二回目の味は
これ☆5大神晃牙が開花前ふてくされ中・開花後袴姿で餅つき、☆4朔間零は開花前食事姿・開花後会長Ver.ペアルックで合いの手、☆3鬼龍紅郎と☆3蓮巳敬人は開花前餅つき準備・開花後餅つきのカードになってるスカウト!餅つきだなって思いました(ただし餅つきシーンはない)
タイトルはパス子さんからいただきました! サンキュータッヌ
※
年末の夢ノ咲学院。
グラウンドで餅つきにしか見えないことをしていたので、晃牙は吸血鬼ヤロ~に言われて見に行った。
餅つきだった。
「なにやってんだ」
「見てわからんか馬鹿め。丁度良い、手伝え」
敬人が眼鏡を曇らせながら餅米を臼にあけた。ほかほかの炊き立てをすぐに紅郎がつきはじめる。初めは端の方を静かに細かく。餅米同士をくっつかせて、大きくついても飛び散らないようまとめるのだ。
ふん、ふん、と紅郎が鼻から息を吐いては体を揺する。堂の入ったつき方だ。晃牙が感心していると、「やるか?」と杵を突き出される。
「誰がやるかよ。義理もね~し」
「義理ならこの町の皆さんにあるだろう。いつもここで騒いでご迷惑をおかけしている」
そこで晃牙は周囲を見た。湯気立ち昇る寒空の下、レジャーシートやら折り畳みの椅子やらに座った老若男女(老人多め)が、餅のつき終わるのを今か今かと待ち望んでいる。何やら甘ったるい匂いがすると思えばその横でプロデューサー科唯一の生徒がおしるこの入った大鍋を掻き混ぜていた。桃李も使い捨てのお椀を並べてふんぞり返っている。どうやら生徒会が町内会の餅つき大会を代行しているらしい。生徒会といっても真緒はSSの準備でいないし英智はどこかで養生しているだろう。非力な桃李もはなから戦力外だから、つき手はヘルプの紅郎1人ということになる。
「……今日は練習に来たんだよ。年明けのドリフェスの」
「では貴様のところのリーダーに猫の手ならぬ犬の手を貸せるか聞いてやる。……もしもし」
すぐに電話を切った敬人は、手を洗いに水場に行った。入れ違いに零が来る。ふらついている。
「ふわぁぁ……我輩の助力が必要なようじゃのう?」
「テメ~は引っ込んでろよ。動けんなら練習するし、動けね~なら寝とけよ。朝だろ~が」
「久しいのう、鬼龍くん。おぬしも難儀なことじゃな」
素早いリズムで餅米を慣らしながら、鬼龍は口の端の笑みひとつで応えた。汗ひとつかいていない。ムッとした晃牙を見やることもなく、淡々と、
「ある意味稽古みたいなモンだ」
「それもそうかのう。しかしおぬしが休む間に餅米が冷える……ご老人の体にも障るじゃろうし、我輩もちっとは手伝うかのう~?」
「頼まれてくれるか。ワリィな」
「なんのなんの、困ったときはお互い様じゃよ……♪」
「うが~~!」
俺様がやってやる!
苦笑する紅郎と零に見守られながら、晃牙は杵をぶんどった。
☆ ☆ ☆
「うがぁぁ……なんでこんなに消耗すんだよぉぉ……」
晃牙は配膳の机に倒れ伏した。けっきょく1人で1回分をつき終えたので、体中くたくただった。自分のペースでつくな合いの手を入れさせろと敬人に何度も言われたのもある。杵はつくのも持つのも、持ち上げ続けるのも大変だ。
「う~む、見事なつきっぷりじゃったが……餅とは思えぬ弾力じゃな。軍鶏のごとく引き締まっておる」
早速おしるこを貰った零が餅を噛みしめながら言う。噛みしめているのだ。ぶちんっ、と前歯で噛みちぎり、もっちもっちと咀嚼する。
「喉を詰めるといかんから、次の分はやわこくしておくれ。できるかのう、鬼龍くん?」
「あぁ。つき方の問題だな、そりゃ」
「う~~……ムカつくぜ……」
難題をさらりと快諾されたのも悔しい。紅郎と敬人が次の餅をつき始めたが、晃牙は無視を決め込むことにした。勝負は3枚目ということにして、軍鶏餅の行方を目で追う。
町内会の老人たちは、丸めておいて焼き餅にしよう、いや鏡餅だと盛り上がっている。お飾りにしたら真剣でも斬れなさそうだ。両手に餅とり粉をつけて、小さい子どもがままごとみたいに丸めている。冬の早朝の屋外なのに楽しそうだ。赤い頬が餅の白に映えた。
去年も見た光景だな、と思った。だから不貞腐れていると、頭に大きな手が乗った。
「……撫でんじゃね~よ」
見上げるまでもなく零の手だった。ふわふわと、犬猫をかわいがる手つきで頭頂を撫でる。あまりに頼りないのは本調子でない証だった。それでも慈しむのをやめないので、払い落す気力も湧いてこない。
「いいこ、いいこじゃ♪ 敵であった生徒会の催し物を、人手不足だからと全力で手伝う……好青年の見本のようじゃな♪ 我輩に似ず良い子に育ったのう~?」
「…………」
晃牙は目を細めた。
――良い子に育つに決まってんだろ。あんたに似るように育ったんだから。
そう言いたいのを胸に留めた。代わりに自分の腕に顎を乗せて、餅とり粉が宙に舞うのをじっと見つめる。
粉雪みたいに輝いていた。雲の切れ間から朝日が差し、両手のあいだに解けない雪を降らせていた。白い吐息がたなびいて消えた。冷えて密度の高い大気に笑い声が満ちている。何も知らない、吸血鬼ヤロ~の善意だけを受けたヤツらの。
白く湿った団らんの中、去年は……吸血鬼ヤロ~だけが餅をついていた。
「朔間さん、すまないが交代してくれ。眼鏡に曇り止めをつけ直したい」
頭の上から消えた重みを引き留めるように振り返る。そんな自分をすぐに恥じた晃牙に、零はいつもの笑みを残して去った。
晃牙と敬人が残される。
「……すまんな」
「何が」
敬人の躊躇う吐息が白く立ちのぼる。
「生徒会に関わりのない貴様らを、助っ人として呼んだことだ」
「同じレベルにゃ落ちたくね~からな。名ばかり会長が生徒の印象改善を考えて、ぺったんぺったん餅つきするのを『無認可だ』っつって無視するようなあんたらとはよ」
「…………」
「まあ、テメ~がハンコを突く前に握り潰されたんだろうがよ……あの人はボロボロでフラフラで、なのに『俺に出来ること、まだあったんだな』って笑ってたんだぜ。好きだったヤツらから裏切られたのも忘れたみて~に……」
零は黒髪を後ろで束ね、手を洗うと紅郎に合いの手を入れ始めた。迷いなく振り下ろされる杵と臼の間、なめらかにたわんだ餅を素早く裏返す。ときどき水を差したり紅郎のつきやすいように餅を広げたりする。あちち、と笑った。苦手な水に手を浸して、蒸気に顔を舐められながら、それでも微笑んで。屈託のない、人が増えてよかったと心底思う顔で。
「おぉ~い、わんこ~♪ おぬしも再挑戦せんか~?」
「……おう、今いく」
「急いで食って喉詰めんじゃね~ぞ」
けっきょく晃牙が餅にありつけたのは全部つき終えた後、2皿目を食べる零の隣でおしるこではなくきなこ餅を選択した。甘いのは絶対嫌だと言い張る晃牙にあわてて用意されたから、きなこがまだら模様についていた。
零は飽きることなくおしるこを食べている。割り箸にしっとりつやつやの餅を挟んで、小豆色の海にくぐらせては少しずつ噛みちぎる。
「おぬしと鬼龍くんの力作じゃもの、味わって頂くぞい♪」
「ハンッ、と~ぜんだろ! ……なあ」
「うむ?」
晃牙は口をつぐんだ。言いたいことは、爽やかな冬の朝にふさわしくないように思えた。
「うめ~か?」
「うむ♪」
「そっか」
もう一度、そっか、と呟くと、まだらの餅に噛みついた。