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「もう…大丈夫かな……」

血と臓腑と脂の中から、ベノ・ザレロが顔をだす。

軍師テンネの指示した魔力の元栓締めましょう作戦、彼女はその8つの目標のうち、最も難易度の高そうなポイントを割り当てられていた。

相変わらず降り続く雨、そのおびただしい肉の量は既に遺跡代7層をほとんど埋め尽くし、そこここに気持ちの悪い色をした胆汁の池を作りだしている。今しも、黄色いぶよぶよした塊が、血の池に無数の波紋を作っている最中だ。

おとなしくシェロソピ・ロンドンドンのテレポートで当該地まで送ってもらえばよかった、ベノ・ザレロはベトベトになった髪の毛を鋤きながら考える。
あのうさんくさい奇術師ときたら、あんまり術を連発すると、たまに間違えて首だけチョンパしてしまうかもしれないなどと散々脅すものだから、彼女は徒歩で向かうことを選んだのだ。

「んしょ…」

少女はテンネに貰った、さっきまで新しかった服を脱ぎ捨てていく。申し訳ないとは思うけれど、これだけ魔物の臓物を浴びたら、どれだけ洗ったってにおいなんかとれないだろう。
それに正直、なにも着ていないほうが彼女にはやりやすい。闘争に身を預けるとき、彼女は大概そうしてきたのだ。彼女は自分の歩んできた道を振り返る――



彼女の人生の目的、それは自分の同胞を皆殺しにすること。

老いも若いも関係ない、同時代に生きる同じ血を分けた親兄弟、全てを殺したものにだけ、唯一生きる権利が与えられる。資格がある。
さしずめ壷の中の毒蟲。兄弟達が互いの血をすすり肉を喰らい、その恐るべき毒素を体内で醸造する。そうしてできたその時代最も濃い、膿み爛れた暗黒の毒を次世代に繋ぎ、また同じ悲劇喜劇を繰返す。

何年も、何十年も、何千年も。

より強い毒を、より恐るべき毒を。皮肉なことに、彼女の一族はそうすることでこの世界に呪われた威光を放ってきたのだ。



そして彼女は目的を達成した。

もうあまり、その瞬間のことは覚えていない。

世の無常にかられ、寂寞と砂漠をうろついていたところを商会のキャラバンに拾われる。それは彼女の人生においてようやく訪れた休息であり、同時にまた、自らの呪いを再確認する機会でもあった。
黄金猫商会は彼女にとって住みよいところだった。そして幸せに日々を過ぎゆくほどに、しでかしたことの罪の意識が、ぶくぶくと膨れ上がってのしかかる。彼女の心はもう、限界に程近かった。折れそうだった。


(やっぱりこっちの方が私にはあってる……)


少女は静かに血の霧で肺を満たす。そんな彼女に、魔物の群れがうねりをなして襲いかかる。

そこにたたずむのは場違いな人間の女の子、おびただしい魔物の中でも、その小さな少女が自らの生命を危険にさらすなどと感じるものはいなかっただろう。

だが少女は、生物を殺す最短距離を点と点で繋ぎ、次々と命なき肉塊の丘を積み上げていく。次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と……

怯えた一匹が、逃げるように鉤爪を跳ね上げ、それがたまたま少女の一の腕に傷をつけた。彼女はご愁傷様だと思う。

傷口はすぐさま血小板に覆われ、わずかに垂れた2・3の血の粒が、見る間に巨大な獣の形を形成する。獣は勝手な交尾で数を増やし、天から降り注ぐ魔物の群れを丸ごと包みこむかのように膨れ上がる。さながら酵母。白い白い、無慈悲な悪魔。

それは白血球の怪物で、主の体外にまででしゃばる免疫機能。主を傷つけた存在を記憶し、類似の塩基パターンをこの世から根絶やしにするまで繁殖し、追跡する。

初めの一匹は直ぐに殻の一片まで食い尽くされて、同系統の魔物はなぜ自分達だけが重点的に狙われるのか、その理由も分からぬまま消えていく。

ベノ・ザレロは一瞥もくれずに前へ前へ。

その顔には笑みさえあって、彼女の心が充足感に満ち満ちていることを伝えている。

幼い体躯で、何をそんなに、この世の裏側までのぞき見る必要があったのか。凄惨ささえ感ぜられるはしゃぎようで、その様はそう、親の制止を振り切って、土砂降りの雨の中を駆けだす少年、そのもの。



「……痛っ」

届かぬところへゆきそうだった精神は、すんでのところで立ち止まる。ゆけば暗闇、行きも帰りもない無間の奈落。彼女を留めたのは、股から流れでる純潔の証しだった。

(ミスラさん……)

強烈な愛慕の念が、少女の重心を貫いて揺さぶる。このままゆけば楽だろう、だが二度と、あの男と肌を合わせることはかなうまい。

(そんなの……)

急激に呼び起こされる少女な一面、戦闘からははなはだ無縁な乙女の内面。

ポツポツ咲きだす己の色花、飾れば婀娜めき、背けば徒し。ああ、してみれば自分はこんなところでなにをやっているのかいないのか。

(そんなのそんなの……)

彼女が思い浮かべるのは、ミスラをとりあった金髪の少女コカである。

そりゃああの娘はかわいらしい。サラサラして、ふにふにして、馥郁たるいいにおいがして。身体にハンディをおいながらも悲観せずに明るく生きて、存分に人生を謳歌するその姿。

対する自分は頭っから糞尿浴びて、べっちょんべっちょんのぐっちょんぐっちょん、こんなところで安らいでる女を誰が抱くのか愛おしむのか、気持ち悪い。

(そんなのそんなのそんなの……)

作戦なんて実は嘘っぱち、今頃は邪魔っけな色気もそっけもないチビでド貧乳のドクドク女を態よく追っ払って、えっちらおっちら祭の続きでアソコを擦りあってるんじゃないのかそうだそうに決まってる――

少女は己を省みる。くさい。くさい。とてもくさい。

今から全速力で道を戻ってやって、自分をのけ者にしたと思ってお楽しみ中の連中に物申す。ひどい!ずるい!私も抱いて!!するとどうだ、肝心のミスラは鼻をつまんで泣いて叫んで、ごめんなさいと頭をさげる。

できませんできません、それだけは先祖の約束でできません、なんでですかコカちゃんは気持ちよさそうなのに、あんなにあんなに気持ちよさそうなのに、だってだってよ聞いてよベノちゃん――



だってキミ、ウンコまみれじゃん。



「……そんなのやぁあああああ!!!!!!!!!!」



ビクリ、と。一斉に魔物が動きを止めた。意味不明の間。

なんぞこの小さな修羅の化身、職権乱用中の死神かと思いきや迷子のネコみたいにぶるぶる震えてうずくまる。

自分のにおいをかぐ。

きゃーきゃーいいながら、ウンコと内臓を払い落とす。

においをかぐ。

絶望で肩を落とす。

もうワケ分からない。


ミスラさんミスラさん、思えば初対面でお互いのことほとんどなにも知らないのに粘膜の温度まで熟知しあっちゃってからにもう。

一目見たときから、いいえ、最初見たときは気持ちの悪い人だと思いました、だけどだけど、嫌がる私を全力で組み強いてくれる人なんてこの世にはいなかったんですあなたしか。

好きなんですけど駄目ですか、毒々しいけど駄目ですか、信じられませんか駄目ですか、軽い女に見えますか、頭弱そうに見えますか、でも好きなものは好きなんです駄目ですか
色気ないですか邪魔くさいですか、これから成長しますけど駄目ですか、がんばりますけど駄目ですか、鬱々しいですか鬱陶しいですか、やっぱり駄目ですか駄目ですか
そうやって心の声で叫びながら、ベノ・ザレロは捨てた服だけでもせめて、とりに戻ってとりつくろった。



――のだが、ガリリと変な音がして、乳歯だった八重歯が抜けて、歯抜けになっちゃってもう、たまらなくなってまた叫んだ。


・・・・・・。


「イライラすんだよテメェはよぉ!!いつもいつもいつもいつも……!!!!!」
「イタイイタイイタイイタイイターイ!!!!!!」

ミスラが止める間もなく。

真っ赤な少女はクリステスラを引ったくり、ベットの上に押さえ込みながらこめかみをコブシでグリグリする。

「テメーがグズグズしてっから遺跡がボコボコじゃねぇか、ああ゛!?カギの開け方は知ってるはずだろーがよーテメーはぁああ!!!」
「やめてよバカ!メルのバカぁああ!!ふぇ…いたい、いたいよ…!!」

くんずほぐれつ一方的なキャットファイト。もうその辺で、ミスラがこの半裸の少女のどこを掴んで止めたものか、わずかな逡巡を見せたその時

「テメーも同罪だこの甲斐性なし!!」
「え…?オ、オレ…?」

ズビシ、と、手入れの行き届いた爪先がミスラの眉間に標準をあわせる。

「たいした力もねーくせにクリスと契約しやがってああコラ!?あげくコイツの力でコマシ放題だぁ?こっちゃー全部見てんだよ、ゴキゲンだなオイ」
「ち…ちがうもん、あるじは悪くない…!!」
「だぁってろパー助!ったくバカのクセに…」

吐きだした言葉は質が悪い。悪いのだが、ミスラは少し困惑する。

その粗雑な言動とは裏腹、メルズヘルズは愛おしそうにクリスの額の傷を撫でているではないか。自分の唾を指につけて塗り塗りしているではないか。封印解除の時に負った傷、彼女にしてはがんばった、いってみれば名誉の勲章だった。

「こいつぁーな、オメーが歯ぁ食いしばってるときにヘコヘコヘコヘコ腰振ってたんだぞ、やめちまえこんなクソ野郎」
「あるじは悪くないもん……ないもん」

クリスが反撃にでた。赤いミツアミがひっぱられる。が、その覚悟の代償はあまりにも大きかった。

「ふぁぅぅぅぅぅふうううううううううう!!!!!」

限界までひっぱられるクリスの両ほっぺた。勝負が決したのは一目瞭然である。しかしクリス、あきらめない

「ぅぅぅうう、めふぅぅぅ!!…わ、わりゃしのほうがおねえひゃんなんははらへ!!!」
「うっせーバカ、ケツばっかでっかくなりやがって」
「ひゃふぅ!!!…ふぁふぁぅぅぅふぁ」

残念、機を逸したミスラには口を開けて見守ることしか成す術がない、すると事態を傍観していたシャマニが耳打ち

「ちょーっといいですかいミスラさん」
「な…なんだよシャマニ」
「そういや、思いだしたんですがね。あたしゃーまだ代金をいただいてない、譲ちゃんのね」
「代金…?なにを…」
「いやー、へへへ、わかるでしょーに…ダ・ン・ナ」

それだけでミスラの性器は単純に半勃起。その先端を、女商人の指が塞ぐ。

「お前こ、こんな時に…!!」
「こんな時だからでさーね。ところでダンナ、砂漠でノドが乾いて死にそうな時、ダンナなら一杯の水にいくら払います?」
シャマニは指先についた精の雫を口に運ぶ。ちこちこと、ノドの奥でだ液を絡める音が耳に響く。

開こうとした口は静かに塞がれ、止めようとした手は肉の鞠に飲み込まれる。ミスラは、なによりもシャマニの俊敏な動きに心を奪われて、抵抗の意思と反射を、根っこから引っこ抜かれる形になった。

「こんな感じですかねーっと」
「まてよオイ…そんなことしてる場合じゃ……」
「おやおや、こうではない?そんじゃま、こうかね?」
「だあああああああ!!!!やめれ、やめろバカこら…おお」
「んっふふふー」

尿道を中心に手の平が周回し、だ液が摩擦をぬるめていく。巧みな指は搾るように亀頭を締め、緩めながら皮を伸ばす。

多少の強引さ。同時に停滞する痛みと快楽。肉をひっぱるような指の動き。

商人の手首が固定され、小刻みな振動がカリ首に集中する。肉のスキマから空気を押出す手の平。ねっとりとして柔らかい肉。それがぬとぬと、前後に揺れる。全ては一瞬の出来事だった。


びゅる、びゅぐ、びゅ。


尻まで届く、白い白い放物線。それはメルズヘルズの形のいい尻に着地して、陶酔に溺れるミスラをあっという間に現実に引き戻した。

「あん?……おいコラ、オメー…」
「はいはいはーい、よろしいですかーい」

メルズヘルズは怒り心頭、やかんを置いておいたらまず間違いなくフエがなったであろう、まさにその時。シャマニがするりと前にでて両手を叩く。

当然、ベットの上で振上げられた少女のコブシは行き場を失い、少し旋回。力は抜けていた。

――コイツはワザとやってるのか。

ミスラはシャマニに対する考えをもう一歩改め、情けない話だが、射精に導かれた恩恵で彼女のことが少し好きになっている自分に気づいた。これではバカに逆戻りだ。

「なるほど千の時をまたぐ再開は万感でしょうともお二人さん。ですがねしかし、あんまり長引くとついでに永遠のお別れにも繋がりかねない、わかりますよね?」
「チッ、ンだよテメー」

いわれたメルズヘルズは、尻についたミスラの精液を拭いとってクリステスラのほっぺたにベタベタ、その顔は先刻承知といった表情で、乱入者を責めるつもりはないらしい。

「……わあーってるよ、こっちゃそのためにここにいるんだ」

少し、シャドーを引いたようにきらめくまぶたが、ミスラの瞳をギラリと睨む。”私”を滅し、職務に従わんとする公僕の顔。


「オイ豚」
「…オレか」
「豚」
「…オレだろ?」
「オメーだ。オレはな、このバカを泣かせたテメーが嫌いだ。豚。」

抱かれたクリス、わずかだがピクってなる。

「だがな豚、よく聞け豚。今この遺跡を襲ってきてる連中、ありゃー豚以下だ。例えに値する何物もありゃしねぇ、ヤツラの名はそれ自体、豚のクソより汚れている」
「……メル、じゃぁ…」
「オメーは黙ってろ。黙ってりゃ器量もマシに見えんだからよ」
「なによう…わ、私の方がお姉ちゃんなのよ…!!」
「いいか豚。そんなわけだから豚のクソを食うよりはテメェとの契約を優先してやる。本来なら外で聞き耳立ててるボケた部下共とセックスして適性を確かめんだがな…この際はしょる」
「は、話を聞きなさい!もー…」

ミスラとしては

不謹慎かもしれないが、なんだかいつもより元気になってるクリスを見て、随分心安らいだ気分になっていた。


・・・・・・。


ポナトットは時を忘れて享楽にふけっていた。

原因や現状など知ったことではないが、なぜだか彼女の目の前には人形の材料がいっぱいある。後から後から勝手にそろってくる。

見たこともない色、におい。臓腑をねじ切られたような断末魔。
殻を剥ぎ、神経を繋ぎ、脳細胞をミキサーにかけてパテで固める。やることはいっぱいあった。

「ン―――んンッンー」

不器用ながらも鼻歌めいた咽頭音が零れでる。できたての人形が、湯気を噴きながら笑っている。まだ息のある元の命が、両手を叩いて泣いている。

その情景を、地獄以外のどこで見ることがあろうか。

血溜りの中で、木漏れ日の下で歌うように笑う天使。それがあまりに不気味過ぎて、魔物の群れの方が波打って逃げるのである。彼等にまともな思考はない、ただ本能からくる恐怖に突き動かされて。


「―――ッオ―…?」

少女は気づく。そういえばこんなことをしている場合ではない、と。

なんだったか、他にすることがあるはずだ。
するとわずかなにおいが鼻腔に漂った。手首に巻いた、一片の布だ。

「……………みすら」

少女は思いだす。この布をくれた人間。このにおいの元。

彼女の記憶は言語や視覚情報によって統括されていない。全ては色と音、それとうずまく蜜のにおい。
その中であのぐにゃぐにゃした黄色い塊は、彼女にとってなにか大事なことを訴えたのである。そのシーンを第三者用に分かりやすく再現すると――



「ではですね、ポナトットにはこの3番の元栓を締めてきて欲しいんですね」
「し…師匠、無理ですよこの子にそんな……」
「そうしてくれるとね、とってもミスラ君が喜びますからね」

「……あー?」

ポナトットは過去何度かの経験で、この黄色いもにゃもにゃしたヤツに逆らうとロクな事がないと分かっていた。だからじっとする。言葉を殺してじっとする。

でっかいクモが自分を食べにきたときのように、人形の中に埋もれるのだ。じっとしていればこのもにゃもにゃは悪いものでもない。たまにお風呂に入れてくれるし。お風呂に入ると綺麗になるから、むしろ好きだ。

お風呂は一人では入れない。入ってはいけない。

それは絶対に禁止されたこと。お風呂はいつも誰かに入れてもらうもの。ポナトットは一人で綺麗になれない。ポナトットは人形を綺麗にできるが、ポナトットは人形に綺麗にしてもらうことはできない。これは彼女の悩みの一つだった。

テンネは少女の手をとり、布キレを軽く結ぶ。それはミスラの汗を吸った布切れ。彼女は直ぐに感づいた。

テンネは、ポナトットが人形との閉ざされたコミュニケーションで開発した独自の言語を流暢にしゃべってワケを聞かせる。今なにが起こっているのか、なぜポナの力が必要なのか。

――ミスラ君が困っているのね、今、あなたの力がとっても必要なの
――必要?

その言葉は表面上知ってはいるのだが、どうにも中身がピンとこない。なんだったか、あれはなんだったか。ポナトット語においても、その言葉は入れ物だけで、中身がない。色がない。

――うまくいったら、ミスラ君がいいことしてくれますね



「ミスラだ…!ミ・ミ、ミス・ラ!ミ・ミ、ミス・ラ!!!……ひひひひ」

少女は目が覚めたように思いだす。

ミスラ、ミスラ、あれはいいヤツだ。いいにおいがする。そうと決まれば話は早い。
作りかけの人形は皆殺し、人形は皆安堵の涙を流す。彼女はそれを見て笑い、それを見て少し怖くなる。待てよ、と。

もしもこの寄り道のことを緑のサルが知っていたらどうなってしまうだろう。

こんなもので遊んでいたことがばれたら、バッタに何をされるかわからない。大変だ。バッタは嫌いだ、ポナトットがご飯を食べようとするたびに、茶碗の中にもぐりこんでくるからだ。取っても取っても絶対に卵が残るからだ。

今ヤツにこられたら、紫色のカタツムリがないではないか。あれは前に一回使ってしまった。今思えばあれがワナだったのだ。おのれ計算高き白色のカラス。ポナトットは死んでしまうのだろうか。それは三度目の車軸の鳥肌だった。

「ミスラ、ミスラ、ミ・ミスラ…」

だが待てよ、狂気の少女は考える。ミスラがいれば、肌色のナポリタンが成立するのではないか。もしそんなことになれば、さすがにネジマキどもも指をくわえてみているしかあるまい、いい気味だ。

「ひひひひ、ミスラ〜」

少女はそのへんの赤黒いぐちゃぐちゃを使って、ミスラの顔そっくりの塊を造る。ビビルマーが浅瀬にいないことを確認してキスをしようとする。恥ずかしいからやっぱりやめた。

これは”冷たい”。これでは完全なるオメモスだ。

おそらくオトメポッポチが夕日に沈む前に全てが終わるだろう。ミッチャビチャッチャビの次はトウマキメンダムがこっちを覗いてくるかもしれない。そうしたらエガを待とう。彼女は楽しくて仕方なかった。

「ミスラ、ミスラ、ミ・ミスラ…ららら…ら」

狂気の少女は今日もいく。血の色の花畑は、彼女がコレまで見た何よりも赤く、彼女の笑顔を引き立たせた。


・・・・・・。


「いづ…っが。か、舌噛むなよ……」
「ああ゛?意味ねーことスンナ」

べっ、と、しゃびしゃびの唾が吐かれる。

「ねーことあるか、このままじゃはいんねーだろう」
「知るか。そんなもんオメー以外の誰の責任だ役立たず」
「こ、このヤロ…」

確かに、暴力的で粗暴で乱雑な女の子ならいままで何人も出合った。
東方剣士カリンザ、死霊使いラブラノ、不浄の魔術師スケアクロウ、傭兵ユイラに鍛冶屋のバスカーヴ……

だがなんだろう、目の前の真紅の娘には何かが足りない、愛がない。

「ってーなボケ!千切るぞクソが!!」
「いっで…ご、本気で蹴るな…」

まったく受け入れ態勢を整えない果肉に、なにをどうつっこめというのか。

幾度か試みられたミスラの求愛行動は全て拒否。お返しにまったく躊躇のない膝蹴りがわき腹からめり込み、肋骨の裏に食い込むように肉に刺さる。悶絶である。

たいした乳でもないくせに、このミツアミ、このおぼこ……そうやって腹をさするミスラの手に、クリスが白い手を重ねた。

「あるじ、大丈夫…?」

潤んだ瞳、緊張気味の右手。そういえば、一週間近く彼女とセックスしてないのは、出会って以来初めてだった。こんな暴力娘ほかっといて、彼女の蜜を味わおうか。

優しげなくちびるが、垂れかけた亀頭を支える。舌が、ちょびっとづつ接面を増やしていく。



が、そんなクリスを、メルズヘルズが蹴っ飛ばした。

「きゃぅ…!!」
「あ…おま…、クリス…大丈夫か!!」

さすがにちょっとこのガキ叱ってやろう、そうミスラが思った矢先



「始まった始まった!!!」
「キャーキャーキャー!!!ホント!?ヤダちょっともー!!」
「メルちゃんガンバー!!!」

黄色い声が後ろから飛んできた。
見ればメイド服の面々が小部屋の入口に殺到。パッと見、20人くらいいる。嫌な予感がした。

「手伝おっかーメルー!!」
「キャー!!!」


「っせーぞボケカス共!!クサレま○こでクソでも産んでろ!!」


「ノンノンノン、だめよメル、規則は規則、破ってるのはアナタ」
リーダー的な女性が、髪の毛をかきあげながら知的なまなざしでいった。眼鏡が光る。溢れるインテリジェンス。

「そーそ、メルに危険がないかどうか、確かめるのはアタシらの義務だかんねー。そう、義務…ハァハァ、けっして趣味では…」
なんかピンク色の危険な目をした少女が血走った目でよだれを拭う。

「ゴメンねメルメル…でもずるいよねメルメルばっかり。そりゃぁ私はメルメルの従者だよ?でもね、ずっと一緒に育ってきたのにいつもメルだけ……」
栗色の少女が、なんか髪の毛をいじくりながらぐずぐずぐずぐず……

「ああメル…私のかわいいメル…破瓜なのね?ついに破瓜なのね…ぁぁ…舐めたい…真新しい粘膜を伝う処女の証明を嘗め回したい……」
紫色の危なそうな目をした人が、舌なめずりをする。



その他大勢の美女少女が、まるで夜明け間近の漁港のように活気付き、次々と着衣を脱ぎ捨ててはベッドに殺到。

たいして広くもない部屋に、魚みたいにぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう……


ミスラは、正直もういいよ、と思いながらも、ピンク色の肉と肉に挟まれていった。


・・・・・・。


「ロトさん、スケアクロウさん、エノさん、あ…アクシェラさん達も成功です、師匠!!」
「うんうん、いいですね。優秀優秀」

黄金猫商会本陣。

空間上に表示される、蛍光色の魔法文字が、軍師クロルの眼にも戦況を伝えている。

まずは遺跡の中心ともいえる祭壇の塔。そここそは戦場の中心であり、怒涛の勢いで迫りくる魔物を、ヤケクソ気味に迎撃するザクロ団の面々がミスラの帰還を待ち望んでいる。
エルサ、ティコ、ザラク、トロピア、モナ、ナキリコ、ヨフネ。それに百合騎士団ミルチア、エルエンを加えた混成メンバー。

クロルとは面識のない者もいるが、先ほど目の当たりにしたローキス・マルスの力を鑑みれば、その戦力がいかに心強いものであるか。

ローキスといえば、彼女のいる場所こそ、戦場のもう一つの中心である。その圧倒的な火力が、魔物の海の中に強引に”渦”を作りだしていて、本来なら遺跡の塔に殺到するであろう肉のうねりを、無限の海溝のように吸い込んでいる。

彼女には、黄金猫商会の最大戦力、ムナク・ジャジャと、その部下ユイラ、ユキボタル、さらにはバスカーヴ・ヴィレが武器を山ほど持って援軍に向かった。

テンネいわく、戦力的にはギリギリの釣り合い。とにかく第七層が崩落するまで、祭壇メンバーの負担を軽減するための苦肉の策。フルパワーで引っ掻き回し、力が尽きたらおとなしく逃げだすのが彼女等の役目だった。

七層崩落のために散会したのは16人。

1班ベノ
2班ロト
3班ポナトット
4班スケアクロウ、トメキチ
5班エノ、セネア・セピア、リットーサ、モチャ、ミリモ、タツカゲ
6班ドラス
7班シェセト
8班アクシェラ、ミルキフィリオ、ロナ

各々、崩落後は自力で生還せよと、ムチャな難題をおおせつかっていた。


自然、本陣守護はキゥリート・セグネスシティとその部下、アリスナイン、ギャラ・メイラが担当する。

正直なところクロルの見立てでは、ジッとリリィ姫を守護する百合騎士アザカゼと、のらりくらりとしたザクロ団メンバー、ヒスカ・クランクアイの方が戦力としては頼もしかった。

ゾゾルド、ドルキデ、キルソロの3人娘は充填要員として待機。今もテンネが面接をして、彼女等の力を測っている。
ブラッドダリア、一号は、本陣の魔法機構を整備。いくつか年月の関係で破損した機能を修復していた。

その他非戦闘員として
ガニメロ、ミルケロル、マユー、キャリベルローズ、ドミニク、シェロソピ、フラミア、セルヴィ、コカが、できる範囲でお手伝い。

クロルは少し頭が痛くなった。そろそろ、一人くらい迷子になっていてもおかしくない。

(あ……)
クロルは思う。
(ボクって…必要なのかな……)

考えてみれば、どれだけ彼女が思考をめぐらせたところで結局テンネが全部やってしまうのである。
見れば、非戦闘員の面々は彼女達なりに、機材を運んだり工具を渡したりで忙しくがんばっていた。ボーっと突っ立っているのは彼女だけだ。



「……おかしいね」
「ひゃっ…!!し、師匠?」
「なんで?なんでなんでなんで…?ダリア、これおかしいよね?」
「し、師匠?どうしたんですか…?」
「崩れない…元栓はみんなが上手くやってくれたのに…なんで…」

ブラッドダリアが魔法の文字盤を見ながら応える。

「魔力隔壁が切れてない。これじゃあ落ちんよ。たいしたもんだな古の建築技術というものは」
「ちがう博士ところどころブッコわれてるから機能してないバカの仕事だ」
「ハハン、壊れたから逆に頑丈になっているのか。ロジックとしてはおもしろいな」

そういって笑う科学者は、既にこの魔導施設に我が家のように馴染んでいて、キャリベルローズがどこからかもってきたコーヒーをぐびぐびすする。

笑いごとでないのはテンネであった。

「困ったね…これは…どうしようね」
「し、師匠…」
「なんとかなると思ったんだけどなぁ……あーお腹痛い」

コツコツと眉間を中指で叩きながら、グルグルと同じところを周回するクロガネ・テンネ。
クロルは、またしても師匠のことがよくわからなくなった。この人はすごいのかダメなのか。

「まずはムナク達を戻して…いや直接塔に…クソが…シェロ、お願いできますね?」

チラっと

気のせいか黒いものが見えて、クロルはちょっと身震いする。ますますこの人がわからない。


「おいテンネ!魔物の雨が止んだぞ!!うってでるべきではないかね!?」

キゥリートの声がテンネの思考を破った。しかし代わりに声を発したのは、ゾゾルド。

「ついに着ましたな。止んだのではありませんぞ、ようやく始まるのです。この魔力は…魔人ティラティス…」

キルソロが、静かに悲鳴をあげてうずくまった。


・・・・・・。


「こんにちわーミスラさん」
「すご…男の人ってみんなこんな風なんですか…?」

「あ…いや、あの…熱いんですけど…胸…」

押寄せてきた裸体の群れは見る間にミスラとメルズヘルズ、ついでにまごまごするクリスを挟み込み、丁度3人を接着する肉の樹脂みたいな役割を果たした。

耳元でエロいことばっかり囁くくちびる、乳首をさすっていく指。ミスラが望む望まざるに関わらず、勝手に動かされる両手はメルズヘルズのピンク色の両平面に押付けられる。すわ反撃かと思いきや、赤毛の少女の四肢は、その殺意ごと殺到するメイド達に押さえつけられていた。

「んだよテメェら!!離せ!離せってば!!」

メルズヘルズの怒声に覇気がないのは、わき腹や腋の下を這いずり回るメイド達の舌のせいだろう。叫ぶために口を開くから、蜜の溜り場とばかりに口腔内に舌の進入を許してしまう。

緩まざるをえない口の端からは、とめどなく透明なよだれが零れ落ち、赤い髪がそれを吸う。舌に蕩かされていく少女、ミスラはわずかに見惚れ、その体臭を嗅ぎたくなった。

「んひゃ…ぁぅぅ…ほろふぁ!!…ぁっふ」

他人事のように眺めている場合ではない。舌は、ミスラもミスラのちんこも丹念に這い回る。ミスラの小脇に抱えられたクリステスラも同様だった。

「ひゃぅ…!や…やだ…あるじ…お尻は…」
「お、オレじゃないぞ…おいちょっとアンタ等、離れてくれないかな…」

「あら、お気に召しませんでしたか?」

中心となって指示をだしていた女性が眼鏡をクイッとやる。中分け、黄色い髪。ミスラ一行をこの小部屋に案内した人物だった。

「召すも召さないも、なんなんだキミ等…」
「わたくしメイド長のギアンセと申します。難しく考えることはございませんわ大御所様、主人の主人は大主人、つまりはそういうことです」

ギアンセの眼鏡がキラリと光ると、ミスラの背後からおっぱいを押付けていた女の子が甘い吐息を吹きかける。2人、3人。

「そういうこととはどういうことだ?キミ等がオレに仕えるって……」
「左様、斬りも斬ったり30余人、そりゃぁ蜜の甘いもいい加減飽きがきましょうが…」
「う…何の話を…」
「わたくしの見たところ、あんなもんはレイプとレイプのクロス交尾。高貴なお方のありようとは程遠い蛮行ですわ。そう、王者たる者悠然と奉仕の河に身を任せ、好きな時に好きなように射精するがよろしい……んふふ」

足の指先から、巨大な白ヘビが絡み付いてくるような感触があった。
ミスラ振り返り驚嘆。その正体は、あまねくミスラの肌を嘗め尽くさんとする多数のメイドが、順番に途切れなくその舌を行使することによって、あたかも一個の個体のように振舞う、肉のうねりなのだ。


「全て我々にお任せくださいませ。大御所様におかれましては肉の繊維の端切れに至るまで弛緩させておられればよろしい」


まるでその言葉を合図にしたように、あまたの口が、糸を引いて次々開く。

「んふふ、まかせてくださいミスラ様ー…」
「ミスラ様にはこの世の快楽の全てを味わいつくしていただきたく…」
「ついでにメルに大人になってもらってー」
「あ、クリス様、おっぱいやらこいですねー」
「気に食わない魔族どもを一掃できたら勝るものなし、だ」


あれよあれよ


ミスラはまさに肉の河に飲み込まれ、四肢が全部肉に接して、力を入れようにも弾力に飲み込まれる。
めくるめく熱とにおい、ミスラ不覚にも、しましく快楽に我を忘れ、肉欲の流れに身を任せる。要は気持ちよかった。

「ア…ぅあ……ぁあ゛!?――――ッンン!!!」

ぬるりとした感触の後、いつの間にか肉茎を包んでいるのがメルズヘルズの膣壁だと知る。
やけに熱いと感じたのは、一物が根元まで埋没しているから。そうした膣にでくわすのは、意外にもミスラ、久しぶりのことだった。ゆえに功を焦る尿道が、直ぐにも痺れんとするのを必死にこらえる。

「フ…っぎ、フーゥゥッ!!フゥゥゥゥゥぅ!!!」

歯を軋らせるメルズヘルズの顔に怖さはない。とろとろに蕩けて、茹って、何かに耐え、精一杯いきりたつその表情でもって、誰が彼女を暴君足りえると認めるだろうか。むしろがんばれと応援される町娘の面体である。

「ふぁ…ぃっ…!!!―――ッッ!!!」

赤毛の少女は、その小さなアゴを痛でそらすことすら、舌の群れに阻まれる。泣かないのは立派だ、そう思う。



ぢゅぶ…ぢゅ、ぬく…ぬぷ……ぷ…。ぢゅぶ…ぢゅ
―――あ……あぐ…!?
ちゅぶ…ちゅぶ…ぢゅぶぢゅぢゅ……
ぶぷ、ぷ。ぷ。
―――ふぁっぁあああ!!
ぢゅぶっぢゅぶっぢゅぶっぢゅぶっぢゅぶ…ぢゅ



ミスラが望む望まぬに関わらず
じっとしていてもメイドたちの手によって性器と性器は擦られる。

ぬとぬとと、メイド達が垂らすだ液が際限なく糸を引き、それが体温で燻され、全身美女の口の中にでも放り込まれたかのように、あちこちがべとべとし、いやらしい音をたてて擦れる。一緒くたにもみくちゃにされているらしい、横で、クリスが素っ頓狂な声をあげる。

なんとか手探りで彼女のを探したら、おせっかいなメイドにべったりと湿った秘所に導かれた。真っ赤になるクリス。やめてやめてという声が、耳の中をねぶり倒す粘膜にかき消される。

ギアンセが

「大御所様」
「ん?」
「メルのお○んこはようございますか?…なるほど結構、わたくしも手のかかる雛が巣立ってくれて万感の至りでございます」

メイド長の長い指、それがクイッと、ハリガネみたく固めに曲がって、メルの雛尖を剥きあげる。
「ひゃぅぅ!!!」と、口腔を従者の舌で一杯にした少女が、がなりたてる金切り声。

「ここにいる一同、この日を夢見、この日のためにこの子のわがままに一喜一憂してまいりました。」
じゅぷ…じゅぷっじゅぢゅっぷ…
「この子もホラ、こういう性格だから絶対大御所様のことを好きとはいわないと思いますけども」
きぅ…きゅぷっぶ―――くこっっ、きゅぷ
「アナタに世話してもらわなければパンの食べ方すらわからない子ですので、どうかかわいがってやってくださいな」
きゅぼっきゅぼ!!っきゅぼっ…きゅぶっぷぷぶぶ…!!


「ふぁぅぅ!!!…ひゅぇ…ぇ、って、…テメェコラギアンセ!!何勝手にしゃしゃりでて…あがっ!!!ぅぁ?…くぁ…!!ぁっ!!」


びゅぐ…びゅる…びゅ
びゅぽん、びゅぽん。ぶびゅ。ぴゅりゅ。



それは気のせいなのかも知れないが、わずかにミスラの身体の中に、家元を離れるにあたって不安げな少女の心理が舞い込んできた。
気のせいなのかもしれないが、そんな少女をフォローしようという、姉の意気込みも感じられた。横から。



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