No.3

OP

髭の話
 ドキッ! 夜中の大運動会を二人きりで開催した後、抱き合って眠るのがローは好きだ。
 可愛い年下の恋人は優秀なコックさんでもあるので、夜更かしは見張り当番でもなければしない。大食いの船長を始め、愛しのレディとその他の為に朝もはよから美味しい朝食を作る為だ。
 だから島に停泊して、宿の朝食を摂る、その前夜はたっぷりと夜更かしを出来るチャンスだ。
 汗だくの肌を寄せあって、蹴飛ばした布団を手繰り寄せる。窓ももう開けておく。何せ夏島だ。
 腹は出して寝るなとペンギンに口を酸っぱくして言われているので、どんなに暑くても布団はかける。船長なのに。年上の部下を思いながら、ローはサンジの頬を撫でた。
 じょり。じょりじょり。
 朝にはツルツルだった頬だが、月が元気に輝く時間ともなれば指の腹ではっきりわかる程髭が伸びている。
「何だ?」
「髭が伸びてる」
「伸びるだろ、そりゃ」
 もう日付は変わっている。どこぞのカマ女王に弄られていなければ、人並みの男性ホルモン量だ。夕方にはちらほら長い髭が飛び出してくる。
 それはローも同じで、口付けの度にサンジの頬を苛めていた。
「お前は……伸ばしても似合いそうだ」
 すりすりと恋人の口元を指の背で撫ぜ、ローが言う。
 センゴクのように唇の上に蓄えても良いだろうし、冥王のように顎髭を伸ばしても似合いそうだ。
 自覚無くジジコンの気があるローは、初老の恋人を夢想してくふんと笑う。その頃には自分も初老であるとは思い至らない。
「ん~……まあ、年取ったらそうしても良いな」
 一方のサンジも育ての親を思い浮かべ、毎日ローに三つ編みしてもらうのも悪くないと夢想する。刀を握る太い指が、メスを操る器用な指が、きっとレディの髪など結ったことの無い不器用な指が、サンジの頬をくすぐる優しい指が。毎朝悪戦苦闘するのをにやにや笑って耐えるのだ。
「伸ばせよ。似合う」
 当たり前のように恋人の先々の人生に組み込まれているとは知らず、ローはまだ黒々とした髭に唇を寄せる。
 サンジはそっちじゃないと唇を尖らせて、黒髪に指を差し込みぐいと力を込めた。

 妹の髪を整えてやっていた経験を持つローが美しい三つ編みをこしらえて、痴話喧嘩をする数十年前の話である。

#OP #サンロ

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