かかあ天下
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No.4
SD
,
流ヤス
安「やましい気持ちがなければどれだけくっついても平気だよ?」
流川は人に見られる事に慣れている。生まれた時は家族に見守られ、物心付いて小学校に通う頃には複数の女子、たまに男子からの視線を浴びてきた。浴びすぎてそれが当たり前だったものだから、見詰められる事に対する気まずさなど感じた事も無かった。
今までは。
部活終わりの片付け中。ボールを磨く手は止めず、二年の安田がじっと流川を見詰めている。これで手が止まっていれば赤木の拳骨が落とされるだろうが、流石に一年続けた作業は手元を見ずとも器用に動く。丁寧に拭き取り綺麗になったとひと撫でし、籠に入れる。その繰り返しだ、羨ましい。
流川はオレも撫でて欲しいと言うのを我慢してボール磨きを続ける。新しいボールを選びながら安田を見ると、ぱちりと目が合う。嬉しい。
しかし目が合うと安田はにこりと笑って手元のボールに視線を移す。流川が笑顔に見惚れている間の早業だ。
流川に何か言いたい事があるのだろうけれど、安田からは気まずさも機嫌の悪さも感じない。だからいつものように流川が人目を憚らず抱き締めたからとか、耳の後ろの匂いを嗅いだからとか、宮城に彼氏マウントを取ったからではないようだ。
誰にどれだけ見られようと気にしない流川だが、恋心を捧げた相手からは別だ。視線の理由も機嫌の良し悪しも気になる。
聞きたいとは思うものの、対角線に座る三井が今は止めとけと合図を送ってくる。隣で舌打ちしそうな顔をしている宮城が飛び出しそうだからかもしれない。
そうこうしているうちに最後の一個を石井が磨き終えた。沢山あるボールも、全員でやれば早く終わる。部員数が少ない湘北バスケ部は誰かに任せる事が出来ない分、何でも早めに取り掛かって早めに終わらせる癖が付いている。桜木はたまにぶつくさ文句を言っているが、それでも部活をサボタージュする事はない。赤木と木暮の教育と飴と鞭の賜物だ。
体温で温くなった体育館の床から別れ、さて着替えて帰ろうかと部員達が手洗い場に向かう。ワックスでベタベタな手は気持ち悪い。
流川も安田も並んで歩く。安田はまたじっと流川を見ている。
「何すか」
とうとうたまらず流川が声をかけた。前を歩く桑田の方がぴくりと震えた。潮崎の歩みが若干早くなる。
「大した事じゃないんだけど」
手洗い場は体育館の出入口すぐ側だ。安田は手早く石鹸で手を洗うと、Tシャツの裾で水を拭った。ハンカチは制服に入れっぱなしだ。
安田は手を洗う間も忠犬の如く話の続きを待つ流川の頬に手を伸ばすと、精一杯背伸びをした。夏が近付くにつれ、夕方でも陽が高い。二〇cm以上の身長差があっても、流川の睫毛が頬に影を落とすのがよく見える。
「流川の睫毛、何cmかなってずっと見てた」
ゴホン。角田が咳き込んだ。
「部活終わりから、ずっと?」
「ふふ、本当に長い」
すり。すりすり。頬骨の辺りを親指で撫でながら笑う。
欲しい答えが貰えずに、流川はぷいと上を向いた。へっくしょいチクショウと佐々岡のくしゃみが聞こえる。
「もう見せてくれないの?」
寂しそうに聞かれれば、流川は弱い。実際はそう聞こえるだけなのだが、恋は人も耳も馬鹿にする。それはスーパールーキーも例外ではなかった。
首も膝も曲げて安田の顔を覗き込む。
可愛い後輩の頬を再び掌で包んだ安田は落とすように息を吐いた。遠くで宮城と三井と桜木の叫び声が聞こえる。
「朝練の時から見るの我慢してたんだよ」
親友の心配も部活仲間の配慮も知らぬまま、安田は一日中ずっと流川の事を考えていたとさらりと白状した。
***
これが毎日だよやってられっか。(バスケ部独り身一同)
#SD
#流ヤス
2024.12.13
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今までは。
部活終わりの片付け中。ボールを磨く手は止めず、二年の安田がじっと流川を見詰めている。これで手が止まっていれば赤木の拳骨が落とされるだろうが、流石に一年続けた作業は手元を見ずとも器用に動く。丁寧に拭き取り綺麗になったとひと撫でし、籠に入れる。その繰り返しだ、羨ましい。
流川はオレも撫でて欲しいと言うのを我慢してボール磨きを続ける。新しいボールを選びながら安田を見ると、ぱちりと目が合う。嬉しい。
しかし目が合うと安田はにこりと笑って手元のボールに視線を移す。流川が笑顔に見惚れている間の早業だ。
流川に何か言いたい事があるのだろうけれど、安田からは気まずさも機嫌の悪さも感じない。だからいつものように流川が人目を憚らず抱き締めたからとか、耳の後ろの匂いを嗅いだからとか、宮城に彼氏マウントを取ったからではないようだ。
誰にどれだけ見られようと気にしない流川だが、恋心を捧げた相手からは別だ。視線の理由も機嫌の良し悪しも気になる。
聞きたいとは思うものの、対角線に座る三井が今は止めとけと合図を送ってくる。隣で舌打ちしそうな顔をしている宮城が飛び出しそうだからかもしれない。
そうこうしているうちに最後の一個を石井が磨き終えた。沢山あるボールも、全員でやれば早く終わる。部員数が少ない湘北バスケ部は誰かに任せる事が出来ない分、何でも早めに取り掛かって早めに終わらせる癖が付いている。桜木はたまにぶつくさ文句を言っているが、それでも部活をサボタージュする事はない。赤木と木暮の教育と飴と鞭の賜物だ。
体温で温くなった体育館の床から別れ、さて着替えて帰ろうかと部員達が手洗い場に向かう。ワックスでベタベタな手は気持ち悪い。
流川も安田も並んで歩く。安田はまたじっと流川を見ている。
「何すか」
とうとうたまらず流川が声をかけた。前を歩く桑田の方がぴくりと震えた。潮崎の歩みが若干早くなる。
「大した事じゃないんだけど」
手洗い場は体育館の出入口すぐ側だ。安田は手早く石鹸で手を洗うと、Tシャツの裾で水を拭った。ハンカチは制服に入れっぱなしだ。
安田は手を洗う間も忠犬の如く話の続きを待つ流川の頬に手を伸ばすと、精一杯背伸びをした。夏が近付くにつれ、夕方でも陽が高い。二〇cm以上の身長差があっても、流川の睫毛が頬に影を落とすのがよく見える。
「流川の睫毛、何cmかなってずっと見てた」
ゴホン。角田が咳き込んだ。
「部活終わりから、ずっと?」
「ふふ、本当に長い」
すり。すりすり。頬骨の辺りを親指で撫でながら笑う。
欲しい答えが貰えずに、流川はぷいと上を向いた。へっくしょいチクショウと佐々岡のくしゃみが聞こえる。
「もう見せてくれないの?」
寂しそうに聞かれれば、流川は弱い。実際はそう聞こえるだけなのだが、恋は人も耳も馬鹿にする。それはスーパールーキーも例外ではなかった。
首も膝も曲げて安田の顔を覗き込む。
可愛い後輩の頬を再び掌で包んだ安田は落とすように息を吐いた。遠くで宮城と三井と桜木の叫び声が聞こえる。
「朝練の時から見るの我慢してたんだよ」
親友の心配も部活仲間の配慮も知らぬまま、安田は一日中ずっと流川の事を考えていたとさらりと白状した。
***
これが毎日だよやってられっか。(バスケ部独り身一同)
#SD #流ヤス