わせながら、晃牙の視線が傍らの男に向けられる。脚の間で愛犬を慰撫していた男の蕩けた顔はそこにない。大神晃牙と同じくらいに傲慢で美しく眩い、朔間零というアイドルが晃牙を導く。力強く、否応なく。
「――今日も一日がんばるぞい。1、2、123――」
 
 
 

Pagination

Utility

Calendar

03 2026.04 05
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -

About

【お知らせ】現在サイトデザインの一部が崩れております。ご不便をおかけし申し訳ございません。

Entry Search

Page

  • ページが登録されていません。