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にせチョコ❤いちごトラップ!

(※2/15追記)誤字など修正しました


「朔間先輩も大人の男なんだな~」
 と、うっかり漏らした晃牙に、先輩はレオンの肉球パンチを3発お見舞いした。
「てし、てし、てし!」
 効果音まで付いている。
「あっ……ぶね~な。砂糖何個入れる?」
「大人じゃから0個じゃな。でもわんこのために1つまでなら赦してやろうぞ」
「つって練乳クソほど入れてんじゃね~か。スイッチも入れるか?」
「我輩のこと完全に子ども扱いしてるじゃろ。別にいいけども。他の部分は大人じゃもん。――あっ駄目じゃ押すな! 俺の獲物! こら! ……うむ、聞き分けの良い子じゃ♪ こういうのは年長の仕事じゃからな♪ ぽちっとな♪」
 やっぱりレオンの前脚でボタンを押す先輩。
 すぐにミキサーが騒々しく動き出し、レオンがぴくりと両耳を立てる。
「グラスはでっかいのでいいよな? ジョッキで飲むか? ――朔間先輩?」
「……ほほう、おぬしの目にはまったく奇異に映るようじゃのう? どれどれ、もっと近う寄るかや。そうじゃ、見事じゃろう、心躍るじゃろう、血が騒いで仕方なかろう……♪ 括目して見るがよかろう。地獄の釜のように回っておるのう――いちごぎゅうにゅう♪」
 
 
 にせチョコ❤いちごトラップ!
 
 
 【いちごぎゅうにゅう】をジョッキで3杯お代わりし終えた朔間先輩は、口の回りに白ヒゲを生やして晃牙に尋ねた。
「我輩が大人の男って、今さら何なんじゃ?」
「いちご牛乳飲んでて今さらもクソもね~だろ……CMの話だよ」
「CM?」
 晃牙はグラスとジョッキを抱えて立ち上がった。そして台所に行き、レオンにあげる分の苺と朔間先輩に渡す何かを取ってくる。
「あぁ、もう発売したんじゃのう」
 何か――チョコレート菓子だ。
「『大人の男の孤独。classique gateau』ってどこでも流れててさ。バレンタインじゃね~けど、スーパーの菓子売り場でも小さい液晶置いてあんたの声流してるから、つい」
「美味しかったじゃろう?」
「ん? あ~、まだ食ってね~な。あんたにやるつもりだったし、」
 言いよどむ晃牙の前で、先輩のほっそりした指先がミシン目の通りに蓋を開けてゆく。
 つなぎ目の切れる音と中包装の破かれる音。人差し指と中指とで濃紅色の包装を掻き分けると、中から一口サイズのガトーショコラを掬い上げる。カカオの濃い色が匂い立つ。
 そっと唇に押し付けられたので、晃牙は口を開けて招き入れた。
「……うめ~んじゃね~か? よくわかんね~けど」
「素直な感想がほしいんじゃよ。今度のバレンタインも、このくらいの甘さなら食べられるかえ? それともジャーキーとかが良いかのう?」
「そりゃバレンタインだしチョコ――って、誘導尋問じゃね~か」
「やっぱり男の子じゃのう♪」
 してやったりがムカついたから食卓越しに襲い掛かる。両手首を掴んで動きを封じたところにキス。舌の上で牛乳の乳臭い後味とココアスポンジの湿った欠片が混じり合い、セックスのためのキスをしている感じがする。
 朔間先輩も同じらしく、もたれかかるように手首の力を抜いた。
「……大人の男の孤独を、おぬしで塞いでおくれ?」
 晃牙は先輩の椅子の傍に回り込んで口づけた。孤独をキスで塞ぐような、甘やかで優しい触れ方で先輩の舌を吸う。いつもされるみたいに下唇を甘噛みすると、先輩の細い喉がこくりと動いた。
「ん……は、そうじゃ、もっと……」
 先輩の頬が桜色に染まるのを、晃牙は息を飲んで見つめた。真紅の瞳は涙の膜を張り、春の湖のように揺れている。濡れて切なく尖らせた唇。時折ほころんではすぐにすぼめて晃牙に捧げられる。
 俺のキスで動揺してる。先輩。
「寝台へは連れて行ってくれぬのか? 晃牙……?」
 艶のある声がほどけて溜め息に変わる。晃牙の手が先輩の頬を撫でたのだ。指先は肌の柔らかさを辿ると首筋を滑り、部屋着の隙間から鎖骨の位置を確かめる。
 先輩が椅子を代わってくれた。揃えた膝に先輩を跨らせて、キスをしながらお互いの服の裾に手を入れるうちに、下腹部が燃え盛るように硬くなるのを感じる。挿れたい。
 朔間先輩が尻ポケットからゴムとローションを出した。
「はっ?」
「おぉ……狂犬ここに極まれりじゃのう? 今日も優しくしておくれ?」
「いや優しくっつか褒めてんじゃね~よ、じゃなくて、なんでそんなの入れて、ん、ぁ……っ!?」
「はぁ……っ」
 薄い膜が自身にきつく被さり息つく間もなく吸血鬼の中に招かれて、あぁ、と晃牙はもう一度喉を反らした。そうやって薄く開けた唇も同じ柔らかさで攫われる。
 律動が始まると、繋がれなかった唇の端から声が漏れ出した。晃牙の声だ。気持ちよすぎて出る声。ただ椅子に座って昂ぶりを扱かれているだけなのに、声も顔も無防備を晒してしまう。恥ずかしくて目をつむっていたが、先輩にじっと見られているのがわかってからは積極的に噛み付きにいった。
 青ざめた皮膚が歯の下で粟立つ。噛み跡をつけた首筋から、は……、と解けた雪のような吐息がまろび出る。
 ――けど、朔間先輩は喘がね~んだよなぁ。
「ん、っ、はぁっ……んんっ」
 晃牙は唸るつもりが女のように喘いだ。俺の声は聞きたくね~よ。でも先輩に頼むのも何か違う。先輩がこらえたまぼろしの吐息は椅子のガタガタうるさい音に掻き消され、かっこ悪くても椅子用靴下を買ってくるかと思っていると股間を締め付けられる。
「ぁ!」
「ククッ。余所見も良いが、我輩に集中しておくれ……そろそろ果ててしまいそうじゃ」
 先輩が尻を弾ませる。豊かな双丘が晃牙の太股をすばやく押し潰しては離れていく。本当にイきそうらしい。晃牙が顔を覗き込めば、せつなく寄せた眉に目も閉じて快楽だけを追っていて、きつく噛みしめた下唇だけが浮いている。
 すげ~痛そう。気持ちよくてわかんね~のかな。わかるよな、血の気引いてるくらいだし、と晃牙は考えてから、はたと気づいた。いま口開けそうになってた。噛み直した。俺に揺さぶられて、喘ぎそうになったからガマンしやがった。
 おもわずキスしようとした晃牙の顔を、先輩が体をひねって避けた。避けられた。イきそうなところにお互い無理な体勢だった。さんざん扱かれて張り詰めた急所が、おかげで朔間零の体のいちばん気持ちいいところを抉るように突き上げた。
 唇がほどけた。
 あ、
「……ッ!!」
 先輩の大きな手の平。
 が、歯の先まで出かけた喘ぎを閉じこめて、代わりに先輩の腹筋がびくびくと波打った。白濁が晃牙のパーカーにだらだら垂れた。イっている。晃牙の射精も長く続いた。先輩のドライオーガズムに引きずられるように、先輩が咄嗟に避けたことに恨み言をいうように、目の前の細い腰を股間に押さえつけて精液を浴びせかけた。
 コンドームをしていたけれど。
あぁ、と脱力した先輩が晃牙の首に腕を回して、一言、
「…………っ、我輩も、チョコほしいのう」
 ピロートーク第一声がそれかよ。
 射精直後の何もかも冷め切った気持ちで、晃牙は「……買えたらな」と低く呟いた。
 
 
 ☆ ☆ ☆
 
 
 それが5日のことで、1週間経っても朔間先輩がチョコレートのことを覚えていたので、晃牙は仕事終わりに百貨店に寄った。
 買えたらな、と言葉こそ濁したが、別にチョコレートを買うのが嫌なわけじゃなかったのだ。先にカタログを読んで先輩の好きそうなものを探しておいたし、真っ赤なハートのパッケージは朔間先輩に似合うと思う。中のチョコもハートの形にラズベリーのコンフィチュール入り。甘い甘いと喜んで食べるだろう。ちょっと、いやだいぶ恥ずかしいから専用の催事場ではなく地下で買ったが。
 雪の舞う夜道を歩く。ボンボンショコラ8個分の幸せを片手に提げて。夜道といっても両脇の街灯の光が目にあたたかく、足元の煉瓦には粉雪が降り注いで生チョコみたいだ。朔間先輩の出ていたCMもちょうどこんな風景だった。あの雪景色の中で、先輩は仕立ての良いスーツにあたたかそうなコートを着こなして、行き交う人の群れを寂しげに通り抜けていた。足早に、誰も引き止める人がいないふうに街道を抜け、灯りの届かない海辺に辿り着いたら立ち止まり、手の中のチョコレート菓子をひと口。伏せた目が水面にとけた月明かりを映し、生気のない頬に淡く朱が差すのを、遠い誰かの目線で晃牙たちは見る。神さびた美貌と名声を得た男の孤独を俺たちは知っているのだと視聴者に思わせるカメラアングル。
 朔間先輩はまだ孤独だろうか。俺が埋められるだろうか。
 いちご牛乳をつくって笑っていた姿を思い出すと、胸に熱くて甘いものが広がった。あんな無防備に笑うひとが孤独な訳ない。晃牙は朔間零の孤独を埋め続けている。
 でも、と思うのだ。
 先輩を喘がせることすら出来ないヤツが、朔間零を幸せにできるだろうか?
「…………」
 頭の中でCMがリピート再生されている。妄想の中の先輩が指についたチョコレートを舐めたところで、ふと風が強くなった。みるみるうちに視界が白く染まる。吹雪だ。雪風がマスクで覆った顔の隙間を容赦なく打ち続け、街道はたったの数歩先が雪の中に消えた。
 咄嗟に辺りを見回すと人がいない。雪にやられたとかではなく屋内に退避しただけだろうが、ひとり取り残されると遭難めいてくる。
 おい。おいやべ~ぞ。まだ先輩にチョコ渡してね~のに。
 漫画のキャラなら確実にフラグが立っていた台詞を呟いた瞬間、真っ白な道の左脇に『営業中』の文字が見えた。店のドア。雪の下から明かりが漏れている。なんだかおどろおどろしいが英国風のようにも見える内装がウィンドウ越しに見える。
 晃牙はためらった。漫画じゃね~んだから。そして漫画ならこういうのはトラップだ。カードゲームなら飛び込んだ瞬間特殊効果が発動している。
 だが雪が紙袋を侵食し始めていた。
「うう~……知るかっ」
 やけくそで飛び込む。
 
「――っ、あ?」
 おそるおそる開けた目の前に、どこにでもありそうな雑貨屋が広がっていた。
「は? へ……?」
 晃牙は店内をせわしなく見渡した。明るくポップな照明の下に、ちょっと懐かしい小物や安いアクセサリーみたいな、女子の喜びそうな雑貨がカントリー風の棚に所狭しと並んでいる。いたって普通の雑貨屋だ。手作りっぽいコウモリのピアスやキツネのキーリングなんかもあって、ファッションビルの1階に入ってそうな感じがそれっぽい。
 棚をつけた壁にコーギーの形の時計がかかっている。晃牙がつい近寄って見ようとすると、紙袋が何かに当たった。我に返ってそちらを見下ろす。
「……やっぱ怪しい店じゃね~か」
 媚薬入りチョコ。
「天然成分由来なので怪しくないですよ」
「うおっ!?」
 振り返った先に店員がいた。
「媚薬というと怪しい感じがしますよね。いちおう空想上の媚薬を自然の素材で科学的に調合しようというコンセプトなんですよ。なので成分も『飲んだらからだがぽかぽかする』からショウガを入れたとか、ありえそうなもので固めてます」
「へ、へ~……でも媚薬なんだろ」
 晃牙のうろんげな目にも店員は慣れたふうで微笑んだ。じっさい慣れているのだろう、見本の箱を開けてみせて説明を続ける。
「はいもうバッチリ。かなり気持ちよくなります。といっても麻薬とか覚せい剤とかみたいな依存性は皆無ですよ。カフェインの方がよっぽど中毒性があります。体にも心にも安全です。それに、」
 甘い香りが鼻をくすぐる。薬品っぽいニオイはしない。良質なカカオの香りに……苺と練乳。
 朔間先輩の好きそうな。
「中はいちご牛乳風味なんですよ」
「へ、へええ~……」
「試食しましたがおいしかったです。って、おいしくなくても言えない身分ですけど」
 あはは、と笑う店員はよく見ると男だ。中性的な雰囲気なのでわからなかったが。
 ――怪しくないですよ。
 いや怪しいだろ。晃牙は心の中でツッコミを入れる。男女の特徴すら薄い店員に外から見たときと違う内装、いきなり吹雪く都心部。媚薬チョコ。大寒波が来ていても異世界への扉は開いてないはずだ。
 でも……かなり気持ちよくなるらしい。
 まさか、喘ぎ声が止まらないくらい?
「……」
「ゆっくり見て行ってください~」
「……あの」
「はい?」
 
 
 ☆ ☆ ☆
 
 
「嫌じゃな」
 夜の空気にココアの香りの溶ける寝室で切りだした晃牙に、朔間先輩は取り付く島もなかった。
「毒味したけど普通に安全ぽかったぜ!?」
「毒味するほど我輩に食べさせたいのじゃな、体を張るところは立派だと思うがそうではない、そうではなく……とにかく我輩は結構じゃ。おぬしが残りも食べるがよかろう」
 3つ残った媚薬チョコを箱ごと晃牙に返してベッドから下りる。
 正座中の晃牙は出遅れた。だって良いぞ以外の返事をもらうとは思わなかったからだ。いつも先輩は『良かろう』『仕方ないのう』『これきりじゃよ』で晃牙の無茶を通してくれた。だから今回も媚薬でトロトロになっても構わぬぞと言われてトロトロになってくれるはずなのに。
「すげ~気持ちよかったぜ? 先輩?」
「それはよかったのう」
 寝室のドア前で追いつく。今日に限って朔間先輩の表情が硬い。怒ったような顔でドアを開けようとしたから晃牙が咄嗟に肩を掴めば、先輩は恋人を引きずって進んだ。
 暗い廊下を抜けてダイニングに入ると先輩が立ち止まった。レオンが寝床からふたりを見ていた。点けたばかりの白色灯の下でショコラフェス衣装の先輩が仁王立ちしている。数分前まで思い出話に花を咲かせていたというのに、ダークチョコ基調の衣装は甘やかで獰猛なのに、先輩の目は静かに晃牙を見据えている。
 怒ってんのか? 何を?
 媚薬に頼ろうとしたことか、と羞恥心がきた。
「どうして媚薬を飲ませたいのじゃ?」
 追い打ちをかけるように問いかけられる。
「……っ」
「我輩とて人の子じゃ、媚薬のひとつやふたつ効くじゃろう。だがそれで我輩が味をしめたらどうする? まやかしの快楽に囚われ、おぬしとの常のまぐわいを物足りなく感じたら……我輩は満たされなさを未来永劫抱え続ければよいのじゃな?」
「んなわけ、」
「あるじゃろう? 毒味したおぬしが無事で良かった。……おぬしは優しい子だから、危うい真似はせんじゃろう。のう、晃牙?」
 いつの間にか先輩の目尻が優しくなっていた。本当に晃牙を心配していた顔だ。
 やっぱり媚薬なんて得体がしれない。そんな危ないものを俺、大好きな人に飲ませようとしてたのか……。
 晃牙はがくりと肩を落とした。
「……すまんのう。ほれ、閨に戻ろうぞ。おぬしと交わるのが嫌になった訳ではないのじゃよ。いつも気持ち良いから、夜が来るのを待ち遠しく思っておる……」
 先輩の手が晃牙の背中をあやすように撫でる。大人の仕草で、考えの足りない子どもを慰める手つきでぬくもりを与えられたら、子どもじゃない晃牙は反省しつつも不貞腐れる。
 いつもきもちいいんだろ。セックスしたいって思ってくれてるんだろ。
「……じゃあなんで喘がね~んだよう」
 ――その質問に答える前に、先輩の口が塞がった。
 
「うっそだろ……」
 晃牙はファインプレー(?)に愕然とした。
 先輩の口は、薄い唇から真っ赤な舌の覗く口は、チョコで塞がれたのだった。もっと言うなら3つ残った媚薬チョコ、先輩を引き留めようと慌てた晃牙が箱ごと持ってきて、仕方ね~から冷蔵庫に入れとくかとキッチンに向かう途中で朔間先輩とぶつかって飛び出したチョコ。
 慌てる先輩の口に、漫画のように放物線を描いて入った。
「せっ、先輩……!」
 晃牙が見ている前で先輩の喉が動いた。噛み砕いたチョコが食道を通る。胃に落ちる。効果は嚥下30秒後の即効性だと毒味済みの晃牙は知っている。中の媚薬が甘くておいしいことも。チョコの中からとろりと零れたソースが舌に絡んで、苺の酸味とミルクのコクで味覚を愛撫しながら、まずは口内の性感を高めることも。
「……っ、ふ……」
「先輩ワリィ、水! 水飲んで薄めろ! あぁ牛乳の方がいいか!? せんぱ――」
 紅い舌が踊っていた。
 先輩の唇が晃牙の唇に襲い掛かった。しゃぶりつかれた。奪うように吸われて歯を立てられる。柔い肉を硬くしこらせ歯列を突かれ、晃牙のうめき声すら舌で絡め取られる。媚薬が舌移しで晃牙の口腔を侵す。
「ぁ、んぐ、っ!?」
「はっ、あぁ……んんぅ……っ」
 喘ぎ声。
 先輩の手が晃牙の後頭部をぐいと掴んだ。吸血鬼の力で押さえつけられて逃げられない。舌の付け根までねぶられ吸われ噛み付かれる。息継ぎに唇を離す間も与えぬその動きが、喘ぎ声を殺すためだと気づいた瞬間交わした視線の甘さに晃牙は背筋を震わせた。
 強引に体を離す。
「っ……なんじゃ、っは、ぁ……っ」
 先輩が肩で息をしている。頬は薔薇色に染まり、眇めた瞳は怪しい光を湛えている。乱れた襟元の鎖骨に色香が漂う。吸血鬼の剥き出しの本能。媚薬が間違いなく効いている。
「……寝室、行けよ」
「あぁ、夜伽の時間じゃな……っん、はぁ、偶然かどうかはわからぬが、おぬしの媚薬はよく効くようじゃ。これなら……くく、灰と化しても忘れられぬ一夜を過ごせるじゃろう……っ」
「ちげ~よ。俺様はここで寝るから、あんたはベッド使えよ。一緒に寝たら我慢できね~んだよ」
 紅い目がまん丸になる。
「んだよ、忘れられなくなるんだろ? 媚薬なんざに頼った夜があんたの体に一生刻み付けられるんだろ? 俺様が頑張った訳でもね~のに、あんたの一番になるのは媚薬じゃなくて俺なのに。そんなの卑怯じゃね~か。たしかに俺、実力不足で気が急いてたけど……偽物の一番になるのはなんかちげ~し……」
「…………」
「つ~か! やっぱ喘ぐの我慢してたんじゃね~か! なんでだよ! 俺様が喘いだら嬉しそうにする癖によう!? 俺の聴くのは良くて自分のは良くね~のかよっ」
「……恥ずかしいんじゃもん」
 今度は晃牙が目を丸くする番だった。
「はあ!? 俺様だって――」
「我輩、年上じゃもん。大人の男だから喘ぐと恥ずかしいんじゃもん。先輩は大人じゃもん」
 晃牙は頭を抱えた。
「……子どものくせに」
「どこが……って晃牙? 何を――これ! 危ないと言っておるじゃろう!?」
 先輩の目の前でしゃがむ。床に落ちたチョコを拾うために。2個あるから媚薬効果も2倍だと思う。
 自分は大人なんだと言って唇を尖らせた先輩がかわいいからこうするのだと晃牙は思った。かわいくて、かっこいい衣装に悔しそうな涙目が愛おしくて敵わないから。朔間先輩はずるい。いつも大人ぶるのがうまいくせに、ちょっとつつかれると子どもになる。
 ちょっとじゃないかもしれない。俺が狼だから、きつめに噛んだから朔間先輩も吸血鬼の本性を見せてくれたのかも。いちご練乳ソースを隠したボンボンショコラみたいに。噛み砕いた瞬間瞬間外側の割れる音がするチョコ。
 苺と練乳の甘ったるい味が溢れて舌の上から垂れ落ちる。
 いちど歯を立てたらもう零れるだけだ。
「これで俺様も喘ぎまくるし、先輩の声聞いてる余裕とかね~と思う。だからいいだろ? あんたも『忘れられない夜』に興味深々だろ。危ない地獄はふたりで落ちようぜ」
「ば、馬鹿者……っ」
 吐息で笑う晃牙に先輩が唸った。先輩も興奮してる。俺があんたと同じくらい気持ちよくなってるって、このあとすごいことになるって期待してる。子どものままの好奇心が朔間先輩を昂ぶらせてる。
 期待に応えるのが大神晃牙だ。
 
 
 シーツにうつ伏せに押し付けた。ジャケットの下で先輩の背中が波打った。胸が擦れただけで感じている。まるで淫魔だと笑う晃牙の股間に先輩が尻を擦りつけた。
「はやく来い……っ!」
 振り返って睨む目尻が艶めかしく紅い。キスもしないで張り詰めさせた晃牙に先輩は何を感じただろう。先輩の羞恥を煽るつもりで尻だけ剥き出しにしてやると、尻たぶのあわいで蕾が熟れて蕩けている。そっか、ここも期待してんのか。
 ゴムを着けた先端を宛がう。
「……っぁ、」
 先輩の声がとける。
「すげ~声……なんで我慢してたんだよ、腰にくるじゃね~か」
「っ知らぬ、今のは我輩の声ではない、誰か違う人のじゃ! そんな…………あ、ぁ、あぁ……はいって……っ」
 反らせた喉から甘い声がこぼれた。甘い。甘すぎて、これじゃ先輩が隠したくなると思える声。
 晃牙の喉もしぜんと震えた。
「ははっ……なんだよ、全部あんたの声じゃね~か! すげ~可愛い。めちゃくちゃ可愛い。でもこればっかりはしゃ~ね~よな、あんたのかっこいいイメージと違いすぎるもんな。でも俺は大好きだぜ。先輩が全身で感じてるってわかるから。気持ちいいんだよな? 気持ちよくて、チョコレートみて~に甘くなるんだよな? なぁもっと聞かせろよ可愛い声、どうせ俺様しか聞かね~んだから――ひっ!?」
「先輩舐めんじゃね~ぞ……っ!」
 ――やべ、声聞かない約束わすれてた!
 あわてて腰を引いたが遅い。常時火事場の腕力でベッドに押し倒され、マウントを奪られて肉厚の尻に急所を喰われた。
 蕩けた肉が晃牙をずぶずぶと飲み込んでいく。
「あっぁ、~~っ!」
 熱い粘膜が晃牙を閉じこめる。容赦ない攻めに晃牙の喉から細い悲鳴が上がった。
 先輩の中は独占欲の塊だった。最初から晃牙を締め上げ、ひだを掻き分けられれば歓喜に震えて熱く縋りつく。根元まで銜え込んだ後は晃牙のカタチにぴったり包み込んで離さない。
 咄嗟に口を覆った両手は頭の上でシーツに縫い付けられ、見上げた先には獰猛な笑顔の先輩がいた。吸血鬼の顔だ。薔薇色の頬に不敵な形の眉、紅い瞳と白い吸血歯が満月の夜のように冴えわたっている。
「元・魔王の声を聞くなんざ1億年はえ~んだよ……! おまえの声のがかわいいってこと、耳に叩き込んでやるからな……っくぅ、ん、ククッ!」
 先輩が高らかに叫ぶ途中で喘いだが取り繕った。晃牙を見下ろす瞳は紅蓮に燃えていた。本気モードだ。しかも膝まで脱いだスラックスの他はライブ衣装のまま。太股の付け根の白さが闇の中で眩しい。学院時代の青さが抜けた今、先輩の姿は完全無欠の吸血鬼の妖艶さで世界一美しい。
 股間に血が集まるのを感じていると、先輩が尻を揺すり始めた。
「てめっ!? このっ、あ、くうぅ……っ! ふざけっ、はひぃっ!?」
 晃牙の好きなカリの回りを何度も擦り責められて、亀頭の先がギリギリ窄まりを抜けそうな位置から腰を落とされた。喉を反らせて耐えたあとも緩急つけた動きに翻弄される。
 涙目の晃牙を見下ろす先輩は愉悦の表情を浮かべている。雌獅子のような、晃牙の命ごと精を食らい尽くさんとする表情だ。けれどあえかな声は漏れない。晃牙を鳴かせるのに集中することで喉の奥に閉じこめているようだ。
「ふはははっ、甘め~な晃牙! 今まで伊達に堪えてきてね~んだ、よっ!」
「ア! ぁ、むり、あ゛ッ、いくッ……んんっ!」
 晃牙の若さがすぐに弾ける。膜越しに種をまき散らす。
「はは、あつい……っ❤ もうちょっと保たせろよ、つまんね~なぁ♪ は……んっ、ほら、今度は俺が舐めてやるからさぁ……♪」
 先輩が腰を浮かせて晃牙自身を解放した。甲斐甲斐しく、使用済みのゴムまで結んでゴミ箱に捨てに行く。晃牙を逆レイプできて機嫌が直ったらしい。
 戻ってきた先輩は抵抗ひとつせずに押し倒された。年下の後輩に花を持たせた形だ。
 シーツの海に闇色の髪を散らし、はだけた胸元に玉の汗が浮かんでいる。唇は血の赤。血管のあわく透けた目蓋を気だるげに伏せると、梅雨の華に似た色香が晃牙の目を惹いた。
 そのまま見つめていたら、無防備な視線を向けられる。
「……んだよ、もう疲れたのか? それとも普段の口調の方がい~のか……良いかえ? おぬしも物好きじゃのう……?」
 そうは言いつつ、先輩も口調を忘れて楽しんだことを恥じらっているようだった。
 視線を宙に彷徨わせ、ふと引き寄せられたものに目を見張る。
「な、なんじゃその大きさは……!? これわんこ、おぬしもう2、3回抜いた方が良いのではないかっ? 我輩そんなっ……そんな硬そうなので貫かれたら……っ」
「はあ? んなことしたら疲れるだろ~がよう? さっきの時間は溜めてたんだよ。無駄撃ちはしね~のが男の基本だよなっ♪ あと、コントロールも必要だよなぁ? 何されても感じる1発目より、ある程度毒が抜けて体の自由も利きだす2発目3発目で最奥まで仕留める……『仕留め』られてくれるよなぁ、朔間先輩よぉぉぉ?」
「ひっ……あ、まっ待て、まって、ぁあ――」
 年下だ子どもだと舐めていた恋人に大股開きを強いられた先輩は、憐れにも顔を引きつらせた。下目蓋いっぱいに涙がたまっている。
 けれど晃牙は容赦しない。涙は喜んでも出るものだ。だから細腰を手で押さえつけると、昂ぶりを宛がうや否や躊躇いなく貫いた。
「~~~~ッッッ」
 先輩の体が痙攣した。精液がダークチョコの衣装にまばらに散る。雪の解け始めた石畳に似たそれに、晃牙は気を良くして腰を振る。
「あっ……❤」
 雄の先がしこりを突き上げた。他よりも硬いのに突かれると柔らかくほどけてしまうスポットだ。亀頭とキスしたしこりに妬いた内壁が、晃牙をきゅうきゅう締め付けてキスの雨をねだる。晃牙はひとつひとつに応えてやる。ついばむようなキスから粘膜を擦り合わせるディープキスまで、寂しくないよう色々愛してやる。
 イッたばかりで敏感な体を拓かれ続けた先輩はとっくに蕩けた顔でキスを追っている。
「ぁっ❤ あ❤ あぁ❤ あ~~っ❤」
「ははっ、こうすりゃ良かったんだな! 今まで朔間先輩と一緒にイってたけど、んっ、もっと保てば先輩を泣かせられるっ! ぐずぐずトロトロになって、訳わかんね~くらい喘がせられるっ! 先輩っ、恥ずかしいっつってたよなっ、そこまでトんだら羞恥心とか感じね~だろっ?」
 先輩は答えない。砂糖菓子のような声を晃牙の鼓膜に沁み込ませながら、晃牙に最奥をめちゃくちゃに愛されている。
「俺がもっとテクニック上げるからさ、媚薬なくても感じさせるからっ! 先輩? ――あ。そっか、こっちもキスしね~とっ?」
 晃牙は先輩の唇に顔を寄せた。近づいて聞いても甘い。脳髄まで蕩けそうな声に、雄としての征服欲を満たされる。
「んっ❤ んんぅ❤ んちゅ❤ ちゅうぅ……はぁっ❤」
「なぁ先輩っ、特訓付き合ってくれよっ!」
 先輩の瞳が夢から覚めて、晃牙を認めた瞬間突き上げられて涙をこぼした。舌で舐めとってやればそれも刺激になるのか甘く喘ぐ。
「あっ❤ や、やじゃぁっ❤ ひとりでっ❤ しておくれぇっ❤ ――ああああ❤」
「ひとりじゃできね~だろ♪ くははは……♪」
 晃牙のひと突きで先輩のシャツの裾がめくれ上がった。先輩の先走りでぐっしょり湿って重いはずだった。ちょうどいいなと胸までたくし上げると、覗いた突起に舌を這わせる。吸い付く。甘い。色と同じラズベリー味をしていて、朔間先輩の乳首がラズベリーのはずがないので先輩がローションか何かを塗っていたのだと気付いた。
 すげ~セックス楽しみにしてんじゃね~か。
 がんばらね~と、と晃牙は思う。頑張って先輩の孤独を埋めね~と。でも先輩って孤独なのか? 俺が勝手に喘ぎ声と幸せを結び付けてるだけじゃね~か? 先輩いつも楽しそうだし、隠居老人ぶらなくなったし、昔の口調もたまに出るし。
 まぁ、いっか。――先輩も俺も気持ちいいんだから。
「あ~っ❤ ぁ❤ この❤ こうがぁっ❤ おぼえてろよぉ❤ ぜったい❤ はあぁっ❤ なかすうぅ❤」
「んくっ、はぁっ、泣かせてみろよっ! 俺もっ、泣かすからな……っ!」
「あっあ❤ ん❤ んんぅっ❤」
 キスしたまま最奥を細かく捏ねる。先輩の中がますます狭くなった。あつい。押し付けるたびに先輩の尻の弾力を楽しむ腰を、先輩が踵でへろへろと蹴る。イきそうなのか。唾液がふたりの舌の間で糸を引いている。
 俺も。一緒にイきたい。
「あっあ、あ❤、あぁぁあぁっ❤❤」
 先輩が先に果てた。
「せんぱい……っ!」
 晃牙は目の前の喉笛に噛み付くと、雄の証をいつまでも最奥に注ぎ続けた……。
 
 
 ☆ ☆ ☆ 
 
 
 ――なんじゃと!? もう一度言ってみよ!
 ――なっ……おぬし、おぬし本気で……!
 
「……なんだ?」
 晃牙が恋人の声に目を覚ますと、部屋は透明な水色に染まっていた。
 すがすがしい空気と淡い光。朝だ。どうやらあのまま寝てしまったらしい。晃牙の体は朔間先輩の分のベッドに移されていて、晃牙のベッドにはしわくちゃのシーツだけが残されていた。ショコラフェス衣装は床に脱ぎ散らかっている。寝起きの朔間先輩がここで脱いで浴室に向かったのだろう。
 それにしては声が近いと廊下を覗けば、バスローブ姿の先輩がドアの横にいた。
「あっ、お、おはよう晃牙?」
「誰と話してんだ。なんか本気かとかもう一度言えとか叫んでたけど……朝早くから事務所でトラブルか?」
「いや、朝早いのは渉くんが海の向こうにいるから」
 あ、と白い手が口を覆った。
「――おい変態仮面! テメ~また朔間先輩になんかしたんじゃね~だろな? 今度という今度は俺様が許さね~からな!」
「あああ……」
『いやはやご冗談を……Amazing!な体験しか差し上げておりませんよ? 貴方も昨夜体験したばかりでしょう?』
「はっ?」
『おやぁ……もしかしてご存知ないのですか? 魔王を騙せば忠犬の貴方もチョロ……おっと失礼、信じさせてしまえるものですねぇ? 不自然な匂いしかさせていなかったはずですが……☆』
「な、なんだよそれっ? 騙すって何をだよ? あ! あの店テメ~の差し金か!? 媚薬なんざ売りつけやがって! この――」
『ほんとに媚薬だとお思いですか?』
 
 
「…………」
「…………」
「…………なあ」
「まて、何も言うでない。おぬしと我輩は以心伝心じゃ。おぬしの心はよぅくわかっておるぞ。ゆえにおぬしには猿轡をせねばならぬ。手足も縛らねばな。幸い今日は我輩も1日オフじゃ。各自思い思いの休日を過ごそうぞ。おぬしはこの家にいて、我輩は1日かけて買い物にでも……晃牙?」
 晃牙はダイニングに行って箱を取って戻ってきた。
 きのう普通に渡した方のバレンタインチョコだ。ハート型、ラズベリーのコンフィチュール入り。先輩は食後にひとつだけ食べて、『あと1週間も楽しめるのう♪』とご機嫌だった。
「あと7回楽しめるな」
「…………」
「なあ? 『特訓』しようぜ?」
 
 悲鳴が響いたのは言うまでもない。
 

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