No.10

DB

気が付いた時には、もう(永遠の恋人へ十の言葉)
 勿論オレは諭した。諭したとも。
 悟飯は誰に向けるでもなく言い訳をする。敢えて言うなら自分へだろうか。
 でも負けました。
 悟飯はがっくりうなだれる。
 小さな弟子はそんな師匠をきょとんと見上げている。
 嗚呼可愛い。
 心臓がどくりと跳ねる。こんなのが続くと高血圧になってしまうんじゃないだろうか、と悟飯はいらん心配をして混乱する思考を鎮めようとした。無駄な足掻きではあったけれど。
「好きだよ、オレも。トランクス」
 
 
 
 尊敬が恋情と混同されるのはよくあることだ。だからトランクスが悟飯に「師匠としてではなく好きなのだ」と告げたときも、それが同性であっても起こるのかと思っただけだった。
 明日には途絶えるかもしれない命、縋り付く温もりが欲しくてそう言っているのだと。それならそれで構わない、悟飯も自分の半分にも満たない大きさの手でしがみ付かれるのは嫌じゃない、どころかほんのり喜びも感じていた。だから自分の気持ちをちゃんと理解しなければいけないと、大切な言葉なのだから将来の為に取っておきなさいと何度も諌めたけれど。
 勘違いではない、好きなのだ、と。全身全霊で告げられ、その水晶よりも透明な瞳に絶望さえ宿して訴えかけられれば。
 抱きしめる腕に力を込めるとトランクスが嬉しそうに微笑む。
 この年の少年としては末恐ろしいほどに艶やかな笑み。悟飯は焦燥感と己がそうさせているのだという誇らしさと、喜んでしまった事実に胸を痛めた。
 同じサイヤンハーフとして、年長者として、見本となるべく生きねばならないはずなのに、自らが原因で進むべき真っ当な道を踏み外させるなんて……。父親に似ず生真面目な質の悟飯はちょっとばかし落ち込むが、腕の中で身じろぎせずに大人しくしている体温に救われる。
 トランクスの気持ちを受け入れる、と決めたのは生半可な気持ち故にじゃない。
 コーヒーも飲まないのに胃を痛めて(サイヤ人として有り得ないとブルマに大笑いされた)、目の下に真っ黒な隈を作って(そんなんで人造人間と戦えるつもりかとブルマに怒られた)、終いには可愛い可愛い弟子に心配をかけて挙句「我が侭を言ってごめんなさい」とまで言わせてしまった。
 己の行動を後悔した目。誇り高きサイヤ人の王子に相応しくない不安げな表情は、最後の審判を待つ囚人よりも痛ましく。
 ここでお前の気持ちは誤解なんだよと伝えればそれこそ二度と悟飯のことが好きだなどと言わなくなるだろう。思い、それは嫌だ、と悟飯は痛烈に自覚した。
 結局の所悟飯とて好きだと言われて嬉しくない筈もなく、トランクス「と」同じ気持ちだったにも関わらず邪魔していたのは理性と常識。
 トランクスを取るか常識を取るか。答えなど自明の理である。
 漢・孫悟飯、キめる時はキめるのだ。
 怯える身体を引き寄せて、驚愕に染まった表情に申し訳なさを感じて力の限り抱きしめた。震える腕がおずおずと背中に回されるのを感じて湧き上がったのは喜び。自分からトランクスの思いを否定しようとしていたくせに現金なものだと自嘲する。
 それでも悟飯に負けじと抱きついてくるトランクスが、愛しくて愛しくて愛しくて。
 少し身体を離そうとすると嫌だと首を横に振る。そんな仕種も可愛いのだと、口にするのは照れくさかったし、今はそれよりも伝えなければならないことがある。
 だって、目を見て言べきじゃないか。
 やっぱりどうにも生真面目な悟飯は少し腰を落として視線を合わせる。揺れる湖面のような目にちょっと見とれたのは内緒だ。
 思いを伝える、というのはどれだけ勇気が必要なことなのだろうか。
 悟飯はここで漸くトランクスの偉大さを知った。むき出しの真情を、ありのままの自分を、受け入れてもらえる保証も無いのに。それでもありったけの勇気で。
 そんなトランクスを無下にしていた自分がとんでもない鬼畜人間に思えてきたが、今は内に篭もって甘えている場合ではない。
 何度も酷い事を言った鬼畜人間に何度も優しい言葉をくれた少年に、それこそお詫びとお礼をしなければ。
 理性と常識にさようなら。非常識と愛する人よこんにちは。
 心の中でそっと呟いて。
 何度も告げてもらっていたそれとは比べ物にならないほど臆病で小さな声だったけれど、慣れないアイノコトバってやつをようやっと口にした。
 
 
 
 びっくりした顔が次第に綻んでいく過程がもう喜びにしか感じられなくなったのは、天国と地獄の父親には言えない話だ。

#DB #飯トラ

back