No.5

血界戦線

毎晩のように兄に種付けされる弟の日常
 HLPDには双子の警官がいる。
 兄をダニエル・ロウといい、弟をマーカス・ロウといった。二人は三十代前半で警部補の役職に就いていたが、浮いた話もなく、夜は飲み歩くこともせずに揃って兄弟でシェアしてるアパートへ帰って行く。
 二人を憎からず思っている者もいたが、誘いをかける隙もなく、仲のいいワーカホリック兄弟と思われていた。
 それは一部真実だ。
「ただいま我が家、ただいま兄さん!」
「お帰りマーカス」
 共に玄関をくぐった双子は、ドアの鍵をかけるや否や、深く唇を合わせた。
 すぐに離れたその口付けは、けれど親子兄弟がするものではない。
 恋人、または夫婦がするそれは、双子にとっては至極当たり前の挨拶だった。
「昨日の食べかけピザ暖める? ポテト揚げる? スープは?」
「ピザは食う。ポテトは要らねぇ、スープは飲む」
 ばさばさとコートとジャケットをソファに脱ぎ捨て、二人でキッチンに立つ。マーカスはレンジ回りをうろちょろし、ダニエルはコンロでスープを暖める。
 男二人の食卓だ。手早く夜を越す為の腹を満たすと、後は食洗機によろしくどうぞ。
「ポテト食えば良かった」
「今から揚げるのめんどい」
「知ってる」
 ダニエルが少し足りない腹具合を訴えると、マーカスは唇を尖らせた。それを可愛いと思いながら、弟のシャツのボタンを外す。
「マーク、太ったか?」
「何だよ急に失礼だな」
 こちらもダニエルのボタンを外しながら、マーカスが眉根を寄せる。確かに代謝が落ちるお年頃だが、トレーニングは定期的に行っている。
 しかしダニエルは難しい顔でおもむろにマーカスの胸を下着の上から擦った。
「んゃっ……なに?」
「やっぱり太ったな」
 くりっ、くりっ、くりっ、くりっ。
「んっ……んっ、んっ……」
 胸を擦られるついでに先端もつねられ、マーカスは甘い声をあげる。
「一年前よりおっぱいが膨らんでるぞ」
「やぁっ、おっ、おっぱいとか言うなっ!」
 精悍な兄の顔に似合わない卑猥な言葉に、マーカスは文句をつける。しかし兄の手を止めようとはせず、敏感な先端をこね回す指にされるがままだ。
「筋肉が衰えてきたせいか」
「え、やだ。僕頑張って鍛えてるのに」
 胸を兄の手に任せ、腹を擦るマーカスは知らない。
 兄の雌として仕込まれた体が、膨らみを帯び、男を誘う姿に変化していることを。ダニエルも気付かない。弟を我が物にして幾年、毎日見慣れた目には、兄弟としての軽微な差としか映らない。
 些か筋肉の付きにくい弟を気の毒に思いながら、ダニエルは自分よりほんの少し柔らかい体を抱き締めた。
「いいじゃねぇか、抱き心地がよくて。俺は好きだぜ」
「うー……、兄さんが好きなら……あんまりよくないけど、いい」
 兄の腕に身を任せ、マーカスはその肩口に頭を擦り付けた。
 憧れのアメコミヒーローには近付けないけど、愛する人の好みには近いから。
 残念そうな、嬉しそうな声を出す弟を、ダニエルは愛しげに見つめる。
「マーク、シャワー浴びるか?」
「ん……」
「メイクラブ、するか?」
「……ん」
 目眩がしそうな艶を含ませた声を耳に注がれ、一瞬で目を潤ませたマーカスは、小さく、けれどしっかりと頷いた。

 ***

「この後、二名はバスルームで一回、リビングのソファで一回、ベッドで三回セックスしています。映像もありますが、ご覧になりますか?」
「ご覧になりません」
 スティーブンは官能小説のようなゲイセックスを真顔で語りだしそうな部下を止めた。
 厄介な切れ者刑事の弱味でも握れないかと私設部隊を動かしたら、特大の弱味を掴んできた。しかしそれは諸刃の刃。
 情報をちらつかせでもしたら、きっと双子の兄に殺される。またはいいとこ逮捕だろう。
「さすがに寝室はトラップ等が厳しくて撮影出来なかったのですが、かろうじて録音は出来ましたので、聞かれますか」
「聞かれません」
「一番盛り上がったのはマーカス・ロウ警部補が『お兄ちゃんの手がえっち』と言った時です」
「ダニエル・ロウ警部補の性癖情報は要らないです」
 スティーブンは淡々と報告する部下に頭を抱えた。
 要らん。その情報は要らん。
 スティーブンが欲しかったのは、情報屋との繋がりとか、ちょっとした不正、ずるっこや、懐柔の切欠だ。
 こんな触れればスティーブンまで塵芥にするような爆発物じゃない。
 しかし一生懸命調べてくれた部下をないがしろにするわけにもいかず、スティーブンは「次は本人より、周囲の噂とか情報を探ってくれ」とだけ指示をした。

#血界戦線 #ダニマカ

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