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ただの”死”ではクリステスラが相殺してしまう。ドラディエラは使い手である人間を、その心を砕きにかかった。
具体的な形を持ち、無限の軍団となって襲い掛かる”闇”。
その爪が僅かでもかすれば、ミスラの肉ははじけ、痛みが、精神を蝕む。彼女の趣味ではないが、得意ではある。

直ぐに耐え切れなくなって宝剣をさしだすだろう。魔王には始め楽観的な予測があった。
所詮軟弱な人間が、どうして宝剣などという莫大な力をふるおうというのか

「さすがは…といったところか……」
「ヒヒヒ、メルに焼かれたら回復できないよ。いくら私でも……」

心配ないすぐに終わる。ドラディエラは己にもつぶやいた。だがその時が訪れる気配はなかった。



メルズヘルズの発する光の大砲が、片っ端から闇の群れを払っていく。あいた隙間をまた闇が埋める。闇の肉が、ブクブク膨れる。

ミスラの胸を、何度となく闇の牙が貫いた。噛締めていた奥歯が砕ける。それでも指だけは開かなかった。そうすればクリスが治してくれる、頭蓋を潰されても、直ぐに体勢を整える。

何度目かの光の柱が、勢いを増す闇を消し飛ばした。その光景を術式ディスプレイで捉えていたクロルは叫びだしたい衝動に駆られた。
ミスラは本当に、一人で闇の群れを引き受けているのである。ミスラより下に闇が漏れたことなど、一度もなかった。

”門”の入口は閉じてある。だがあんな得体の知れない魔力の塊を前に、空間的な隔たりがどれだけ役に立つかわからなかった。ミスラは、僅かでも少女達の身を危険にさらすまいと、それだけは絶対にさすまいと、そのためにこの遺跡に蔓延する苦痛の全てを、肩代わりしているのだ。

震えを抑えて小さな軍師は、自らの使命を遂行すべく、作業に戻る。同時に人影に気づいた。

「カリンザさん!!」
「いよう、おチビさん。邪魔するぜ」


こんなことを考えるのもおかしな話だが、クロルが最初に感じたことは、彼女が美しいということだった。
まるで嫁入りを明日に控えた少女のようにたおやかで、これがさっきまで魔王と最前線で戦っていた鬼神とは思えなかった。

肌も黒髪も、風呂上りのようにみずみずしく、力が抜けて、緊張感というものがまったくない。
色っぽいのは、酔っているからだった。

「わりーな、へへ。あっちは人が多すぎてよ」
あっち、とは即ち”門”の中。

「風流とは程遠い酒じゃの」
「まったくだ…」

「モナさん…ティコさん…」

次いでグリオー、エルサ、ザラクにトロピア、ヒスカ、ローキスにヨフネにナキリコ…
なんのことはない、ザクロ団の面々である。全員酒が入っているらしく、チビ達をおいてきたのはそういうわけか。


「危険です皆さん…!戻ってください!!」
「なーにいってんでい、どこもかわんねーだろ、あんなデタラメバケモノ」
「今日という今日は鍛錬の虚しさを思い知ったネ」
カリンザとザラク。

全員思い思いに、足を広げてその辺に座りだす。ミスラが見てないからだろう、所作が雑。
好き勝手なことを口々

「お、今ダメージ与えなかったか?」
「全部同じに見えますけれど…」
「ミスラはん、よー見ると男前やねー」
ローキス、ナキリコ、ヨフネ。


クロルにはよくわからなかった。お酒を飲んでいるということはもう彼女等に戦う意思はないのだろう。それは諦めか、ミスラへの信頼か。

どちらにしても彼女たちは、ミスラに全てを預けることに決めたのだ。
滅びるにせよ生き延びるにせよ、ミスラと共に。


「信頼…するには頼りないなあ…」
「なー」
エルサ、ヒスカ。

口々に、ミスラのあれがダメこれがダメ、いうのだが、その顔はいかにも楽しそうで、涙すら流す者がいる。
クロルにはよくわからなかった。彼女達にも、それは分かっていないのではないか。

「でも成長したな、ミスラ君は」

グリオーが、肯定的な意見をだしたのだが、周囲から壮絶なツッコミを受けた。ちなみにこの空間魔術師、被ってる帽子についている眼で、普通に外界を捉えているらしい。

次第に誰も口を開かなくなった。
ただ静かに、ミスラの戦いを見守るようになった。



ミスラが吹き飛ばされるまでの感覚が、徐々に長くなっていた。
闇の群れの動きが大雑把になり、なるほど攻撃力は高いのだろうが、メルズヘルズのいい的だ。

「おっ、おっ、でたぞ」

それまで安全圏からミスラをいたぶっていた魔神が、直接その手を下した。
闇の中から現れる美しい褐色の魔神。

その一撃は強烈で、宝剣による2重のガードを突き破ってミスラの血と肉と臓器を蒸発させた。闇の圧力が、祭壇の塔を縦に引き裂くようにミスラを押しつぶし、そのまま、幾重にも及ぶ地層と魔力隔壁を貫いた。

もしもあの身体にメルズヘルズの力をぶち当てることができたのなら

今一度。

今度こそ。



「あ、やべ、巻き込まれるぞ」

ミスラが下層へと落下していく。闇がそれを追って遺跡を覆う。クロル並びにザクロ団のいるスペースはとっぷりと闇に浸かることになるだろう。
だが特に変化はなかった。

「敵も…ワシ等を撫でる余力すら惜しいと見える」

全ての闇が、針先のように凝縮されて、ただミスラのみを追っていた。


・・・・・・。


みすらくーん――
ふふふ、ミスラ様ー――
み・す・ら、ってばー……――

ふにん
もにん。
むにもん。


「わあああああああああ!!!ゲホ…うげ…」

見かけた夢を振り切って、飛び起きるようにミスラは目覚めた。寝ているヒマなんてないしそれがエロかったなんてこの期に及んで嫌過ぎる。

「ふぅ…だが現実の方がよっぽどやわらかいし…」
「あん?もっかい脳みそ洗うか?」
「おぐっ…!!」

人間形態のメルズヘルズが、死に切れないゴキブリを見る眼でちんこを踏んづけた。

悶絶するミスラ。吹き飛ばされた頭は治してくれるのに、こういう痛みは見てみぬフリなクリス。
夢の内容がばれているのだろう。あるじなんてもう知らないみたいな顔を前面に押しだしてむくれている。

「すぐにヤツがくるぞ、動け豚」

言い終わらぬうちに。

闇の尖兵がポツポツと地面を濡らし、瞬く間に越え太った魔獣と化した。
ミスラ気合一喝、攻撃だとばかりにメルズヘルズに手を伸ばすも

「違う走れ!!逃げるんだよ!!」
「うえ?…な…お、おい!!」

こけつまろびつ、ひっぱられるままついていく。
クリスが例えでなく実際にこけて、闇に飲まれる寸前を、腰を抱いて引き上げる。

「お、おいメル!!どうしたんだよって…おい!!」
「タネ切れだよタネ切れ!!走れ走れ!!」

僅かな下り坂。流れていく背景に、意思とは無関係に脚が進む。

空転。

すっころびかけ、わきに抱いたクリスを思って体勢を立て直す。闇はもううなじを焼くところまで近づいて、チリチリとミスラをくすぐる。
黒い塊にほほを撫でられた時、ミスラは宙に跳んだ。


「だぁぁああああああああああああ!!!!」


ぼっすーん、と。白い粉の山に頭から落下。そんなミスラを、図ったようにクリスとメルの尻が押しつぶす。
なんだろうか、こういうときの痛みは戦闘中に受ける傷よりよっぽど痛くて情けないのだ。


「あ…あるじ…大丈夫?」
「クリス…尻、尻…」

ぴょこりとクリスがのいて、ミスラはそこが光に満ちていることに気づいた。

「ここは……」
「ここなら少しは持つ…1分か2分か……」


覚えがある場所だった。

白い、白い、巨大な塔。戦艦具足虫の、死骸の支柱。
そこはミスラが、この遺跡にきて最初にたどり着いた場所。

振り仰ぐと、砂漠の主は白く白く発光している。クリスの発する光に似ていたが、上空ではそれを侵食せんと闇がくすぶっている。
長くはないと見えた。メルズヘルズを見る



「そんで…?なんで逃げたのさ、タネ切れってなんだよ…」
「バカタレ、タネ切れはタネ切れ、これっぽっちも力がねぇってことだよ、見ろ」

いわれて気づいた。視線の先のクリスはへたりと地面に座り込んで、生まれたばかりのシマウマみたいに震えていた。

「クリス…」
「オメーは使い切っちまったんだよ、クリスに蓄えられた7000年分の魔力を……クソッ、向こうはたかだか一晩分かそこらの力なのによ」
「そ、それじゃあ…」
「祈るか?諦めるか?まだやるならクリスにいえ」
「え……?」
「手はある。だからここにきた」


「やだ」


クリスがさえぎった。

宝剣少女は生まれたままの姿で、足を震わせながら立ち上がる。
声が空洞に響いた。闇がそれを飲み込んだ。

「どういうことだ?あいつを倒せるのか?クリス!」

クリスはミスラの顔を見ようとしない。メルがいった

「時間がねーからはしょりながら説明するぜ。この砂漠は命が無い、なぜか、全部クリスを造るために使っちまったからだ。7000年間分、この広大な砂漠の全ての命を、過去も未来も」
「え……?」
「契約の執行により、この地で新たに命が芽生えることは無くなった。この地は死の砂漠に覆われた。ただし例外が一つ。それがこいつらだ」

メルズヘルズが、光の塔に歩み寄った。気のせいか、光がわずかに瞬く。

「こいつらの始まりは小さな”ケラ”だった。それが突然、未来から強引に生きる力を引っこ抜かれて死ぬしかなかった。だがそうはならなかった。なんでこんなことができるのかわからねーが、こいつらは、アタシ等ですら他の宝剣の力を使わなければ生き延びることのかなわないこの地で、アタシ等と同等の適応を遂げた」

メルズヘルズの手が、死骸の塔に触れる。

「命の報われないこの地で、コイツラだけは違うんだ。塊なんだ、生きる力そのものの。見ろ」

赤髪の少女は、眠りについた死骸の殻を引っぺがす。中から、無数の小さな虫達が飛びだした。
とびあがったのはミスラだけだった。


生態系が成立しているのだと、少女はいう。
この巨大な生命の塊は、死してなお、彼等を糧とする命を育てているのだ。

ミスラはわかってしまった。初めてこの地に訪れた時、クリステスラが涙した理由。

「つまり……」

その先を、ミスラが口にする勇気は無かった。メルズヘルズがその役を引き受けてくれることを期待した。
卑怯だといわれても、その言葉でクリスを傷つけたくは無かった。


「コイツラの生命を使う。コイツラの命を力に変えれば、その一閃であの豚を消し飛ばしてやれる……」


「やだもん!!」


クリスが叫んだ時、異変に気づいたミスラは2人の宝剣を抱きかかえて横さまに跳んだ。

うもーん、と。腹底に響くような唸り声。周囲を包み始めたドラディエラの闇を突き抜けるように、戦艦具足虫が落下してきたのだ。
一匹がそそりたつ城の様に巨大。ミスラは知らなかったが、それはラブラノと共闘し、遺跡の七層ごと魔物の群れを吹き飛ばした戦士のうちの一匹だった。

城はやがて光に包まれ、新たな生命の苗床となるだろう。うもーんうもーんと、声はやがて小さくなる。
それは、安らいだ赤ん坊が寝入る様にも似ていた。

置かれた状況も忘れて、ミスラはただただ感心する。改めて、自らがどれだけちっぽけかを痛感する。
それは生命の圧力。宝剣なんぞ振るいながら魔王なんかを相手にしていると、ついつい忘れてしまう、大事なもの。

そんなことを思っていたら、マユーが降ってきた。


・・・・・・。


「きゃうー!!」
「だああ!!なんだマユー!おま……どっから降ってきた!!」

あっという間にミスラはよだれまみれ、尻の穴のにおいをかぎたおされる。
それをはたから傍観するのは宝剣2人。

「マユー?なんだコイツ?」
「マユーはマユーだよ」

白無垢の少女は、初めて降ってきた時と同じようにすっぱだか。抑えようとして抱きとめるのだが、遊んでもらってると勘違いしてるのか、逆に活き活きする。

「あう?ミスラさんです」

ミスラは眼を疑った。降ってきた具足虫の陰から現れたのは、見習い魔術師ミルケロル。なんで彼女までここにいるのか。

「なにしてんだよミル!!危ないだろ皆と一緒にいろ!!」
「あう、マユちゃんの散歩です」

へきち、と。緊張感の無いくしゃみをする魔法の使えない魔法使い。
この忙しい時にどうしたものか、見れば既にマユーはミスラの腕を脱して走り回る。
なにをするのか。眺めていたら、先ほどメルズヘルズが崩した具足虫の塔の一角、うじゃうじゃと無数の黒虫が群れる穴に、おもむろに手を突っこんだ。

「わああ!!なにしてんだマユー!めっ!こら!」

追いかけるのだが追いつけない。ぴょんぴょんと、それはもうミスラが自身を失くすほどに素早く、軽い、小動物。
たまらずダウンするミスラの鼻先に、「もう終わりなの?もう終わりなの?」みたいな顔がよってきて、捕まえようとする頃にはもういない。

そのまま少女は、悠々とミルケロルの元へ。いや、正解には、先ほど落ちてきた具足虫の元へ。
メルがいぶかしむ。

「なにやってんだアイツ?」
「命のお手伝い……」

マユーが握っていた虫を放す。ほとんどはどこかへいってしまったが、何匹かは新しい具足の元へ留まった。
虫は新天地を見つけたのだ。

「え?……ていうかクリス、マユーのこと前から知ってるの?」
「ちょこっとだけ……」
「”卵”で見たのか」

メルが思わせぶりなことをいった。そういうのが気になるミスラはすぐに突っこむ。
卵ってなんぞ。メルはメルで、虫くらいなら殺せそうな眉間をしながらちゃんと応える。

「アタシらは宝剣になる時、一度世界と一つになるのさ。これから力をお借りしますってな。そこは過去も未来も無い。列車の待合室見たいなもんだ。あたし等はそこを”卵”と呼んでる。宝剣は全員、そこで知り合う」

「マユーは2年前、突然ここで生まれたの。それからずっと、命のお手伝いしてる……」
「オイ、オメーまさか、このガキに気遣ってんのか!?」
「ち……ちがうもん!」

闇が深くなった。命の塊であるこの塔も、その光も、無防備なまま魔王の力を拒み続けるほど強力ではない。

「きゃうー!!」

何事か、マユーが飛んできた。ケンカが始まったと見て興奮しているのか。
その勢いに、さしものメルズヘルズも少しひるむ。この白無垢娘、一応身体だけは育っているのだ、メルよりでかい。

「あぅ、ケンカはやめてっていってます」
これはミル。ここまではミスラも流した。

「いいんですくりすさん。もともとけいやくにそむいているのはわれわれなのですからっていってます」
「きゃうー!!」
あわせてマユーが、ブンブンと首を縦に振る。


ぎょっとなった。


「われわれはずっとわからなかったです。なぜわれわれだけが生きなければならなかった、なぜ地獄のなかでわれわれは生まれた……」

「まて、まてまてミル…ミルって!!」
「あぅ?なんですかミスラさん」
「なんでってミル…お前、マユーがなにいってるかわかるの?」

「あう?なんでわからないですか?」

これではどこから驚いていいかわからない。まずマユーが意図して物事をしゃべっていたこと、ミルがそれを理解できること、もしもそれが本当なら、マユーがわれわれというのはつまり……

「きゃぅーーーぅー!!」
「われわれは”おれい”がいいたくてマユー産みまた。それはうまくいったようにおもいまた。でもマユーが生まれたころにはにんげんいませんでした」

「おいミル…ほんとにそんな微妙ななまりがはいってんのか?」
「チャカすなボケ、黙って聞いてろ」

「われわれくるしかたです。生きるのとてもいやだた。”けら”のころはらくでた。ずっとずっとそうおもてまた」
「きゃうー!ううー!!」
「でもわれわれおもいまた。ほろびてもなお生きようとするにんげんをみておもいまた。にんげんなして生きようとするだら。われわれ、にんげんからまなぼうおもいまた」
「ううー!!」
「けっかよくわかりませでした。でもひとつきづいたことありまし。にんげんでも、くるしくないひと”けら”とおなじかおしてまし。」
「うー…ぁぁー…」
「くるしくないひと、せかいのひょうめんすべっていきまし。くるしいひと、せかいにかぶりついて、せかいがどんなあじするかしってまし。きずつけばきずつくほど、かめばかむほどあじのことわかってきまし。もうあるまいとおもても、さらにおくに濃いのがありまし。それはそれで癖になりまし」
「うーあー…」
「われわれとてもくるしかた。とてもとても苦くて濃いかた。やりきったでし。燃え尽きたでし。びっくりするくらいなかみつまってたでし。ほんとうに楽しかったでし…だから」
「きゃーうー!!」

「われわれはもう、死にさいして笑うことできるでし」

マユーが形のいい胸を張った。



うもーん、うもーん、と。声が聞こえる。

どすーん、どすーん、と。具足達が落ちてきた。

ドラディエラがついに、生命の壁を突破。広がる闇の中には、はっきりとミスラ達を見下ろす身体があった。
その美しい肢体には、全ての闇を凝縮した、漆黒の煌きがある。


辺りを覆い尽くす闇、具足の雨がそれをぶち抜いている。
その音が、ミルケロルの翻訳を遮った。

マユーがくるんと、頭をさげる。
言葉の意味はわからない。だが、なんといっているかはわかった。



「にんげんのみなさん、どうもありがとうごじました」



クリスが涙を拭いた。

魔族の長が、巨大な闇を振り下ろす。

ミスラが叫んだ、メルズヘルズがそれに応える。

全ての光が、全ての闇を貫いた。


・・・・・・。


「終わったかミスラ君」
「うー…グリオー……」
「しっかりしなさいホラ。男の子だろう」

とはいいつつもいつもよりやさしめの魔法少女に、まかせるようにもたれかかる。
宝剣2人はミスラの腕の中。ぐりおさんです、と。ミルケロルも寄ってきた。

きゃうー、と。マユーは初対面に近いグリオーに慣れていないのだろうが、頭を撫でられてすぐに喜びだした。
しかしグリオーの方が、マユーが握っていた具足の幼虫を見て飛跳ねた。

具足達の塔は消えていた。ただ光だけが残っていた。


空間魔法を発動しようとするグリオーに、アゴで指示する。
その先にはドラディエラと宝剣ギルトフーチェが横たわっていた。
グリオーは何もいわずに、彼女等の分まで陣を描く。



「「「「「「「「「「ミスラ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

祭壇の塔ではみんなが待っていた。

ザクロ団の面々。

黄金猫商会。

メルズヘルズ旗下のメイド達。



「なんでみんな疲れてんの…?」
「ばっきゃろーおめー、このチビ助がよう…」

カリンザにひっぱられ、ヨタヨタとクロルが前に。

「どうせだから…クリスさんにみんなの力も吸ってもらいました…アドリブでしたけど…」

なるほどそういえば、前哨戦でそうとう消耗はしたものの、ここにいる女人大概は、ミスラを介してクリスの力を得ているはずである。
それはクリスの保持していた魔力の埋蔵量や、あるいは具足達の積みあがった塔に比べればビビたるものだったが、おかげでいくらか具足の幼虫が生き延びることができた。マユーを守ることもできた。



笑いが止まらない。


全てが終わったのだ。


そう終わったのだ。


だって目の前に、魔王がいるのだから。



「サ…サロ殿…」

ドラディエラの呻きが、その魔族の格を知らせていた。多分三貴神。
そりゃあもう笑うしかない。その手に握っている2振りの剣は、宝剣ではないのか。

「リングノワール……グリグマンド…」
友達ならなんとかいってやってくれ、ミスラはクリスの頭を撫でた。クリスはブンブンと首を振った。横に。

その黒い鎧は、太陽の光の中で天使のように輝いている。
もう朝なのだ。メルズヘルズ砲でぶちあけた穴が、皮肉な末路を告げている。

こんないい天気の日に死ぬのだ。

誰もが動けなかった。



「やはり……というべきか。こうなるのではないかと危惧はしていた。人間は年月を重ねるごとに手強くなる。貴公のせいではないよドラディエラ、安心して眠りたまえ」

風と大地が、ごりごりと軋みだした。
もしかしてその2つ操るの?逃げ道ないじゃん。不謹慎だがミスラは噴きだした。

終わった。ほんとに終わった。
今回は結構がんばったんじゃなかろうか。それだけにくやしい。

魔王が剣を振上げる。


ミスラは祈った。頭に浮かんだもの全てに祈った。
なんとかならんもんか、とりあえずなんとかならんもんか。

むちゃくちゃでもなんでもいい、誰か神様、いたらきてくれ。
自分はいい、せめて女の子だけでも……

そして最後には結局、その人に行き着いた





「ミーーーーーーーーーーーーーースラーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





ちゅっどーん



祈られて願われて、ホントにくるのがこの人なのか

一通り煙が上がって、立っていたのは誰であろう。



「ミスラー!!迎えにきたぞー!!見て見てほら!宝剣ゲットー!!先行契約っていってなー……」

ミスラは理解というもののやりかたを忘れてしまった。
それはもはやギャグでしかなかった。



「クリス……友達?」
「ロストラテイト……クアルアクア…」
クリスはブンブンと首を振る。縦に。



伸ばすに任せた赤い髪、男に勝る、その長身。
その手になぜか、宝剣2つ。

ザクロ団団長ヘルザクロ。

三貴神を膝蹴り一蹴。なにがなんでも最強の人である。


・・・・・・。


「ミスラミスラ!…ケガないか?お腹すいてないか?さびしくなかったか?」
「ね、ねーちゃん……ふご…乳が…」

やってらんねーとぶっ倒れだしたのはザクロ団。あの女はなんなのよと歯を軋らせるのは黄金猫商会。
地味に痛いのが悪魔っ子軍団の視線で、ああなにミスラさん、ミスラ様、そうですかおっぱいですかみたいな眼をしている。

「ご、ごめんなミスラ…苦しかったか?」
そこはなにを思ったのかヘルザクロ。ミスラの両ほほがっしとつかみ

ぬっとーっ、と。

全員がどん引きするような濃ゆいキスをぶちかます。
一回離して深呼吸、もう一回。

「すごい心配だった…ミスラ…心配すぎて走ってきたんだ……誰かにいじめられなかったか?いたらそいつを殴ってやる」
「あ…うん、ねーちゃんの足の下……」


最近ミスラのため限定でつけだしたほのかな香水のにおいがして、めくるめくというか脳みそが甘酸っぱくなり、ミスラ昏倒。キスの嵐。
わけのわからなくなったミスラ、そのままするりするりと乳の間から抜けてでて、そこらじゅうの女の子をとっつかまえてはその味を分けてまわる。みんな形だけは逃げた。だが喜んで受け入れた。

ホントに全部終わったのだった。今度こそ今度こそ。
とりあえず当面は転げまわってよいのだ。と、その時。



――爆発まで30秒――



ういーん、と。いやーな警戒音が周囲に響いた。
全員が全員ぽけーっとして、なにがなにやら……

するとブラッドダリアが走ってくる。

「だれだ今遺跡をぶったたいたヤツは!?変なスイッチが入っただろう!おいクロル君、手を貸せ!!」



――爆発まで28秒、キャンセルする場合は責任者の認証コードを叩き込んでください――



ええええええええええええええええええええええええ!?っと。

全員が全員、いっぺんにパニックに陥った。

誰か、誰か助けて。誰か様。

「め、めめめ、メル!!なんとか……!!」
「あ、ああああ、アタシの管轄は7層だけだ!クリス!?」
「ふぇぇ!?私6層だけだし……1000年も前のことなんて覚えてないよ……」

初対面だろうが関係ない、伸びてるもの、眼をぱちくりしているもの、宝剣全員かき集めて恫喝。
知っていることを全部話せと。

「じ…自分はその……機械的なことはあまり……」土のグリグマンド
「んー?いててて、あんちゃん誰さー?」風のリングノワール
「申し訳ございませんが、わたくしどもではお力にはなれません」光のロストラテイト
「ひう……このひとこわいよザクロー」水のクアルアクア
「ヒヒヒ、みんな死んじゃうんだ」闇のギルトフーチェ

だした結論、すいませんわかりません。


「も、ももも、”門”の中は!?」
メイド長のギアンセが走ってきて
「も…申し訳ございませんミスラ様、なんだかいろいろムチャな動作を繰返したので……壊れて…」
「だあああああああああ!!!!」

「あああ…みみみ、ミスラ君、一緒に行こう、ききき、キミだけでも私と一緒に……」
「や、やめろグリオー、正気になれ!!遺跡ったって広いんだぞ!?間に合うわけが……」
「グリオーずるいぞ!私は一週間もミスラに触ってないんだ!!」
「ねーちゃん状況を理解してくれ!!!ふご…が、乳が……」



――爆発までにじゅ……10秒――



「なんで今10秒飛んだんだ!ふざけんなおい!!」
「あ、あああ、そう、そうだ!師匠、師匠を…グリオーさん眼を開けて!封印解いて!!」
クロル挙手。しかしグリオー

「ああふぁぁあ…ミスラ君ミスラ君…あのね、実は私は君のことが……」
「ええいグリオー!眼を覚ませ!!」

もっきゅーっと。
乳揉んで、くちびる奪う。ひぁうぁと、変な声、見開いた眼が、ミスラを見る。超うっとり。
封印してたフーがでてきた。

「うぅぅ…おのれ人間…って、ひゃぁ!!ななな、なになに!?」
「やいフー!!お前師匠の記憶があるならわかるだろう!自爆の止め方…」
「おいクロル君、こいつ眼が開いて……」これはブラッドダリア。


三貴神ジアルの復活である。

「だーはははははあ!!!ようやくうっとーしい封印が解けたわ!皆殺しじゃああああああああああ!!!」
「うっせえええええ!!!めんどくせーこのやらぁああ!!!!!!」
「なななな、なんじゃぁおどれ……ああん!!」
七つの宝剣を携えた男が、寝起きの魔神を押し倒す。わけわかるまい。

「や、やいフー!ああなりたくなかったらおとなしく師匠を……」
「戻した!もう元に戻したよ!や、やめろおい!ジアル様に酷いことするな!!」



――爆発まで5・4・3……――



「入力完了ですね…と。さすがはクロル、えらい子だわ。やることちゃんと、全部やってありますね」

ところ変わって遺跡の制御室。クロガネ・テンネの綺麗な指が、すらすらとパネルの上を走っていく。

「わわ、や、やりましたね、ぼぼぼ、ボク達助かるんですね?」
そこにはガニメロもいた。

彼女は己の知的探究心に負けて、ミスラがドラディエラと戦っているときもこの場所で隠れて、遺跡のにおいにわくわくしていたのである。
テンネが現れたときは例の魔人かとも考えたが、全然怖さがないのですぐにうけいれた。

「うーん、でもですね…最後のこのスイッチ、どっちを押せばよかったかしら……わかります?ガニメロちゃん」
「え?え?わわわ、わからないです、はい」
「どちらかを押せば助かるし、どちらかを押すと爆発してしまうのね」
「えええ!?」
「うーん、右か左なのは確実なんだけどねー…」
「そ、それはもう…2つしかないですもんね」



――2・1……――



えいや、と。テンネは左のスイッチを押そうとした。
ガニメロはその綺麗な指の成行きを見ていたのだが、フト、奇術師シェロソピのせいで紛失したご先祖様の骨を固めたヤツが転がってきて、思わず手を伸ばしたら右のスイッチに触れた。



――爆発解除。ただいまより本艦は空中要塞モードに移行します――



そうしてミスラは見た。抜けるような青空を。天高く浮かび上がる大地のごとき七層遺跡群。
眼下に広がる、白い砂漠。

ミスラは見た。
生命を拒み続けたその地が、緑を芽吹いていくその様。
流れる水。舞い散る花々。辺りをただよう甘い蜜の香り。引寄せられる虫達。

死にうずもれたその地が、7000年のツケを払い終えたのである。


――――――
作者注

このまま文字置き場に戻り、ラストの18を読んでもらっても結構です
NO17のくくりは、お試し勇者の土台を使ったエロいだけの話が延々と膨張します
話の本筋とは無縁です

――――――

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