甘噛みNo.わん!
タヌキことパス子さんがーーーーーークリスマスイブ前夜に寂しいって零したわたしにーーーーーーー素敵なイラストくれたのでーーーーーーーーーーーーー書くしかなかった
メリ~クリスマス晃零!(二度目)
※
「晃牙、晃牙……おぬしの家に着いたぞい」
「……ふにゃ……」
零が背中に声を掛けると、晃牙はむずかるように返事した。
返事だろうか? ふにゃ(おう)とも取れるしふにゃ(あ?)とも取れる。
だから同じ言葉を繰り返せば、
「わん……」
と言われて背中から降りられた。
「…………」
「えぇと、晃牙……起きてるかえ?」
「…………わう」
駄目じゃ、半分寝ておる。
クリスマス。の、次の日。
【スタフェス】の翌日は冬休みだから、と誘われて、零は朝から晃牙と遊びに出たのだった。
もちろんデートではないと言われている。男同士でデートも何もないじゃろう、と返せば晃牙は怒った顔で、映画館に入っていった。晃牙がチョイ役で出た映画を観た。
映画。ランチ。楽器屋。レコード屋。展望台で話し込んで、行きつけの喫茶店に場所を変えてもけっこう粘った。それこそ窓の外が暗くなるまで。
晃牙がコーヒーのお代わりを飲み干した頃、零はいちごパフェの底のフレークを潰しながら、これってデートじゃないかのう、と気づいた。
そうしてそれを言い出せないまま、なんだか晃牙を見つめたくって顔を上げると、月光色の頭が船をこっくりこいでいたのだ。
【スタフェス】で頑張りすぎて、疲れが取れていないらしい。
雪がしんしんと降っている。
きのうより穏やかな雪景色。さらに言うなら、去年の【スタフェス】なんかが嘘のような静けさ。
あのころ吸血鬼ヤロ~だった零の肩に、晃牙の額が乗っている。夢うつつでも、凭れかかってくれている。不思議なことだ。
不思議で……あったかい。
「う、う~む、このまま放っておいたら凍死しそうじゃのう? わんこ~? お~い?」
肩のぬくもりを紛らわすように、零は晃牙の頭を撫でた。晃牙はわんこだ。わんこなら、撫でたこの手を振り払うはず。タコスとか言って。
「あう」
擦り寄られた。
「ん~……」
「こ、これ! わんこ、我輩、」
ゆで蛸みたいに顔を熱くしながらジタバタすると、わんこの腕が背中に回った。息が止まって、心臓がドキドキした。胸板が意外とたくましいと知ってしまった。腕は元から力強いけど、零の体をぎゅ~っと抱き締めている。
「はうう、駄目じゃ、離しておくれ、我輩おぬしのママじゃないぞい?」
「くぅん……」
「あ……っ、首はもっと駄目じゃ、くすぐったい……っ」
首筋に頭を擦りつけられながら、そうじゃ、とひらめいた。わんこだからママのぬくもりが恋しいんじゃな? 別に我輩個人に抱き付きたいとかじゃないんじゃな?
なるほどじゃな。何がなるほどなんだと思い直したが、なぜか胸が痛くなった。混乱している。きゅ~んと痛いのじゃ。ママなのに。
「我輩ママかえ?」
「わう……」
「…………うぅ」
ママなんじゃな……。
晃牙の腕に力がこもった。どう見ても母親に抱き付く子どもだった。
……でも、零は好きにさせた。
「まあ……いいか」
ぬくもりを探してすりすりされたら、晃牙が凍死するよりいいかと思えてきたのだった。
その代わり、と零も晃牙の肩に顔をうずめる。
「子守歌の代わりに、ママの懺悔も聞いておくれ?」
夜闇に雪が舞い落ちるのをぼんやり眺めて、息を吸い込む。晃牙の匂いがする。出会ってからずっと、苦しい時も楽しい時も、ずっと傍にいてくれた匂い。零の恋しい匂いがする。
「……デートでもいいと、思ったんじゃよ」
デートする仲でも。
零の震える唇は、一度こぼしてしまうと止まらなかった。ママがこんなことではいかんのう、と思いながら、言ってしまうなら今しかないと感じていた。
だって懺悔だから。罪を告白して、赦しを乞うときだから。
「晃牙が【スターライトフェス】に出て……頑張って、予選を首位で通過したとき、我輩、晃牙のことすごいと思ったのじゃ。1年前はあんなに子どもだったおぬしが……アドニスくんとたったふたりで、予選とはいえ夢ノ咲の1位に輝いたんじゃから。すごくて、誇らしくて、それで十分だと思ったんじゃよ。『俺様たちが芸能界入りする前にでっけ~手土産こさえてやる!』って予選の最初に言っておった、その手土産……でっかいじゃろ? なのにおぬしら、……ふふっ……あぁ愉快じゃのう、本戦も! 1位をとりおった! 1位じゃよ? 前回1位のTrickstarにも勝ったんじゃよ? 身内贔屓はしておらぬつもりじゃけれど、単純に言って4対2……ここ一番がなければ難しいじゃろう? しかし、ここ一番も二番もあったのう! 舞台の端から端まで我が物顔で走り回って、客席の最後列まで虜にしおった! 関係者席から見ていても皆がおぬしらに夢中になるのがよぉくわかったぞい。Trickstarに魂を抜かれたおなごですらおぬしのサインに度肝を抜いておったのう? 両手を“がお~!”の形にして、見る者すべて噛み付いてしまう……立派な狼になったんじゃな? 最後にわんぱくにも我輩に噛み付きおったから、ククッ、噛みつき返してやったがのう?」
そこで零は言葉を切り、視線を落とす。
頬が上気していた。昨日の会場の興奮を思い出したのではなく、たったいま胸の内から湧き出る想い……晃牙への恋慕が、肌を火照らせる。
「でも……1位だけじゃ足りなかったのじゃ。朝からおぬしに導かれ、街中を歩き回る間……おぬしはずっと我輩を見ておったじゃろう? 我輩の方しか目に入らないとでも言いたげに……。……我輩、わんこの飼い主だからと思っておった。飼い主だから、焦がれて想われる……幸せなことじゃのう? 飼い主冥利に尽きるのう? 映画を観ていても、楽器を試しに弾いて見せても、お茶をしていても……おぬしに見つめられて、天にも昇る心地じゃった。かわいいわんこに慕われる以上の気持ちだったんじゃよ。そして……今日のことが、デートではないかと気づいたとき……おぬしも我輩と同じ気持ちなのだと確信したのじゃよ。……つまり……その、……あぁ、駄目じゃ、本当に背徳じゃ…………恋い焦がれられている、と……我輩が晃牙に恋い焦がれるように、おぬしに恋しく思われていると思ったのじゃよ……。
…………ふふっ……我輩、ママだったんじゃなぁ。ママなら、恋愛対象にはなりえないのう? 勘違いしてしまったぞい……すまんのう、わんこ。ごめん、馬鹿なママでごめんな、晃牙――」
そのとき……、零は子犬の勇気を見た。
ちっちゃい体に見合わぬ勇気……子犬があたためてきた、わんぱく心。
晃牙の腕がそっと外れて、零の体をやさしく押した。
背中にふわりと大気を感じる中、零の両目に晃牙が映った。
真面目な顔つき、赤い頬、あどけないのに大人びた顔。
“がお~!”の両手で肩を抱かれた。高鳴る胸にはたくましい胸が触れ合った。
あ……、と口を開いて、晃牙、と言おうとしたら……。
甘く、噛み付かれたのだった。

「……………………ママじゃね~よ」
永遠にも感じられる時間が経って、たぬき寝入りの子犬が言った。
「オフクロだったら、恋愛できね~だろ」
「……そうかのう?」
「そ~だよ!」
フンッ、と鼻を鳴らして近づいてくる。
零が後ずさると大股歩きになった。こわい。オオカミに喰われたおばあさんって、こんな気持ちだったんじゃのう?
ヘンなことを考えているうちに晃牙は零に手を伸ばし、今度もきつく抱き締めた。それしかやり方を知らないみたいに、ぎゅ~っと零に胸を押し付けてくる。
あ、と思った。心臓、ドキドキしてる。晃牙も我輩みたいにドキドキしてる。
「あんたの懺悔、聞いてて胸がきゅ~んってなった。寿命縮んだし、死ぬかと思った。責任とれよ。俺様の恋人になって、ずっと俺様に恋い焦がれろよ」
「『ずっと』って、どのくらいじゃ?」
「はっ!? そ、そりゃ、死ぬまでだろ。死ぬまで俺様に恋しとけよ……」
告白が尻すぼみになったので、零は晃牙の肩を叩いた。
顔を上げて、ちょっとだけ体を離される。見つめ合う。蜂蜜色の、らんらんと輝く両目に笑いかける。
「簡単じゃな。我輩、永劫の時を生きる吸血鬼じゃもの♪」
そうして晃牙に噛みつき返すと、子犬は笑ってわん!(好きだぜ!)と吠える。