No.26

DB

信じる言葉の優先順位
「なら、私は一旦家に帰ります」
「帰るって……でも、何処にいても危険かもしれないのよ」
「それなら家にいても同じだと思うんですが……」
 悟飯たちが飛び立った数十分後。
 最終的にはミスターサタンの勝利で終わった天下一武道会だが、サタンが勝利の雄叫びを上げている最中に悟空達が会場へと現れ消えた。
 突然放たれたベジータの気孔波で会場は半壊。数万単位で集まっていた観客は死傷者多数。
 何か危険が起こっている、ということは分かっていたが、具体的な事は何一つ分からない故に取りあえず気をつける、という曖昧な行動しか出来なかった。それはブルマやチチたちも、伝えた名前自身も。
 だからそのまま会場に残り、悲惨な状況を目の当たりにしてやっと飛行船に乗り込み島を離れるという行動が出来たのだ。
 島へやって来たのと同じ飛行船に乗り込もうと走り出す名前を抱え上げ、カプセルコーポの最高級マシンに駆け込んだのはビーデルだ。
 何故、と問えば火事場の枕代わりだ、と答えた。分かるような分からないような、である。
「一先ず、ここからサタンシティまで行くのは時間が掛かるから、西の都に行ってもいいかしら?」
「あ、はい。それは勿論」
 名前が頷く。
 望んで乗ったわけではないとはいえ、世界でもトップクラスの速さを誇る飛行機に乗っているのだ。否のあろう筈も無い。
「兎に角まずはベジータが……殺した人たちを生き返らせましょ」
 ブルマが当たり前のように言った言葉に、名前とビーデルは顔を見合わせた。
 代表して名前が質問をぶつける。
「あの生き返らせるって……」
「あ、そうか、二人は知らないのか」
「何て言えばいいのかな……この世には七つ集めると願いを叶えてくれる球があってさ……」
 ブルマの言葉をヤムチャが引き継ぐ。この辺りは元恋人なだけある。
 その説明に名前は数度頷いて、つまり、と言った。
「今からその七つの球を集めて、願い事で『今日死んだ人たちを生き返らせてくれ』と頼む、と」
「そゆこと」
「信じられない……」
 ビーデルが呆然と呟く。が。
「……なんでアンタそんなに平然としてんのよ」
「あのなぁ、お前が空飛ぶ事だって普通は信じられんことだろう」
 ビーデルはあっさり納得してみせる名前に頬を膨らませるが、逆にそう切り返され、確かにそうかも、と思いなおす。何しろ自分とて金色の戦士だのグレートサイヤマンが空を飛ぶことが信じられなかったのだから。
 そんな自分も今や立派に非常識の仲間入りである。喜ぶべきか悲しむべきかちょっと迷うところだ。
「そのドラゴンボールって何処にあるんですか?」
「うちに七つとも保管してあるわ。前にあったでしょ、セルゲーム。ビーデルちゃんは置いといて、名前ちゃんは覚えてるかしら?」
 名前はビーデルを見ながら頷く。ただし、と前置きをして。
「おぼろげには。緑色のゴ……虫みたいな怪物が地球を滅ぼすとか言ってたやつですよね」
 今『ゴ』って言った。
 その場の全員が思ったが、敢えて聞き返すことはしなかった。自分たちもちょっとそうかな~なんて思っていたからだ。それに望んで聞きたい名前でもない。
「で、そのセルゲームみたいなことがまた起こるかも……ってことで、ね。後、変な奴に悪用されないように」
 セルゲームみたいなことが今までに何度もあったのか。
 名前は思った。が、口に出すことはしなかった。それは今聞くべきことではない気がした。
 その時は危機を乗り越えてきたのだろう。セルゲームのように。だから、名前も今ここで生きている。
 しかし未来は分からない。
 今起きているのはもしかしたら、セル以上に恐ろしくて厄介な『危険』なのかもしれない。そしてそれを退けられるという保障は誰も持っていないのだ。
 セルゲームの時も同じ気持だったのだろうか。名前は飛行船に乗り込んでいる人々を眺めた。
 ビーデルとマーロン以外が皆名前よりも年上だと聞いた。……ウーロンとプーアルは本気で年齢が分からないが。
 その度に今の名前と同じ不安を抱いたのかもしれない。それとも絶対に大丈夫という確信を持っていたのかもしれない。それは名前には知りようのないことだ。
 けれど今の名前が欲しいのはそういうことではなくて。
 絶対的な安心感。
 ただそれだけだ。ならば、何も聞かない方がいい。
 聞いて不安が取り除かれればいいが、この場にいる人間全員が情報を持っていない。誰もがビーデル以上の情報を得ることが叶わない状況なのだ。そのビーデルも、今現在起こっている詳しい事など知りようが無い。
 気休めの「大丈夫、なんとかなる」なんて言葉、余計に不安になるだけだ。そして口を開けば名前自身がその言葉を言ってしまいそうだった。
 だから、西の都に着くまでの時間、静かに目を閉じて寝ている振りをすることにした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 感想としては、でかい。まずそれだろう。
 名前は目の前に広がる神龍の巨大な姿に目を見開いた。
 でかすぎる。というか、こんなのが空に浮いて、近隣の皆様方はなんと思っているのか。
 願い事を言うブルマたちに気を払う前に、神龍のあまりの大きさに見とれ、名前は口を大きく開いた阿呆面のままただ眺めていた。
 と。
「しっ……しまったぁ!! まにあわなかった~~~!!」
「……っどぁ!」
「悟空!!」
「孫君!」
 急に目の前に現れた悟空に名前は引っくり返り、他の連中がその名を呼ぶ。
「な、な、なに!?」
 非常識に慣れた、と言うよりも慣らされた名前とはいえ、その場にいなかった人物が急に目の前に現れれば驚きもする。
 何事が起きたのだと慌てる名前だが、悟空は焦った様子で神龍を帰し、状況を問うヤムチャを一度制し、まずは移動だと全員を集めた。
「ちょ、悟空さん!」
 私は帰る。そう言う前に。
「んじゃ行くぞー」
 悟空が宣言した途端にカプセルコーポの庭から人の気配が消え、名前にこの世の不思議を教えた。
 一瞬にして景色が変わる非常識に、彼女は呆然と呟いた。
「いや。あの。別に、ね。いいんですけど。
 何事?」
 すぐ側でその声を聞いた悟空が名前を見つめ、ああそう言えばと手を打った。
「お、悟飯の彼女だろ、オメェ」
「違います」
 きっぱりと。
 悟飯が聞けば落ち込んだまま地球の真ん中、マントルまでめり込んでしまいそうな程潔く言い切る。悟飯ならばマントルでも生きているかもしれないが。
「おい、悟空。それより説明してくれ」
「ん? あぁ」
 気の利くクリリンにより、悟飯が落ち込みそうな話題を脇に逸らす。また実際に必要な情報なのだ。
 今、何がどうなっているのか。知らないわけにはいかない。これからのことを決めるためにも。
 全員の意識が集まったのを感じたところで悟空は話し始めた。
「あぁ……よく聞いてくれ」
 
 
 
 
 今日はエイプリルフールだったろうか。
 名前は倒れ込むチチを支えながら首を傾げた。
 ずしん、と腕にかかる重さによろけると、後ろから牛魔王が支えてくれた。
 その時、脳裏に響く声があった。言われるがままに目を閉じ、そしてそのことを後悔した。
 悟空の言った状況よりも悪化しているらしい。
 バビディの耳障りな声に名前は顔を顰めた。先ほどの大会受付の男の姿が目に焼きついたまま離れない。
 早く帰って来い。思った。あんな姿になる前に。
 悟空は悟飯が死んだと言ったけれど、どうも悟飯が生きている気がしてならないのだ。
 何となくだけど。まだ実感が沸かないだけなのかもしれないけど。
 悟飯がもういない、なんて。そんなはずはないという気がしている。
 神龍を見た後だから、というのもあるだろう。四ヶ月後にはまたあの龍に会えると言っていた。だから悟飯はその時にまた。そういうことなのかもしれない。
 けれども、だ。
 帰ってくると言った。ならば、自分は悟飯の言葉を信じるだけなのだ。
 信じて待つしか出来ないのなら、そうするだけだ。
 漸く起きて来た子供たちに、また語りかける声に耳を塞いだ。全く意味は無かったけれど。
 誰だって自分の命は惜しいのだ。次に、親しい人の命。
 だから、トランクスの名と西の都のことを教えた人間に憤るのも可笑しい気がする。
 自分もまた同類なのだろうと名前は思う。もし立場が違っていたら、名前もまたバビディへと告げ口をしていたかもしれない。
 しないのは、彼らが悟飯の友人知人だからだ。
 神殿の中では悟空やトランクス、悟天がフュージョンの練習をしている。二人の人間が一人になるなど有り得ない、と言いたかったが、彼らは何でもありなのだと納得している。
 こん、と踵を鳴らす。
 このだだっ広い神殿ではそんな小さな音は誰にも届かない。
 両親はどうしただろうか。
 名前はぼんやり考える。悟空の勢いに押されてこんなところまで着いてきてしまったが、今もバなんとかと魔人ブゥが暴れまわっているのだろう。
 側の柱に頬をくっ付けてみる。
「冷たくないですか?」
 後ろから優しい声が聞こえた。
「え、あー……神様」
 地球の神のデンデです。
 そう自己紹介された時は流石に驚いた。まさか神様なんて存在があるなんて思っていなかったから。
 しかも、神様の上に界王、さらに上に大界王、そのまた上に界王神がいるというのだから。
 その界王神様とやらは武道会でマジュニア……ピッコロと当たった少年だという。
 この分では大界王神なんてのもいるかもしれない。
「いや、ちょっと、どうなってるのかと。両親が家に……いや会社かな? ブゥの腹かもしれないけど」
「……あの、もし、家に帰りたい、って思ってらっしゃるなら、僕がお送りしますよ?
 その、神殿が絶対安全とは断言出来ませんけど、下界よりは安全だと思うんです。だから、名前さんがよろしければ、ご両親も一緒にここへ……」
「いえ、私は……成り行きでここにいるだけなんで」
 確かに名前は悟飯の友人だと自負しているけれど。それならば人当たりの良い悟飯は他にも友人がいたわけで。
 何も名前だけがここでのうのうと拾った幸運を享受している理由は無いのだ。
「本当は……地球の皆さん、ここに来ていただけたらいいんですけど……」
「無理、ですよね」
「はい」
 キャパシティの問題もあるだろう。だが、それ以前に。
 ここは神殿なのだ、と。そう説明された。神の住む、神聖な場所なのだ。
 本来ならば名前とて足を踏み入れられる場所じゃない。
 ただ悟飯の友人で、たまたまその家族と一緒に行動していたから、この場にいるというだけの。
名前さん、僕は、神です。全然、勉強することの方が多い、新米の神ですけど。でも、僕は地球の神です。だから、地球の皆さんのことを一番に考えるのが当然なんです……今はまだ、出来ることも少ないですけど。
 だから、名前さんがここにいてくれるのが嬉しいんです。神殿を……作ったのは僕じゃないけど、少しは、お役に立ててるのかな、って思えるから」
「……ありがとうございます」
「言ったでしょう、当然だ、って」
 デンデが笑うと牙が見える。けれどピッコロと違ってとても幼く見え、そこが可愛い、なんて言うのは神様に失礼だろうか。
「僕、も。待つしか出来ないんです。神様なのに」
 ぽつん、とデンデが呟いた。
 その声に滲んだ感情は、名前も身近に感じたことがある。しかも今日。
「……帰ってこいやー、思いますよね」
「思います。出来れば早目に。
 僕が出来ること、本当にちょっとしかないんです」
「でも、あの……ドラゴンボール? は神様がいないと使えないんでしょう。それって、凄いことですよ」
「僕が作ったわけではないんですけど……でも、僕がいることで何かお役に立つなら、嬉しいと思います」
 ほっこりした顔で笑う。やっぱり可愛い。
 名前は何となく腕を伸ばし、そのツルツル頭を優しく撫でた。
 デンデは驚いたように目を丸くしたが、すぐに照れた顔でえへへと笑う。嫌がっている様子は全く無い。
「悟飯さん、早く帰ってくるといいですね。名前さんのところに」
「うん」
 ぽそりと当然如く告げられたデンデの台詞。名前はナチュラルに頷いて。
「いや、皆のとこにな!?」
 敬語も忘れて真っ赤な顔で付け加えた。

#DB #孫悟飯

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